久しぶりにシャルの出番多め!楽しい!
夜、そろそろ予約していた部屋でベッドに入ろうかという時間。問題が起きてしまった。
「え、三人部屋が2つ?」
「あぁ。どうやら手違いでそうなってしまったらしい」
「んじゃ一緒に寝よか。シャル、簪」
「…やはり、そうなるのか?」
「いや普通に師匠と弟子とはいえ男子生徒と女性教師が二人っきりで寝るのはやばいっしょ」
2人部屋を3つ予約したはずが、手違いで3人部屋が2つになってしまったらしい。
それでも、このメンツでの部屋割りは時守が言った通りに割ることですんなりと終わることとなる。
「俺寝起きめっちゃ悪いですし、寝ぼけてちっふー先生の方に突撃しちゃうかも知れませんよ?」
「それほど…なのか?」
「はい!以前、師匠の自宅にお邪魔させていただいた時も凄かったです!」
「そ、それに、剣は寝相もちょっと悪いので…」
「抱きつく対象がいないと、凄い寝相になっちゃうもんね」
「ガキかお前は」
事実、抱き枕というものを手に入れるまでの小学生の時守は凄まじく、寝ているのに起きているような動きをすると母親が戦慄したぐらいだ。
パジャマが脱げ、パンツも半ケツで上下逆になった状態で毛布の上で枕を股間の上に乗せて爆睡するぐらいである。
「それにシャルと簪をちっふー先生と同じ部屋で寝させたくないっす」
「よし、いい子だからそこに座れアホ弟子。思いっきり拳骨を叩き込んでやろう」
「身長縮みそうなんで遠慮します」
千冬に扱かれ、栄養面もしっかりと管理され、そして国際連合宇宙開発専用ISステーションにて栄養液に浸かり物理的に成長してきた時守。
「てか、ラウラとおんなじ部屋で寝んの嫌なんすか?」
「えっ…。そ、そうなのですか、織斑先生…」
「……本当に、我が弟子ながらいい性格をしているな。そんな訳無いだろう」
「教官!」
「織斑先生だ、馬鹿者」
ごちん、と軽く千冬がラウラの頭を小突く。
「だがな、時守。もしもお前の部屋からデュノアや更識の変な声が漏れて来れば、問答無用でお前を叩き出すからな」
「も、もちろんっすよ」
「……仮にも今の私は教師だ。教師の前で、不純…いや、不純でなくとも、異性交遊など考えないことだ…」
ふふふ、と不気味な笑みを浮かべたまま、ラウラの手を引きながら千冬は部屋の扉を閉めた。
「さすがに寝台特急のベッドはきつい」
「そういう問題じゃないと思う……」
「あ。ねえ剣、簪もだけど、明日の防寒対策って大丈夫なの?」
「お姉ちゃんがロシアで買ってきたやつがあるから、私は大丈夫だけど…」
「まあ気合いでなんとかなるやろ」
「ならないよ!?」
真冬のヨーロッパを気合いで乗り切ろうとする彼氏に思わず声を張り上げてしまうシャルロット。
しかし、簪の分も合わせて女性物のコートしかない。
「あっ。じゃあ、僕と簪のマフラーをそれぞれ剣にも巻くっていうのは?」
「…ええな」
「じゃあ、手袋も一緒に…?」
「ええやん!」
シャルロットと簪。二人が巻いているマフラーを時守も一緒に巻くことになると、3人の動きがかなり制限されることになるのは目に見えている。
しかし、このバカップル達はそれでいいのだ。
手袋も、それでいいのだ。
「ほな寝よか」
「うんっ」
「パジャマパジャマ…」
部屋に入って寝る準備に取り掛かる3人。
いつも通り簪がメガネを外してパジャマ、シャルロットが寝るまでの少しの団欒の準備をし、時守が明日の準備に取り掛かる。
「二人とも明日何着るかは決めてる?」
「うん。あっ、デュノア社製のISスーツ出しておいてくれる?」
「おけおけー」
シャルロットのカバンの中から、彼女のデュノア社製のISスーツを取り出す時守。
ふと、少しばかり邪な考えが彼の脳内によぎった。
「…これが、普段シャルが着てるISスーツか…」
「も、もうっ!変態っ!」
「いや。それは制作側に言って欲しい。こんなん着てるシャル見てたら俺落ち着いてられへんわ」
「……はっ。もしかして、これが剣の弱点…」
彼が持っているISスーツに、翌朝シャルロットがその豊満な身体を押し込むのだ。
少しというか言葉にしてしまえばすぐにお縄についてしまう考えだが、これは寝る前の毎度の会話のようなもの。
丁寧にツッコミをいれているシャルロットが真面目すぎるのだ。
「うん、せやで。流石に公共の電波に簪達のエロい格好が映るのは嫌やけど、普通の模擬戦やったらそっちに目奪われるから俺絶対戦えへん」
「国連代表がそれでいいの?」
「国連代表の前に男代表やからしゃーないわ」
「…でも、剣にだけなら、見られてもいいかな…」
「簪ー!」
「…むぅ」
3人分のパジャマを準備し終えた簪の発言に、時守が抱きつく。
それを見たシャルロットが頬を膨らまし、何も言わずに時守の方へと擦り寄る。
「えいっ」
「おっ。どないした?シャル」
「別にー?ただ、目の前にいるもう一人の彼女にも抱きついてくれないのかなーって」
「愛してるぞー!」
「僕もっ!」
「わ、私も…」
今度は近づいてきたシャルロットに抱きつく。
完全にアホカップルとなっているが、本来はここに刀奈とセシリアも加わるのだ。
以前、千冬が時守への連絡のために突撃してしまった時の彼女の顔が凄まじくなったことなど、当の本人たちはすっかり忘れている。
「…あかんムラムラしてきた」
「ダーメ。…ほんとにダメだよ?」
「分かってるって。流石に今回の作戦はマジやもんな」
「…うん。じゃあ、着替えよっか」
「んじゃ外出てくるわ」
いくら付き合っているとは言え、時守は基本彼女達の着替える姿を見ないようにしている。
彼女達の美しい裸を見慣れるということはないとは思うが、今のうちにマンネリ化を防いでいるのだ。
「…さて、と」
左手には携帯電話。右手にはイヤホン。
「便所行こ」
何をするかは明白である。
◇
「んっ…や、ぁ…。だめだよぉ、剣…」
「そ、そんなとこ、さわっちゃだめ…」
「きょ、教官…」
「起きているか、ラウラ。…ったく…!あのアホめが…!」
その日の深夜。千冬は隣の部屋から聞こえてくる艶めかしい声で目を覚ましてしまった。
それは彼女と同じ部屋で寝ているラウラも同様であり、友二人の聞いたこともないような声に少し困惑しているようだった。
「待っていろラウラ。お前の馬鹿師匠をたたき出してきてやる」
「は、はいっ」
周りの部屋への近所迷惑も考え、最小限の音に抑えて千冬は時守の部屋へと侵入する。
そこに待っていたのは―
「ぐがー」
「あんっ、もう…剣ったら…」
「えっち…」
「……アホは、この二人だったか」
―三人仲良く同じベッドで寝ている、シャルロットと時守、簪の姿。
と言っても、シャルロットに時守が抱きつきながら寝ており、その彼の背中にさらに簪が抱きついて寝ているというシャルロット過負荷スタイル。
その中でまともに寝ているのが、彼女のアホ弟子だけだった。
「…まさか真面目だと思っていた教え子二人が夢の中でエロいことしか考えてないとはな」
「むにゃ…剣…出しすぎ…」
「何人作るつもり…?」
「牛丼…ラーメン…パフェ…」
「こいつらどんな夢見てるんだ?」
人前で口にしてしまえばあっという間に時守がやばい立場になってしまいそうな言葉を連呼する女子二人。
それに比べてアホ弟子はただ食べたいものであろうものを述べているだけだった。
「むきぐり…柿ピー…オムライス」
「統一性が無さすぎるだろう、お前の寝言は」
「ナポレオンッ!」
「うおっ…!…ナポリタンじゃないのか…」
突如として食べ物から路線が外れた時守の寝言。
「織斑千冬…ゴリラ……。…千冬、ウィン」
「おいアホ。起きてるだろ」
名前を唐突に呼ばれたことに少しドキッとしなかったと言えば嘘になるが、言われたことに対して腹が立った。
確かに知性が人間に劣る動物に負ける気などないが、それでも選んだ動物に悪意を感じた。
「家忠…タダより高いもんは無い…」
「……本気でこいつの頭が心配になってきた…」
いったい時守の夢の中ではどんな世界が繰り広げられているのか。
それはまさに、神のみぞ知るものである。
「サンドウィッチ」
「おっ。食べ物に戻っ―」
「伯爵ゥッ!」
「―らないのかっ!」
思わず少し大きな声でつっこんでしまった。
やってしまったと思うも時すでに遅く―
「すぴー」
「…ほっ。焦らせるな、全く」
―彼は再び、深い眠りへとついてしまった。
「…しかし、こうして見てみると本当に高校生とは思えないほどに幼い寝顔だな。普段はクソ生意気で気だるそうなやる気のない面構えだというのに」
ぷにぷにと寝ている弟子の頬を軽くつつく。
んへぇ〜、とだらしのない顔をしながら、彼はシャルロットに抱きつく力を強めた。
「…色恋沙汰にうつつを抜かしている暇はない…というのは、こいつには無駄か」
既に数ヶ月前から4人の美少女にぞっこんになりながらも、成長率ではぶっちぎりの世界1位を保っているアホ。
とは言え。
「約束は約束だ。―ありがたく受け取るといい、時守っ!」
彼女二人が艶めかしい声を上げたのは事実。
ドズンッ!
彼女の鉄拳が、彼の額に直撃する。
「っ!?ッガ、ァ…!ん…っ、う、ぇ…?」
「ではな。おやすみ、時守」
「え…あ、はい。おやすみ…」
あまりの痛みと衝撃で目を覚ました弟子を尻目に、千冬は自分の部屋へと戻った。
「んぅ…。…どうしたの?剣」
「なんかめっちゃデコ痛い…」
「大丈夫?…うん、赤くなっちゃってるけど、血は出てないよ?」
「……どうしたの、剣」
「あ、簪。剣のおデコが赤くなってるんだけど、何か知ってる?」
「んーん」
千冬が部屋に戻ったあと、今度は悶絶する時守の隣でシャルロットと簪が目を覚ました。
真夜中に起きてしまったが、愛しの彼の様子が少しおかしいこともあり、二人は彼に献身的だった。
「…痛い」
「うん、よしよし。大丈夫。大丈夫だからねー」
「シャルロット、お母さんみたい…」
「ママー」
「もう、剣ってば。痛くないの?」
「痛いので続けてください」
彼に対面しながら寝ていたシャルロットが、赤くなった彼の額を撫でる。
彼の背後で寝ていた簪も少しでも彼の痛みを和らげるべく、その少しばかり立派に育った柔らかい身体を彼の背中に押し付けた。
「大丈夫…?」
「割とマジで大丈夫じゃない…」
「うーん…。でも、そろそろ寝ないと起きてからも響いちゃうし…」
部屋に掛けられている時計を見る。
その時計は3:30を示しており、まだ十分に寝ているはずもないし、起きてしまうにも早すぎる。
「まだ痛い?」
「脳みそがずきんずきんしてる」
「じゃあ…」
シャルロットがおもむろにパジャマのボタンを外して始める。
付けていたナイトブラも器用に抜き取り、顕になったシャルロットの両胸。
「…はい。今日だけだよ?」
「……なんか、抱きついといてアレやけどやってることただの変態やん」
「その変態さんの彼女なんだから、いいの」
「なら遠慮なく」
シャルロットのたわわに実った生乳の谷間に顔を埋める。
ほんのりと甘い匂いが漂い、心なしか痛みが和らいだ気がする。
「あ、寝れそう」
「…相変わらず、スケベなんだから…。じゃあ、おやすみなさい、剣」
「ん、おやすみ。シャル、簪」
「…ん」
ちゃっかりと背中にいる簪の尻を揉むのも忘れない。
良い意味でも悪い意味でも、どこまでも思春期男子を貫き通す時守は、シャルロットの谷間で再び眠りについた。
◇ ◇
「しゃるぅ…」
「か、簪ー…」
「…知らない。剣にそうしちゃった、シャルロットがいけないの…」
朝。
胸元に愛しの彼の頭があり、尚且つ彼の両腕で胴体を抱きしめられたシャルロットはベッドの上で身動きが取れなかった。
「うぅ…。流石に恥ずかしいよ…」
「…剣。ねぇ剣、起きて」
「…ん、…簪?おはよ…。シャルも、ありがと…」
「あ、ありがとう簪…」
動けないシャルロットの代わりに既に起きていた簪が彼の肩を揺すり、起こす。
以前の彼の自宅でのような寝起きではなく、かなりスッキリと起きることが出来た理由は、言わずもがなシャルロットのお陰だろう。
「ほんまにありがとうシャル。お陰で痛み引いたわ」
「なら良かった」
「またやってくれると嬉しいです」
「しない、って言ったよ?」
「二人とも、朝の準備しないと…」
ベッドを降りた簪はパジャマを脱ぎ始めており、その彼女の言う通りいつまでもベッドの上でいちゃいちゃしている訳にはいかない。
「んじゃ着替えるかー。…あ、俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
「うん。じゃあ、その間に着替えちゃうね」
「…入ってきても、いいよ?」
「時間無いんやろ?」
夜と同じく、彼女二人が着替えている間にトイレに行く時守。
「あ、歯ブラシ持ってくんの忘れた。…まあ普通に顔洗ってションベンしよ」
扉を開け、蛇口をひねって顔を洗う。
「…っしゃあ!ぱっちり剣ちゃんの登場や!」
顔を上げて鏡を見ると、先程までとは打って変わってすっきりとした表情の自分が写っている。
顔を洗うまではいつもよりも眠たげだが、今はそれが取り払われており、いつも通りの顔がそこにはあった。
「さて、と。トイレートイレー」
パンツごとズボンを下げ、なんのとは言わないがぶら下がっている竿を握る。
「…ん?ベタついてる…。…昨日拭き忘れたか?ま、ええわ」
用を足し終えてトイレから出る。
顔を洗ったこともあり、足取りも軽くすぐに部屋の前についた。
「着替え終わったー?」
「うん、大丈夫だよー」
「へーい。おっはー」
「おはよう、剣。…すっきりした?」
「おぉ、したでしたでー。冴えまくっとるわー」
時守が部屋に入ると二人は既に着替え終えており、暖かそうな正装に身を包んでいた。
それもそのはず。これから時守達はただの訓練に行くのではなく、フランスのトップ企業の頂点に立つ人物に会うのだから。
「剣も、会うのがお父さんでもマシな格好してあげてね?」
「その件はライン来てたしな。部下へのメンツが保てないんじゃーって」
「えぇ…」
「社長なんでしょ…?」
「そこはアレや…。うん、アレ」
「怖いよ…」
いくら社長令嬢のシャルロットと付き合っているからとは言え、今やIS関連企業のトップクラスとなったデュノア社の社長と普段からやり取りする時守の私生活に思わずため息しか出ない。
「さて、と。ほな久しぶりのフランス上陸と行きますかー!」
千冬とラウラはもう電車を降りてきているようで、時守たちも三人揃って外に出る。
「って、さっむ!?あかん死ぬ…」
「もう、だから言ったでしょ?」
「…はいマフラー」
隣に立つシャルロットと簪が巻いているマフラーが、時守の首にも巻かれる。
そしてその両手が、また彼女たち二人が着ているコートのポケットに入れられる。
「あったか…」
「…」
「…」
「ん、どした?」
「ほっぺだけじゃなくて…」
「手もスベスベ…赤ちゃんみたい」
「失礼な」
美肌系関西出身男性操縦者、時守剣。
地味に化粧品などのCMが決まっているのは、まだ内緒である。
「お、出てきたか時守。…相変わらず仲が良いのは構わんが、分別はつけろ」
「分かってますって。ジェイムズさんも、お久しぶりです」
「えぇ。お嬢様とこれからも良いお付き合いをお願いします」
シャルロットの使用人である初老の紳士、ジェームズに時守が話しかける。
駅で出迎えてくれた彼にも時守とシャルロットの関係は筒抜けであり、
「ほんじゃ、デュノア社行きましょか」
「お前がしきるな」
すぱん、と軽く千冬が時守の頭を叩く。
フランス空路組がデュノア社へと赴こうとしていた。
シャルロットによしよしされたい人生だった…。
変態さんの彼女だからいいの、とか言われたかった…!
バレンタイン一人ぼっちだったけど…!
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