「oh…」
「ah……」
「「Yeah………」」
露天風呂になっている『花月荘』の温泉に、学園の浴場程ではないが、俺とワンサマの声が響く。
「ワンサマァ…」
「…なんだ…?」
「…童貞短小包茎とかやばいで」
男しかいーひん風呂とかこんな会話しかする事ないやろ。
「なっ!!ど、どどどどど…!短小じゃねぇし包茎でもねぇよ!…た、たぶん!」
「お前…なんでそんな言葉だけで恥ずかしそうにしてんねん気持ち悪い」
「そ、そう言う剣は…」
「バッチリ卒業済みや。…なんやその目は。あぁ、避妊はちゃんとしてるからな?」
いつの間にか枕元に置かれてた箱2つ、その2つ共に錠剤が入っていた。…怖かったです。
「ってかさ、お前も彼女作らんの?」
「いやぁ…今はそんなこと考える余裕が無いっていうか…」
「考えてんの?」
「うーん…誰かが彼女作らずに嫁作ったからなぁ。彼女の定義が何か分からなくなってきてるんだよ…」
……なんかごめん。
「別に剣が悪いって訳じゃ無いぜ?というより逆だ」
「は?」
「関西の方はどうかは分からねぇけど、こっちの方じゃ女尊男卑の風潮が激しかったからな…剣のあの発言のおかげでちょっとマシになったんだよ。…今頃剣がいなかったら…」
「……おぉ怖い怖い」
「ま、だから剣は何も気にする必要なんかないって」
「で、彼女は?…話すり替えようとしても無駄やぞ?」
「ぐぅ…」
「モッピーとか鈴とかラウラとかどないやねん……ってかお前も嫁居るやん」
「ら、ラウラのアレは違うだろ…?」
いきなり大勢の前でキスして『お前を私の嫁にする!異論は認めん!』的な発言ってな。凄いわ。
「ほう?…じゃあもし『好きや、男女としてのお付き合いをしてくれ』って言われたら?」
「そ、その時は真剣に考える。俺だって男だ」
「ほほう?」
ま、多くの女子にとって茨の道やろけどな。
「な、なぁ剣?」
「ん?」
「その……」
「なんやもじもじして、気持ち悪い。…あ、ちょい待ってワンサマ」
「えっ…」
「…よっと」
刀奈にプライベートチャネルを繋ぐ。
『おっすー』
『剣…くん?どうしたの?こんな時間に』
『いや、今何してるかなーって気になってな』
『お風呂から上がった所だけど…あ、もしかして〜、見たかった?』
『もう今更やろ…。で?そっちは変わりないか?』
『えぇ。…ただ、ちょっとだけ静かで…』
『そっか。…まあすぐ帰ってくるから。その時は…甘えてくれてもええから…な?』
『う、うん…』
『じゃ、おやすみ。…愛してる』
『ふふっ、私も。愛してるわ、剣くん』
通信を切る。
デヘヘ…にやけが止まらんわ…
「け、剣?どうしたんだ、にやけて。気持ち悪いぞ?」
「ぶち殺すぞワンサマ。で?なんや?聞きたいことあるんちゃうん?」
「あ、あぁ…その…あれだ。卒業した時の感想とかって…」
「あん時ろくに動けへんかったけどな、まあ一番締め付けがヤバかったのは――――――言うかいボケ」
「か、感想だけ!」
「自分で確かめろ」
時は流れ――
時守、一夏、千冬の部屋には千冬を含めた8人の女子と一夏の計9人が集まっていた。
「一夏、時守はどうした?」
「剣は浴槽の掃除だってさ。清洲さんからまた頼まれてるらしくて」
「そうか。…シャワーだけでも浴びてきたらどうだ?汗が気持ち悪いだろう」
「ん、分かった。そうする」
先ほどまで千冬にマッサージをしていた一夏はそれなりに汗をかいていた。風呂上りに汗をかく、ということを一夏は嫌っている。本来なら湯船にゆっくりと浸かりたいところだが、同級生が1人で掃除してくれたところを使う、というのは流石に気が引けるようだ。
「さて、と…どうした?いつもの馬鹿騒ぎは。…あぁ、先立つものが必要か。ほら、お前達で好きに交換しろ」
一夏が部屋から出ていき、女子オンリーとなったところで千冬が冷蔵庫から7本の缶を取り出し、7人に投げていく。
「ラムネとオレンジとスポーツドリンク、コーヒーに紅茶に緑茶…後……コーラだ」
『い、いただきます…』
箒、シャルロット、鈴、ラウラ、セシリア、簪…そして理子が飲み物を口にする。
「飲んだな?」
「の、飲みましたが…」
「何か入っていましたの!?」
「失礼なことを言うな馬鹿め。なに、ちょっとした口封じだ」
7人全員が飲んだことを確認した千冬はニヤリと笑い、缶ビールのプルタブを開け――飲んだ。
「…っぷは!…なんだお前たち、お化けでも見たような顔して」
「い、いや…飲んでいいんですか?」
「気にするな岸原。…お前たちも飲んだだろう?」
『あっ…』
そう言われて7人は声を漏らす。
「さて、前座はこのぐらいでいいだろう。そろそろ肝心の話をするか」
早速一本の缶を空けた千冬は、二本目を冷蔵庫から取り出し、再び喉を鳴らす。
「篠ノ之、凰、ボーデヴィッヒ。お前ら、あいつのどこがいいんだ?あぁ、岸原。お前を呼んだのは別件だからな。それまではこいつらの話に付き合ってもらうぞ?」
「は、はい…」
千冬が言ったあいつ、というのはもちろん時守ではなく、一夏である。
「わ、私は別に…以前より腕が落ちているのが腹立たしいだけですので…」
と、ラムネを傾けながら箒。
「あたしは、腐れ縁なだけだし……」
スポーツドリンクの飲み口を指でなぞりながら、もごもごと呟く鈴。
「よし、一夏に篠ノ之と凰がそう言っていたと伝えておこう」
「「伝えなくていいです!」」
「はっはっは!冗談だ冗談。それで、お前はどうなんだ?」
そんないつもとは正反対な口調で話す2人を、いい具合にアルコールの回った千冬は豪快に笑う。
ここにいる千冬以外の者が皆、「誰だこの人」と考えているのも知らずに、千冬はラウラに聞く。
「つ、強いところが…でしょうか…」
「いや、弱いだろ。少なくともまだ時守には勝てんだろうしなぁ…」
『え?』
「なんだお前たち、更識妹以外知らなかったのか?ちょっと待ってろ」
そう言うと千冬は持ってきた鞄の中を探る。簪と千冬以外のメンツは千冬の言ったことがまだ理解出来ていないようだ。
「そら、あいつの成績…というより資料だ。正直、『凄い』の一言に尽きるな。更識は…姉から聞いたのか?」
「え、えっと…はい…」
簪が千冬に答えている間に、7人は投げ渡された資料に目を通していく。
「えぇっと…?
模擬戦闘
vs織斑千冬2勝54敗
vs更識楯無12勝36敗
vsナターシャ・ファイルス21勝22敗
vsイーリス・コーリング18勝20敗
機動
稼動時間183時間
瞬時加速…マスター
二重瞬時加速…成功率51%
個別連続瞬時加速習得中…ってなにこれ…」
「お、織斑先生?これって国連の機密事項なんじゃ…」
「あぁ、そうだが?…まああいつと特に仲の良いお前たちなら大丈夫だろう…というよりあいつから直々に許可は得ているしな」
ちなみに他の生徒には言うなよ?という千冬の一言に、7人は頷く。
そして先程の千冬の発言に疑問――そこには僅かな怒りが含まれていたりするが――を抱く一人、箒が千冬に問う。
「織斑先生。…剣が一夏よりも強い、ということですか?」
「そうだ」
「ほ、本当ですか?織斑先生…」
箒に時守の中学時代からの同級生である理子も続く。
理子に言わせれば単純に信じられないのだ。
あのちんちくりんが『世界最強』である織斑千冬の弟である織斑一夏よりも強いということが。
「あぁ。全く…あいつの戦法はどうも掴みどころが無くてやりにくい」
「戦法…ですの?」
「なんだオルコット。時守に抱かれたのにろくに模擬戦も……あー、すまん。私と更識姉のせいだな」
「…お姉ちゃんも…?」
我に返ったメンバーが次々と会話に入ってくるが、酒が回ってきたのだろうか、千冬は話を続ける。
「あぁ。一学期の間、時守の対戦相手は国家代表になったことがあるもの、もしくは軍属の者だけだったからな。今戦えるのはラウラだけだろう」
「わ、私…ですか?」
「そうだ。全く…国も国連もなぜこんな規制をかけたのやら……っと、話が反れていたな」
反らした張本人である千冬が強引に話を戻す。
「で?お前たち4人は時守のどこに惚れた?」
「わたくしは…強い意思ですわ」
「僕は優しい所です…」
「わ、私は…その…頼りになるところ…」
「ほぅ…なるほどな。さて、岸原」
「は、はいっ!」
千冬が口を開きかけたのと同時に、部屋の襖も開けられた。
「おいっすー。…あれ?みんなどないしたん?」
「…見てわからんか」
「………尋問かなんかっすか?」
「違うわ馬鹿者。ほら、今は女子だけの時間だ。出ていけ」
「そんなこと言っていいんすかー?」
現れたのは先程まで話題に上がっていた時守。千冬の返事を聞くとすぐさま、ニヤリと笑った。
「酒につまみに暇つぶし、結構持ってきたんすけど?」
「話は後だ。飲むぞ」
禁書もおもろい。…金が…