IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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次章はほぼ戦闘描写ばっかりになる予定です。

…頑張ろう。


決戦前夜

 

 

 千冬がIS学園から消えた日の夜。

 

「すんません山田先生。明日も早いのに」

「大丈夫ですよ。このタイミングで私との模擬戦がしたいってことは、皆さんに知られたくないことがある。…そういう、ことなんですよね?」

「えぇ。山田先生にはもう隠しませんけど、そういう事です」

 

 時守はライトに照らされたアリーナにて、真耶とISを展開して向かい合っていた。

 

「皆さんの士気を下げてしまうようなことなんですか?」

「…そうとも思えますし、逆とも言えます。でも、やからこそ山田先生に知っておいてほしいんすよ」

「私に?」

 

『金色』と『幕は上げられた』

 二人の専用機は宙に浮いたまま、ゆったりと微妙に動いていた。

 

「はい。申し訳ないっすけど、今から俺が出すモンを見てもし皆がショックを受けた時、ケアしてほしいんです」

「…なるほど。だから私が、それを体感しておかなければならない、と」

「そうなりますね」

「つ、つまりは、試し打ち…と…」

「そ、そうなりますね…」

 

 真耶の顔が少しずつ強ばっていく。

 いくら彼女が教師とはいえ、真耶だって時守の正真正銘の全力を向けられると怖い。

 言ってしまえば、『雷轟』の時点でもだいぶ怖い。

 涙がこみ上げてくるほどには、怖い。

 

「でもまあ、安心してください。『雷轟』みたいなえげつないモンとはちゃいますから」

「あっ、そうなんですね」

「えぇ。新しく試したいのが2つ3つあるんですけど、そのどれもが、それ自身には大した攻撃力はありませんし」

「…と言うことは、『完全同調・超過』のようなものが?」

「そっすね」

 

 ちょっとずつではあるが明らかになっていく。

 武装なのか、新しい単一仕様能力なのかは分からないが、おおよその形は見える。

 

「自分で言うのもアレですけど、ちょっとだけ覚悟しといた方がいいかも知れないっす」

「そ、それほど…ですか」

「はい。…前にロジャーにだけ見せたことがあるんすけど、腰抜かしましたもん。前に三次移行を始めて見せた時には、アホみたいに興奮してたのに」

「へ、へぇ…。そうなんですね…」

 

 アホみたいと言われる国連事務総長に呆れながらも、あれほどの人物がそんなにも興奮してしまうと知り、苦笑いを浮かべる。

 

「やから、山田先生も本気で来ていいっすよ。多分俺が勝ちますし」

「むっ。いくら国連の代表になったとはいえ、驕りはいけませんよ。時守くん」

「国連代表になったからだけやないんすよ。俺自身、三次移行したての時よりかは遥かに強なりましたから」

 

 軽い言い方で時守に注意を促した真耶だが、その顔色は真剣そのもの。

 ごくりと唾を飲み、彼の攻撃に備える。

 

「ほなそろそろ行きましょか。時間ももったいないですし」

「はい!いつでも、大丈夫ですからね」

「んじゃ、遠慮なく」

 

 時守の姿が、『金色』ごと光に包まれていく。

『完全同調・超過』を発動するのか、と身構えていた真耶は―

 

「行こか。『金色―――』」

「えっ?」

 

 ―普段と同じく、淡い光に包まれる時守の姿が、少しだけ揺らめいていることに気づいた。

 

 

 ◇

 

 

「たらいまー」

 

 真耶との軽い模擬戦を終えた時守は、自室へと戻ってきていた。

 時刻はまだ普段寝るような時間ではないが、明日が明日なのだ。

 

「んぉ、どした。お葬式みたいな雰囲気して」

 

 早めに寝ようと思い、ベッドに向かう。

 するとそこには、強ばった顔でベッドに腰掛ける彼女たちがいた。

 

「剣くんは、怖くないの?」

「え?……あー、そか。俺はそんなにやな。ちっふー先生に勝てたし」

「…わたくし達は、勝てるのでしょうか」

「戦いたい相手とか言ったけど…」

「……勝てるかどうかなんて、分からないし…」

 

 放課後のあの時。

 倒したい相手の名は軽く出すことが出来たが、今までの戦いとは少し違う。

 文字通り、全戦力を投入する殲滅戦。

 もしかしたら自分が敗れ、最悪の場合死んでしまうかもしれないという恐怖を、3人は噛み締めていた。

 

「…カナは大丈夫なん?」

「えぇ、一応。これでも更識家の当主でロシア国家代表ですもの。覚悟は出来てるわ」

「ん。まあアレや、3人とも」

 

 俯く3人の元に歩み寄り、セシリア、シャルロット、簪の順に頭を撫でる。

 

「最終的にどいつが生き残ってても俺がぶっ飛ばすから大丈夫や」

「こ、今回ばかりはそうも言ってられないでしょ!?」

「そうですわ!これまでも剣さんばかりに迷惑をかけてきたのに…」

「こんな大事な戦いで、また足を引っ張るなんて、嫌…!」

 

 殲滅戦ということは、最悪一人がすべて片付けてしまえば済む話。

 だが、またいつものように彼に頼るなどということ、3人は考えたくなかった。

 

「大丈夫や。助け合って、守り合いながら勝つ。それやったらええやろ?」

「…うん」

「で、ですが…」

「…確かに不安はあると思う。けど、相手もおんなじ人間や。やる前からそんなビビってても、勝てるもんも勝てへんで」

「……うん。それも、そう…」

 

 3人がそう考えているからこそ、時守もあえて少しだけ厳しい意見を突きつける。

 簪のさらさらの髪の毛を両手で弄る。

 

「ぶっちゃけ、俺がここまで自信満々なんも三次移行やらいっぱいしてきたからってだけや。それ以外で大した自信なんてあんまない」

「そうなの?」

「あぁ。でもただ、本気で倒すからには、その通り本気で戦う。俺らの実力やったら本気でやり合えば最低限互角にはなるやろ」

「どうしてそこまで言い切れますの?…今まで、わたくし達はろくに撃破すら…」

「俺らのISに掛かってる、競技用の制限があるやろ?」

「あっ……。ってことは、今回の作戦では…」

「ん。みんなそれを解除する」

 

 当然といえば、当然のことだ。

 今までIS学園側の面々は襲撃される側、つまりは待つ側が多かった。

 唯一奇襲を仕掛けた京都での作戦も、民間人への被害を考え、制限解除をすることはなかったのだ。

 

「やから正直、俺とかワンサマとかの火力エグいことになるし、今まで制限アリでそこそこ戦えてたからな」

「…そう、ですわね。ですがそうなると…」

「制限の掛かってない武装を、相手に向けるんだよね…」

「まあそこは、割り切るしかない…って思って、俺は戦うわ」

「……うん。私も、皆を守るためなら、本気で倒しに行く…!」

「その意気よ簪ちゃん。この戦いは今までみたいに相手を退散させたら勝ちじゃない。相手を行動不能にしたら勝ち、ですもの」

 

 ISというのは兵器だ、というのが世間一般の認識である。

 モンド・グロッソなどの大会のおかげでスポーツとしても馴染んできてはいるが、それこそ今ある兵器の中では最強なのだ。

 それを、一切の制限無しで人に向けるには、それなりの覚悟がいる。

 

「やから、ある意味俺の相手がゴーレムで良かったわ。躊躇いなくぶっ放せるし。今ここでは言えへんけど、秘策もあるしな」

「秘策って?」

「秘策やから、内緒やわ」

「私たちにも?」

「…どこで聞かれてるか、分からへんしな」

「っ!そう、ね…。油断してたわ…確かに、相手に篠ノ之博士がいるなら、聞かれてるかも知らないわね…」

 

 刀奈の表情が、より一層引き締まったものへと変わる。

 これから直接戦う相手には、天災がいるのだ。

 今自分たちがしている会話を盗み聞きされていてもおかしくはない。

 

「やから今日ははよ寝よ」

「うん…」

「そ、その…」

「剣……」

「ん?どした」

 

 早めに寝ようとした時守を、彼と同じく寝巻きに身を包んでいたシャルロット、セシリア、簪が止めた。

 普段五人が寝る時は、時守が中心となり、その両隣はローテーション。

 だが―

 

「今日は、みんなでくっついて寝たいなって…」

「…了解。そうしよか」

 

 ―今日はみんながくっついて寝たいと、シャルロットがほんのりと赤い顔で告げてきた。

 もちろんそれを断ることなどできず。いつもは5人並ぶところを、中央の時守に4人が密着して寝ることとなった。

 

「おいで」

「けーんっ!」

「わ、わたくしもっ!」

「…ふにゃ…」

 

 時守が横になると、左腕の近くにシャルロットが、左脚の近くにセシリアが、そして右脚に、太ももを枕にするかのように簪が寝転んだ。

 

「ふふっ。ベッドが大きいから、みんながこうしても自分眠れるわね」

「刀奈はどうする?」

「…。卑怯よ、剣くん。このタイミングで、そうやってちゃんと私の名前を呼ぶなんて…」

 

 擦り寄るようにして刀奈が時守の右腕の近くに来る。

 押し付けられて形を変える彼女の柔らかい胸の感触を楽しむ間もなく、彼女の顔が目と鼻の先に現れた。

 

「けーんくんっ」

「えへへ、剣っ」

「うふふ。好きよ、剣くん」

「相変わらずお肌すべすべ…」

「寝れるかぁ!」

 

 右を向けば刀奈が満面の笑みで愛を囁き、左ではシャルロットが頬をつつく。

 二人ともとんでもなく時守の体に密着しており、刀奈だけではなくシャルロットの胸の感触…どころか彼女たちの体の柔らかい感触の大半を味わえるほどだった。

 

「むにゃ…」

「…ん?右脚なんか冷たいねんけど…」

「あ、多分、簪の寝よだれじゃないかな」

「…まあ、そんだけ安心してくれてるんやったらええか」

 

 右太ももを枕にしている簪の口から垂れた液体が、時守のパジャマを濡らす。

 

「セシリーもすんごい押し当ててるし…」

 

 左足では、既にセシリアが夢の中へと旅立っていた。

 その胸の感触が、これまた良く分かる。

 

「……あっ。剣くん、もしかして辛い?」

「いやいやいや。流石にアレだけ啖呵切ったあとにするつもりはないし、そもそも今夜で体力使うわけにもいかへんやろ?」

「…否定しないってことは、辛いんだよね?」

「…………はい」

 

 これだけ魅力たっぷりな彼女たち。

 そんな彼女たちの凹凸がはっきりしている柔らかい肢体を押し付けられると、どうしても男として反応してしまう部分がある。

 

「新年になってから、全然シてなかったわよね?」

「俺がちょっと忙しかったしな」

「その間、自分で処理は?」

「…あ、してへんわ」

「発散しておくなら、今のうちよ」

 

 刀奈の吐息が耳にかかる。

 彼女たち二人の手も、腕やら上半身を撫で回すように動いていた。

 

「……いや。今日は、せん!」

「ふぅん。…じゃあシャルロットちゃん」

「はいっ!」

「えっ、ちょ、何?」

 

 しかし、時守とて事の重大さを良く理解している。

 いくら自分がしたいからとはいえ、彼女たちの睡眠時間を奪うわけにはいかない。

 

「剣くんに、戦う前にちゃんとマーキングして、戦ってる時に無茶しすぎないように私たちを思い出してもらおうって思ってたのに…」

「したくないんだったら、僕たちにも考えがあるからね」

 

 そう言って、刀奈とシャルロットはその顔を時守の首筋へと近づけた。

 

「いっぱいつけてあ、げ、る」

 

 その瞬間、刀奈とシャルロットが、時守の首に吸い付いた。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「はぁ〜!最近の高校生ってエッロいねぇ、ちーちゃん」

「教え子がイチャついてる所を盗み見ている親友を、私はいったいどういう心境で見ればいいんだ」

「私も彼氏とこういうことしたい〜って思えばいいんじゃない?」

「おい。…そもそも、今こうしている時点で、無理だろう」

「……そうだねぇ。名実ともに、世界の大罪人になっちゃうしねぇ」

 

 アメリカ、ニューヨーク。

 乗っ取った国連IS施設の倉庫の中の一室で、束と千冬は亡国機業の面々と共にモニターを眺めていた。

 

「それにしても流石だね、剣ちゃん。束さんに盗聴されてる危険性も考えてるなんて」

「なんだ、もういいのか?」

「いくら束さんでも女子高生4人が一人の彼氏にキスマークつけてるシーンを眺める趣味は持ってないよー」

「…はぁ」

 

 くるりと椅子を回し、千冬に向き直る束。

 その顔には笑みが貼り付けられていた。

 

「愛されてるねー、剣ちゃん。頭も冴えるし、ISの扱いも上手い。こりゃ優良物件だね」

「あぁ、そうだな。…私たちが動かなければ、な」

「うんうん。せっかくISの操縦が上手くなったとして、破壊されちゃったら意味無いもんねー」

 

 モニターの中では、いつの間にか起きていた二人の女子も混ざり、時守の身体中を弄んでいた。

 そのモニターの電源を切り、千冬はより真剣な声色で束に投げかけた。

 

「束。本当に作戦を実行するとして、だ。最大の敵は誰になる」

「そりゃもちろん剣ちゃんでしょ。いっくんと箒ちゃんもいいコンビだよ。何たって、束さんが作り上げた対になるISだもん」

 

 そう言い切った束。

 この時も笑顔だったが、それが少しだけ真面目なものに変わる。

 

「…ただ、剣ちゃんは未知数なんだ。成長速度もとんでもないし、途中からは多分何かを隠してる。ちーちゃんにも、もちろんISのネットワークにも」

「待て。…そんな事が出来るのか?」

「剣ちゃんのIS忘れたの?他のISの内部データを書き換えられるISなんだから、盗まれたくない情報を隠すぐらい簡単だよ?…束さんでも見れないようにしてあるのは、ビックリだけど」

 

 束が今回の作戦遂行にあたり最大の敵だと認知しているのは、時守。

 制限無しの火力で考えると文字通り世界一のものとなる一夏や、単一仕様能力が発動すればいくらでも戦える箒ではなく、時守なのだ。

 

「だから、ある意味で一番怖いよ。何を持ってるか、さらにどれだけ成長してるかも分からない」

「……だが、いくら時守でもお前には勝てんだろう」

「…うん。だとは思うけどね。あの2つがある限り、束さん…いや、こっちの陣営が負けることはないよ」

 

 束が見やる、一つの小さな機械。

 形が様々なISの待機状態を中に入れるためのケースが数個並んでいる。

 もう一つは、彼女が首にかけているネックレス。

 その二つの機械こそ、稀代の天災、束の自信作だ。

 

「ねぇちーちゃん。そろそろ暮桜に乗らなくていいの?」

「ここに来てからもう散々乗った。扱いにも慣れてきたしな」

「そっかそっか。でも、まだまだ慣れるに越したことはないよ」

「あぁ、それは分かっている」

「なら良し。…暇だし、剣ちゃんの様子でも見てよっか」

「おい束っ!」

 

 パシッ、と一瞬で千冬の手に握られていたリモコンを奪い、モニターの電源をつける束。

 そこには―

 

「…あ、あー…。がっつり…」

「…お前、時守の標的にされても知らんからな」

「いやいや。これは不可抗力だよ?ていうかちーちゃん。教師として怒らなくていいの?」

「何がだ。…アイツらのこれは、しょうがないものだろう。学園内では生徒会長の権限の方が強いからな」

「わぁ〜。まるで独裁政権だぁ」

 

 ―仰向けの時守の腰に跨り、何やら楽しんでいる全裸の女子の姿が。

 背中を向けているため誰かは特定できないが、その髪の色と髪型からフランスの代表候補生であることは何となく分かった。

 

「……束さんも、戦う前に自家発電してこよっかな」

「…処女をこじらせたまま、24の私たちは戦うのか…」

「ちょっとちょっとちーちゃん。そのセリフ割と心に来るからやめて?」

「そんなことを言うならこんな作戦などやめてしまえ!」

「それとこれとは話が別だよ!」

 

 やや赤い顔のまま繰り広げられる二人の残念美人の会話。

 モニターを見て顔を赤くする辺り、二人共かなりのピュアさである。

 

「ちーちゃん、男の人の裸見たことないでしょ?いっくんのはもちろん無しとして」

「……ある」

「えぇっ!?あのちーちゃんが!?」

「………夏に爆睡していた時守の布団を剥いだら、全裸だった…」

「……お、おう…」

 

 まさかまさかの親友が初めて男性の全裸を見たのが、これから戦う相手。

 さらに言ってしまえば、彼女の弟子。

 しかも、不慮の事故。

 とことん不憫な千冬だった。

 

「へいっ!じゃあちーちゃんも一発スッキリしてから戦いに挑もうではないか!」

「会話がさっきから下品すぎるわ馬鹿者!」

「うぎゃああああっ!」

 

 千冬の神速のアイアンクローが炸裂する。

 そこには、普通の仲のいい二人の女性のじゃれ合いがあった。




ラストが酷すぎる。

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