やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE!   作:あぽくりふ

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少し短いですが、対ジョニー・ブラック戦。






4話

 

 

 

「キリト。―――逃げろ」

 

襲いくるナイフを槍で弾き、俺は簡潔に言葉を発する。キリトは一瞬絶句し、そして動揺したように口を開いた。

 

「なっ......じゃあ、ハチマンはどうするんだよ!」

「俺はここでこいつをこ―――仕留める」

 

殺す、と言おうとしたもののPoHの情報を吐かせるためにも、この男は生け捕りにすべきだ。

 

「お前は、自分の責任を果たせ。んでもって、出来れば増援呼んでくれ」

 

未だ呆然とへたりこんでいるサチ達を示すと、キリトは数秒間逡巡した後に頷いた。そうだ、それでいい。

 

「......すぐに、戻ってくる」

「別に来なくてもいいんだが、なっ!」

 

飛来するナイフをさらに叩き落とす。やはりと言うべきか、表面は薄紫色に染まっていた。

 

「ヒューゥ、友情ごっこかい?―――くっだらねェ。お前ら全員、面白可笑しく殺ってやンよ!」

「行け」

「ああ......!」

 

残るは俺と大量殺人鬼(サイコパス)

―――そして、同時に洞窟の地面を蹴った。

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

飛来するナイフ群を叩き落とし、横軸を基本としてフェイントをかけながら部屋の内部を駆ける。跳ね上げるようにして穂先で喉笛を狙うが、黒い短剣で防がれる。金属同士が擦れる軋音が響き、ジョニー・ブラックは笑った。

 

「何の躊躇もなく急所を狙うか。いいぜ兄ちゃん、よくわかってンなァ」

「黙れよ、サイコ野郎」

 

そう言うが早いか、左回し蹴りを叩きこむ。だがジョニーは軽快なステップでそれを避け、さらに速射のようにナイフを連続で放ってくる。槍を回転させながらそれらを弾き、縦横無尽に飛び回る小男に刺突を放った。

 

「お、よっ、ほっ」

「くっ―――」

 

だが、身を捩るようにして三連の刺突も避わされる。忌々しい、と思いながら俺は槍を半回転させ、その場から飛び退いた。

 

―――回避が巧い。深追いすれば懐に潜りこまれ、こうやって距離を取ればナイフが飛んでくる。

だが、ナイフにも限界数がある。もうすでに10以上は投げていることから、残りの刃は少ないはず。

 

「おォ!?」

「ふっ―――!」

 

そう分析し、投擲された2本を回避して槍を中段に構えた。放つは《ストライク》、単純にして最速の一撃で急所(心臓)を穿つ―――

 

「―――と、思うじゃん?」

「ッ!?」

 

だがジョニーへと一歩踏み込んだ瞬間俺の肩に鈍い衝撃が走り、予備動作(プレモーション)を崩されたことで《ストライク》がキャンセルされる。顔をしかめて視線を背後に回せば、そこには突き刺さるナイフの姿があった。

 

「いやー、いつ投げたかわかンなかっただろォ?」

 

ジョニーはニヤッと笑いながら俺の肩を指差す。確かにいつ投げたのかさっぱりわからなかったが―――おそらく、俺が接近する直前に真上へと投げていたのだろう。引き抜けば、そのナイフもやはり他と同じく黒い刃だった。

洞窟特有の薄暗さと金属光沢を消すための黒い刃―――加えて読心にすら近い予測能力。ふざけた態度も目立つ装備も全て誘導(ブラフ)、完璧に暗殺に特化したPKだ。

 

......何が塗られていたかは知らないが、長引くのは不味い。そう考えて踏み込み―――直後、自分の体の鈍さに驚愕した。

 

「な―――」

「あ、やっと気付いたのかよ?それはなかなか珍しい毒の一つでねェ」

 

けらけらと笑いながらジョニーが斬りかかってくる。咄嗟に槍を引いて防ぐが、やはり遅い。

 

「単なる麻痺とか毒じゃ、簡単に対策が取れるだろォ?それじゃァいけない、オレ様ちゃんの大好きな毒をぶちこめねェ!というわけで、四方を駆けずりまわってその毒こさえたのよ」

 

PoHほどではないにしても、やはりジョニーも強い。強襲する短剣(ダガー)と闇に紛れるナイフのラッシュを防ぐには、今の俺ではあまりに遅すぎた。

 

「―――んじゃま、ここらで終わらせるかねェ!」

「くそが......!」

 

焦る心と裏腹に、鉛でもつけているのかと思うほど重い四肢。薄黄色の液体―――即ち麻痺薬に浸したナイフが何度も肩や腕を裂いていく。

そして都合何十回目か、ついに麻痺耐性のある軍服すら越えて体が麻痺(パラライズ)状態へと変化した。

 

「かはっ―――」

「クハ、まるで網にかかった魚みてェだなァ!」

 

ニヤつく頭陀袋。なぶるように振るわれた足が鳩尾に突き刺さり、衝撃に息が詰まる。痛みはないが、衝撃はある。さらに側頭部を踏みつけるようにして頭が地面に押し付けられた。微かに濡れたような、ヒヤリとする大地に頬が密着する。

 

「なァ、今どんな気持ちだ?今から無抵抗のまま殺されるってのはどんな気持ちなんだよォ?」

「............」

 

粘着質な声。頭陀袋に空いた二つの穴から覗くのは、優越感に浸る下卑た目だった。

 

―――ああ、そうか。俺は今から殺されるのか。

 

「............はは」

 

だが、いざ死に直面してみても。悪意に晒されても―――何も感じなかった。

 

こんなものか、という感情。ここで死ぬのか、という認識。今まで何度も自分が死ぬ時を夢想してきたが、ついにその時が来たのだ。ただHPがゼロになり、ナーヴギアがマイクロウェーブを発し、俺の脳細胞が高温で死滅するだけ。それだけの、話だ。

 

「クハ......言い残す言葉でもあるかァ?」

 

―――たかが、人が一人死ぬだけのこと。一日に数万人が死んでいく中の一人であり、今まで散っていった魂も通算すれば無限の中の一に過ぎない。無数の塵の一つ。その生に意味はなく、その死に意義はなかった。

未練はない―――いや、あるとするならば。

 

「―――すまん、小町」

 

小町に対する罪悪感。それくらいだった。

 

 

......いや。たった一つ。あと一つだけあるとするならば。

 

俺は、本物が―――

 

 

 

 

「ど、けぇぇぇぇえええええ!!!!」

「ンなッ!?」

 

残像すら残して放たれた一閃。轟音と共にジョニーが吹き飛び、俺は唖然として口を開ける。

揺れる黒髪に黒い外套(コート)。そこにいたのは、先程出ていったはずのキリトだった。

 

「な、んで―――」

「言ったろ、すぐ戻ってくるってさ」

 

そんな事を言いながらキリトが俺の上に手を伸ばし、クリスタルを砕く。降り注ぐ光は俺の麻痺、及び遅延毒を一瞬で拭い去った。

―――手を握ったり開いたりして、体の感覚を確かめる。四肢は正常、視界は極めて良好、感覚に異常なし。戦闘可能(オールグリーン)

 

「......助かった。だが、何故戻ってきた?お前の仲間はどうした」

「転移結晶を使わせて、助けを呼ぶように言っておいた」

「お前も行けばよかっただろうが。なんで戻ってきた」

「―――わからない」

「おい......」

 

俺は思わず声を荒げる。だが、それを遮るようにしてキリトは言った。

 

「ただ、なんとなくハチマンが危ない気がしただけだ」

「......理由になってねえぞ」

「だから言ったろ?わからないって」

 

キリトはそこで一息吐き、ジョニーを見据えた。

 

「......俺は臆病で考えなしの中学生(ガキ)だけどさ。友達を見捨てられるほど、腐っちゃいないんだよ」

「――――――ッ」

 

俺は思わず絶句し、その顔を見つめた。そしてそこに偽っている様子などないことを見てとり、ぽつりと呟く。

 

「......お前、バカだろ」

「ああ、俺もそう思う」

「自覚症状あんのが、尚更質悪いな」

 

自然と苦笑し、槍を構える。キリトも同じように片手剣をジョニーに向けた。

......もし俺が女だったら、惚れてたまである。こいつがよく女を引っかける理由が少しわかった。

 

「......できれば捕まえたいが、深追いはするなよ」

「了解」

 

ふっと笑みを浮かべながらキリトが了承の意を返す。そして頭陀袋に視線を向ければ、そこには初めて焦りの色を浮かべた瞳があった。

 

「あっらー。これ、もしかしてオレ様ちゃんヤバい感じ?」

 

目を左右に走らせるが、逃がす気など毛頭ない。油断なくキリトと俺はジョニー・ブラックをひたと見据えた。

 

「......んー、こりゃヤバいねェ。あーやだやだ、ヘッドにゃ怒られるが使うしかないわな」

 

何事か呟き、ジョニーが頭陀袋の中からさらにナイフを、合計八本引き抜く。まだ隠していたのかと驚愕したが、次の瞬間それはさらなる驚愕に上書きされた。

 

「―――《剣弾・多重展開(ソードバレット・マルチプル)》」

「「―――ッ!?」」

 

―――右手に四本、左手に四本。合わせて八本のナイフが同時に(・・・)放たれる。

しかもその速度が尋常ではない。それでも一つだけならば回避可能だったかもしれないが、さらにその速度のまま四方向から追尾(ホーミング)して迫ってくるのだ。咄嗟に腕で急所を防ぐと、ザクザクという肉を裂く音と共に体力が減少し、加えて猛毒の阻害(デバフ)アイコンが点灯した。どうやら半端な毒耐性程度では貫通されるほどの毒が塗られていたらしい。

 

「くそ、待て......!」

 

そのまま逃げ出すジョニーをキリトが追おうと飛び出すが、俺は無言でそれを制止する。

「深追いはするな、って言っただろ」

「でも......」

「でももへったくれもない。......あのスキルを見ただろう」

 

キリトは悔しげに部屋の出口を見ていたが、数瞬の間の後に刺さっていたナイフを抜き、溜め息を吐いた。どうやら諦めてくれたらしい。

 

「......なんなんだ、あいつらは」

「さあな......」

 

揃いも揃って見たことも聞いたこともないソードスキルを扱うPK集団。早急にあのスキルが既存のものかを確認しなければならない。......俺の想像以上に、厄介な事態になっている可能性もある。

回復結晶を砕きながら、俺は嫌な予感に身を震わせるのだった。








なんかもうSAO編すっとばしてGGO書きたくなってきた.......八幡とシノンを絡ませたい......あ
、書こうかしら。いやダメだこれ以上更新スピード遅くなったら怒られる......!

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