やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE! 作:あぽくりふ
1話 やはり彼の予想は的中する。
3、2、1―――
「リンクスタート」
俺の声を
※※※※※※※※
「あー、初期設定長かった......」
とは言っても、それは俺が悪いのだが。ほら、RPGのキャラ作成ってかなり悩むタイプだし。最終的にはシンプルなのに落ち着く場合が多い。
今回もその例に漏れず、あまり現実と大差ないキャラクターメイキングとなった―――ただし目以外。今の俺の目は、やたらきらっきらしてることだろう。どこぞの
というわけで、ようやくソードアート・オンライン―――略してSAOの始めの拠点、名前もそのままである『はじまりの街』に俺は降り立った。
「おお、すげぇな......」
思わず感嘆の声をあげてしまう。俺にとってはこれが初の
肌を撫でる大気の感覚まで再現されており、1ゲーマーとして俺は舌を巻いた。細部のグラフィックのひとつひとつに、このゲームを作った人物の凄まじい熱意が感じられる。もはや執念に近いかもしれない。
「......っと。行くか」
ついつい立ち止まってしまったが、俺はようやく街の通りを歩きだした。ここには俺のようにログインしてくる連中が続々と現れるだろう。こんな所に留まっていれば、後続が詰まって顰蹙を買うことになってしまう。
「で、どうやるんだっけ?......こうか?」
歩きながら、俺は右手の人差し指と中指を揃える。別にトゥース!のポーズをしようとしているわけではない。第一そんなキャラでも性格でもない。
と、そのまま俺は指を揃えて、ピッ、と空中で振った。すると―――
「おお」
ヴン、という音をたてて青色のウィンドウが空中で展開される。初期設定におけるナビの説明のとおり、これがいわゆる《メインメニュー・ウィンドウ》というやつなのだろう。
さらに『Status』と書かれている枠をタップすると、空中に浮いているウィンドウのさらに上に1枚、またウィンドウが開かれた。
「......」
ステータスウィンドウ。自分のステータス、装備が書かれたものだ。それをくるくると下にスクロールしていくと―――『Lv1 Hachiman』という羅列が表示される。もちろん装備は初期のまま。
......うん、これって武器の装備ってどうやるんだっけ?
四苦八苦しながらウィンドウをつついていると、ようやく今の自分に武器がないことに俺は気付いた。その代わりだろうか、所持金に1000......コル?支給されていた。これがどのくらいのものかはわからないが、武器を買うくらいならば足りるはずだろう。
そう考え、俺は通りを歩いていく。と―――
「おいあんた、ちょいと
「は、はあ......じゃあ、武器屋行く?」
丁度そんな会話が聞こえてきた。俺が思わず振り向くと、二人のプレイヤーが路地裏へと消えていくのが視界の端に映る。
......ふっ。ついにステルスヒッキーの出番だぜ!うん、ヒッキーってニートみたいだから嫌だけど語呂が良いからおk。そういうわけで、俺は武器を入手するべく二人のプレイヤーをストーキング......もとい追跡するのだった。
※※※※※※※※
「む......」
ひゅん、という音と共に振るわれた穂先が空を斬る。予想以上に俊敏なイノシシ型Mobを見て、俺は浅く息を吐く。
「難しいな......」
結局、あの二人のプレイヤーを追跡していった結果発見できた武器屋で俺が購入したのは、短槍だった。
短剣や片手剣、
「《ソードスキル》、ね」
このSAOには、魔法という概念が存在しない。というか、遠距離攻撃自体が一部の例外を除いて存在しないのだ。魔法。それファンタジー系ゲームには必須とすら言われる概念だが―――SAOは大胆にもそれをなくし、代わりに導入されたのが《
小町にパッケージを渡された後、色々と調べてみたのだが......動画を見たところ、ソードスキルを使うこと自体はそこまで難しいそうではなかった。が―――いまいちコツが掴めない。どういうことなのか。
「とりあえず、試すか」
鍛練あるのみ。根性論ではないが、練習してみるしかない。俺はファンゴみたくこちらに走ってくるイノシシに照準を合わせる。
短槍を右脇に挟むようにして後ろに構え、そして―――
「ゲイ―――〇ルグ!(※違います)」
叫びながら右足を一歩前に出し、右手を捻りながら短槍を突き出す―――と。
「!?」
突如として槍が加速する。全身が何かの力に乗せられたかのように自動で動き、見れば槍の穂先は青色の光を纏っている。
そして、短槍はそのまま高速で突き進み―――イノシシの鼻先から頭部にかけて貫いた。
「ブヒィ......」
何処か物悲しげな声を残し、イノシシは青いポリゴンとなって砕け散る。......いや、お前イノシシだろ。イノシシも鳴き声はブヒーなのか?それ豚じゃね?萌え豚死すべし。
「ほー......」
俺は感心しながら短槍の穂先を見つめる。もう先程の光はないが―――あれが、ソードスキルなのだろう。俺が普通に槍を振るう速度の倍は優に出ていた。ソードスキルが必殺技扱いされることも頷ける。
「......うん、楽しいな」
まるで、自分が槍の達人にでもなったかのような感覚。あのエフェクトも厨ニ心をくすぐってくる。―――楽しい。久しぶりに、素直にゲームを楽しめた。VRゲームの醍醐味―――自身の体を動かす楽しさとやらが、少しはわかった気がする。
「うし。イノシシ狩りしますか」
とりあえず、このソードスキルは必ず出せるように練習しよう。そう決めて、俺はイノシシを狩りまくるべく草原を駆け出すのだった。
※※※※※※※※
「かなり狩ったな」
俺は槍を両手で持って伸びをする。―――《短槍》スキル基本技《ストライク》。ただ単に突くだけの技だが、かなり使い勝手が良い。ソードスキルを放つコツもだいたい分かってきた。
......まあ、そのぶんイノシシが犠牲になったのだが。おかげで牙やら肉やらの
「はぁ......」
さて、と俺はウィンドウを再び開く。もうすでに正午を回っていた。そろそろログアウトするべきだろう。
そう考え、俺はメニューを下にスクロールしていく。ログアウトログアウト、ログアウト、《LOG OUT》―――
「......おい、ねえぞ?」
俺は思わず顔をしかめた。もう一度見てみるが―――やはり無い。他にも無いか探してみたが、ログアウトのLの字すらなかった。運営のミスだろうか。
「............」
ざわり、と。嫌な予感が俺の心を蝕んだ。―――ログアウトボタンがない。こんな、簡単どころか根本的なミスを犯すだろうか。普通ありえない。―――まさか。
「......は、んなわきゃねーだろ。いつの時代のWeb小説だ」
まさか―――と、俺は自分の想像を一笑した。《デスゲーム》なんざ、ありえるわけがない。もしログアウトできないとしても、現実世界側からネットを遮断すればいいだけの話だ―――
......《ブラックスワン理論》。
「............」
俺は首を振って、その突拍子もない妄想を振り払う。そんな、なんのメリットもない行動を誰がするというのか。―――と。そこまで思考したときだった。
「......!?」
突然リンゴーン、リンゴーン―――という、荘厳な鐘の音が響き渡る。ともすれば警報音にも聞こえるその大ボリュームの音に、俺は顔をしかめた。
「なんだ......?」
そう呟いた直後、俺は思わず瞠目する。
......謎の鮮やかな、青い光の柱。それが俺の体を包みこみ、どんどん周囲の風景―――だだっ広い草原が薄れていく。
「......ッ!?」
慌てる暇もないまま、俺の体を一際強い光が一瞬包みこみ―――気付けば、周囲には膨大な量のプレイヤーが存在していた。
俺は戸惑いながらも周囲を見渡す。だが、そこはすでに草原ではなく―――中世の町並みに変わっていた。見覚えのあるこの風景。
すなわち―――《はじまりの街》の中央広場である。
「なんだってんだ」
どうやら、強制移動させられたようだ―――と分析しつつ、俺は自分を囲む喧騒に耳を澄ます。だが俺以外の連中も戸惑っているようで、「あくしろよ」「ふざけんな」「
―――と。突如として、俺の視界を真っ赤な光が染めた。目を細めながら、俺は上を見上げた。―――百メートルほどだろうか。遥か上空、100層からなる鋼鉄の浮遊城《アインクラッド》の第2層の底に、真紅の市松模様が広がっていく。だが、それもよく見れば《Warning》と《System Annousment》という二つの英文が組合わさったものだった。
―――一瞬の驚愕。だがその直後、ようやく運営のお出ましかと俺はほっとした。十中八九、ログアウトの件だろう。
だが、周囲の喧騒が静まっていく中で、俺の中の嫌な予感は逆に高まっていく。―――何故、わざわざ強制移動させる必要がある?
「............」
と。突然、市松模様の広がりが変化する。中央部分から、血のように粘度のある雫が一滴したたり落ちてきたのだ。
......落下するのか。俺はそう考えたが、雫は落下することなく、予想を裏切って空中で肥大化し―――禍々しいローブを纏った、巨大な、顔のない人影へと変化した。
『プレイヤー諸君―――私の世界へようこそ』
低く落ち着いた、男の声が響き渡る。
『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる、唯一の人間だ』
―――茅場晶彦。それは、この《ソードアート・オンライン》の開発ディレクターにして、《ナーヴギア》の設計者。ゲームに詳しくないものでも知っている、天才量子力学者。だが、本人がなぜここに―――?
『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』
「は......?」
俺は思わず口をぽかんと開けた。こいつは、何を言っている―――?
『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』
『......また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除もありえない。もしそれが試みられた場合―――』
『ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』
『より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーヴギアのロック解除または分解または破壊の試み―――以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では当局およびマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制解除を試みた例が少なからずあり、その結果』
『―――残念ながら、二百三十四名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界から退場している』
『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険はすでに低くなっていると言っていいだろう。今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設に搬送され、厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して......ゲームの攻略に励んで欲しい』
『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって、《ソードアート・オンライン》は、すでにただのゲームではない。もうひとつの現実と言うべき存在だ。......今後ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に―――』
『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
『諸君がこのゲームから解放される条件は、たったひとつ。先に述べた通り、アインクラッド最上部、第100層にまで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が、安全にログアウトされることを保証しよう』
『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ』
「――――――」
俺は半ば脳が麻痺したようになりながらも、ウィンドウを開いた。―――アイテム名は、《手鏡》。
のろのろとした動きでそれをオブジェクト化する。きらきらという効果音とともに、俺の手中に四角い手鏡が出現する。
そしておそるおそる覗きこむ、と―――
「ッ!?」
俺の視界を白い光が染め上げ―――数秒後、光が消えると同時に手鏡に写りこんでいたのは......腐った目に跳ねた髪。―――現実世界の俺の顔そのものだった。
『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は―――SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?これは大規模テロなのか?あるいは身代金目的の誘拐事件なのか? と』
『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら......この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』
『......以上で、《ソードアート・オンライン》の正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の―――健闘を祈る』
その言葉を最後に、禍々しいローブ―――茅場晶彦は、現れたときと同じように消えた。
「............はは」
周囲が悲鳴と怒号を撒き散らす中―――俺は笑う。全く―――どうしろってんだよ。
「くそったれ」
こうして―――俺の最悪の予想は、見事的中することになるのだった。