やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE!   作:あぽくりふ

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お久しぶりです。いやあ、色々書いちゃ消してを繰り返してたら遅くなりました。
なんか色々ぐだってもあれなんで時間すっ飛ばします。
では7話。







7話

 

 

 

 

 

―――何故、オレはこの道を選んだのだろうか。

ふと疑問が胸中に浮かぶ。答えならすでにあるが、それでも抱かずにはいられない問い掛け。血色の剣に映る自分の顔を見れば、そこには暗く濁りきった瞳。まさに、人殺しの目だった。

......この道は、オレが選んだ道は間違っている。それは理解もしているし、納得もしている。それでもオレはこの邪道を歩むしかない。

そう、あの人に魅入ってしまった、あの瞬間からずっと―――。

 

「あれ、どうしたの?」

「......何でも、ない」

 

あの人の声に、思考の海から現実へと一気に引き戻される。仮面の下で静かに目を瞑り、オレは迷いに似た疑問を握り潰した。あの人は破滅的で刹那的だが、人の心の機微には聡い。いらぬ迷いなど持っていればすぐに悟られる。あの人が必要としているのは盲目的に従う配下なのだ。いらないと判断されれば、即座にクビだ。主に物理的な意味で。

 

「そっか。じゃあ、そろそろ狩りに出るから準備よろしくね」

「......了解」

 

オレは恐らく、今現在地球上で最も愚かな男だ。自分でも本当に馬鹿だと内心呆れている。人類史上でも類を見ない馬鹿さ加減に違いない。なにせ―――

 

「今日狙うのは、最近うざったい《軍》かなあ。......あっちが探してるんだし、少し顔でも見せてあげよっか」

 

―――殺人鬼に惚れこんだ馬鹿など、古今東西にオレくらいのものだろうから。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「ふっ―――」

「コォン」

 

サイドステップ、からの切り払い攻撃で隙を埋めてそこからさらに三連撃。流れるような連続技(コンボ)は最近廃れてきた対格(カク)ゲーでも見ているようだった。

 

「上手いな」

「ステップからのシャプネでキュウビ余裕でした。......まあ、これは《シャープネイル》ではないが」

 

狐に似たMobを鮮やかに仕留めたのは《剣豪将軍義輝》。だが手にしている得物は《シャープネイル》を放つことができる片手剣ではなく、もはや大剣に分類されるのではないかと言いたくなるほど巨大な大太刀だった。

 

「......よくそんな馬鹿でかいもんを振り回せるな、お前」

「我輩筋力値(STR)極振りですしおすし。レベルを上げて物理で殴っときゃ勝てるのだよ」

 

そんな脳筋台詞を吐きながら大太刀を肩に担ぐ剣豪。ぶっちゃけでかすぎて鞘はない。見た目は始解前の斬月を一回りでかくしたくらいだろうか。鉄砕牙ほどでかくはない。あれはもはや刀じゃない。

 

「というか、さっきのはなんだったんだよ」

「む、あれか?あれは我なりにシャプネをこれ用にアレンジしたオリ技だ」

「......それってさらっと凄くないか」

 

だが、剣豪はそうでもない、とかぶりを振った。

 

「所詮は流用よ。既存の型をアレンジして使うのだからそこまで労力はかからんぞ」

「そーゆーもんかね」

 

ほーん、と俺は曖昧に頷いた。

―――剣豪の戦いかたはまさに対格(カク)ゲーそのものだ。曰く、いくつかの型を暗記してそれが即座に出るように鍛練し、そこから限られた技を連結して連続技(コンボ)を決めるのだ。ごく単純に努力だけで強くなれる最短の道だろう。もちろんこれはAIで動くMobだからこそ通用するのであって、対人戦ではまた少し勝手が違うのは間違いない。だが、才能など関係なく手っ取り早く強くなるにはこれがベストだろう。

......最近ユキノはこの戦闘方法を《軍》の中層プレイヤーに浸透させようとしているらしいし。

 

「......そういや、あいつは何処行ったんだ?」

 

ふと、もう一人のパーティーメンバーの存在を思い出して周囲を見回す。すると、剣豪が顎をしゃくるようにして俺の後ろを指した。

そして背後に振り返ると、そこにいたのは―――

 

「えいっ、そいやっ」

 

―――まさに暴風だった。

まさしく蹂躙。気の抜けた声とは裏腹に、放たれる一撃は衝撃波すら生み出しながらMobを両断していく。力任せにも見えるがよく見れば緻密に計算され、進路を調整された剣技(ソードスキル)。一切止まることなく振るわれる暴力の嵐は瞬く間に三体のMobを粉砕せしめた。

 

「......ふぅ。少し疲れたかな」

 

そう言って息を吐き、巨大な斧をとん、と肩に担ぐのは華奢な四肢の中性的な美少年。プラチナブロンドの髪が美しく輝く。

 

「ほむん、サイカ氏も問題ないようですな」

「上に行っても良い頃合いだな―――行けるか?サイカ」

 

もはや性別という垣根を越えた美少女、もとい美少年がそこにはいた。アスナやユキノすら越えて同性異性問わず絶大な人気を誇るプレイヤー―――サイカ。それが、剣豪と同じ俺の同僚にしてパーティーメンバーだった。

 

「うん、大丈夫だよ。ノルマまであと2だし、余裕があったらあと3は上げたいかな」

「む、3か......ちとキツくはないか?メタルキュウビはかなり経験値(EXP)が稼げるが、そもそも滅多に湧かぬし」

「あれ、確率1%未満だろ。誤差だ誤差」

 

メタル系は全てのモンスターに存在しているが、如何せん湧かないこと湧かないこと。加えてメタルの名に違わず鉄でもぶっ叩いてるかのような硬さだ。別に貫通しなくとも殴れば勝てるが、そうすると武器の耐久値がガンガン減ってしまう。よって槍ならば貫通属性値が高い武器が手に入る15層か、剣系ならば熟練度150以上の《体術》と併用することで発動可能な《斬鉄剣》という名前のソードスキルを会得するまではひたすら逃げるしかない厄介なMobだった。今ではただの餌である。ちなみにメタルもののテンプレ通りやたら速いことも特徴だ。逃げはしないけど。

 

「なかなか上がらないね、レベル」

「そりゃそうだ、もうレベル56だぞ」

「大体最前線で30体前後狩ってレベルが1上がるか、とかいうレートであるからなあ」

 

少し疲れたような空気を出すサイカに、口を尖らせる剣豪将軍。窓から見える地上―――43層を見下ろして、俺は嘆息した。

 

―――剣豪と初めて会ってからはや三ヶ月。正月も越えて新年になり、俺たちは43層でレベリングをしていた。

思えばあれからも色々あったものだ、と少しばかり思い返してみる。クリスマスのイベントボス戦では色々と揉めて、大晦日の謎の蕎麦食い大会に正月限定イベントボス。最近あったのは節分のイベントボスだろう。何故か豆や鰯などの節分モノじゃないとダメージを食らわないとかいう仕様だったので、みんなひたすら豆や鰯や柊の葉を《シングル・シュート》で鬼に向かって投げるとかいう凄まじくカオスな領域が形成されたのは記憶に新しい。

 

「もうちょいで一年経つんだな......」

「あまり実感がないかな」

「うむ、時が経つのは早いものよ......タイムオルター!」

 

しみじみと二人が呟く。年を越えて変わったことと言えば、ユキノが勢力を拡大したことくらいだろうか。今やキバオウ派とユキノ派で二分されている《軍》だが、かつてないほどに安定していると言っても過言ではない。額面上はシーカーをトップに据えているものの、もはやお飾り同然だ。いわゆる立憲君主制みたいなものだ。哀れシーカー。

 

......そして最も大きな変化と言えば、俺とアルゴが「疎遠」になってしまったことだろうか。

《ジョニー・ブラック》の件があってから、俺とアルゴの関係性は変化した。あちらは相変わらず話してはくれず、ただ表面上はいつも通りを「演じている」。ごく普通に話しているにも関わらず、そこには大きな壁があった。

 

「............はぁ」

 

よくあることだ。たった一つの隠し事から関係が荒んでいくなど、掃いて捨てるほどありふれた話である。だが所詮は人づての話に過ぎなかった。まさか俺が人間関係のすれ違いで悩むなど、昔の俺が聞けば信じられなかっただろう。非干渉無関係をモットーとするガンジー並みの俺が、である。この一年で変わった―――否、変わらざるを得なかったのかもしれない。

 

―――『この程度で壊れるような関係なら、所詮そんなもんだったってことだろ』。

 

「......どうなんだろうな」

 

俺は期待していたのかもしれない。この閉鎖空間―――死が常に隣り合わせであるデスゲームの中で築いた関係ならば、ひょっとすれば届くのではないかと。ありもしない幻想から、確かにこの手の中で輝く真物になるのではないかと。俺がひたすらに渇望し、絶望した『本物』へと至るのでは、と―――。

 

「......ハチマン?」

 

訝しむような声音に、俺ははっと現実へと引き戻された。思考の迷路へとよく嵌まってしまうことがあるのは俺の悪い癖だ。

 

―――後に、俺はこの剣豪からの声かけに感謝することになる。何故ならば―――

 

「―――避けろッ!」

 

槍を振るう暇もない。半ば引き摺り倒すような形で剣豪と共に地面に伏せる。そのコンマ一秒後に短剣が空を切ったのを見て、俺は判断が正しかったことを悟ると同時に激しい既視感(デジャヴ)を覚えた。

 

「相変わらず運が良いというか、察しが良いというか。やっぱりハチマンは持ってる(・・・・)よね」

 

甘く、そして深淵のように暗く深く引き摺りこまれそうな声。長く聞いていれば危険だと本能的に直感する。

......忘れはしない。忘れることなどできない。かつて俺を死の一歩手前まで追い込んだ、武神(ユキノ)聖騎士(ヒースクリフ)に並び立つ怪物。そもそもの才能―――立っている領域の次元が違う正真正銘のバケモノ。天賦の才覚を持つ殺人鬼(サイコキラー)

 

「Hello、ハチマン。元気にしてた?」

「―――PoHッ......!」

 

人形と見紛うほど整った顔。頬に走る刺青。その美貌を隠すように纏った黒い雨合羽(ポンチョ)

間違いなく、かつて俺を殺しかけたプレイヤー......《PoH》だった。

 

「......ハチマン、この女は―――」

「PKだ。―――殺す気じゃないと、こっちが死ぬぞ」

 

その言葉に息を飲み、剣豪とサイカは得物を構える。同じように槍の穂先をPoHへと向け、俺は殺人鬼を睨んだ。

 

「もう、そんなに警戒されると傷付いちゃうなあ。―――殺すよ?」

 

発されるのは桁違いに濃密な殺気。思わず体が硬直し、全身に鳥肌が立つような感覚が襲う。―――やはり、《ジョニー・ブラック》達とは格が違う。纏わりつく殺気は鉛のように重く、それなりの修羅場を経験しているはずの俺たち(トッププレイヤー)ですら二の足を踏ませる。不意討ちでこの殺気―――もはやシステム外スキルと言っても過言ではないこれを浴びせられれば、確実に一秒は硬直を強いられることになるだろう。

そしてその隙は、この女からすれば俺たちを殺すのに十分すぎる。

 

「なんてね。冗談冗談」

「............ッ」

 

発されていた殺気が嘘のように掻き消え、反動で俺の頬を冷や汗が伝うような気すらした。隣をちらりと見れば、剣豪は唾をごくりと飲み下している。見れば、いわゆる武者震いというやつなのか―――太刀を持つ手が僅かに震えていた。目の前のアバターが如何にバケモノなのか理解できたらしい。

 

「んー、今日ハチマンたちを殺すつもりはないよ。だからそんなに緊張しないでよ......ね?」

「......殺人鬼が何言ってんだ」

 

声が震えないように意識を集中させながら返す。PoHは「それもそうだね」と言いながら笑った。......ふざけた奴だ。

すると、いきなりPoHが何かを思い出したかのように声を上げる。

 

「あ、そういえばハチマンたちにお土産があるんだ。喜んでくれるかな?」

 

そう言って、奴はアイテムウィンドウから引っ張り出すようにして何かを地面にばらまいた。鈍い金属が落下する音。転がったのは黒いプレートや盾。見覚えのあるそれらに刻まれているのは―――浮遊城アインクラッドを模したギルドマーク。俺たちの胸に刻まれているものと同じ、《軍》を象徴する証―――。

 

「貴様ァ......!」

 

剣豪がそれの意味することに気付き、顔を憤怒と驚愕、そして恐怖に染めた。ぎりぎりと歯を食い縛り、PoHの顔を睨みつける。

 

「あははははははははは!いや、来る途中にうざったいのがいたからさ。ちょーっと潰しちゃった♪」

「......てめぇ」

 

低い声が喉から漏れる。だが表面上は怒りを表に出しながら―――俺は勝算を計算していた。

撃破は不可能と断定。離脱すら危ういが、1対3ならば―――アレ(・・)を使えば恐らく対抗は可能だろう。できれば人前で使うことを避けたいが、もとはPoHに対抗するための戦力としてカウントしていた力だ。発言してすでに二ヶ月は経っているが、未だ十全に扱えているとは言い難い規格外の力―――。

 

「―――ふふふ。誰が一人だと言ったかな?」

「ぐッ―――!?」

 

その言葉に瞠目する、と同時に背後で激しい金属音と呻く声が響く。驚愕して振り返れば、そこにあったのは大剣の一撃を槍斧で防ぐサイカの姿。そして大剣を振り下ろすのは骸骨を模した仮面に赤熱したような髪、加えて冷ややかに輝く紅い瞳だった。

 

「ザザはそこの二人と遊んでて。さあ―――」

 

PoHは自身の得物―――包丁型の短剣を構え、薄く嗤う。

 

「踊りましょう?ハチマン。―――道化(ピエロ)のように」

 

 


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