やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE!   作:あぽくりふ

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3話 知らず知らずのうちに、彼と彼女は邂逅する。

 

 

 

 

―――この世界がデスゲームとなって、一ヶ月が経った。現時点における、10000のプレイヤーのうちの死亡者は約2000。二割は死んだことになる。

 

だが、未だに1層すら攻略されてない―――。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「ハッチ、そっちの冊子補充しといてくれ」

「うっす......」

 

にー、しー、ろー、はー、とー......このくらいでいいか、うん。

木製のボックスに冊子―――すなわち初心者(ビギナー)用のガイドブックを十冊ほど突っ込み、俺はコキコキと首を鳴らす。......なんでゲームの世界に来てまで仕事してんだろ、俺。

 

「なあ、俺もう帰っていいか?」

「そんなに暇なら、Mobの情報の整理でもしといてくレ」

 

いや、暇だから帰りたいわけじゃないんですけど......。だが、どうやら俺は帰ってはいけないらしい。

溜め息を吐きながらガイドブックを一冊取り出すと、鼠のマークが刻まれた表紙をぺらりとめくり、俺はアルゴに尋ねた。

 

「なあ、これ本当に金取らなくてよかったのかよ?」

 

アルゴが情報収集し、俺がそれを纏めて文章にした『ガイドブック』。それなりに手間暇かかっているのだが、アルゴはなぜかそれらを無料で配布していた。

 

「おいおいハッチ、オイラが慈善事業でもするようなタイプに見えるか?」

「全然」

 

即答だった。

 

「......なんかムカつくけど、まあいい。じゃあハッチ、その足りない脳ミソで少し考えてみロ」

 

―――もし、企業が新商品を売り出すとしたら......必要なのはなんダ?

 

そんなアルゴの問いかけに、俺は腕を組んで少し考える。新商品―――つまりそれにブランド性などは皆無だということだから、つまり―――

 

「......広告、か?」

 

俺の答えに、アルゴはニヤッと笑って返す。

 

......成る程な。そりゃ怪しげな冊子が売られていても、誰も買うはずがない。だがそれが無料だとしたら―――手に取ってくれるくらいはするだろう。

アルゴはそれが目的だった。中身は至って有用な情報が詰まっているのだ。これが口コミで広がり、顧客を捕まえれば―――通算して黒字というわけだ。後々金を取って情報を売ったとしても、多少の出費ならば惜しむことはしないだろう。

なぜなら―――《デスゲーム》と化したこの世界で、情報というものはこの上なく価値があるからだ。なにせ、自身の生死に関わってくるのだから。

 

アルゴが、初回の赤字を覚悟して無料配布を行ったのは善意からなんかじゃない。―――金ヅルの確保、つまり情報屋としての『信用』を得るためだった。

 

「なかなか考えるな、お前」

「そうでもないさ。商売の基本だゼ?」

 

割と本気でこの少女に感心しつつ、俺は木製の露店の裏側―――冊子の入ったボックスの反対側、俺たちのいる側の棚からファイルを取り出す。

 

「今日の予定は―――あん?攻略会議だと?」

 

俺は眉をひそめる。いつの間にボス部屋を発見したんだか。

 

「ハッチがレべリングしてる間に見つかったみたいだゼ。今日の夕方から、1層ボス攻略会議ダ」

「ほーん」

 

―――フロアボス。それは、各階層の『門番』とも言うべきモンスターの総称だ。

 

このSAO(クソゲー)の舞台ともなっている、今俺たちがいる《浮遊城アインクラッド》は、全100層から構成される、言ってしまえば半径数十キロの巨大な円盤を100枚重ねたような構造をしている。

上下のフロアを繋ぐ階段は各階層に1つのみ。だがその全てが、危険な怪物(モンスター)の跳梁跋扈する《迷宮区》の内部にあった。

そもそも《迷宮区》というのは上下の層を貫くようにして聳え立つ『塔』であり、内部は《迷宮区》と呼ぶだけあって迷路のような構造をしている。さらに設置されているMobはそこらのフィールドMobより数レベルは高く、攻略難度は数倍高くなっている。それはすなわち、死亡率も高いということだ。

 

だがまあ、一度攻略すれば再び昇る必要はない。上層の都市の《転移門》を有効化(アクティベート)すれば、下層の都市と自由に行き来できるのだから。

 

「ハッチは行かないのか?」

「馬鹿言え。俺がボス攻略に参加するほど勇敢(無謀)に見えるか?」

「全然」

 

アルゴが即答するのを見て、俺は若干イラッしながらもファイルを捲っていく。1層ボス、1層ボス......これか?

 

「《イルファング・ザ・コボルドロード》?」

「βテストの時はそうだったぞ。色々とNPCの情報も集めてみたけど、ほぼ間違いないだロ」

「確かにな......」

 

ちょくちょく書き込まれているメモ。それは街のクエストなどをこなして得られた情報だった。

 

「使うのは斧と盾か」

「だったはずだゼ?あとはHPバーの最後の段が危険域(レッドゾーン)に入ると湾曲刀(カトラス)を使い始めるくらいだナ」

「ほーん」

 

雑魚Mobとしては《ルインコボルド・センチネル》が湧く、と書かれているのを読みながら俺は首を傾げた。センチネルってなんだっけ。

 

「......そろそろメシ時だナ。いくぞハッチ」

「お、おう」

 

アルゴの言葉に思考を中断され、俺は慌てて立ち上がる。

 

「ちょ、何処に行くんだ?」

「あっちにあったレストランでいいだロ」

「......ああ、あの限りなく微妙な味のパスタの店か」

 

とっとこ走っていくアルゴの後を追いながら、俺は思った。

 

......結局、センチネルってなに?

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

この世界はゲームの中だということにも関わらず、『食事』という概念が存在している。

いや、別に『食事』を必ずしも取る必要があるわけではない。ここがゲームの世界である以上、現実の肉体ではなく仮想体(アバター)なのだから。

そう、別に食わなくとも死ぬわけではない。

 

―――ただひたすら、空腹感が常時つきまとうだけである。

 

「んで、どこだっけ?中央広場か?」

「噴水前の広場だ。んじゃ、オイラは色々やることがあるから、ハッチはレべリングでもして暇潰ししてるんだナ」

 

そう言うが早いか、とっとこ再び何処かに行ってしまった雇い主を俺は見送った。......噴水前広場ねえ。

 

さて何処だったか、と俺は辺りを見回す。会議の開始時刻は午後4時、現在時刻は午後2時12分。おおかた二時間は暇になるということだ。

今俺が拠点にしているこの街―――確か......トールギス?みたいな名前だった気がする―――からは、走ればすぐに迷宮区に到着する。現在のレベルが15である俺ならば、ソロであっても余程の大ポカをやらかさない限りは死ぬことはない。

Lv15である今の俺のスキルスロットは初期値3+レベル10ごとのボーナスである1で合計4つ。それらは【短槍】、【索敵】、【隠蔽】、【疾走】で埋められていた。

 

―――このSAOに、職業(クラス)システムはない。代わりにあるのが《スキル》である。またステータス自体も《筋力値》と《敏捷値》しかなく、レベルが上がったからと言って振ることができるのは筋力か敏捷力かの2択しかない。あとはひたすらスキル、スキル、スキルである。

願わくばサブ武器としてなんらかのスキルが欲しいが、それはLv20に達してから考えよう―――と思考し、アイテムストレージから今の俺の得物である《ブロード・ランス》を取り出す。

そして街門を出ると、俺は早速【疾走】スキルを使い、迷宮区へと走り出すのだった。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「っと」

「ワン!?」

 

跳ね上げられた短槍の穂先がコボルドの顔を切り裂き、さらに回転しながら喉を裂く。そのまま体ごと回転させながら、俺は背後から迫る片手剣を叩き落とした。

まさか防がれるとは、とでも思ったのだろうか。一瞬硬直したもう一匹のコボルドに《ストライク》を放ってポリゴンへと還した。

 

「......微妙なラインだな」

 

ここまでは無傷で済んでいるが、それは襲ってくるのが一匹か二匹だからだ。―――まあ、三匹以上なら即撤退、というスタイルだから当然なのだが。

だがたまに連戦になり、二匹を倒した直後にもう二匹が現れる、ということもある。つまり最悪の事態を想定するならば―――コボルド四匹は相手取れる程度の実力は欲しい。ソロでやっていくとはそういう事だ。

 

―――合理的に、安全面で考えれば、パーティープレイが良いのだろう。だが、果たして俺が他人に背中を預けられるだろうか。

 

答えは否だ。

 

まず俺のコミュニケーション能力の欠如という致命的欠点もなきにしもあらずだが―――そもそも、見知らぬ他人に背中を預けることなどできない。できるはずもない。現実での知り合いならまだしも、そこらの他人に自分の命を預けることなどできるわけがない。

もしそんなにぽんぽんと他人を容易く『信用』できる奴がいたとしたら―――そいつはただの自殺志願者に違いない。おそらく仲間だと思い込んでいたパーティーメンバーに見捨てられて死ぬのがオチだ。

 

自分の身は自分で守れ。これは世界共通、当たり前の鉄則だ。

 

「ふぅ......」

 

別に俺は性悪説を唱えたいわけじゃない。ただ、誰だって―――命の危機が迫れば、容赦なく他人を蹴落とすに決まっていると言いたいだけだ。

誰だって、生きたい。だからそうする。誰だって、そうする。俺だって、そうする。

 

利己的だと言いたければ言え。俺は生きたい。このくそったれなゲームの中で、他人を蹴落としてでも、現実へ―――小町のもとへ帰りたい。

 

―――だから。まあ、もし。もし、自分よりも他人を優先するような奴がいたとしたら。

俺はそいつを、偽善者だと嗤ってやろう。

 

「......そろそろ帰るか」

 

とりとめのない思考を振り払い、俺はメインメニューを開いて時刻を確認する。―――午後3時42分。引き上げるには頃合いだろう。

......そうして、俺が出口向けて歩き始めた時だった。

 

「......?」

 

ふと、通路の奥に変な物体―――もとい、プレイヤーがいるのが見えた。

 

あっちへふらふら。

こっちへふらふら。

何をしているのかはさっぱりわからなかったが、頭から黒いローブをすっぽり被っているその姿は怪しいことこの上ない。よもすればMobと見間違えそうだ。......うん、ドラクエのぼうれいけんしみてえだな。

 

「............」

 

俺がそんなことを考えていると、その謎ローブはふと立ち止まった。そして何を血迷ったか、くるっと向き直ると、何故か通路の壁へと突貫していく―――

 

「......おい、そっち壁だぞ?」

「――――――っ」

 

9と4分の3番線じゃあるまいし、通り抜けられるわきゃねーだろ。

呆れて俺が声をかけると、驚いたのか、謎ローブはびくっとしながらこちらを振り向いた。そして俺の目を見て、一歩退いた。......おい。

 

「出口わかんねえのか?」

「............」

 

無言でこくり、と頷く謎ローブ。会話する気すらねえのかよ。なにこいつこわい。

 

「......そこの階段降りて、まっすぐ行った突き当たりの左が出口だよ」

「............」

 

俺はそう言ってすぐ側の階段を指す。するとわかったのかわかってないのか、少し逡巡した後、とたたたっと階段を降りていった。

 

「............なんだあいつ?」

 

俺は首を傾げながら再び歩き出す。見た目ソロのようだったが、道もわかっていないみたいだったし。......パーティーからはぐれたのか?

 

「ま、いいか」

 

もう会うこともあるまい。そう考え、俺は後を追うように階段を下っていった。

 

 

―――この考えが、約20分後に覆されることになるとは露とも知らずに。






一層のボス戦をどうしようか激しく迷い中。参加させようかな・・・

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