やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE! 作:あぽくりふ
少し短いですが、対ジョニー・ブラック戦。
「キリト。―――逃げろ」
襲いくるナイフを槍で弾き、俺は簡潔に言葉を発する。キリトは一瞬絶句し、そして動揺したように口を開いた。
「なっ......じゃあ、ハチマンはどうするんだよ!」
「俺はここでこいつをこ―――仕留める」
殺す、と言おうとしたもののPoHの情報を吐かせるためにも、この男は生け捕りにすべきだ。
「お前は、自分の責任を果たせ。んでもって、出来れば増援呼んでくれ」
未だ呆然とへたりこんでいるサチ達を示すと、キリトは数秒間逡巡した後に頷いた。そうだ、それでいい。
「......すぐに、戻ってくる」
「別に来なくてもいいんだが、なっ!」
飛来するナイフをさらに叩き落とす。やはりと言うべきか、表面は薄紫色に染まっていた。
「ヒューゥ、友情ごっこかい?―――くっだらねェ。お前ら全員、面白可笑しく殺ってやンよ!」
「行け」
「ああ......!」
残るは俺と
―――そして、同時に洞窟の地面を蹴った。
※※※※※※※※
飛来するナイフ群を叩き落とし、横軸を基本としてフェイントをかけながら部屋の内部を駆ける。跳ね上げるようにして穂先で喉笛を狙うが、黒い短剣で防がれる。金属同士が擦れる軋音が響き、ジョニー・ブラックは笑った。
「何の躊躇もなく急所を狙うか。いいぜ兄ちゃん、よくわかってンなァ」
「黙れよ、サイコ野郎」
そう言うが早いか、左回し蹴りを叩きこむ。だがジョニーは軽快なステップでそれを避け、さらに速射のようにナイフを連続で放ってくる。槍を回転させながらそれらを弾き、縦横無尽に飛び回る小男に刺突を放った。
「お、よっ、ほっ」
「くっ―――」
だが、身を捩るようにして三連の刺突も避わされる。忌々しい、と思いながら俺は槍を半回転させ、その場から飛び退いた。
―――回避が巧い。深追いすれば懐に潜りこまれ、こうやって距離を取ればナイフが飛んでくる。
だが、ナイフにも限界数がある。もうすでに10以上は投げていることから、残りの刃は少ないはず。
「おォ!?」
「ふっ―――!」
そう分析し、投擲された2本を回避して槍を中段に構えた。放つは《ストライク》、単純にして最速の一撃で
「―――と、思うじゃん?」
「ッ!?」
だがジョニーへと一歩踏み込んだ瞬間俺の肩に鈍い衝撃が走り、
「いやー、いつ投げたかわかンなかっただろォ?」
ジョニーはニヤッと笑いながら俺の肩を指差す。確かにいつ投げたのかさっぱりわからなかったが―――おそらく、俺が接近する直前に真上へと投げていたのだろう。引き抜けば、そのナイフもやはり他と同じく黒い刃だった。
洞窟特有の薄暗さと金属光沢を消すための黒い刃―――加えて読心にすら近い予測能力。ふざけた態度も目立つ装備も全て
......何が塗られていたかは知らないが、長引くのは不味い。そう考えて踏み込み―――直後、自分の体の鈍さに驚愕した。
「な―――」
「あ、やっと気付いたのかよ?それはなかなか珍しい毒の一つでねェ」
けらけらと笑いながらジョニーが斬りかかってくる。咄嗟に槍を引いて防ぐが、やはり遅い。
「単なる麻痺とか毒じゃ、簡単に対策が取れるだろォ?それじゃァいけない、オレ様ちゃんの大好きな毒をぶちこめねェ!というわけで、四方を駆けずりまわってその毒こさえたのよ」
PoHほどではないにしても、やはりジョニーも強い。強襲する
「―――んじゃま、ここらで終わらせるかねェ!」
「くそが......!」
焦る心と裏腹に、鉛でもつけているのかと思うほど重い四肢。薄黄色の液体―――即ち麻痺薬に浸したナイフが何度も肩や腕を裂いていく。
そして都合何十回目か、ついに麻痺耐性のある軍服すら越えて体が
「かはっ―――」
「クハ、まるで網にかかった魚みてェだなァ!」
ニヤつく頭陀袋。なぶるように振るわれた足が鳩尾に突き刺さり、衝撃に息が詰まる。痛みはないが、衝撃はある。さらに側頭部を踏みつけるようにして頭が地面に押し付けられた。微かに濡れたような、ヒヤリとする大地に頬が密着する。
「なァ、今どんな気持ちだ?今から無抵抗のまま殺されるってのはどんな気持ちなんだよォ?」
「............」
粘着質な声。頭陀袋に空いた二つの穴から覗くのは、優越感に浸る下卑た目だった。
―――ああ、そうか。俺は今から殺されるのか。
「............はは」
だが、いざ死に直面してみても。悪意に晒されても―――何も感じなかった。
こんなものか、という感情。ここで死ぬのか、という認識。今まで何度も自分が死ぬ時を夢想してきたが、ついにその時が来たのだ。ただHPがゼロになり、ナーヴギアがマイクロウェーブを発し、俺の脳細胞が高温で死滅するだけ。それだけの、話だ。
「クハ......言い残す言葉でもあるかァ?」
―――たかが、人が一人死ぬだけのこと。一日に数万人が死んでいく中の一人であり、今まで散っていった魂も通算すれば無限の中の一に過ぎない。無数の塵の一つ。その生に意味はなく、その死に意義はなかった。
未練はない―――いや、あるとするならば。
「―――すまん、小町」
小町に対する罪悪感。それくらいだった。
......いや。たった一つ。あと一つだけあるとするならば。
俺は、本物が―――
「ど、けぇぇぇぇえええええ!!!!」
「ンなッ!?」
残像すら残して放たれた一閃。轟音と共にジョニーが吹き飛び、俺は唖然として口を開ける。
揺れる黒髪に黒い
「な、んで―――」
「言ったろ、すぐ戻ってくるってさ」
そんな事を言いながらキリトが俺の上に手を伸ばし、クリスタルを砕く。降り注ぐ光は俺の麻痺、及び遅延毒を一瞬で拭い去った。
―――手を握ったり開いたりして、体の感覚を確かめる。四肢は正常、視界は極めて良好、感覚に異常なし。
「......助かった。だが、何故戻ってきた?お前の仲間はどうした」
「転移結晶を使わせて、助けを呼ぶように言っておいた」
「お前も行けばよかっただろうが。なんで戻ってきた」
「―――わからない」
「おい......」
俺は思わず声を荒げる。だが、それを遮るようにしてキリトは言った。
「ただ、なんとなくハチマンが危ない気がしただけだ」
「......理由になってねえぞ」
「だから言ったろ?わからないって」
キリトはそこで一息吐き、ジョニーを見据えた。
「......俺は臆病で考えなしの
「――――――ッ」
俺は思わず絶句し、その顔を見つめた。そしてそこに偽っている様子などないことを見てとり、ぽつりと呟く。
「......お前、バカだろ」
「ああ、俺もそう思う」
「自覚症状あんのが、尚更質悪いな」
自然と苦笑し、槍を構える。キリトも同じように片手剣をジョニーに向けた。
......もし俺が女だったら、惚れてたまである。こいつがよく女を引っかける理由が少しわかった。
「......できれば捕まえたいが、深追いはするなよ」
「了解」
ふっと笑みを浮かべながらキリトが了承の意を返す。そして頭陀袋に視線を向ければ、そこには初めて焦りの色を浮かべた瞳があった。
「あっらー。これ、もしかしてオレ様ちゃんヤバい感じ?」
目を左右に走らせるが、逃がす気など毛頭ない。油断なくキリトと俺はジョニー・ブラックをひたと見据えた。
「......んー、こりゃヤバいねェ。あーやだやだ、ヘッドにゃ怒られるが使うしかないわな」
何事か呟き、ジョニーが頭陀袋の中からさらにナイフを、合計八本引き抜く。まだ隠していたのかと驚愕したが、次の瞬間それはさらなる驚愕に上書きされた。
「―――《
「「―――ッ!?」」
―――右手に四本、左手に四本。合わせて八本のナイフが
しかもその速度が尋常ではない。それでも一つだけならば回避可能だったかもしれないが、さらにその速度のまま四方向から
「くそ、待て......!」
そのまま逃げ出すジョニーをキリトが追おうと飛び出すが、俺は無言でそれを制止する。
「深追いはするな、って言っただろ」
「でも......」
「でももへったくれもない。......あのスキルを見ただろう」
キリトは悔しげに部屋の出口を見ていたが、数瞬の間の後に刺さっていたナイフを抜き、溜め息を吐いた。どうやら諦めてくれたらしい。
「......なんなんだ、あいつらは」
「さあな......」
揃いも揃って見たことも聞いたこともないソードスキルを扱うPK集団。早急にあのスキルが既存のものかを確認しなければならない。......俺の想像以上に、厄介な事態になっている可能性もある。
回復結晶を砕きながら、俺は嫌な予感に身を震わせるのだった。
なんかもうSAO編すっとばしてGGO書きたくなってきた.......八幡とシノンを絡ませたい......あ
、書こうかしら。いやダメだこれ以上更新スピード遅くなったら怒られる......!