IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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最近二次小説を書くのが楽しくてたまりません。
これからはエタらず頑張れそう…かな?


2度目のフランス

 

「一夏、くれぐれも変なことをしないようにな」

「特にセシリーになんかしてみぃ。お前、これやぞ」

「だ、か、ら!大丈夫だって!」

 

 電車の乗り降り口にて、車内からホームに立つ一夏に向かって首を掻き切る動作をしてみせる時守。

 時守の付き添いである千冬も、実の弟にそんな行為をされると、普通は気分が良くない。

 しかし、一夏はかなりの前科を持っているのだ。

 

「とか言ってお前着替えとか覗くやろ」

「の、覗かねぇよ!」

「一夏、入学式の日を覚えてるか?」

「僕が女の子って分かった時のことも覚えてる?」

 

 入学式の日には箒の下着姿を見てしまい、シャルロットのいざこざの時は浴室で彼女の全裸を見てしまったのだ。

 

「扉を開ける前には!?」

「ノックと声掛け、だろ?分かってるって」

「……分かってないから、みんな言ってるの」

 

 時守と同じく車両の中に立っている簪のその一言に、女性陣が軒並み首を縦に振った。

 

「…俺、そんなにノックしてないか?」

「大事な時にな」

「大事な時って何時だよ」

「着替えてる時やアホ」

 

 千冬や時守ならまだいい。だがそれが、箒や鈴やラウラ、そして時守の彼女である刀奈や簪、セシリアやシャルロットならば、とんでもないことになってしまう。

 いくら箒達が一夏に好意を持っていようとも、まだ恋人関係でないのならばそこに羞恥心が出てくるのだ。

 

「むっ。お前たち、そろそろ時間だ」

「うぃーっす。んじゃ、セシリー。またイギリスで」

「はいっ。剣さんも、お気をつけて」

「あぁ。…ワンサマになんかされたら撃ち抜いてええからな」

「おいっ!?」

「もちろんですわ」

「セシリア!?」

 

 兎にも角にも、ここドイツで2手に分かれるのであった。

 

 電車が出発し、外の景色が流れていく。

 

「ふふっ」

「ん、どないしたん?シャル。えらい機嫌良さそうやけど」

「だって、最初IS学園に来た時は、こんなに明るい気分でデュノア社に戻れると思ってなかったもん」

「まあお義父さんとは今も連絡取ってるしな」

「あ、そうなんだ」

 

 適当に腰掛けた座席で5人で話す。もしここに時守がいなければ千冬といることのプレッシャーで変になってしまいそうなシャルロット達だったが、やはりこの男がいると話が弾みやすい。

 

「えっと…、その、シャルロットのデュノア社の話って、あんまり知らないんだけど…」

「あー、そういやまだあんまり喋ってない時期やったな。えっとな、実は悪いのがシャルの義母で、お義父さんとシャルは被害者やった、的な?」

「ふむ、女尊男卑の風潮か。近代では確かに珍しくない話だ」

「やっぱそうなん?ラウラ」

「あぁ」

 

 シャルロットの話から、時守の知らない近代情勢についてラウラが話し始める。

 

「ISが出る以前は、それこそ有能な人材ならば男女関係なく活躍できていた。…というのは、今さらか」

「イマサラタウンやな」

「だが、ISが出て以降、良くも悪くも多くの分野でISは影響をもたらしたのだ。…師匠が男女平等…いや、男女対等の法律に組み替えるきっかけになったとしても、人の感情というのは簡単には変わらんからな」

「…まあ、その辺については発言者である俺に責任あるし、できるだけみんなが過ごしやすくできたらええねんけどな」

「…剣、政治家みたい」

「IS操縦者引退したらやってみよかな」

「そんな軽い気持ちでなられてたまるか。国民の気持ちを考えろ」

 

 途中、冗談が入りながらも、ラウラと時守という普段抜けに抜けている二人のやや真面目な会話は続く。

 

「とはいえ、師匠のしたことは決して無駄ではない。いびつで、少し時間がかかるかもしれないが、ちゃんと男女が打ち解ける日も来る」

「お前がワンサマに気持ちを打ち明ける日は?」

「ぶぅッ!?な、ななななななな…!い、いきなり何を!?」

「いや、ラウラが打ち解ける、って言ったから似た語感で出てきてん」

「そ、そうか。……そ、卒業までには…」

「ちっふー先生?」

「ダメだ。3年に上がるまでに告白しろ。…ただでさえ、学園の一部で不能疑惑が出ているんだ…!早めに女というものを弟に教えてやってくれ…」

「不能って…」

 

 しかし、真面目な話が終わった途端にこうして凄まじい方向にベクトルをずらすのが、時守剣という男なのだ。

 

「時守、一夏とそう言った話にはならないのか?」

「えげつない人選しますねホンマ…。あんまないっすね。更衣室とかでもそんな話はほとんどないっす」

「ほう、なるほどな。まあ普段こういう場所にいると普通の男子高校生がどんなものかというのが分からないからな」

「俺とアイツを普通の括りにしたらあかんと思いますよ?」

 

 世界に二人しかいないISの男性操縦者で、片方は三次移行や重婚などやりたい放題にハチャメチャしまくっており、もう片方は世界最強織斑千冬の弟で、究極の朴念仁として一部の人間に知られている。

 

「まあでも、俺が言うのもアレですけどしばらくはISに集中させたらええんとちゃいます?」

「そうだな。私としては、もう少し自分で打開していってほしいところなんだが…」

「そこも、ひとまずワンサマに任せといたらどっすか?」

「あぁ。…うん?どうした、お前たち」

 

 千冬が時守に相談する、という見慣れない光景を目の当たりにしてしまった3人が、ようやく口を開いた。

 

「い、いえ。織斑先生が師匠に相談を…」

「…なんだ、それが珍しかったか?まあ、こいつは良くも悪くも頭が冴えているからな。ふざけていなければそれなりに有能だ」

「おっ。ちっふー先生に褒められた……もっと褒めてもいいんでっせ?」

「こういう所が無ければ、な。まあ何にしろ、優良物件を捕まえたな、デュノア、更識」

「あ、あはは…」

「…ありがとう、ございます…」

 

 シャル達の方が俺なんかよりも魅力的やのになー、と独りごちる時守。

 ラウラも、見たことのない恩師の姿を見たからか、少しばかり狼狽えていた。

 

「…はっ!きょ、教官も私達と同じ人間だった!?」

「おい」

「いやー、ラウラもええボケを覚えてきて俺は嬉しいわ」

「ラウラのはボケじゃない気がするのは僕だけかな、簪」

「ううん…。私も、本気で言ってると思う…」

 

 とにかく、賑やかで楽しい雰囲気で5人はフランスへと向かっていく―

 

 

 ◇

 

 

 ―はずだった。

 

「…ちっふー先生。…俺、これに関してはほんまにキレますよ」

「……すまん、時守。これは完全に私の落ち度だ」

 

 テーブルを囲う5人。

 場所も変わらず、一列には時守を挟む形でシャルロット、時守、簪が。もう一列には、ラウラと千冬が座っていた。

 変わっているのは、そのテーブルの上の惨状と、時守と千冬の表情だ。何ヶ国語かの言語で書かれた様々な資料が散在し、時守と千冬のお互いがパソコンを忙しなく操作していた。

 

「書類あるなら日本でちゃんと渡しといてくださいよ…」

「…すまん。私自身の仕事に追われていた…というのは、言い訳だな」

「また呑みに行きましょ。パーっと」

「…ぐすっ。本当に、良い弟子に、育ったものだ…!」

「泣くところそこですか!?」

「師匠はまだ未成年でしょう?」

「……織斑先生と、二人で行くの?」

 

 呑みという単語で泣き始めた千冬をシャルロットが窘め、ド正論をラウラが放ち、簪が軽い嫉妬を向ける。

 場がカオスになりながらも、二人の手は止まらなかった。

 

「大丈夫や、簪。…この人、酔うたら泣くわ喚くわして勝手に寝るから」

「…時守。それは、本当に言わないでほしいんだが…」

「それに国外やったら俺の年齢でも軽く呑めるとこはあるし、いざとなったらテレフォン使って理事長呼び出すもん」

「うわっ…」

 

 今や一教師となってしまった千冬にとって、圧倒的上司の理事長にはどうやっても逆らえない。

 もちろん、不服なことや非道なことをされれば抗議はする。

 しかし、自分がしでかしてしまったことに対しては、千冬は平謝りするしか無いのだ。

 

「まあほんまはそれ以上に酔い癖悪いけどな」

「っ、時守…」

「冗談っすよ」

 

 千冬の真の酔い癖。

 まだ時守はそれに直面したことは無いが、束やナターシャ曰く、抱きつき魔とキス魔と化すらしい。

 それを時守にしてしまえば、完全に事案となってしまうこと程度は酔った千冬も分かっていた。

 

「さてと、お仕事お仕事」

「あぁ。再開するか」

 

 つかぬまの茶番を終え、二人は再びパソコンの画面と資料に目を通していく。

 

「えーっと何々…?『国際連合IS新代表候補生候補リスト』、か。『良さそうな実力者を選んだので、貴方が戦いたい、強そうだと思った人を選んでください。その人を候補に加えます』…え、マジ?」

「束とか出すなよ時守」

「んー…。でもこのリスト見る限りそんな強そうな人おらんねんなー。どう思う?シャル」

「そのリスト僕が見てもいいの?」

「参考程度って感じや」

 

 おそるおそる覗くシャルロット。

 将来の旦那よりも格が下になるが、確実に自分よりは格上の存在ばかりが並んでいるであろうそのリストには、おびただしい数の人名が書かれていた。

 

「えっ…!す、凄い人ばっかり…!」

「え、そうなん?」

「そうだよ!元ロシア代表のログナーさんもだし、フランスの元代表のエミリーさん、ドイツのアンナさんに、アメリカのイーリスさんまで…」

「イーリは現役やからなー。言うても、そのメンツとも普通に顔合わせたことある、し…って、電話?…えっ」

 

 シャルロットに書類を一旦預かってもらい、意外な人物から掛かってきた電話に出る。

 

「あ、お久っすロジャーさん」

『あぁ、久しぶりだね。…今、大丈夫かい?』

「周りにちっふー先生とか、俺のクラスメイトとかいますけど」

『…ならば、オブラートに包んで話そうか』

「うっす」

 

 千冬が静かに作業をしており、ラウラ達も時守が電話に出ているため会話はしていない。

 となれば、このテーブル一帯は時守と電話越しのロジャーの話し声しか聞こえなくなり、ロジャーの声も少しばかり筒抜けになっていた。

 

『…新しい武装、作っておこうか?』

「ちょっ…!それはマジで、オブラートに包めてませんて…」

『だがそう呑気に黙ってもいられない。私だって君には度肝を抜かれているんだ。…今の君には、必要だと思うが?』

「あー…、まあそうっすけど…」

 

 ロジャーとの会話が始まり、明らかに普段とは違う様子で若干の焦燥を見せる時守。

 そんな彼を思ってか、隣に座る簪が彼の左手を優しく握った。

 

『それに、リストも渡しただろう?あの中から君のお眼鏡にかなう――』

「俺に気に入ってもらいたい国があるんなら最低限、単一仕様能力を発現させてから出直してこいって言ってほしいわ」

『…と、言うと?』

「今の時点でも至る国で戦わされてるけど、雑魚ばっかでおもんないねん。…せめて、モンド・グロッソの準備期間になる来年ぐらい、強いやつと戦わせてくれ」

『……あぁ、分かったよ』

 

 簪の手に包まれた左手で、彼女の手の感触を確かめるように優しく握り返す。

 その一方で、口調は荒いものへと変わっていた。

 

「毎度雑魚の腕試しみたいなんに使うなって釘刺しといてや。…俺かてゲームのラスボスとちゃうねん。1回ゲームオーバーになったからって、電源消していくらでもやり直しなんて、俺が嫌やわ」

『了解した。ならば、これからはしっかりと君の要望に答えられるよう、頑張ろう』

 

 ロジャーはそう言うが、電話越しでも簪たちは分かった。時守のその願いは簡単には叶わないと。

 最低でも単一仕様能力の発現と、彼は言ったのだ。その最低限に辿り着けるだけの人間が、今この世の中に何人いるのか。

 

「まあ、最低限ワンオフって言いましたけど、無理なら無理でぶっ壊れ性能の軍用機相手でもいいんで」

『っ!時守くん、それは流石に…』

「…そんだけ、もう似たような国の似たような実力のやつとはやってきたんすよ。ちょっとぐらいのわがままも無理なんすか?」

『……はぁ。分かった、分かったよ。要望は通してみる。だが、もし軍用ISとの模擬戦が決まれば、本気で取り組むんだ。いいね?』

「うぃーっす」

 

 流石に各国の代表を舐めすぎだという意見を伝えようとしたロジャー。

 しかし、この年の夏休みにはただでさえ多忙な彼を世界中で引きずり回し、代表やその候補、軍属IS操縦者達と戦わせてきた。

 その結果、彼は強くなった。千冬や楯無といった、トップクラスの人間でないと競り合えないぐらいに強くなった。

 

『あらかじめメンタルの強いものは呼んでおく』

「えっ、なんで?」

『…はぁ、まあいい。君もまた強くなったからね。つまりは、そういうことさ』

「メンタル強いのもええけど、ちゃんと実力のある人も頼むわ」

 

 改造した軍用ISで男性操縦者と戦ってほしい。

 そう伝えても、快く了承してくれる人間がどれほどいるか。舐めるなと、怒るものが大半だろう。

 そして、そのうちのほとんどが彼にろくなダメージを与えられずに完敗する。

 そんなこと、メンタルが強い者で無ければ耐えきれるはずがない。

 

『ということは、最低限国家代表クラスの選手、だね?』

「そっす。頼んますよー」

『あぁ。任せてくれ』

 

 電話を切る。

 時守はほっとした表情で辺りを見渡すが、彼を見る目はある一種の恐れのようなものを孕んでいた。

 

「あれ…どないしました?ちっふー先生」

「いや…随分と、凄い物言いをするのだと思ってな」

「まあ当然っちゃ当然でしょ。…普段は、IS学園1年生の時守剣ですけど、国連の舞台で戦う時は国際連合代表の時守剣っす。そりゃ見方も変わりますよ」

「…そう、だな」

 

 言われて納得した。

 仮に千冬が学生だとして、当時IS学園に通う立場であれば、そこの生徒としてやれと言われたことはやる。

 しかし、1度モンド・グロッソで優勝し、日本代表としての立場で戦えと言われ、相手に格下ばかり用意されては気分が良くない。

 

「しかも、この我慢もあと数ヶ月すりゃ終わりっす」

「だな。…まあ、こちらの苦労は増えるが気にするな」

「いやー、そう言ってもらえるとありがたいっすわ」

「ねぇ剣。なんの話?」

「…あ、そか。シャル達にはまだこの話通ってへんのんか」

 

 千冬と時守の間だけで成立し始めた会話に、シャルロットが割り込む。

 どの道、シャルロットが聞かなくても簪かラウラが聞いていただろう。

 

「来年、俺らが2年になると同時にな、IS学園にモンド・グロッソ出場予定の選手が合同練習しにくんねん」

「えっ、そ、そうなの!?」

「まあ言うても、合同練習はその時点で代表になってる人だけやけどな」

「お前たちも浮かれてはいられないからな。…母国に残っている代表候補生を連れてきて、その場で代表を決めるという国もあるそうだ」

 

 ヨーロッパ各国とかな、という千冬の言葉に、シャルロットとラウラの背筋が伸びた。

 今までこれだけ多くの専用機持ちと代表候補生に囲まれて感覚が鈍っていたが、それはモンド・グロッソに出る国家代表を決めるための候補生。

 代表候補生の肩書きは、決してIS学園に入学するためだけのものでは無い。

 

「あぁ、更識。お前も油断はしてられんぞ?」

「…分かって、います」

 

 軍隊長であったラウラでも、暫定トップの簪でさえ、まだ代表として確定ではない。

 IS学園でモンド・グロッソ出場が決まっているのは、時守と楯無だけなのだ。

 

「普段の行いはともかく、こいつのワンオフの扱い方以前のISの基礎に関しては、私も多少は認めている。たまには見本にしてみろ」

「普段の行いはともかくってのは余計っすよ」

 

 1年生から2年生、それも、モンド・グロッソの開催年へ。

 着実に、時が進もうとしていた。




6000字程度しか書けていませんが。

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