「ようやく全員集まったか――おい遅刻者」
「は、はいっ!」
合宿二日目。今日は午前中から夜まで丸一日かけてISの各種装備試験運用とデータ取りをする。特に俺たち専用機持ちは大量の装備が待っているのだから大変だ。
その中でも特にこの俺、時守剣には国連から大量の装備が送られている。『しょーみデータじゃ上手く動くか分かんねーからお前実験台な。やらな給料減らすから』的なノリである。事務総長にグングニルをぶっぱなす。これは確定事項だ。
閑話休題。
ようするに今日はアレだ。修学旅行でいう『修学』の部分だ。ならなぜ先にこっちをやらなかった。普通勉強→遊びの順番やろ。
まあこういう学校の行事、しかもIS学園は勝手が違う。『兵器』として見られているISを高校生が扱うのだ。遅刻や無断欠席などをして、罰が無い訳がない。無論それが学年主席であろうと、今回のラウラのように軍隊長であってもだ。
「そうだな…ISのコア・ネットワークについて簡潔にまとめてみろ」
「は、はい。まとめますと、ISコアのためのチャットルームのようなものです。まだまだアップデートされ、進化している最中です」
「ふむ…まあ、そうだな…。合っている、か。流石に優秀だな。遅刻の件はこれでお咎め無しだ」
ふうと息を吐くラウラ。…後で声掛けとくか。このままフォロー無しってのもアレやしな。
「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員迅速に行うように」
はーい、という返事が一同から聞こえる。…まあ簪とかセシリーとかはそんな返事せえへんとは思うけどな。
ちなみに現在位置は、IS試験用のビーチだ。…まあ地下通路を通った秘密基地的な場所や。…なにそれかっけぇ。
ここに搬入されたISと新型装備のテストが今回の合宿の目的。
当然、皆ISスーツを着用している。…おぉ…やっぱセシリー…すげぇ…
「篠ノ之」
何故かちっふー先生にモッピーが呼ばれる。
「お前はちょっとこっちに来い」
「はい」
打鉄用の装備を運んでいたモッピーが、ちっふー先生の方に向かう。
「お前には今日から専用――」
「ちーちゃあぁぁぁぁぁ〜〜〜〜ん!!」
ずどどどどど…!と砂煙を巻き上げながら人影が走ってくる。
…ん?あの…!あ、あの揺れ方は…!
「……束」
「ぶるんぶるん…」
あいつや!あんなに揺れんのは生きててあいつしか俺知らん!
「会いたかったよぉ、ちーちゃん!ささ、ハグハグしよう!ずっこんばっこんして愛を確かめ――ふげぇっ!」
ちっふー先生に飛びかかったぶるんぶるんは、見事その手に捕まった。ギリギリと指が食いこんでいるのがはっきりと分かる。ちっふー先生すげぇ。
「喧しいぞ、束」
「ぐぬぬぬぬ…相変わらずの容赦ない愛アンクローだねっ」
「死ぬか?」
「このままじゃ死んじゃうねー」
そう言いながらちっふー先生のアイアンクローからヒョイっと抜け出したぶるんぶるん。
今度はモッピーの方を向いた。
「やあ!」
「……どうも」
「え、えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。…特におっぱ」
ゴンッ!!
「殴りますよ」
「な、殴ってから言ったぁ…しかも日本刀の鞘で…酷いよ!箒ちゃん酷い!お姉ちゃんは失望したよ!」
随分とまあ、ハチャメチャな姉妹やこと。
「え、えっと、この合宿には関係者以外―」
「んん?面白い事を言うねぇ。ISの関係者…私が一番だと思うんだけどなぁ」
「えっ、あっ…はい…そうですね…」
山田先生撃沈。コミュニケーション能力低め?
「おい束。自己紹介ぐらいしろ。うちの生徒が困っている」
「えー、しょうがないなー。天才の束さんだよ、はろー。終わり」
「コミュ障か!」
思わずつっこんだ俺は悪ないはずや。
「おぉ!剣ちゃんお久!!…コミュ障とは酷い言いようだね」
「お久ー、ぶるんぶるん」
「相変わらずの呼び方だね。もうちょっと変えてくれてもいいんだよ?」
「じゃあにょほほ―」
「それ以外でよろしくぅ!」
「…ぼっち?」
「はぐあっ!?」
「嘘やって。んー、たーちゃんとかで良くね?ちーちゃんとたーちゃん。ほーらお揃い」
「ちーちゃんのことちーちゃんって呼んでるの?」
「いや呼んでへんけど」
呼ぶわけないやろ。そんな呼び方したら殺されるわ。
「やっぱり変わってるねー剣ちゃん。
「は?」
「何でもないよーん」
「なんやねんこいつ」
「…このアップダウンの激しさに流石の束さんでもテンション持っていかれるよ…」
何言うとんねんやろな、さっきから。
「あ、あの…頼んでいたものは?」
ややためらいがちにモッピーが割り込んでくる。正直助かった。話すの疲れるしな。
「うんうん、あれだよね!!大丈夫、完璧な仕上がりにできてるよ!さあ、大空をご覧あれ!」
たーちゃんが空を指さす。けどあえて見ない。そう、あえてね。
「ジャンジャジャーン!これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製のISだよぉ!」
…は?
姉の方は確かに天災…いや、天才だ。国連にあった資料を見ただけでも分かる。あれを当時今の俺らと同じぐらいの歳に発案し、作り上げたのだから。そして、良くも悪くも各国の刺客から逃げ延び続けることができる。これは相手の先を読む力、そして近寄られた時の戦闘能力、または迎撃用兵器の開発能力などのおかげだ。
だが妹の方は?モッピー…いや、箒には、言っちゃ悪いが何も無い。たとえ剣道の大会で優勝していようが、IS操縦者という括りで見れば、代表候補生にも選ばれていない未熟者である。運動神経でいえば中の上か上の下辺り、ISにおいてはど真ん中ぐらいだろう。
何故、こんなにいきなり真面目な事を考えたかと言うと、とある人の表情が優れないからである。
「(ちっふ…いや、織斑先生、どないしたんやあんな顔して…何か…あった?)」
自分で言うのもあれだが、国連代表というのは普通の国家代表と比べて特別だ。普通なら見れない資料の閲覧、お偉いさん達のアポの取りやすさ、等々…メリットが多い。が、その分デメリット…というか嫌な面もある。
ISが絡んだ国際問題の解決である。
コアや機体の強奪、操縦者への殺人未遂等、ISの将来に関わるような事件は、身近であれば、どんな些細なことでも率先して解決しなければならない。
まあ簡潔に言うなら、『多少の我が儘は聞いてやるからこちらの要件もよろしく頼む』ということだ。
「(普段あんな顔せえへんのに…)」
一旦考えるのをやめ、辺りを見回すと、大空で嬉しそうに紅椿で飛んでいる箒と、それを見てぽかんとしている他の生徒、そして張り付けた様な笑顔を浮かべる篠ノ之博士と、それを深刻な表情で見る織斑先生がいた。
「(なんか…くる)」
そう思った瞬間だった。
「たっ、大変です!織斑先生!!」
山田先生の声が響く。その声に、今まで箒を見ていた者も山田先生と織斑先生の2人の方を向く。
「どうした?」
「こ、これを…」
「特命任務レベルA…現時刻より対策を…か」
「はい、その…ハワイ沖で試験稼動をしていた…」
「機密事項を口にするな。生徒達に聞こえたらどうする」
「す、すいません…。それでは私は他の先生方に連絡してきますので」
「了解。――全員注目!!」
山田先生がトテトテと走り去って行った後、織斑先生は手を打ち鳴らせて生徒全員を振り向かせる。
「現時刻より、私たちIS学園教員は特殊任務行動に移る。今日の稼動テストは中止だ。各班、ISを片付けて旅館に戻るように。連絡があるまでは各自待機しておくように。以上だ!」
織斑先生の一喝で、生徒が蜘蛛の子を散らしたかのように各々行動を始める。
――――そして
「専用機持ちは全員集合!!時守、織斑、オルコット、鳳、デュノア、ボーデヴィッヒ、更識!――――それと篠ノ之もだ!」
「はい!」
一夏の隣に降り立った箒が気合いの入った返事をして、戦いは始まった―――