やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE!   作:あぽくりふ

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お久しぶりです。





2章 アインクラッド中層編
1話


 

 

 

 

 

「はぁ......」

「よう、お疲れ」

 

額に手を当て、半ば虚ろな瞳で天井を見つめながらユキノが溜め息を吐く。俺は珈琲を入れたカップをその前に置き、そんな彼女に声をかけた。

 

「......これ、あのやたら甘いやつかしら?」

「おう。マッカンだよマッカン」

 

そう答えると、ユキノは一口飲んで顔をしかめる。

 

「......もはや殺人的な甘さね」

「そりゃ、練乳に珈琲を溶かしたとか言われるくらいだからな」

「なんでそんなものを好んで飲むのか、理解に苦しむわ」

 

だが、そんなことを言いながらもユキノはちびちびと自作マッカンを啜る。やっぱり疲れた後は甘いものだよね。

 

「......んで、どうなった?」

「結果としては、まあ五分五分ね。こちらが攻略を一手に引き受ける代わりに、向こうは商業系の全権を持つことになったわ。予定調和と言えばそうだけど、正直もう少しねじ込めるかと思っていたわ」

 

そういうもんなのだろうか。こういった派閥などの世界はよくわからないが、とりあえずキバオウ一派が予想以上に堅固らしいのはなんとなくわかった。

 

「......ああ、そう言えば渡し忘れてたわね」

「?」

 

すると、ユキノが突然メニューを操作し始める。直後執務室の机の上に出現したのは、謎の黒い衣服らしきものと―――槍だった。

 

「これがあなたに支給されるものよ。受け取りなさい」

「はぁ......」

 

俺はまず衣服らしきものを手に取る。畳まれていたそれを広げると、そこにあったのは―――

 

「......軍服じゃねーか」

 

まさに軍服だった。

黒地に金の(ボタン)が縫い付けられ、袖などに一部緑色の刺繍がされている様はどう見ても軍服。胸元には浮遊城アインクラッドをモチーフにしたデザインがあしらわれており、小さく《アインクラッド解放軍(ALF)》と刻まれていた。

 

「それがうちの制服よ。次からはそれを着てくること」

「......了解(イエス)上官(マム)

 

いくら《軍》って呼ばれてるからってマジで軍隊にするとは思わなんだ。よくよく見れば、加えてマントと軍帽まである。しかもマントは地味に隠蔽強化効果が付与されてるのが腹立つ。

 

「ああ、あとこれもね」

「ん?ああ」

 

放り投げられたそれを空中でキャッチすると、それは校章ににた何かだった。雪の結晶のような紋様が刻まれたそれは、美しい金と銀で輝いている。かなり高位の細工師(クラフトマン)が作ったに違いない。......襟首に付けろ、ということだろうか。

 

「それも付けておきなさい。私の副官という証明になるから、ある程度権限は増えるはずよ」

 

......あまり欲しくはないが、一応付けておこう。

 

「一応、あなたの階級は中佐よ。精進なさい」

「階級とかあるのかよ......ちなみにお前は?」

「大将ね」

「トップじゃねえか」

 

ギルマスであるシーカーさんが元帥だとするならば、実質トップである。

 

「......んで、これは分かったがそれはなんなんだ?」

 

俺が指した「それ」とは、ユキノの机の上に置かれている槍のことだった。

 

「あなた、25層のボス戦で武器を壊したでしょう?それを使いなさい、性能は保障するわ」

 

予想はしていたとはいえ、少なからず驚いた俺は片眉を上げる。25層ボス戦から一ヶ月ほど経過したが、あの《ブラックライトニング》の後釜となる槍を未だ得ていないのが現状だった。今使っている槍も悪くはないのだが、やはりかつての愛槍には二、三歩譲ってしまう。

 

「そんなにいい槍なのか」

「現状最高レベルね」

 

そこまでか。

俺は半信半疑で槍を二度軽く叩く。そしてポップした槍の名前と性能を見た瞬間、唖然とした。数値が現状最高どころか、その遥か上を行っている。そのぶん要求筋力値がアホみたいに高いが、なにより驚愕させたのはこの槍がプレイヤーメイドではないという点だ。

......モンスタードロップでこの破格の数値。つまり、これは。

 

「おい、これってまさか......」

「ええ。25層フロアボスのラストアタック・ボーナスよ」

 

......マジか。

 

「いや、けどこれってキリトが持ってたはずじゃ......」

取引(トレード)したに決まってるでしょう」

 

トレード。俺はその言葉を聞いて、ごくりと唾を飲み下す。

 

「......おいくらで?」

「200万コルよ」

 

家買えるじゃねーか。

 

「え、お前馬鹿なの?それとも俺のこと好きなの?」

「斬られたいのかしら?」

 

ちゃき、という音とともにユキノが刀を構える。一気に頭が冷えた。

 

「......すまん。大金すぎて少しとち狂ってたわ」

 

そう謝罪すると、ユキノはこちらをもう一度睨んだ後刀を納める。どうやら首ちょんぱは回避できたらしい。

 

「それは投資よ。それに、こういう方法のほうがあなたは働くでしょう?」

「むぐ......」

 

俺は養われる気はあるが、施しを受けるつもりはない。確かにこうして恩を着せられたほうが効果的なのはあるだろう。腹が立つほどに見抜かれている。

 

「......それで、なにすりゃいいんだよ」

 

溜め息を吐いてユキノに問う。だが、意外なことにユキノはかぶりを振った。

 

「今は何もしなくていいわ。あなたにはギルド(こちら)の通常任務参加を拒否する権利も与えられているもの」

「えらい厚待遇だな」

「そうでもないわよ。今はないだけで、後々仕事が倍増していくでしょうね」

「......一応聞いておく。どんなのだ?」

「簡単に言えば、最低でも《攻略組》レベルの戦闘力を持つ精鋭の育成よ。まだメンバーも決まっていないのだけど」

 

つまり、《軍》の中でも屈指の戦闘力を持つプレイヤー集団を作るつもりらしい。ゆくゆくは攻略にも参加させる腹積もりなのだろう。

それで、俺がそいつらに戦い方やらを教えなければならない、と。......無理じゃね?

 

「そうね......ついでに、有望そうな人材がいたらスカウトしてくれると助かるわ」

 

うへぇ、と俺はわかりやすく顔をしかめてみせる。

 

「勧誘とか、何処のリーマンだよ......」

「あら。商業系スキルで《サラリーマン》があるらしいわよ?」

 

マジかよ。それ、欲しくないスキルトップ10に入るぞ。ちなみに1位は《ダンス》である。あの新興宗教にしか見えない動きはもはや恐怖だ。エクストラスキルだが、しかも教えてくれる人がオカマのダンサーらしい。ほんと、作った奴の思考が謎すぎる。

 

「......ま、貰えるもんは貰っとくわ」

「そうしなさい。私に返されても困るもの」

 

槍をストレージに収納しようと槍をつかみ―――俺はたたらを踏んだ。滅茶苦茶重いぞ、これ。しばらくはレベル上げをしなければならないかもしれない。

 

「あと頼みたいことがあるのだけれど」

「......?なんだ」

 

四苦八苦しながら槍をストレージに収納し、俺は聞き返す。

 

「キリトくんの動向を探ってくれないかしら」

「......あのさ。お前ら、なんかあったのか?」

 

そう問うと、ユキノはふいっと視線を逸らした。だがそのままじぃっと見ていると、さすがに誤魔化すのに無理があったと思ったのか、咳払いをしながら答えた。

 

「いえ......別に、喧嘩をした、というのではないのだけれど......なんて言えばいいのかしらね」

 

......喧嘩ほどではない。ならば―――

 

「......すれ違い、か?」

「そんなものかしらね」

 

どうやら当たりだったらしい。俺は思わず鼻を鳴らしてしまった。

 

「......なにかしら」

「いや、あまりにアホらしくてな」

 

ほんと、アホらしい。ユキノが鋭い視線を寄越すが、俺ははっ、と笑ってみせる。

 

「その程度のいざこざで壊れるなら、所詮はそんなもんだったってことだろ」

 

そんなすれ違い程度で壊れてしまうなら、それだけのもの、上っ面だけの関係だったということだ。何もわかりあえないオトモダチの関係。なら、そんなものは壊れてしまったほうがまだマシだ。

いずれ破綻するようなモノなら、今破綻してしまえ。いずれ勝手に期待して、失望して、諦めてしまうくらいなら。喪って絶望して慟哭するくらいなら。

 

自分の手で砕いて壊して踏みにじったほうが、まだマシだろう。

 

「......そう、なのかしら」

「万年ぼっちを貫いてきたぼっちマイスターの俺に聞かれても知らねえよ」

 

今まで言ったことは俺の憶測で予想で願望にすぎない。ひょっとしたら世界はもっと簡単で優しく出来ているのかもしれないし、もっと残酷で吐き気がするほど救いようがないのかもしれない。膨大な虚飾と僅かな本物が入り雑じる世界は、その僅かなモノを探しだすにはあまりにも広すぎた。

 

「......適当な男ね」

「仕方ねえだろ、俺は生憎オトモダチがいないんだよ。......けど、まあ」

 

だが―――手放してしまうのを躊躇うのならば。喪いたくないと思えるのなら。ただ純粋にそう望むのなら。

 

「―――全部が全部、間違ってるわけじゃないんじゃねえのか?」

 

俺は肩をすくめて執務室を出ていく。背中に突き刺さる視線を感じながら扉を閉めると、ふっ、と息を吐いた。

......さて、じゃあキリトでも探しますかね。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「で、オレっちのとこに来たのカ」

「お前ならわかるだろ?」

「まあわかるけどサ......フレンド登録はどうしたんダ?」

「俺がすると思うか?」

 

質問に質問で返すなアホが!とか言われるかと思ったがそんなことはなく、アルゴは納得したかのように頷いた。

 

「ま、近日中に送っとくヨ」

「悪いな。で、いくら払えばいいんだ?」

無料(タダ)で良い」

「や、そういうわけにもいかんだろ」

 

情報屋らしくもなく、無料にすると言い出すアルゴを見据えて俺は言った。

 

「......もうあの事は気にしなくていい。別に恨んじゃいないし、結果的に生き残ってんだから問題ない。もう結構な金も貰ったし、これ以上は別に気にする必要はない」

 

"あの事"。すなわち、アルゴが俺を25層ボス戦に参加させたことだ。ついでにユキノにユウキ達の情報を売ったのもこいつだったが、情報屋の性質上それは咎めるつもりはないしアルゴに非はない。25層が相当強化されたボスだったことは実際に相対した俺が最もわかっているし、あの戦いには総力をつぎ込まねばならなかったのは今では納得できる。俺が《攻略組》クラスの実力を持っている以上、なんとかして参加させたかったのもわかる。

だから別に恨んでなどいなかったのだが......ボス戦が終わった後には渾身の土下座+お詫びとして大量の(コル)を押し付けられたのだ。それだけですでに十分だとは思うのだが―――

 

「......」

 

それでもなお俺に引け目を感じているらしいアルゴを見て、溜め息を吐く。元相方としても、このまま引きずられるのはなんとなく気が咎めた。

 

「......あのなあ。俺がいいっつってんだから納得しろよ。これ以上は貸しを通り越して借りになるわ」

「でも......痛ぁっ!?」

 

アルゴに渾身のでこぴんを叩きこみ、俺は再度溜め息を吐く。

 

「でももへったくれもねえよ。この件はこれで終わり、それでいいな?」

「え、あ、う」

「返事は?」

「わ、わかった!わかりましたからデコは止めロ!」

 

涙目で額を押さえるアルゴ。そんなに痛かったのだろうか、これ。ダメージ判定が出る一歩手前のギリギリを狙ったんだが。......いや、だからこそ余計に質が悪いのか?自分の才能が怖い。

 

「んじゃ、とりあえず10000置いとくぞ。また用があったら来るわ」

 

未だ額を擦るアルゴの前に10000コルほど入った袋を置き、俺は席を立つ。......まあ、このくらいなら片手間で調べ上げられるのだろうが、多少色をつけておいた感はあったりする。

背後でなにやら言っている気がしたが、無視して店を出た。そして、ふと気付いて呟く。

 

「......そういや、この制服の感想聞くの忘れてたわ」

 

健全な男子高校生としては軍服はなかなかぐっとくるものがあるのだが、どうなのだろうか。

 

そんな事を考えながら、俺は雑踏の中に紛れ込んでいくのだった。

 

 

 

 





軍服(*´ω`*)

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