IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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着々と原作との変更点が出始めてきております。

オリジナルストーリーが出てくるのはこの次の章になる予定です。


いざ欧州へ

「剣さんは当然として、楯無さん、簪さん、シャルロットさんはまだ分かりますわ。織斑先生と、山田先生もまだ納得いきます」

 

 ロシア上空。セシリアは自身が所有する自家用ジェットの機内でわなわなと震えていた。

 

「なぜ皆さんがいますの!?」

「何よ、いちゃだめって言うの?」

「デートの邪魔をしないでくださいましっ!」

「デートではない馬鹿者」

「ふみゅっ!?」

 

 この場になぜそれがあるのかは分からないが、千冬の懐から取り出された出席簿がセシリアの頭を捉えた。

 あの日、Deパークで二人が出会ったセシリアの従者であるチェルシー。彼女の発言は明らかな罠のように思えた。

 その真実を知るべく、セシリアと時守は二人でイギリスに向かう予定だったのが、いつの間にかメンバーが増えていたのだ。

 

「まあまあセシリア。みんなセシリアのことが心配なんだって」

「う、うむ。そうだぞ」

「このジェット機には赤外線感知センサーは付いているのか?」

「付いてはいませんが…どうしましたの?」

 

 増えたメンバーというのは、言ってしまえばいつものメンバーだ。

 時守とその彼女たち、一夏、箒、鈴、ラウラ、そして一年一組の担任、副担任だ。

 

「あれ、そういや剣はどこ行ったの?」

「……剣は今、備え付けのトイレに行ってる。離陸前に食べ過ぎたって…」

「アホでしょあいつ」

 

 イギリスに向かう面々の空気は軽い。

 流石にゴーレムやら亡国機業やらが飛んでくる自体となれば話は変わるが、今はまだ空の旅の真っ最中。

 イギリスに着くまでは常に場を張り詰めなければならない、というわけでもない。

 

「…本当に付いてないのか?」

「でしたらどうですの?」

 

 しかし、そんな機内に投じられた一石。

 それはラウラの言葉と、その彼女の後ろの窓に映る大きな影だった。

 

「み、ミサイル!?」

「またあの国か!」

「ほんっと、いい加減にしてほしいわよ!」

「授業中にもアラート鳴ってうるさいし!」

「お姉ちゃんに言って叩き潰してもらう…!」

 

 どん!と大きな爆発音。

 各人ISを展開し、ジェット機から飛び降りる。その時、簪が思い出した。

 

「……あ。け、剣は…?」

「っ、た、確かまだおトイレに…!」

「剣くん!?」

「けえええん!」

 

 シャルロットの叫び。それに呼応するかのように、爆炎の中から光が現れた。

 

「やばいやばい。もうちょいで放送規制のかかるえげつないもん見せてまうとこやったわ」

「ぶ、無事なの…?」

「ん?おぉ、無事や無事。なんか衝撃きたお陰で便秘治ったし、そっからも割と展開する余裕あったしな」

 

 ミサイル直撃から爆発までそれほど時間に余裕はなかったはずだが、こんな形で無駄なハイスペックを発揮した時守。

 彼の肌には傷一つついていなかった。

 

「てかワンサマとセシリー人抱えてたら手塞がるやろ。貸してみ」

「あっ」

「すみません剣さん…」

 

 一夏が抱えていた千冬とセシリアが抱えていたパイロットを『ランペイジテール』を巧みに操り、彼らの腕の中からするりと巻き取る。

 

「おいこら時守。人を物のように扱うな」

「んじゃはよ学外でのIS使用許可もぎ取ってきてくださいよ」

「……はぁ。流石に生身では飛べんからなぁ。今は仕方なく持たれてやるとしよう」

 

 IS学園内で千冬とこれほどまでに対等な立場で話せる生徒は他にはいないだろう。

 などとその場のほとんどが考えていると、爆炎の側にいた女が降りてきた。

 

「流石に今のじゃ堕ちないカー。ねぇ、更識楯無さん」

「あ、狐目クソサイコレズ」

「アァ!?テメーはファッキン関西人…よくも、よくも私のお姉さまを…!」

「あら残念。私の妹は簪ちゃんだけよ?」

「……お姉ちゃん」

 

 空中にいたのは、かつて楯無にロシア国家代表の座を奪われたログナー・カニーチェ。

 密かに楯無ラブを貫いていた彼女だが、時守と楯無が交際を始めたことを知り絶句。

 以来、もう隠すことも我慢することもやめたのだ。

 

「ファッキン関西人とか言うてるけど、お前そいつに一回も勝ててへんねんで?」

「じゃかぁしいワ!お姉さまから離れろ!」

「私の幸せを願ってるのなら、剣くんとのお付き合いを応援してほしいわ」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!究極の選択が私に迫る…!」

「さ、剣くんも簪ちゃんも、みんなと一緒に先に行って?…織斑先生、引率をお願いします」

「あぁ、任せろ」

 

 ばっと広げられた扇子に書かれていたのは、「また後で」という文字。

 時守と簪はその言葉を信じ、シャルロットたちの元へと向かった。

 

 

 ◇

 

「なぁ剣。本当に楯無さんについてなくて良かったのか?」

「んー…まあ順当に考えてカナが負けるわけないし、あの狐目がカナに傷つけへんやろしな。多分ロシア側からの迎えついでに久しぶりに手合わせってとこやろ」

「はぁ〜。よく分かりますねぇ、時守くん」

「ログナーそんな強ないですしね」

 

 1年生専用機持ち達8人と真耶の計9人でドイツへと向かう。

 と言っても、このドイツ経由は最初からルートの中に入っていたものなのだ。

 

「元国家代表よ?」

「まあそれでも第二形態移行したカナに完敗ってことは、さほどやってことや」

「そういうものなの?」

「そういうもんや」

 

 ISバトルでは機体の性能と操縦者の技量が勝敗を大きく左右する。

 実力が均衡した国家代表クラスの戦いでは、言わずもがな機体の性能が差をさらに大きく広げる。

 

「そっすよね?ちっふー先生」

「まあな。時守のようなバランスのいい第二形態移行が出来れば、ISに乗りなれた者なら、簡単に勝てる…かもしれないな」

「その辺には単一仕様能力の使い勝手も関わってくるってわけで。なー、ワンサマ」

「来ると思ってたわ!」

 

 単一仕様能力の使い勝手の良さ。その話題になれば必ずと言っていいほどに出てくるのが、一夏の『零落白夜』と時守の『完全同調・超過』だ。

 

「一発当てたら勝てんねんぞ?普通に使ったら連戦連勝やろ」

「お前に当てられないから俺は負けてるんだが?」

「そりゃ俺の単一仕様能力は俺の技量に依存してるからなー」

「おまけに雪羅が出てきてから余計難しくなったし…」

「慣れろ」

「うぐっ…」

 

 国連代表という立場に置かれ、第三形態移行まで済ませ、四つの単一仕様能力を発現させた時守にそう言われ、言葉が詰まる一夏。

 この中でISにトップクラスで慣れている時守だからこそ言える言葉だった。

 

「慣れろって、ISでジュース買いに行かせるやつ?」

「あれは初級編やで、シャル」

「じゃあ…上級編は?」

「地上から10cmの所で仰向けに寝転びながら1時間浮遊すんねん」

「えっ…」

「ちなみに本当だ。私が現役の時は、逆立ちでアリーナを一周などだな」

 

 あいも変わらず代表クラスの人間は何をやっているのだろうか、と考えてしまう候補生達。

 変態機動が得意な時守、言わずもがなの千冬、そして冷静に考えればナノマシンの入った水を手足のように操るという常人離れしたことをしている楯無。

 慣れるにしてももう少し他に方法は無いものか。

 

「ま、慣れたら強なれるってこっちゃ」

「もっと、頑張らなきゃ…」

「頭の中からISを展開してるって感覚すら抜けたら合格やで」

「どんな感覚よそれ」

 

 こんなにも大きくて翼すらあるものを、正しく服を着ているかのように操るのだ。

 その感覚を身につけるには、それ相応の時間の訓練が必須となる。

 

「あ。てかパイロットさん痛くないっすか?」

「えっ?は、はい。大丈夫ですけど…」

「……おい。なぜ私には聞かん」

「いや、ちっふー先生やったらこんぐらいでダメージ受けへんかなって」

「…ドイツに着いたら覚えておけよ貴様」

 

 ランペイジテールにくるりと包まれたパイロットと千冬。

 彼女達に落ちてしまうかも知れないという不安など一切持たせることなく、時守と専用機持ち達はドイツへと向かった。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「お久しぶりですっ!教官っ!大先生!」

「うい、お疲れクラリス」

「出迎えご苦労、クラリッサ」

『ご苦労様ですっ!!!』

 

 時守達一行がドイツの黒ウサギ隊の基地に降り立った時、彼らの前には既に黒ウサギ隊の面々が整列していた。

 そしてその中央、一人だけ列よりも一歩前に出て時守達を迎えたのが、黒ウサギ隊副隊長のクラリッサだった。

 

「予定よりも少しばかり遅かったですが…何かありましたか?」

「カナがストーカーに捕まってもてな。今はその対応してるとこや。その間に準備を進めるために俺らだけで先にドイツ入りしたってとこや」

「なるほど…。では、早速オペレーション・ルームにご案内を?」

「あぁ、頼む。こいつらも、快適な空の旅でさほど疲れてはないだろうからな」

 

 ラウラがIS学園にいるということもあり、現状での黒ウサギ隊のトップはクラリッサだ。

 その彼女と引率である千冬、そして先導して物事を決めていく時守が揃っているため、何の滞りもなく会話が進んで行く。

 

「目的地のイギリスまでは、我がドイツを通るルートと―」

「途中にデュノア社に寄らなければならないため、フランスを通るルートだな」

「ロシアとアメリカを通過してそのまま突撃する世界一周ルートは?」

「そんな頭の悪いルートは世界中でお前と束ぐらいしかできんだろう。行くなら一人で行け」

「冗談で言っただけですやーん。…あ、せやクラリス。アリーナ空いてる?」

「空いてますが―」

 

 クラリッサ、千冬、時守。

 黒ウサギ隊、IS学園、IS学園1年生。それぞれの集団の中での最強が率いて施設の中へと入っていく。

 

「んじゃさ、ちょっとだけ貸してくれへん?改造ラファールも」

「ラファールも…ですか?うちに置いている改造のものは、それこそ当時の織斑教官しか使えないようなものしか…」

「おぉ、それでええよ。アリーナもそんな長い間使わへんし」

「分かりました。…それで、一体誰と模擬戦を?」

 

 すでにその列には三人しかいない。

 IS学園1年生はラウラによる施設の説明を受け、黒ウサギ隊の面々はその二つに分かれた集団を後ろから見守っていた。

 皆が皆それほど大きい声で話してはいなかった。そのため―

 

「ん?ちっふー先生とやで?」

 

 ―その声は、いやというほどに響いた。

 

「ん、私と…か?」

「最近これといって実践形式してませんでしたしねー」

「だからと言って、いきなり私か?」

「ま、相手としては一番不足ないっすしね」

 

 IS学園では、千冬が暮桜の次に乗り慣れた打鉄を千冬仕様に改造したものを使っていた。

 時守が二次形態移行していた時は、単一仕様能力を使わないという縛りでの模擬戦はあったものの、三次形態移行してからは互いの予定もあり、実現しなかったのだ。

 

「ということは…」

「ワンオフの調整に付き合ってくれたら嬉しいなーって」

「ふん。私が勝てば、高い焼肉でも奢ってもらおうか?」

「うわ。生徒に奢らせる気とかマジかこの人」

「ほれ、私が条件を出したんだ。お前も何かないのか?」

「そっすねー」

 

 時守と千冬以外の人間は、この会話にもちろん聞き耳を立てている。

 

「俺が勝ったら、国連代表としての権力使うんでこれから暮桜使ってくださいね?」

「……そうだな。本当にお前の権力でもどうなるか分からないものだが、もし実現できたら、今度は暮桜で戦おう」

「んじゃ、交渉成立ってことで」

 

 IS学園でも実現しなかった時守のみ単一仕様能力アリの公開師弟対決が、異国の地ドイツで実現する――

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ま、言うてその前にこれがあんねんけどな」

「黙れ時守。それでは、改めて現状を確認する」

「え、さっきも言うたとおり、カナはロシアから、俺らはドイツとフランスからってことやないんすか?」

「それについての人の振り分け方だ」

 

 二つのルートに分けるとだけ聞かされていた生徒たち。

 時守も含めて大半の人間が初耳となる理由を時守から聞かされることとなる。

 

「まず、ドイツからの海路。こちらには山田先生を引率に、オルコット、篠ノ之、凰、織斑だ」

「…なーる。下手し、ラウラが国内の変な組織に狙われてるかもしれんってことっすか」

「まあそれもあるが、単純にここですでに作戦用の重装パッケージは受領済みだからな。あとは、私の監視下にあった方が扱いやすい」

「それ本人の前で言うんすね」

「海路だからな。監視下で扱いやすいかどうかは大事なんだ」

 

 ほんまやろか、と時守が思う中、何人かはその会話に冷や汗をかいていた。

 ラウラが一夏のことで暴走し始めたら止められる気がしないので千冬側に行って欲しかった真耶。

 事実、千冬と同じがよかったラウラ。

 黒ウサギ隊が確かに国内に少数ではあるが敵を作ってしまっていることを知っているクラリッサ。

 三人の心臓は、バクバクと鼓動を続けていた。

 

「そして、織斑、篠ノ之。お前たちも少し、私から離れ、違った視点でものを見てみろ」

「は、はぁ…」

「分かりました…」

 

 今まで、千冬と一夏、箒は嫌でも近くにいることが多く、また近くにいることが当たり前になっていた。

 そのため、敢えて千冬から離れることで新しいナニカの発見を促そうという考えだ。

 

「次にフランスからの空路だが、時守、デュノア、ボーデヴィッヒ、更識に、私が引率としてついて行く」

 

 人数的にも人選的にもこちらの方に戦力がやや偏っている気がするが、それは致し方ないことだというのが、千冬の考えだった。

 

「どうしてもフランスのデュノア社までは陸路を通ることになるからな。万が一の襲撃に備え、襲撃に手馴れたメンツを連れていく」

「さりげなくディスられた気がする件について」

「同じ意見です、師匠」

 

 軍出身のラウラと襲撃請負人時守。

 そこに、代表候補生の中でも上位の腕前を持つシャルロットと簪、そして千冬自身が居れば問題ないだろう、というのが最たる理由だ。

 

「まあ時守に頼るつもりは無かったんだがな。こいつこそ私の監視下に入れて置かなければ何をしでかすか分からんからな」

「そ、そこまでガキちゃいますわー」

「…まあいい。ここまでで質問のあるやつは…いないな」

 

 オペレーション・ルーム全体を見渡し、異論がある者がいないことを確認する。

 それもそのはず。すでに出ている指令には従うほかなく、ここに来ている時点で手練れていることに間違いはないのだから。

 

「ふむ。…では、出発の時間までは余裕がある。ボーデヴィッヒかクラリッサの案内で各自施設を見回るもよし、休憩するもよし、各々好きに時間を潰しておけ」

 

 千冬がそう言っても、誰一人として席を立つ者はいなかった。

 IS学園関係者も、黒ウサギ隊の人間も、誰一人としてである。

 

「ん?どうした」

「あ。多分みんなアレちゃいます?腹減ったとか」

「おぉそうか。すまんなお前たち」

『違います!』

 

 時守と千冬のその掛け合いに二人以外の全員が声を荒げた。

 

「腹痛いんか」

「違う!お前が千冬さんと模擬戦をするからだ!」

「えっ。それでみんな残ってたん?」

 

 箒が時守に怒鳴ると、ほぼ全員が頷いた。

 

「あぁ、そうか。そういえばお前その訓練は完全極秘扱いとして非公開にしていたからな。お前と私の本格的な模擬戦はあまり知られてないんだろう」

「なーるへそ。ってことは、みんな俺とちっふー先生の模擬戦が見たいと」

「ま、まあそうなるな…」

「何より、世界のトップクラスの戦いには違いないしね」

「んー。結構大口叩いといてあれやけど、俺も自分が今どんぐらいの強さか知らんで?」

「それも踏まえての模擬戦だ。時守。お前も、少し本気を出せ。私も出せる範囲で出す」

「うっす」

 

 今後の作戦に響かない程度。それでも、千冬とその弟子の時守が本気を出して戦うというのだから、気にならない人間の方が多い。

 

「ほな早速行きましょか」

「あぁ。開始は?」

「ちょっと準備欲しいんで、30分後ぐらいでどうです?」

「分かった。では、先にピットに入っておく」

「了解っす」

 

 今ここに、世紀の対決が始まろうとしていた。




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