IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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書きたい戦いまでクッソ長い。


削り、削られ

「……ッ!」

「ハッ!」

「くっ、この…ッ!」

 

 ギィン、ガンッ!と硬い音が響く。

 アリーシャ・ジョセスターフと楯無の戦いは、互いに譲らぬ一進一退の攻防、という表現がこれ以上に似合う表現が見つからない程に合っていた。

 

「…厄介ね、『疾駆する嵐』。まともに責められないわ」

「そっちの『沈む床』の方が万倍鬱陶しいのサ。……認めるよ、更識楯無。キミは十分に国家代表として強い」

「あら嬉しい。褒めても何も出ないわよ?」

「それぐらい、知ってるのサ!」

 

 風で作られたアリーシャの分身が楯無に向かって突っ込む。

 アリーシャ・ジョセスターフとテンペスタの単一仕様能力、『疾駆する嵐』は、超高速回転している風で自身の分身を作るものだ。

 自分の防御に使うもよし、今回のようにそれ自身を弾丸として相手に放ってもいい。

 

「学ばないわね」

 

 しかしそれが、楯無に届く前にエネルギーを残して霧散する。

 

「私の単一仕様能力、『沈む床』は貴女のそれとは私にとって相性が良すぎるわ。話にならないと言ってもいいぐらいにはね」

「分かってるのサ。でもそれは、そっちも同じだろう?」

 

 風を操る単一仕様能力と相対するのは、超広範囲指定型空間拘束結界の『沈む床』。

 ラウラのAICを遥かに超える拘束力を誇るそれは、アリーシャの風すらも防いでいた。

 

「私の『疾駆する嵐』は分身を生み出す風。それ自体が刃であり盾になる。同じ二次移行同士なら負けるはずがないのサ」

「それはやってみないと分からないんじゃないかしら」

 

 だが、その防御の強固さはアリーシャにも言えること。

 強すぎる乱気流のせいでそもそもの話近づくことが出来ず、例え近づけたとしてもこちらがカウンターを貰うだけ。

 

「なら見せてもらおうかッ!」

 

 そこから導き出される答えとして、どちらかの守りが崩れた時が勝負が決する時、ということが挙げられる。

 

「フッ!」

 

 アリーシャ本人が拳を振り上げながら、そして分身2体がそのまま突進をしかけてくる。

 

「流石の超広範囲指定型空間拘束結界でも、これだけの質量を持った風を捉えることは出来ないのサ!」

「えぇ、そうね。流石にそんな大きな空気全てを沈めるなんて、私の単一仕様能力じゃ無理よ」

 

『沈む床』が発動出来る場所は一箇所だけ。その一箇所を中心に相手を空間に沈め、捉えることが出来る。

 しかし、今回のように相手があまりにも大きなエネルギーの塊だったり分散していると、それらを分けて捉えることが不可能となる。

 

「でも、何も私は単一仕様能力だけの相性で貴女を引き受けた訳じゃないのよ?」

 

 瞬間、分身の動きが止まる。

 

「何……?『疾駆する嵐』が、止まった…?」

「何が起きたか分からないって顔してるわね。教えてあげましょうか。もちろん、貴女が負けた後で」

「要らないのサ。正体が分からない単一仕様能力なんて、当たり前のことサッ!」

 

 再度アリーシャの突撃。

『疾駆する嵐』が止められるのならと、単騎で楯無への攻撃を仕掛ける。

 

「貴女、学ばないわね」

 

 しかし、単体ならば『沈む床』でアリーシャ自体を止められる。

 

「学ばないのはどっちかは、しばらくすれば分かることなのサ」

「……行くわよ、アリーシャ」

 

 先ほどから攻撃を全て止められているアリーシャが不敵な笑みを浮かべ、楯無へと言い放つ。

 その言葉を聞き、楯無の眉間に皺がよる。

 

「確かに厄介なのサ。このテンペスタの攻撃が一切通用しないなんてそうそう無い。あの織斑千冬にも、現役の時の第一回大会ではそれなりにダメージを与えることができたのサ」

「なら光栄ね」

 

 会話の間にも『疾駆する嵐』により分身が生み出され、楯無によって止められる。

 アリーシャを何度も止めている『沈む床』も断続的に発動し、時折蒼流旋のガトリングでSEを削っていく。

 

「あぁ。もっとも、それがずっと続くのなら、ネ」

「くぅ…っ!」

 

 だがその緻密なコントロールは、楯無の精神力をじわじわと削っていた。

 

「大方、『疾駆する嵐』の空気の中にナノマシンで構成された水を紛れ込ませて操作したってところなのサ。『沈む床』で私を拘束して、削る。確かにいい作戦だ」

「……素直に褒め言葉として、受け取っておくわ」

「今のうちにそうしておくといい。私のSEを削り終える前に、キミの精神が削りきられているだろうからサ」

 

 アリーシャのSEが先に削り切られるか。

 はたまた、楯無の精神力が削られるか。

 二人の勝負は持久戦かつ殴り合いという、大味なものになっていた。

 

「やってみなさい。後悔するのは、貴女よ」

「さぁ、どうだか…」

 

 幾度目となる衝突。

 IS学園vs亡国機業の第2回戦が幕を開けた。

 

 

 ◇

 

 

「……なんか、不自然なほどに静か…」

「そうね。楯無さんや剣だって戦ってるってのに、物音一つ無い……」

 

 楯無とアリーシャの戦場から少し離れ、戦いの影響が及ばない所まで走ってきた7人。

 体力の温存を図り現在は歩いているが、そのお陰で周囲の異常さに気づくことが出来た。

 

「こ、こんな所で襲ってこないよね…」

「皆には悪いが、私と一夏の出番はまだ先のようだな」

「なんで分かるのよ、箒」

 

 箒と一夏。

 ペアで戦うのは、束と千冬。

 他のメンバーの戦う相手が変わろうとも、ここだけは変わることはないと箒は踏んでいた。

 

「なんでだろうな……。だが、何となく分かるんだ」

「それって家族での虫の知らせってやつ?」

「そうかも知れない。でも、何となく千冬姉と束さんなら、一番奥で待ってるって思う」

 

 箒と一夏の根拠の無い自信。

 何故だと聞かれたら答えられないし、今襲ってくるかもしれない。

 だが、それでも。

 

「あの二人が、特に千冬姉がいる状態での束さんが、そんなセコいことはしてこない」

 

 今は敵対しているが、それでも姉弟と姉妹。

 嫌でも分かってしまうことはあるし、それが勘から確信に変わることも少なくない。

 

「へぇ、クソガキ達しかいねぇわりには、ちゃんと頭回ってんじゃねぇか」

「っ!…オータム…ッ!」

 

 そしてそれが一夏と箒だけの確信から、8人全員のものへと変わる。

 

「てめぇらの想像通りだ。織斑千冬と篠ノ之束は一番奥にいる。二人揃ってラスボス気取りだ」

「…行って、皆。私は大丈夫だから」

 

 7人の前方にある巨大なコンテナの物陰から現れたのは、アメリカから強奪したIS『アラクネ』を装備したオータム。

 その異様なISは、一度見たら忘れない。

 

「ハハハッ!行かせるわけねぇ……って言いたいとこだが、クソガキが流石に7人も集まってりゃ面倒だ。てな訳で」

 

『アラクネ』のスラスターが吹き荒れ、機体が一瞬にして加速する。

 

「望み通り戦ってやんよ、更識簪」

「…っ!」

 

 アラクネの特徴として真っ先に挙げられるのは、その大きな8本足の武装。

 形通り足としても機能するが、その先端からはエネルギー砲を放つことができ、狙いが絞りづらい。

 そう、普通の人間ならば。

 

「……別に、大したこと、ない」

 

 夢現を振るい、それらを払い落とす。

 

「これくらいなら、剣のランペイジテールとか、お姉ちゃんの『清き熱情』の方が避けにくい」

「言ってくれんじゃねぇか」

 

 自分とオータムが鍔迫り合いを繰り広げている中、6人が無事先に進んだことを確認した簪。

 

「でも、私もあなたを見くびってるわけじゃない」

 

 いつも通りのややジト目のまま、メガネの奥の紅い瞳を光らせる。

 

「いざとなったら手段を選ばず、任務の遂行を重視する。……京都では私達が数で有利だったけど、1:1ならあんなに簡単にはいかないと思う」

「随分と喋るじゃねぇか。遺言ってやつか?」

「ううん。……勝利を確信してる、余裕の発言」

 

 ぶい。とピースサインをして、オータムに見せつける。

 オータムの額に青筋が浮かぶ。

 

「舐めてんのかてめぇ…ッ!ずっとあの時守とかいうクソガキが最前線で戦ってただろうが。その仕事が無かった後方支援に負けるほど、オレは弱かねぇぞ」

「大丈夫。私は、後方支援じゃないもん」

 

 夢現を構える簪。

 その表情には、一切の驕りも緊張も無かった。

 

「あなたが後方支援って思うなら、そう思ってたらいい。学園祭や修学旅行と同じように、負ける未来が待ってるだけだから」

「調子に乗んじゃねぇぞ…ッ!このクソガキがァッ!」

 

 更識簪vsオータム、開戦。

 

 

 一方その頃、時守はと言うと。

 

 

「お前、なんで動けんねん」

「ふ、ふはははは…!私がそう簡単に散ると思うなよ、国連代表ッ!」

 

 マドカと戦っていた場所から離れるように走っていたはずが、彼女に回り込まれていた。

 それも、ボロボロにしたはずの装甲が完璧に治っているというおまけ付きで。

 

「……まあええわ。あんだけやってそれでも戦うってことは、まだ俺と渡り合えるって思っとんねんやろ」

「当たり前だ。お前は私が殺す。必ずな」

「あっそ」

 

 彼女が展開する『黒狼』の翼が大きく広がり、粒子が吹き荒れていく。

 

「今のうちに言っとくぞ。手加減も容赦もせんからな」

「望むところだ…ッ!」

 

 時守もISを展開し、いつもと同じく『完全同調・超過』を纏う。

 

「いつまでもゴキブリみたいに湧かれてもムカつくだけや」

 

 その装甲と肉体に、細い雷が走る。

 それに合わせて『完全同調・超過』のように濃い金色のオーラではなく、次第に薄く淡い光が包んでいく。

 

「な、何を…」

「これを使えるんは、今の俺やったら数分だけや」

 

 幾分か背と髪が伸びたように見える時守から発せられる低い声。

 それは復活したマドカの心に動揺を生むには十分だった。

 

「き、貴様…、その姿は…!」

「俺のこととやかく言う前に自分の心配しろ、や」

「ゴッ…!?」

 

 一瞬でマドカの視界から消え去った時守。

 そしてどこからか現れた彼の右膝がマドカの顔面にISのシールド越しでめり込んだ。

 

「今更戦うのが怖いです、とか無しやからな」

「くぅ、この…!」

「遅いねんクソが」

「ガフッ!」

 

 何とか形だけ襲いかかることが出来たマドカだが、今の時守には届かない。

 今度は上半身が消えたかと思えば、前傾していた自分の顎が彼の踵にかち上げられた。

 

「隙だらけやな」

「はっ…?」

 

 しゃがみこんで攻撃を避けたのだと思っていたマドカ。

 事実そうで、時守はマドカの攻撃を身を低くすることで避けた。

 そして今は、彼女の背後に『オールラウンド』を構えた状態で待ち構えている。

 

「『刺し穿つ死棘の槍』」

「ガアアアアッ!」

 

 二つの金属がとてつもない威力でぶつかり合い、凄まじい轟音が鳴り響く。

 その投擲された『オールラウンド』に纏った性質によってマドカの身体は吹き飛ばされる。

 はずだった。

 

「ガ、ハッ…?グゥアアアアアッ!」

「いっや〜ん。逃げやんといてや、寂しいやっちゃな」

 

 本来ならば吹き飛ばされ、その先で何とか体制を整えようと考えていたマドカ。

 しかし、謎の引力により時守の元へと引っ張られそれは叶わず、ただ拘束されながらどんどんとSEが削られていく。

 

「はな、せ…ッ!」

「お?ええよ」

 

 訴えると意外すぎるほど簡単に彼はその拘束を解いた。

 その結果、マドカの身体は『刺し穿つ死棘の槍』の勢いそのまま、壁に突撃するかのように直進していく。

 

「なんちゃって」

 

 あと少しで壁に激突するという間際。時守がマドカの背中に突き刺さっていた『オールラウンド』を掴み取った。

『刺し穿つ死棘の槍』の勢いがなくなったが、そのまま慣性で移動を続けるマドカ。

 

「よっ」

 

 そんな彼女の後頭部に、時守の回し蹴りが炸裂した。

 雷を纏った超速の蹴りはマドカの身体をISごと地面に沈めるには十分すぎるほどの威力を有しており、地面に大きなクレーターを作って、彼女は沈んだ。

 

「っと。いてて…これやると筋肉痛やばいから嫌やねんな。まあその分強いけど」

 

 そんな彼女の側に降り立った頃には時守の姿はいつもと同じようになっており、ISを解いた状態で頭をがしがしと掻いていた。

 

「……なあおい。せめてさ、テロリスト名乗ってるんやったらもうちょい歯ごたえある強さになって煽ってこいや」

 

 うつ伏せに倒れるマドカの元へと寄り、髪を掴みあげる。

 そこにある千冬に似た顔は、ある種の怯えを抱いていた。

 

「お前、ちっふー先生に憧れてんのか?」

「……な、ぜ…おま、えなど、に…っ」

「そう言うってことは憧れてるってことか。……んじゃ言うとくわ」

 

 所々に裂傷や腫れを負い、血が滴っているマドカの顔。

 そんな彼女の顔を見ながら、時守は優しい顔で史上最悪に残酷なことを告げた。

 

「あんな雑魚なった人に憧れんのは、もう辞めろ」

「な、に……っ!」

 

 それはかつての師に対する、一種の暴言に近かった。

 

「別にこれは、俺が1回模擬戦で勝って調子乗ってるからやない。もっと他のことや。ワンサマに言うたらブチ切れてめんどなるから言わんかったけど」

「……はな、せ。もう起き上がれる」

「え、嫌やわ。襲ってくるかもしれへんやん」

「流石に私も、今までの攻防で私とお前の間にどれほどの実力差があるかは分かった。命を削る無駄な真似はしたくはない」

「あぁそう」

 

 パッと掴んでいたマドカの髪を離す。

 ISの具現維持限界が来たのだろう、強制的にISを解除されたマドカが、力なく起き上がる。

 

「……それで、織斑千冬が弱くなった、とはどういう事だ」

「んなもんお前が一番分かっとんのちゃうか?本来のあの人は自分の目標を立てる時に、誰かのためにって言い訳は使うけど、誰かのせいで、とは言わんかったやろ」

「何が、言いたい」

「つまりは、や。幼馴染やろうが何やろうが、篠ノ之束っていう一人の存在に振り回されてる時点であの人は今までの強い織斑千冬やない」

 

 時守の言っていることは、全て正しかった。

 今までの千冬ならば束の暴走を止めていたし、こんな犯罪の片棒を担ぐようなことは絶対にしない。寧ろ断罪する側だった。

 それが今は違う。

 

「過去の英雄に憧れんのもええけど、お前はお前で強なりゃええやろ」

「…お前は、何を知ってるんだ」

「なんも知らんわ。ただ自分の予想を立てて行動してるだけや。……まあ、不幸なことにその予想は的中してそうやけどな」

 

 時守が立てているとある予想。

 最も、これが千冬と束を止める大きな手段だと確信しているからこそ、口には出さないのだが。

 

「勝てる自信が、あるのか…?」

「おう」

「……恐らくその程度では、無理だぞ」

「分かっとるわそんぐらい。お前も学習せぇへん奴やな」

「何?」

 

 呆れた様子でマドカを見る時守。

 

「お前に全力出してるわけないやろ」

「………勝てないわけだ。私は、まだまだ遠かったのか」

「せやな。まだお前みたいなクソガキには負けへんわ」

 

 四次移行、そして先ほどの復活したマドカを瞬殺したものですら、まだ全力ではない。

 マドカを倒すための本気は出していても、ISバトルという範疇での時守の全力は全く出していなかった。

 

「やから大人しく今はくたばっとけ」

「なっ…っ、ガアアァァッ!」

 

『雷動』でマドカの近くに一瞬にして移動し、『雷轟』をスタンガンの威力程度に弱め、首筋に直撃させる。

 意識を失ったマドカがそのままパタリと地面に倒れる。

 

「さてと、ほな今度こそ向かおか」

 

 2度マドカをボコボコにぶちのめし、意識を奪い取った時守。

 その足は、再び目的地へと向かった。

 




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