IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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うちのオリ主が鈴のベッドの中にゴキブリのオモチャ仕掛けようとしたのっていつの話でしたっけ。


いざアメリカへ

 

 

「にへへ…」

「…はぁ。結局みんなとがっつりしてもたやん」

 

 アメリカへと飛び立つ予定の朝。

 時守は自室のベッドで彼女たちに囲まれて目を覚ました。

 

「…まあでもやっぱ、無茶はあかんな。将来は俺だけの身体やないやろし」

「んぅ…」

 

 喉、首筋、胸など、時守の身体には大量にキスマークが付けられている。

 それだけ、否それ以上彼女たちに大事に思われていることを再確認する。

 

「使うしかしか、ないか。アレを」

「……アレって?」

「いっ!?か、刀奈…起きてたんか」

「うん。…ねぇ剣くん。アレって、何?私たちに隠さないといけないことなの?」

「…刀奈たちには隠さんでもええねんけど、やっぱり聞かれてるかもしれへんしな」

「…じゃあ、皆が起きたときに筆談だったら大丈夫でしょ?」

「あ。せやな」

 

 そんなトークをしていると、刀奈が頬にキスを落として立ち上がった。

 

「コーヒー淹れるわね」

「ん、ありがとう」

「いいのよ。その状態じゃ、剣くん起き上がれないでしょ?」

 

 身に何も纏っていない彼女のその姿に少し見惚れながら、仰向けになる自分の身体を見る。

 右腕はがっちりとシャルロットに抱きしめられ、左脚はセシリア、右脚には簪が枕のように使い寝ている。

 彼女たちも疲れたのか、ゆっくりと寝息を立てている。

 

「あー…やっぱ、皆クソ可愛いなおい」

 

 見れば見るほど愛おしく、そして自分が愛されているのだと自覚する。

 だからこそ無事でいなければならないし、だからこそ彼女たちも守りたい。

 

「……俺にはどっかの誰かさんみたいに皆を守るなんて綺麗事言えへんしな」

「いいと思うわ、それで。手の届く範囲のもの全てを守るために動く。人間って、得てしてそういうものじゃないかしら」

「刀奈…」

 

 二つのマグカップを持ってきた刀奈が、ベッドの側のスペースにそれを置く。

 バスローブの隙間から見える健康的な白い肌に見蕩れそうになりつつ、会話を続ける。

 

「その言葉は、確かに理想よ。守るために戦う人の究極系でもあるわ。でも、その理想が時には他人を傷つけることもある」

「まあ、せやろな。……でもなぁ」

「やっぱり、織斑先生がどういう理由で離れたのか気になる?」

「……そりゃ、な」

 

 つい先日まで自分の師であり、向こうは専用機ではないというハンデでようやく追い越せた人。

 その人が、なぜこんな裏切り方をしたのか。

 それが時守が気になっていることだった。

 

「何となく察しはついてんねん。あの人の事や。意地でもそれは曲げへんし、自分の中でそれが正しいと思ってはる」

「そうね。私もきっとそうだと思うわ」

 

 シャルロットが抱きしめている右腕をするりと抜いて上体を起こす。

 刀奈が淹れてくれたコーヒーを口に含むと、程よい苦味が口を覆った。

 

「それがホンマに正しいことになるんか、ならんのか。そんなん分からん」

「なら聞き出すしかないわね」

「…せやな。なんで亡国なんか、何がしたいんか。…なんでそれをしようと思ったんか。聞きたいことは山ほどあるわ」

 

 もう1度カップを煽り、飲み干す。

 彼の手の中からコーヒーが無くなったのを確認した刀奈が、頭を彼の肩に乗せた。

 

「……それでも、全部背負わないで」

「…あぁ」

「私もシャルロットちゃんも簪ちゃんもセシリアちゃんも、確実に強くなったわ。…だから、剣くんだけが背負わないでね?」

「ん。頼らせてもらうわ、刀奈」

「……お姉ちゃん、だけ?」

「そうですわ…。わたくしたちも、ふわぁ…」

「頑張ったんだよ…?」

「もちろん、皆もや」

 

 いつの間にか起こしてしまっていたのだろう。

 しがみついていた彼女たちが眠い目を擦りながらその身体を起こしていた。

 

「さて、ほなそろそろちゃんと起きよか」

「そうね。おはよう、剣くん」

「今更かいな。おはよ皆」

 

 決戦まで、あと少し。

 

 

 ◇

 

 

「……」

「……」

「ふわぁ……。ねっむ」

「あ、あのぉ……」

「ん、どうした山田教諭。何か問題でも起きたかね?」

「い、いえ!」

 

 時刻は、日本時間で昼過ぎ。

 場所は太平洋上空。

 ロジャーが用意した機体は自動操縦のまま、アメリカのニューヨークを目指していた。

 

「時守くんのアレって……」

「ん?あぁ、見せたのか時守くん」

「ちょっとだけっすけどねー。ま、勝てる勝てる」

「なんでアンタはそんな楽観的なのよ…」

「これから戦いに行くってのに…」

 

 一人大欠伸をした後、余裕綽々といった様子でロジャーと会話をする時守。

 そんな彼を見て諌めるように鈴と一夏が口を開いた。

 

「だって事実やからな」

「っ…!だから、その自信はどこから来てるんだよ!」

「ん?」

「皆不安なんだ!もしかしたら、死ぬかもしれない。そんな戦いなんだぞ!」

「そりゃせやろ。今回の戦いはそういうもんや」

「分かってるんなら―」

「でもな、やからって俺が負けへんのは俺が一番良く分かってる」

 

 あまりにも傲慢なその言葉。

 確かに今まで幾多の襲撃を退けてきた時守の強さは凄い。

 だが、それとこれとは話が別だ。

 

「なんでそこまでして言いきれるんだよ」

「……ここやったら、大丈夫か。言ってもええか?」

 

 ロジャーに目配せをし、この機体に盗聴器が仕掛けられていないかどうかを確認する時守。

 頷くことで返された時守は、乗り合わせた専用機持ちたちに告げるように言った。

 

「第三形態なんてとっくに過ぎてんねん、俺の機体」

「……え?」

「前から模擬戦とかで戦っとったんは四次移行した機体や。それを『金色』やと誤魔化しながら戦ってた」

「い、いつから…。ていうか、どうやって?」

「修学旅行終わってちょっとしてからやな。自主練の途中にいきなりなってん。誤魔化してたんは新しい単一仕様能力のお陰や」

 

 淡々と並べられるその言葉に、専用機持ち達はぽかんと口を開けるしかなかった。

 

 四次移行(フォースシフト)

 

 まだ数人しか二次移行出来ておらず、一夏もついこの前三次移行したばかり。

 それをさらに一段階超えていたのだ。

 

「俺と金ちゃんの相性がいいってのもあるけどな」

「それなら、早く…」

「向こうに聞かれてる可能性があるって言うたやろ?……まあ、ぶっちゃけそれだけやないねんけどな」

「何よ、また新しい単一仕様能力でも出たの?」

「ま、そんなとこや」

 

 鈴の言葉に適当に返す。

 もしその言葉が本当ならば、IS学園側にとってこれ以上にない補強となる。

 

「第四、形態ですの…?」

「おう。でも、今回は皆の前では見せたないけどな」

「…なぜだ?」

「私たちの前で見せる時は、剣くんが助けに来てくれた時。つまり、私たちがピンチの時よ」

「そゆことそゆこと」

「…つまり、その師匠が私たちの元に来た時は、作戦通り上手くいかず、何かしらの問題が起きてしまった時…か」

「せやな」

 

 箒の疑問に楯無が答え、ラウラの説明に時守が肯定の意を示す。

 

「なぁ剣。ホントに、強いんだよな?」

「当たり前やろ。俺と金ちゃんの第四形態やぞ。今のお前と『白式・王理』と戦っても5秒で沈めれるわ」

「ははっ、そりゃ頼もしいな」

 

 去年の年末に三次移行した一夏の専用機、正式名称は白式・第三形態『王理』

 新たな単一仕様能力として『雪羅』がエネルギー無効化防御『霞衣』とIS初期化アビリティ『夕凪灯夜』に変化したのだ。

 

「新しく出たモン自体はビミョいけど、他のと組み合わせたらそら凶悪よ」

「どれくらい?」

「どれくらいって……布団の中にゴキブリのオモチャ仕掛けるぐらいにはな」

「アンタ!それまだ忘れてわけじゃないわよ!」

 

 以前何かしらのイタズラで鈴の布団の中にゴキブリのオモチャを仕込んだ時守。

 その事を思い出したのか、鈴が顔を赤くしながら怒鳴った。

 

「ええやんけ。今は関係ないやろ?」

「なんで被害者のアタシが悪いみたいな言い方を…!」

「勝って帰ってきたら、またやったるわ」

「ふざけんなあああぁっ!!」

 

 時守の言葉に発狂した鈴を咎める者は誰もいなかった。

 

「さて諸君、もうじき着陸する。…準備は出来ているね?」

「準備もクソもあるかいな。ただ乗り込んでぶっ潰す、それだけやろ?」

「間違ってはいない。だが、これだけは約束してくれ」

 

 アメリカが近づいているということを伝えたロジャーの顔は、真剣そのものだった。

 

「全員、無事に帰ってきなさい。成り行き上指揮官になっている私から言えるのはそれだけだ」

「…りょーかい」

 

 そんなロジャーの忠告を、時守は一人少し不満げに聞き入れた。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「こ、ここが…アメリカ…」

「つってもちっこい空港やけどな」

「でもなんか、初めての国って緊張するよな」

「そう考えたら僕達ってIS学園に入学してから色々な国に行ってるね」

「その度に襲撃されていますわね。お陰で、ろくに観光も楽しめていませんわ」

「IS学園の危機管理ってどうなってんの?」

「流石にそれは生徒会の職務外よ。文句なら、織斑先生に言って頂戴」

「……よし。じゃあみんなで、ボコボコにしよう」

「教官をか」

「誰かは関係ない。私も、姉さんを半殺しにする覚悟はできている」

「君たちいつもこんなに殺伐としてるのか!?」

 

 時刻は時差や機体速度の都合でズレ、現在朝の11時。

 国際連合のIS施設の近くにある小さな小さな離着陸場。

 ロジャーが用意していた飛行機から降りた専用機持ちたちは、これでもかと毒を吐いていた。

 

「まあそりゃ闘いに行くってなったら多少気は荒くなるやろ」

「それもそうなんだろうが…。戦う気がないよりは頼りになる…のか…?」

「なるやろ」

 

 先導するロジャーとその隣を歩く時守。

 専用機持ちが後ろにつく形で出口を目指す彼らの目には、闘志の炎が灯っていた。

 

「山田先生は?」

「彼女はこの離着陸場に待機してもらう予定だ。何かあった時に駆けつけられない人間がいないと、少々まずいのでな」

「…てか冷静に考えて、国連のIS部隊が制圧されてることの方がやばいけどな」

「そ、それは…」

「まあ、今役に立たん人間のこと言うてもしゃあないわ。またいつか、俺が死ぬほど鍛え上げたるからな」

 

 そもそもの原因である、乗っ取られてしまった国連のIS施設。

 そこに常駐しているIS部隊が専用機持ち程の強さはないが連携で相手を拘束するのに長けていたことは時守の記憶にもある。

 

「お手柔らかに、な」

「お断りや。お手柔らかにして国際連合がズタボロにされてもええんやったら手ぇ抜いたるけど」

「…厳しく頼むよ」

「うーい」

 

 表舞台の仕事は時守が。

 そして、裏で地道に国連を守るのはIS部隊が担当している。

 そしてその力関係は、時守に圧倒的に分がある。

 だからこそ言える言葉だった。

 

「これからどないすんの?」

「徒歩で向かう。何、1時間もかからん場所にある。下手に探られるよりは歩いた方がいいだろう」

「んじゃその途中でメシでも食うか」

「だな」

「えっと……ロジャー、さん?その、敵の近くに来たんですし、警戒とかは…」

「しなくていいだろう、嫁」

 

 あまりにも気の抜けた会話をする時守とロジャーを見て、一夏が口を挟んだ。

 しかしそれに即答する形で、ラウラが言葉を重ねた。

 

「向こうは教官を拉致…というか迎え入れて待ち伏せている。明らかに私たちを誘って、国連の施設にアジトまで作ってな。そして、そこの責任者である事務総長がIS学園に行くのを見逃しているんだ」

「…ほうほう」

「つまり向こうは、完全にその施設での戦闘を待っているということだ。下手に市街に出るよりもそうした方が自分たちのペースに持っていきやすい」

「さらに言えば、こうして市街地で奇襲してる側って訳でもないのに襲ってくるのは自分たちの実力に自信が無いって言ってるのとほぼ同じ。織斑先生、篠ノ之博士、そして国家代表のアリーシャが集まったプライドの高い向こうは、そんな方法取ってこないのよ」

「へぇー」

「絶対分かってないでしょ、アンタ」

 

 話を右から左に聞き流しながらボケーっと歩く一夏。

 何はともあれ、敵に接近するまでは戦闘の心配はないということだけ分かったのだから、それで良かったのだ。

 

「よし。じゃあここは景気づけに、私が奢ろう」

「お、ロジャー。あっこにクソ高いビルあるからアレの最上階行こや」

「あれはビルじゃない。三ツ星貰ってるホテルだ。……というか、前に一度撮影で行ったことあるだろう?」

「おう。そん時のご飯美味しかったから」

「君は私を破産させるつもりか」

「そんなんで破産するぐらいのヤワなお財布ちゃうやろ?」

 

 そう話しながら歩く。

 ロジャーが足を向けたのは、大衆向けのハンバーガーショップだった。

 

「しょっぼ」

「キミだけ自腹でもいいんだぞ?」

「あ、やっぱここがええわ」

 

 熱い手のひら返しに苦笑いしながら、一同はそこへと入っていった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「ううぅ〜」

「……はぁ。本音、そろそろ落ち着きなさい」

「だ、だってぇ〜」

「見送りはしたでしょう?それに、お嬢様も剣くんもいるのよ。大丈夫だから」

「……うぅ」

 

 日本、IS学園。

 すっかり辺りは暗くなった寮の虚の部屋で、その部屋の主と妹の本音は少し団欒をしていた。

 

「でも、今回は、その……本気の戦いなんでしょ?」

「今回どころか、これまでもよ。今まで奇襲される側だったのが、する側に変わったの」

「それって危険なの?」

「……いえ。ただ言えるのは、相手は逃げ場がないということよ」

「そうなの?」

 

 自分の主人でもある簪だけでなく、多くのクラスメイトたちが今回の戦争めいた物に参戦するとあって、本音は気が気ではないのだ。

 それを、姉である虚が何とか落ち着かせようとしていた。

 

「亡国機業はアメリカにアジトを作ってるの。ということは、そこからみすみす逃げ出す訳にはいかない。しかも、メンツがメンツよ」

「あ〜。…強そうな人多いもんね〜」

「アジトにおびき寄せ、最高の戦力で戦い、尻尾を巻いて逃げる。そんなことプライドが許さないはずですもの」

「なーるほどー。だからけんけんは、いざとなったら自分がぶっ壊すって言ってたのか〜」

「…え?ほ、本音…今、なんて?」

「ん〜?」

 

 突如として本音の口から飛び出た物騒な言葉。

 それに虚は思わず聞き返してしまった。

 

「けんけんがね、やばくなったら全員退散させてアジトを爆破するって言ってたんだぁ〜」

「そ、そんなの、雷轟で出来るの…?」

「なんか、雷轟じゃないって言ってたよ?」

「え?…っていうことは、言ってないだけで新しい力が出たってこと?」

「多分そうじゃないかな〜」

 

 意外と聡い本音と素で聡い虚。

 二人が導き出した結論は、時守がさらに強くなったということだった。

 

「でも、けんけんもおかしいよねぇ〜」

「いつもおかしいけど…どうしたの?」

「だって、私にはみんな連れて帰ってくるって言ったんだよぉ?それって、織斑先生もってことなんじゃないの?」

「そう、だったらいいけど…」

 

 更識楯無のメイドであり、彼らが留守の間生徒会を任せる人間として、虚にはことの真実が伝えられている。

 もし本当に千冬が自分の意思でIS学園を去り、亡国機業としての活動をするのなら、戻ってきたところで彼女に居場所はないだろうと、そう虚は考えていた。

 

「でもそういうことも、さっきお姉ちゃんが言った通りだよね」

「え?」

「おじょうさまとかんちゃん、けんけんにおりむー、モッピーにらうらう、しゃるるんにせっしー、りんりんまでいるんだよ?」

「…あぁ、専用機持ちのみんなね」

 

 本音の独特なニックネームのオンパレードにより、一瞬誰のことを言っているのか良く分からなくなった虚。

 モッピーの所で把握し、一人ひとり名前を確認した。

 

「みんながいれば、大丈夫だよ。織斑先生もきっと、戻ってくるよ」

「…ふふ。そうね」

 

 笑みを浮かべた虚につられ、本音もまた笑うのだった。




今回でこの章は最後です。

次章、いよいよ戦闘パートびっしりです。

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