やはり俺のVRMMOは間違っている。REMAKE!   作:あぽくりふ

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12話

 

 

 

 

「で、今日はなに?まさかあの子をぶっ壊したとかいうんじゃないでしょうね?」

 

仁王立ちし、こちらをぎろりと睨み上げてくるリズベット。俺はかぶりを振り、アイテム欄から槍をオブジェクト化させた。

 

「んなわきゃねーだろ、強化だよ強化」

 

上から下まで真っ黒な短槍。捻れた穂先が特徴的な、現在の相棒である《ブラックライトニング+11》を俺はリズベットに手渡す。

リズベットはふん、と鼻を鳴らしてそれを受け取った。

 

「......壊しちゃいないみたいね。強化はアイテム持ち込み?」

「持ち込み。ブースト95パー、速さ(スピード)で頼む」

 

同時にアイテムをオブジェクト化し、俺は炉の横にそれらを置いていく。リズベットはそれを見て、ほぅと感心したように息を漏らした。

 

「《銀角鷲(シルバーホーンイーグル)の白爪》が20。よくやるわね、これ集めるのなかなか大変なんでしょ?」

「まあな。昨日やたらドロップしたんだよ」

 

そう言って俺は肩を竦める。《シルバーホーンイーグル》は23層で出現するMobなのだが、やたら速く飛ぶ鳥型Mobなのだ。正直、速さ(スピード)に+4、正確さ(アキュラシー)に+6振ってあるこの短槍でなければ苦戦は免れなかっただろう。

 

「......それにしても毎回95%(限界値)ね、あんた。あれ結構金かかるわよ。つーわけで9,800コルね」

「あいよ。......お得意様料金とかねえの?」

「んなもんあるわけないでしょーが」

 

がめつい奴め。

俺が見ている中、リズベットは《ブラックライトニング+11》を掴み、強化素材―――基材であるインゴットと添加材である《銀角鷲の爪》を炉に放り込む。そして短槍の先端部を炉に突っ込むと、緑色の光が稲妻のごとく捻れた穂先を包みこんだ。

俺がその美しい輝きに息を吐く間も、リズベットは作業を続ける。くべていた短槍を引っこ抜き、金床(アンビル)に横たえたかと思うと、真剣な表情でそれをハンマーで叩き始めた。

―――カァン、カァン、カァン......と規則正しいリズムで鳴り響く金属音。鍛冶師(スミス)の中にはどう叩いても同じ、と言わんばかりに適当にカンカン叩くやつも多いが、リズベットはその対極に位置するタイプだ。曰く、「気合いと根性とリズムの正確さが良い武器を作るのよ!」とのことらしい。気合いはあまり関係ない気がするが、もしかするとリズムの正確さなどはランダムパラメータの中にカウントされているのかもしれない。まあ、どちらにせよ成功するのも失敗するのもほぼ運任せである。

 

「......よかったわね、成功よ」

 

カァン、と最後の一回を叩き終わり、リズベットがこちらに短槍を渡してくる。俺はほっと安堵の息を吐いた。95%と言えども、失敗するときは失敗するのだ。

 

―――稲妻のような穂先は先程に増して磨きがかかり、触れただけで切り裂かれそうな印象すら覚える。一目で業物だとわかる金属質の輝き。指で触れると表示されるプロパティ・ウィンドウには《ブラックライトニング+12》の文字。

 

「サンキュ。また今度も頼むわ」

 

俺は礼を言って、短槍をアイテム欄(ストレージ)にしまいこむ。

―――と、何故かリズベットがこちらをまじまじと見つめていた。

 

「......なんだよ」

「いや、変わったわねーと思って」

「はぁ?」

 

何処か変わっただろうか、と俺は自分の装備を確認してみる。

多少は装備は変わっているものの、青みがかった黒の戦闘着(バトル・ジャケット)にプロテクターや腰のポーチは変わっていない。加えて寒くもないのに首に巻いた、《隠蔽》効果をブーストさせる青いマフラーは相変わらずだ。

ひょっとしたら比企谷家一子相伝のアホ毛が消滅したのかとも思ったが、相変わらずみょんみょんと跳ねている。

 

俺ははてなと首を傾げたが、リズベットはそんな俺を見て溜め息を吐いた。

 

「外見の問題じゃないわよ。そーね、なんていうか......下で会ったときはずっとピリピリしてたけど、最近はそーでもないわね」

「そうかあ?」

 

自分では全く変わった気がしていないが、そーゆーもんなのだろうか。

......まあ確かに、最近は余裕ができている気がしなくもないが。

 

「んー......腐った魚の目が死んで1時間後の魚の目くらいになった気がしないでもないわ。ま、前よりはずっとマシね」

「......変わってんのか?それ」

 

それってマシなのだろうか。というか、死んだ魚の目なのは確定事項なのかよ。

 

「結構変わってるわよ。前みたいに四六時中殺気をばらまいてるわけじゃなくなったしね」

 

そこまで言うと、リズベットはしっしっと犬でも追い払うかのようにしながら炉のモードを強化から製造に変える。どうやら、また幾つか武器をこしらえるつもりらしい。

 

「ほら行った行った。いつまで店の前に突っ立ってんのよ」

「ああ。んじゃ、」

 

―――『またな』、という言葉を俺は飲み込み、背を向けた。この世界では、いつ誰が死んでもおかしくはない。死亡フラグではないが、なんとなく次を仄めかすような言葉を使用することを、俺は避けていた。

 

......別に何の意味もない、ただの感傷。言葉のいちいちを気にする必要性など、本当はないのだろう。こんな言葉があろうとなかろうと、俺がしばらく来なければリズベットは俺が死んだものだとして処理するだけだし、逆でも同じだ。死ぬときは死ぬし、そこには何の感傷も運命もない。確率と数値の計算によって演算された体力の数字がゼロになれば、脳がマイクロ波によって沸騰して死ぬだけ。

三千を越える人間がそうやって死に、これからもそうやって死んでいくのだろう。何の意味もない仮想世界で、何の意味もない死を迎えるだけだ。

 

 

―――だが現実に、意味のある死など存在するのだろうか?

 

降って湧いたような、そんな突発的で虚無的な思考を握り潰し。

 

俺は転移門へと一歩足を踏み出した。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「フッ―――」

 

放たれた黒い雷閃の突きは的確に蟷螂型Mobの胸を穿つ。システムのアシスト無しで繰り出された攻撃と言えど、クリティカルが発生すれば十分に脅威。放たれた二度目の突きで四つの鎌を持つ蟷螂は膨張し、ポリゴンとなって拡散。だが敵はまだ残っている。

 

そのままの勢いで反転し、《ブラックライトニング+12》が背後の空間を薙ぐ。ギギ、という金属質の悲鳴とともに蜂―――《テンペスト・ホーネット》が硬直(ディレイ)。その隙を逃さず短槍スキル基本技《ストライク》で頭を消し飛ばした。

次いで斬りかかってくる二匹目の蟷螂の三連撃―――おそらく片手剣三連撃ソードスキル《シャープネイル》に相当するものだろう―――を避け、連続技後の技後硬直(ポストモーション)にこちらも短槍三連撃ソードスキル《トリニティ・バースト》を発動。3連続の神速の突きは吸い込まれるように胸の中央を連続で貫き、あっさりと蟷螂は爆発する。

 

「......ふぅ」

 

《索敵》で周囲を探り、他のMobがいないのを確認して俺は息を吐く。こちらのダメージは無し。だが、この短槍の速さを制御しきれていない感覚は拭えない。一級品故にあと強化試行回数は3も残されているが、これ以上速さ(スピード)に振ったとしても振り回されるのがオチだろう。

使いこなしてみろ、と言わんばかりに鈍い煌めきを放つ黒雷槍を見つめ、俺は溜め息を吐く。こいつに慣れるにはもうしばらくかかりそうだ。

 

 

―――現在の俺のレベルは42。スキルスロットは初期の3に加えて4つの合計7つ。スロットは現時点ではそれぞれ《短槍》《索敵》《隠蔽》《疾走》《体術》《軽業》《軽金属装備》の7つで埋められていた。

中でも《短槍》は熟練度600に達し、《索敵》と《隠蔽》もそれぞれ500弱程度。《疾走》は400に達し、《体術》は300で低迷していた。最近取得したばかりの《軽業》や《軽金属装備》はまだまだである。

 

《体術》が伸び悩んでいるのが困りものだが、そもそも超接近戦に突入した時点でほぼ負けと同義なため、まず《体術》を使わなければならない時があまりないのだ。短槍で削りきれず、トドメを刺す際に使用したりするが、それくらいだ。

 

中には《体術》と他の武器スキルを組み合わせることによって発現するソードスキルもあり、《短槍》にもそんなソードスキルが存在しているのだが......いかんせん、技後硬直(ポストモーション)がでかすぎて使うタイミングがあまりないのだ。

 

「どうしたもんか......」

 

俺は独りごち、短槍を半回転させて肩に乗せる。そしてふと右に視線を向けた。

 

―――思えば、あの時右を見たのは幸運以外の何物でもなかった。あのままなにもしていなければ、今頃俺の脳味噌はチンされていたに違いない。

 

 

それは、銀色の光だった。

 

「――――――ッ!?」

 

反射的に右肩に担いでいた《ブラックライトニング+12》を振るい、俺は謎の光を叩き落とす。短槍は主人の意思に従って増強された速度(スピード)を存分に発揮し、銀光の軌道にその穂先を乗せる。けたたましい金属音が響く。

―――見れば、地面に転がっていたのは一本のナイフ。だがその刀身はうっすらと黄色に輝いていた。......つまり、麻痺薬。

 

「............ッ」

 

俺は背筋を悪寒が貫くのを感じ、ステップで右に跳ねる。直後、先程まで俺の頭があった空間をナイフが貫いていく。

 

―――不味い。

突発的な事態に脳の片隅がついていけてないものの、俺はこれがプレイヤーの襲撃だということを遅まきながら確信する。

敵の人数―――不明。味方は俺一人。

決定。逃げよう。

 

「くそっ......」

 

次々と煌めく光に頬をひきつらせながらも、俺は森の中を疾走する。木々が遮蔽物として存在しているというのに、ナイフは恐ろしいほどの正確さで飛来してくる。

麻痺に対する耐性がこの装備にない以上、あのナイフが当たることは避けたい。しかもあの毒々しい黄色を見るに、相当協力な麻痺毒に違いない。このSAOでは、かなりの確率で見た目と効果が比例するのだ。

 

「ふざけんじゃねえ、ぞっ!?」

 

《投剣》スキルの基本技である《シングル・シュート》。青い光を撒き散らしながら脅威の速度で飛来する麻痺(パラライズ)ナイフをギリギリで弾き飛ばし、俺は敵が一人であるという希望的観測をつける。ナイフは一方向からしか飛来してない。待ち伏せしている可能性もあるが―――おそらくPK野郎は一人。

なら―――

 

「行ける......!」

 

ナイフが飛来してくるのは脅威的だが、それはつまり敵の位置がわかるということ。俺は逆にナイフを叩き落としながら敵へと駆け出し始めた。

悪戯に逃げても、敵がどこにいるのかわからないままであれば背後からグサッ、なんてことも有り得る。むしろ敵の位置を把握できている今、正面から叩き潰すべきだろう。

 

ひゅんひゅんと飛んでくるナイフを避け、叩き落とし、俺は森林の中を突き進む。敵はかなり高度な《隠蔽》を持っているようで、《索敵》にも反応はなし。だが、『音』は消せない。

 

「............ッ!」

 

俺も木々に紛れて《隠蔽》を発動し、耳を澄ます。......アルゴリズムに乗っ取った木々のざわめき、葉の鳴る音。

―――そして乱雑に思えても規則正しいアルゴリズムによるそれらの音に紛れる、微かに草を踏む音―――ッ!

 

「―――そこ、かッ!」

 

前方数メートルの位置に敵がいると断定し、踏み込むと同時に斬撃。だが、短槍の穂先は硬質な手応えと共に弾かれた。驚愕に俺は瞠目する。

 

「Hello♪」

 

妙に流暢な発音。僅かに切り裂かれたフードの中から現れたのは、薄っぺらい笑いを顔に張り付ける美女。

 

―――何処かで見たことのある顔だ。

 

そんな思考が脳裏をよぎり―――短槍の一撃を弾いた短剣(ダガー)が、俺の胸を刺し貫いた。






ふと気付いた。自分はオリジナル話を書かなきゃSSを書けないのだと・・・。

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