やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE!   作:あぽくりふ

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なんか同じようなSAOの作品に100話越えの猛者がいてビビりました。三桁.......今の俺の生産スピードじゃ絶対無理だ.......!

というわけで、ちまちま進む6話です。


6話

 

 

 

 

 

SAOの食事に関するシステムは、現実のそれとは様々な点で異なる。

まず、この「食事」は厳密には必要ではない。別にシステム的に絶対必要と定義されたものではなく、「睡眠」と同じように必ずしも取る必要はないのだ。そう、ただその欲求が解消されずにいつまでも残るだけで。

 

食わないと死ぬわけではない。ただ、いつまでも餓え続けるだけ。

寝ないと死ぬわけではない。ただ、いつまでも睡眠不足になるだけ。

 

要するに食わず寝ずでも死にはしないが、ひたすらストレスが貯まるのである。唯一の救いは食欲、睡眠欲に加えて三大欲求の一つである性欲にまでこんなシステムがなかったことだろう。いつまでも解消されないとか拷問に近い。生殺しである。

......まあ風の噂によると、下層にいわゆる「売春婦」がいたりするらしいが。別にその処世術を否定する気はないが、嫌悪感は否めない。かつて攻略階層がまだ一桁台だった頃、ログアウトボタンを探し求めてメニューを深層まで探っていた時に《倫理コード解除》のオプションがあったのを見つけて微妙な気分にさせられたのはよく覚えている。SAO(これ)ってMMORPGだよな?あんな機能絶対いらないはずだ。

......ふむ。VRのエロゲってあるのだろうか。

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

SAOの食事は必須ではない。ないのだが―――味の再現率はなかなかのものだ。完璧ではないが......鼻腔をくすぐる香ばしい香り、五臓六腑に染み渡る豚骨主体のスープ。さらに固めの麺を噛み締めた感触とキクラゲやネギのシャッキリポンとした食感が華を添え、思わずトレッビアンッ!と叫びたくなる。

 

結論を言おう。やはりラーメンは至高、人類最後の幻想(ラストファンタズム)である。

 

「ふっ、美味かろう?なにせ、我が現時点での全ての店を廻り巡って―――創り上げたラーメンだからな!」

 

軍服を着た熊がなにやらドヤ顔をしていて無性にむかついたが、美味いのは否定できないので文句と一緒にスープを飲み干す。作った本人がどうであれ、やはり美味いもんは美味かった。

 

「......にしても、良い店ってお前の店のことかよ」

「如何にも。いやあ、拙者ラーメンに関しては一日の長があるというか?贔屓目抜きにしてもそこらのNPCとは月とすっぽんみたいな?」

 

なんだこのウザい生き物。

 

「よく店を買えるだけの金があったな......」

「うむ。拙者はかなり小さめのを選んだから比較的安く済んだが、それでも9割がた吹っ飛んだからなあ。こう見えても我、中佐と呼ばれるくらいには強いしなかなか貯金もあったのだが......やはり店を持つというのはなかなか大変であるな」

「そうかい。というか、お前一人称ブレブレだぞ」

「............さて、では本題に入ろうか」

 

スルーしやがったぞこいつ。

 

「貴殿は中佐という階級がどれ程のものかわかっているか?」

 

そう言われて、俺は少し考えこむ。階級的には高いと言えば高いが、然程高くはない。上には大佐、少将、中将、大将とあるのだ。中の上、上の下くらいだろう。

 

「その顔ではそこまで高くない、とでも考えていそうだが......答えは否、かなりの地位にあると考えていいと我は思うぞ」

「そうなのか?」

 

聞き返すと、剣豪はうむ、と頷いた。

 

元帥(トップ)に関してはもはや名ばかりに近いが、シーカーさんだ。大将にはキバオウ殿や例のあの人、加えて幾人かの幹部格。中将以下はほぼ大将らの側近であろうな」

 

だが、と剣豪は指を立てる。

 

「先月の25層における被害によって、キバオウ派の側近はかなりの数減ったのは知っておろう?つまり、今上の空席がかなり多い。すなわち我等の地位もうなぎ登りというわけだ!」

 

ドヤ顔でそういい放つ剣豪を見て、俺は溜め息を吐いた。なんとも楽観的な奴である。

だが、一理あるのは否めない。上の席が空いているのなら、相対的に自分達の地位が高くなるのは間違いではない。そもそも地位が高いからと言ってなんだという話ではあるが、そこは気にしてはいけない。

 

「そもそも《(ウチ)》は賄賂とか横流しが横行してるしなあ......」

 

軍規だのなんだの言っている場合ではない気がする。というか、《軍》自体がでかすぎなのだ。

 

「最近はそうでもないぞ?」

「......そうなのか?」

「ほむん。キバオウ氏やあの方が来てから少しはまともになっていると、拙者は感じたのだが」

 

それまではこれより酷かった、ということか。

 

「というか、お前はなんでユキノ(あいつ)の部下になったんだ?」

 

以前の《軍》の惨状を知っているということは、その時から所属していたということ。新参の俺とは違うこいつが、どのような経緯でユキノの側近レベルにまで登りつめたのかが気になった。

 

「......まあ、十中八九気紛れであろうな」

 

腕をくみ、剣豪将軍は回想するように虚空を見つめる。

 

「そう、それは我の前世から受け継がれる宿命―――」

「や、そういうのいらないから」

 

げんなりとしてそう返すと、剣豪がむぅと口を尖らせる。可愛くねーよ。

 

「......10層くらいの時か。その頃の我はある友人とパーティーを組んでちまちまとレベルを上げていたのだ」

「お前みたいのに、友達がいただと......!?」

 

余りのショックに、一瞬呆然としてしまう。え、じゃあつまりFriend/Zeroな俺はこの残念厨二将軍よりコミュ力が下だということなのか。んなアホな。

 

「黙らっしゃい。......まあ、その頃の我は今と違って中層プレイヤー未満レベルでな。しかもダンジョンなめくさってたお陰で友人共々死にかけたことがあってだな」

 

......まあ、よくあることだ。現状の死因で最も多いのはそれかもしれない。

 

「そこであのお方―――ユキノさんに助けられたのだ」

「へぇ、あいつがか」

 

意外に思ったが、冷静に考えればあいつの目的は全プレイヤーの救済、すなわちゲームのクリアだ。大を救うため小を切り捨てるスタンスに近いが、それでもあいつの根底にあるのは他者に対する救いだ。そう考えれば、別におかしなことではない。

 

「だが、助けられたのはいいがそこからおかしくなってな。何故か我が知らぬうちに弟子入りするとかいう超展開になっていたでござる」

「......あいつらしいな」

 

ユキノの気性からして、「飢えた人に魚を与えるのではなく、魚を釣る方法を教えるべきよ」とかなんとか言いそうだ。ただ助けるのではなく、これからも生き残る術を教えたのだろう。容易に想像できた。

......そう考えれば、あいつは「優しい」と言えるのかもしれない。

 

「そこからが地獄だった。いやほんとに地獄。死ぬまで反復練習させられて行動パターン丸暗記するまで飯食えないしあの御仁ほんと鬼でおじゃる......」

 

ずーん、と沈鬱なオーラを纏いながら震える剣豪将軍。どれほどのスパルタだったのだろうか。

 

「しかもさらっとディスるしキレると笑顔だけど目が笑ってないし逃げても追ってくるしもうどうしろと。三次元コワイ」

「お、おう......なんというか、頑張ったな」

 

やべえ。口から魂漏れでてんぞ。ぷしゅるるるとかいう音立ててるし。

 

「......唯一の救いは我が友だけだったな。思わず守りたくなるような笑顔というのはあれを指すのだろうなあ......」

「は?なに、お前の友達って女なの?」

「いや、男......男かな?多分男だと思うぞ、我は」

「なに言ってんだお前」

 

俺が変なモノでも見るような視線を向けると、剣豪は慌ててかぶりを振った。

 

「いやいやいや、我がおかしいわけではないぞ。見ればわかる。いや見せたくないけど。というか我もあれが男だと未だに信じられないし男じゃないほうがいいというか。いや、むしろ男だからこそイイ......?」

「なんだこいつキメぇ」

 

思わず汚物を見るような目を向けてしまう。いや、だってほんとにキモいんだもんこいつ。興奮してんじゃねえよ。

 

「......けぷこんけぷこん。ともかく、明日拠点(ホーム)に行けばわかる。嫌でもわかる」

「はぁ......で、そいつとお前がユキノに鍛えられて、そのまんま部下になったと?」

「要約すればそうなるな」

 

なら初めからそう言えっつーの。

 

......だが、よく考えみたらあいつと俺が辿ってきた道はよく似ている気がする。俺と同じように中層プレイヤーを二人拾い、最終的には最前線で通用するレベルにまで育て上げているのだ。もっとも、それを前線で用いているか否かで異なるが。

 

―――ユキノは何故、あんなにも攻略を急いているのだろうか。

ふとそんな疑問が脳裏に浮かぶ。あいつは異常なまでに力を求めている。例えば武器、スキル、レベル。そして個人としての力に限界を感じたからこそギルドに―――《軍》に参入した。いっそ「鬼気迫る」と表現していいほどの力への妄執。

それを、本人は「いち早くこの世界(ゲーム)を終わらせるため」と言っている。確かにそれもあるのだろう。あいつの根底にあるのは刃にも似た正義だ。時には非人道的にすら見える、弱者への救済。大を救うため小を切り捨てるをよしとする、余りにも論理的(ロジカル)な正義。

 

......何故、そこまで救済に拘るのか。何故、身を捧げてでも他者を救おうと奔走するのか。

 

「............」

 

祈りや親切な行為といったものは、何処までいっても自分のためでしかない。どこぞのあかいあくまが正義の味方に説いたように、自身を犠牲にしてまで他人を救う行為は異常なのだ。

他人に親切にするのは、いつか自分が同じようになったときに見捨てられたくないから。

主への祈りは、自分ではどうしようもない不確定事項(運命)を少しでも良くするため。

 

―――ならばユキノはどうなのだろうか。

今の俺の持論に基づけば、あらゆる他者への善意は自分へと帰結する。

 

 

......ならば。あいつ(ユキノ)が他人を救うのは。

もしかすると、誰よりも―――あいつ(ユキノ)自身が救われたいからではないだろうか。

 

「......どうしたもんかね」

 

今のは仮説であり憶測。俺の予想が全く見当違いである場合もある、というよりはそっちの可能性のほうが大いに高いだろう。

......まあ、どちらにしろ当たっていようがいまいが俺には何もできないし、するつもりはない。もしあいつを救う奴がいたとしたら、それは俺じゃなくて何処かの主人公(ヒーロー)だ。青臭くても、笑われても、それでも進み続ける英雄(ヒーロー)だろう。

 

「む、何か言ったか?」

「なんでもねぇよ。ごっそさん」

「ほむん。いわゆる禁則事項です、というやつか!」

「......お前よくそんなネタ知ってんな」

「ふ、我を舐めるなよ。1990年以降のアニメは大抵知っておるわ」

「90年代か......ロボアニメなら見たけど」

「ロボか。我としては、ザンボット3が衝撃的だったな......ロボ同士の戦いに巻き込まれる市民の描写が生々しすぎるんでな」

「ああ、あれは確かにな。ライディーンとかあったな。ガンダムは鉄板だけど」

「キィィィィングゲイナァァァァァアアア!」

「それ90年代か......?」

 

 

......その後鋼鉄ジーグやゲッターロボについて議論し、さらに話が跳んでブレイクブレイドやファフナーにまで飛び火した挙げ句徹夜で激論を繰り広げたのは余談である。


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