IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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前話でラウラの分が無かったのはわざとです。わざとだからね!?


No one could start usual day-to-day.

 「んっ、と。…おー。すっげ。マジで基地みたいやん、ここ」

 

  国際連合宇宙開発専用ISステーションにの中に入った時守は、臨時で貸し出されたラファールを待機状態に戻し、金属の床の上に降り立った。

  到着する直前に、ナターシャが通信を入れた際に開いた入り口を見た時にも同じような声が漏れたが、中に入って改めて出てしまった。

  まるでアニメやSF映画に出てくるような、宇宙船の中のような内装。かなりの高度にあるはずなのに、全く息苦しく感じないのも、何かの設備のおかげだろうか。

 

 「ふふっ、どう?驚いた?」

 「まあな。…資料で見た時は、正直こんなデカいもんやとは思わんかったし」

 「…知ってたの?」

 「…は?いや、俺国連代表やねんし、知らんわけないやん」

 「じゃあ、なんであの時は黙ってたのかしら?」

 「眠たかった」

 

  隣でこうべを垂れたナターシャが、トボトボと歩き出す。その後をゆっくりと着いていく。

  施設の廊下には、様々な人種が行き来しており、ガラス張りになっている部屋を見れば、数多のコンピューターが忙しなく数字を表示し続けている。

 

 「なあナタル。ここで専用機使えんのって俺だけ?」

 「えーっと…どうだったかしら。確か、イーリはいたはずだけど」

 「あいつ暇人かよ」

 

  一学期や夏休み、国連関連で時守がどこかに行けば、そこに必ずという頻度でそこにいるアメリカ代表。そんな彼女をずっと見続けていれば、さすがに予定が無さすぎるのではないかと思ってしまう。

 

 「あー、なるほど。あいつの性格やし、テレビとかにあんま呼ばれへんのか」

 「それもあるし、代表候補生の数が多いっていうのもあるわね。アイドル的な面は候補生に任せて、代表はISに打ち込めるように、っていうのがアメリカの考えだから」

 「なるほどねぇ…。そういやさ、国連代表候補生の話、聞いてる?」

 「えぇ、もちろん」

 

  時守が切り出した話題、それは一部では少し有名になっているものだった。

  関西出身の初心者の男性操縦者が代表になったことで、一気に注目を集め始めた国連。そしてそこで、世界中が気になるのは、もちろんその候補生のことだ。どの組織も国家も、ISにおいて代表がいるところには必ず代表候補生がいる。不慮の事故などで代表が亡くなった時などもそうだが、代表が退いた時に入れ替わるためである。

 

 「過去、どこかの国で代表か代表候補生になったことがある者、よね?」

 「そ。…んでさ、その候補生の候補の1人にな、ちっふー先生おんねん」

 「知ってるわよ…。私も見た時にコーヒー吹き出しちゃったから」

 

  あの元世界最強の千冬が、国連において自分より格下だと分かった時、時守は何とも言えない気持ちになると同時に、謎の寒気に襲われた。

 

 「お、あっこちゃうん」

 「えぇ、そうよ。あそこがメインルーム、家で言ったら、リビングみたいな所ね」

 

  しばらく歩いていた2人の眼前に、これまた金属で作られた重厚なドアが現れる。今までただの一直線だった廊下を部屋と区切っているそれは、向こうの音などの一切を遮っていた。

  そんな重厚なドアは、時守が前に立っただけで、いとも簡単に開いた。

 

 「お、随分と早かったじゃないか」

 「おっす、事務総長。来てたんすね」

 「ああ、ここは国連の重要な施設のうちの一つだからね。それに今日からは、君のケアも入っているんだ。来ない方がおかしいよ」

 「なるなる。んじゃ、早速行きましょか」

 「…そうだね」

 

  メインルームに入り、事務総長と一言二言交わし、ナターシャに別れを告げた後、入り口から見て、メインルームの更に奥の廊下を2人で歩く。

 

 「…にしても、どうしたんだい?いつもの君なら、廊下の途中にあった部屋に興味を示しそうなものだけど…」

 「おもしろそうではあったけど、…今の俺には、んなことに時間を割いてる余裕は無いしな。はよ治さな。…ん?どないしたんすか?そんな笑って」

 「ふふふ…。いやぁ、つい、頼もしくてね。今の君なら、君自身にメニューを任せても良さそうだ」

 「お、マジっすか?ちょうどやりたい事あったんで良かったっす」

 「…まあそれも含めて、全ては治療を終えてからだね」

 「そうっすね。…はっ、はは…」

 「ふふふ…、ふふふふ…」

 

  2人の男は、うっすらと笑みを浮かべながら、静かに笑う。

  廊下には、笑い声と靴音だけが、響いていた。

 

 

 ◇

 

 

 「さて諸君、おはよう。欠席は…時守が公欠で居ないだけか」

 

  その日の朝は、今年度が始まって一番と言っていいほどに不気味で、静かだった。

  たった1人、たった1人の生徒が休むだけで、こうも変わってしまうのだ。

 

 「まあ居ないやつの事を考えるな、とは言わん。だが、あいつが帰ってくる時まで教室が静かすぎるのもアレだからな。お前達はお前達で、考えて動くように」

 

  語尾に命令形こそ付けないものの、その口調と雰囲気から、どう考えても『しろ』や『しておけ』という言葉が付いているようにしか思えない千冬の言葉。ある一部を除いてまるで通夜のように静まり返っている教室に染み入る一言だった。

 

 「…そう言えば、時守のことで忘れていたが、また山田先生が出張で居ない。何か山田先生に用事があるなら私に言うか、職員室の山田先生のデスクの上にメモを置いておけ。…では、各自一限の用意をしておくように」

 

  朝のSHRという名の連絡時間が終わり、千冬が出ていく。その数秒後、喋り出す者も出てくるが、やはりいつもと比べて雰囲気は暗いままである。

  そんな時、先ほど千冬が出ていったドアが、また開いた。

 

 「なーに、お通夜みたいになってんのよ」

 「鈴…」

 「おはよ、一夏」

 

  開いたドアから一直線に一夏まで来た少女は、彼の幼なじみである凰鈴音だった。

 

 「さっきちょっと考えたんだけどね、アタシ達がこんな風に暗くなること自体、間違ってるんじゃない?」

 「どういう、ことだ?」

 「だって、今回の剣のやつって、『金夜叉』の新武装とそのテストがメインなんでしょ?ってことは、どの道この時期にはアイツは居なくなってたってことよね?」

 「そう、らしいけど…」

 

  鈴の言葉も、今の一夏にはいまいち伝わらない。

  同じ男性操縦者、専用機をもらった時期も同じ。学園で習っていることも全て同じ。なら何がこんな差を産んでしまったのか。答えは至って簡単。強くなろう、強くあろうとする意識、覚悟の差である。

  その気持ちの差で、時守は一夏、箒、鈴、シャルロット、簪、セシリア、ラウラを一気に抜き去り、生徒として学年トップである楯無とほぼ並んだ。

  もし、自分達が時守と全く同じ気持ちをもって、一学期から取り組んでいれば、彼の怪我をどれだけ減らせただろうか。その思いが、1組の専用機持ち達を駆け巡っている。

 

  決意は新たにした。しかし、やはりこの1年1組の雰囲気を感じてみて、どうしてもナイーブになってしまう。

 

 「あー、もう!鬱陶しいわね!」

 「っ、お、おい鈴?いきなり何を…」

 

  先ほどから俯き、小さい声で返事をする一夏に対して痺れを切らしたのか、鈴は一夏の机を叩き、物凄い剣幕で言い放った。

 

 「そんだけ腐ってたけりゃ腐ってなさい!どうせアイツのことだし、夏以上に成長して帰ってくるのを指咥えて待ってなさいよ!今のままのアタシ達候補生を7人同時に倒せるぐらいになってくるかも知れないのよ!?…アタシと簪は、それを考えて嫌だって結論になったわ。…アタシ達2人は代表になる。来年のモンドグロッソで、アイツと戦う。アタシは今の代表をボッコボコにして、簪は日本政府と世間に認めさせて、絶対にアイツとあの舞台で戦う。そうじゃないと、アタシ達の中でアイツと同格になれた気がしないのよ」

 「鈴…」

 「アタシの話を聞いてどう思うかは勝手だけど、アタシや簪にまで差を付けられて暗くならないでよね。…じゃ」

 

  いきなりやって来て、それだけ言った鈴は、入ってきた時同様、一直線にドアへと向かい、出ていった。

 

 「鈴のやつ…」

 「凄い、考えてたね。確かに、剣が居ないからって、普段もこんな感じなのは良くないよね」

 「…だな。…だが、嫁の顔だけ見てそれを判断するのは、やめてほしいが…。ふぁあ…」

 「ラウラさん、どうしましたの?随分眠そうですけど…」

 「…寝すぎて、眠いというやつだ」

 「今朝も遅刻ギリギリだったが、そんなに寝ていたのか…」

 

  この日、ラウラは珍しく遅刻しかけていた。普段は早起きし、一夏の部屋に行くことも珍しく無い彼女だったが、それすらもできないほどに爆睡していたのだ。

 

 「だが、さっきの話で決めたぞ。私もドイツ代表になってやろう。…と言っても、実質ほぼ確定だがな」

 「そうなのか?」

 「あぁ。軍隊長として鍛えられたのもあるが、何よりAICの存在が大きいからな。それと、話は変わるが…あのいきなりの激励は、きっと嫁に向けてのものだと思うぞ?」

 「お、俺に?」

 「あぁ。恐らく同じ男性操縦者だから、と考えていることを言っているのだと思う」

 「そんなくだらない考えは捨てろ、ってことか?」

 「…何だ、分かっているのではないか」

 

  一夏の返答に、ラウラは目を丸くする。今までの一夏なら、時守のように強くなる、みんなを守れるように。と言った答えを言っていたが、今返したのは曖昧なものだったからだ。

 

 「まあ、な。今まで考えて、言われて、負けて、ようやく分かったんだ。今までやってこなかった俺が、ずっとやってきた剣に勝てるはずが無い。なら、これからやればいいんだ。幸い、俺には一撃必殺の『零落白夜』と『雪羅』があるからな」

 「…随分と、自分勝手で傲慢なことを言うようになったな。織斑」

 

  一夏の、自己中心的とも捉えられる言葉を、教室のドアから千冬が聞いていた。

  その手には教材を入れるための籠があり、次の授業のために入ってきたことが容易に分かる。

 

 「っ、織斑先生…」

 「だが、それでいい。あいつのことだ。お前が強くなれば、さらに強くなろうとするだろう。早くあいつと相乗効果を産めるようになれ」

 「分かりました。…ならまず、本気の剣のSEを、1でも減らせるようにならないとな」

 「…ふん。二学期になってようやく分かってきたか、この愚弟が」

 

  ほんの一瞬だけ、姉として、千冬は一夏を激励し、教員として笑みを浮かべた。

 

 

 ◆

 

 

 「…え?もっかい言うて?」

 「だからね、ここで全裸になるんだよ。君が」

 「なんで?」

 「栄養カプセルにバイ菌を持ち込ませないように、とさっきからずっと言ってるだろう!?」

 「嫌やわそんなん。バイ菌ぐらいで死なへんって。唾つけときぃや」

 「…あぁそうかい。なら、君はここから出る時、肉塊になって…」

 「分かった分かった!!脱ぐから…脱ぐから女性陣こっから出してくれへん!?」

 

  国際連合宇宙開発専用ISステーションのメインルームから少し進んだ所、時守のメディカルルームの手前にあるコントロールルームで、時守と事務総長が少しの言い争いを繰り広げた結果、あっさりと時守が負けた。

 

 「…なぜだい?君の肉体を細かく見るには、私は少し知識不足なんだよ?ここにいる女性陣は皆、そういう医療関係のスペシャリスト達だ」

 「…男はおらんの?」

 「君の怪我を治すのがこの部屋の一番最初の任務になるとは誰も思っていなくてね。ISと言えばまだまだ女性が主流だ…全裸にならなければならないここに、男性スタッフを配置するのも問題があるだろう。ISも外さなければならないしね」

 「……はぁ、そうでっか。じゃあせめて、更衣室ぐらいは」

 「もちろんそれぐらいなら」

 

  手で差し伸べられた方向にある、小さなブースに入る。

  人前に衣服を全部脱いだ状態で出るという、IS学園に入ってからはあまりしていない行為に、少しだけ緊張してしまう。

 

 「…はぁ、てかなんでナタルとかもおんねん。絶対医療関係ないやん。他のスタッフさんも美人でスタイル良い人多いし。…はぁ」

 

  更衣室の中で、独りごちる。

  中学時代の同級生と比べると、まるで女神のような美貌を持つ女性スタッフ達に、自分の全裸を見られるのだ。緊張しないわけがない。

 

 「……脱いだで」

 「…そう溜めて言われると、何だか風営法に引っかかるような気がするから、やめてほしいんだが」

 「マジでぶっ殺すぞお前」

 「冗談だよ。ちょっとしたアメリカンジョークさ」

 

  ハハハ、と笑う目の前の男に、殺意しか湧かない。

  彼から少し目を離してみると、女性スタッフに勢いよく視線を外された。そっぽを向いた彼女達の耳は紅くなっており、そんな反応を示された時守まで恥ずかしくなってくる。

  前はタオルでしっかりと隠しているが、彼女達の指の隙間からは、どう見ても股間部に視線が向かっている気がする。

 

 「あ、ちなみにそのタオルもカプセルに入る時は外してもらうからね」

 「何となく分かってたわ。…てかさ、ちょっと寒いからはよ入りたいねんけど」

 「もう少しだけ待ってくれ。…もうじき、準備が整う」

 

  その言葉をきっかけに、動きを止めていた女性スタッフが慌ただしく動き始める。

  直接言葉にせずとも、こうして部下を動かすことができる彼を見て、時守は少しだけ尊敬の念を抱き

 

 「…さ、その邪魔なタオルと『金夜叉』を渡しなさい」

 

  この社会の理不尽さを思い知った。

 

 

 ◇

 

 

 「…さて。日本の高校生にしては立派なモノを持っているようだが、目をくれるなよ?各自、しっかりと集中しろ」

 

  全裸にした国連代表を栄養カプセルに突っ込んだ事務総長―ロジャー―は、コントロールルームにて女性スタッフに指示を送り続けていた。

  現在、栄養カプセルの中に入っている彼の身体には様々なコードが付いており、そこから送られてきた信号が、目の前のパソコンにめまぐるしく映されている。

 

 「…呼吸は?」

 「安定しています。脈拍、血圧共に異常ありません」

 「ふむ。引き続き、時守くんのバイタルをチェックし続けたまえ。…さて、と。私達は別作業に移るとするか」

 

  モニターで時守の様子を確認するのを、女性スタッフの1人に任せ、ロジャーは別のデスクへとスタッフの数人を引き連れて移動する。

  既にそこに待機していたスタッフを含め、10人に満たない人数がデスクの周囲に集まり、画面に集中する。

 

 「ノーラ、今までの解析結果を」

 「かしこまりました。まず、IS自体の状態ですが、多少部品の結合にズレが生じているだけです。ここの設備ならば、ほんの数時間で元の完璧な『金夜叉』に戻せるかと」

 「なるほど、では…」

 「しかしですね…」

 「む?…どうした、何かあるのか?」

 

  ノーラと呼ばれた、今までそのデスクに座り続けていた女性が、言い淀む。

  時守とロジャーは、このコントロールルームに入った時に、彼女に『金夜叉』の待機状態を手渡し、分析してもらっていた。国連が管理するISの整備スタッフでもある彼女が言い淀んだことに対し、ロジャーは疑問を抱いたのだ。

 

 「その…変なんです。私が今まで見てきたISは、拡張領域が埋まっていないことや、単一仕様能力が発現しないことなどは多々ありました」

 「…まあ、大半がそうだろうね。拡張領域をフルに使っているISは少なくないが、単一仕様能力は発現すら難しいからね」

 「えぇ。…ですが、今の『金夜叉』は、よく分からないもので拡張領域と単一仕様能力のスロットが埋まっているんです」

 「…なんだと?」

 

  そんなこと、今まで聞いたことが無い。

  シャルロットに与えられているラファール・リヴァイブ・カスタムⅡには、確かに大量の武装が積まれているが、それはシャルロットが『ラピッド・スイッチ』の使い手だからである。また、一夏の白式も特例中の特例の一つだ。単一仕様能力である『零落白夜』とその武装『雪片弐型』がスロットを取りすぎていて、通常、ISに搭載されているはずの装備が、いくらか入っていないものもある。

  だが、今回の『金夜叉』は訳が違う。原因不明だが、拡張領域と単一仕様能力のスロット、それぞれが別で埋まっている。

 

 「…ということは、ただ単に時守君が具現化出来ていない、ということか?」

 「そうなりますが…『金夜叉』の成長率も、時守君との相性も最高なので…一体何が原因なのか全く…」

 「なるほどね…少し、手強いな。こればかりは、時守君本人からの意見を聞かねば分からない、かな」

 

  その場にいるスタッフでは明確な答えを出せなかった。だが、ロジャーはそれで終わらせるような男では、なかった。

 

 「まあ彼が起きるまで指を咥えて待つ、というのもアレだからね。考えようか。…誰か、案を出したい者はいるか?」

 

  代表の力でしか専用機の問題を解決できないなら、整備班はいい笑いものになってしまう。それ以前に、自分が完全にお手上げ状態となっている事案を、長時間放置しておくことが我慢できなかったのだ。

 

 「えっと、一つ、いいですか?」

 「なんだね?」

 「時守くんって、向こうでほとんどの生徒から心配されるほどに、傷ついてたんですよね?」

 「…少しだけ語弊があるが、まあそうだな」

 

  手を挙げた女性スタッフの話を聞く。少しおどおどしながら発言した彼女だったが、ロジャーに意外なヒントを与えることになった。

 

 「なら、一番間近で体感してた『金夜叉』は、どう思ってたんでしょうか、と考えたのですが…」

 「…ナイスだよ、君。非常にいい意見だ。…なるほど、今の彼に足りないのは、他者とのコミュニケーションというわけか。…合っているかは分からないが、その可能性は大いにある」

 

  『白式』は自らの主の命を救うため、半ば強制的に第二形態移行した。

  『金夜叉』は、自らの主の願いを叶えるため、主に力を与えるべくして、第二形態移行した。

  なら、『完全同調』を手に入れたことにより、主とより密接に関わることができるようになったコアは、傷つく主を見て、何を思うのか。

 

 「…悩んだままでは、ISも成長できない、か」

 

 

 ◇

 

 

 「…あぁ、分かった。だが年末だろう?今連絡する必要など…。なっ、何っ!?私が日本でぐうたらしてしまうかもだと!?そんなわけないだろう!…あぁ。ちゃんと、年末前には一度ドイツに戻る。レーゲンを完璧に扱えるようになるという目標もできたしな。学園でのイベントもあるからいつになるかはまだ分からんが、レーゲンの整備もしっかりとやっておきたい。…うむ、しっかりと頼むぞ、クラリッサ」

 「ねぇラウラ。今のって、副隊長さん?」

 「あぁそうだ。…全く、変な所でお節介なやつなんだ」

 「ふふっ、部下に慕われてるんだね、ラウラって」

 「あぁそうだ。まあ、そうなのだろうな」

 

  放課後、アリーナのピットに、2人はいた。ISスーツのみを身にまとっている彼女達の身体には汗が滴っており、先ほどまで身体を動かしていたことがわかる。

 

 「しかし驚いたぞ?シャルロット。まさか、あそこまで積極的に攻撃してくるとはな」

 「万能型がウリだからね。カウンターの一辺倒になるのはもったいないと思ってさ」

 「悪くは無い、いや、むしろ良いと思うぞ。流石に、パイルバンカーを外したすぐあとにマシンガンで追撃するまでとは思ってなかったがな」

 「あはは…。回避能力も高い、ラウラだから試せたんだよ?」

 

  つい先程の模擬戦、ラウラvsシャルロットは意外や意外、シャルロットの勝利で終わった。

  終始攻めの姿勢を貫いたシャルロットの動きをラウラが捉えきることができず、地道にはSEを減らせたが、それ以上に減らされた。大まかな流れはこうである。

  現在、彼女達は自分達の試合の反省をしながら、目の前の試合にも意識を向けていた。

 

 「何というか、少しレベルアップした?」

 「そうだな。私達が言える立場ではないと思うが、2人とも躊躇いが無くなったな」

 

  彼女達の見るモニターに映っているのは、一夏と鈴の模擬戦だった。

  今までの彼らの試合とはどこか違い、一夏はしきりに『零落白夜』と『雪羅』の発動タイミングと時間に気を使っており、鈴はその隙をついて近接戦闘に持っていっている。

 

 「賢い判断だな。嫁は、自分から仕掛ける近接戦闘なら強いが、受け身となると途端に弱くなる」

 「まあ、『零落白夜』を発動させて離れられる、っていうのが一夏にはダメージになっちゃうからね」

 「あそこからどう持っていくか、だな」

 「答えはもう、織斑先生が何となく出しちゃってるけどね」

 

  攻められて弱いなら、どうするか。答えは千冬の動きにあった。

  決められる前に決める。相手に一切の流れを渡さない、まさに瞬殺。

  だが一夏は今回の模擬戦で、敢えて自分から動いていないように見えた。

 

 「…恐らく、対ゴーレム戦を想定しているのだろうな。数で攻められては、白式は弱すぎる」

 「…なるほど。だから、ああして通常状態の『雪片弐型』で攻撃を受け流しつつ、カウンターを狙ってるんだね」

 「そういうことだろうな」

 

  近接戦闘で強くなりたい鈴、完璧なタイミングで『零落白夜』を発動させるカウンターを習得したい一夏。目的がどちらも近接戦闘の2人は、誰に言われるでもなく模擬戦を開始していた。

 

  IS学園1年生専用機持ち達は、着実に成長しようとしていた。

 

 

 ◇

 

 

 「お嬢様、今日はどうなさいますか?」

 「そうね、生徒会でやることはもう終わらせたし、今日はアリーナで自主練するわ」

 「…はい?え、えっと…。かなりの仕事があったはずですが…」

 「うーん…、確かに多かったけど、2、3時間でしばらく先の仕事まで済ませたから、虚ちゃんも大丈夫よ?」

 「は、はぁ…」

 「そんなことよりもね、虚ちゃんに手伝ってほしいことがあるの」

 「っ、手伝って、ほしいことですか?」

 

  虚は耳を疑った。あの完璧で、何でも1人でできる楯無が、従者である自分を頼ったのだ。遡れば、『霧纏の淑女』の調整以来、このような真面目な案件で頼られたことは無かったかもしれない。

 

 「そう。…最近、私自身甘くなってきてると思うの。だからね」

 

  振り向きざまに、楯無は微笑みながら虚に告げた。

 

 「織斑先生の全盛期の機動データと私のデータを比べてちょうだい。虚ちゃんなら、比較しながらでもどこが劣ってるとか私に送れるでしょ?」

 「た、確かにできますが…。この短時間で織斑先生の全盛期は…」

 「えぇ、不可能だと思うわ。…でもね、代表としての技量で、何が足りないのかを知るには、もってこいの方法なのよ。だからお願い。遠慮なんてせずに、どこが劣ってるか教えてちょうだい」

 「…そこまでおっしゃるなら、分かりました」

 

  主の強い主張に、虚は頷きざるを得なかった。

  久しぶりに見たのだ。ここまで何かに熱中する楯無を。

  久しぶりに感じたのだ。主である楯無から、恐ろしい程の闘気を。

  そして、久しぶりに思い出したのだ。

 

(そうですよ、お嬢様。お嬢様はそうであるからこそ、楯無であり、刀奈なのです)

 

  圧倒的なカリスマを誇る主が、まだ成長しようとするその姿に感じる喜びを。

 

  校舎の外を歩き、アリーナを目指す途中、ふと虚は空を見上げた。

 

 「…いい、訓練日和ですね、お嬢様」

 「そうね。朝はもう少し晴れてたんだけど、これぐらいがちょうど良いかも」

 

  その空には、朝の空には無かった雲が、少しばかり浮いていた。




こうして見ると最初と比べて文才が上がった気がします。変わりにアホみたいな勢いが消えたような気が…。

コメントや評価なども、まだまだ受け付け中でございます。

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