深淵の異端者   作:Jastice

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第7話 外国語が喋れる奴は仕事でアドバンテージを誇れると見られるよ

 皆さん改めましてこんにちわ、ハイル・シュヴェールです。

 今や16歳となり、立派に今――。

 

「ハイル、そっちの網を早く引け!」

「だあぁぁぁッ! 重えぇぇぇッ!!!」

 

 ――父の漁の手伝い係に任命されました。

 なぜかって? もちろん小遣い稼ぎです。

 この世界の漁の仕方は一般的に網漁とされている。

 竿釣りも一応あるらしいが、大物限定で使うので、それでは商売にならないから主漁にしている人は大していないそうだ。

 しかも魚の種類は多くして市場に売り込むのが得策と、父は経験談を語った。

 

「網は束ねて持て。広がったまま引っ張るんじゃない。破れるぞ!」

「くぬうぅぅぅッ!!!」

 

 しかし、さすがにこれは堪える。

 めっちゃくちゃ辛いです、何十キロあるのかと思うわ!

 元傭兵だからこその父は楽々に引いているのに。

 ……筋力はやっぱ付けた方がいいのかもしれん。

 

「よしよしよし、今回も収穫ばっちりだ」

「ぜぇ……ぜぇ……やっと引き上げられた……」

 

 ようやく仕事完了。

 この量だとすると、よくて3000Gくらいは儲けられるな。

 この世界の月間生活費は一家一人で2000G程。漁は週に2、3回行うようにしてるから月額最高40000G稼げる。

 つまり、色々と引いて一家の月間に蓄えれる貯金は最高20000Gとなる。

 

 これで普通だから恵まれてる方だと俺は思う。

 この世界でもやはり貧民という人達はいる。

 そういう人達は戦争で親を亡くした子供たちや男手がない母子家庭、またはその影響で仕事場を失くした者達がそうなってしまう場合が多い。

 現にマルクトの首都グランコクマにも影でひっそりと生き続けてる者達がいるのだ。

 だが、中立国のダアトや貴族政の意識が高いキムラスカよりは少しばかり人数は少ない。

 戦争の実績が良い方が難民も少なくなるのは嘗ての世界でも同じだったな……。

 

「おや? 向こう側から偵察船が近づいてきているな」

「ん? どうしたんだ父さん」

 

 おかしいな、フェレス島の領域海を犯してやってる訳ではないんだが?

 そうしている内にも向こう側から「止まれ!」の命令サインが出されてるのが確認できた。

 ……まぁ、話は聞いておこうか。

 

「立ち止まれ、お前達は何者だ」

「いえ、私達はここら辺の海域で漁をしている者達です。別に怪しい者ではありません」

「…そうか、なら警告させてもらう。今日からここいらの海域での留まりは禁止との通令が下された。我がマルクトとキムラスカとの国境線での小競り合いが始まった事でしばらく危険な状態が続くとの話らしい」

「はぁッ!? ちょっと待ってくれよ! それじゃあ俺達を含めた漁師はどうやって仕事すりゃあいいんだよ!? ここら辺じゃないと良いのが獲れないんだから無茶言うなよ!」

「この指示は皇帝陛下による物だ。逆らうというのなら国家反逆罪となる可能性があるぞ」

「ハイル、やめろッ! ……倅がご迷惑をお掛けいたしました。すぐ終わらせます」

「父さん!?」

「何も言うなハイル! ……行くぞ」

 

 父はそれ以上何も言わず、船を漕ぎ始めた。

 俺にも分かっている。この世界は絶対王政が布かれている。

 王の命令に逆らう事は即罪人と見なされ、最悪処刑だ。

 父も俺達家族を余計な目に合わせたくないからと下手に突っ込むような事はしたくないんだろう。

 だから、今は我慢するしかないんだ。

 

「わかった……それではそちらの兵士さん」

 

 だが、ただじゃ転んでやらん。

 

「なんだ小僧」

 

 

「F●ck youッ!!」

 

 

「……何だそれは?」

 

 少しは仕返ししとく。あちらには解らない言葉で、おまけに指立てのポーズもキメてだ!

 

 

 さて、そんなかんだで仕事を早く終えた俺と父さんはすぐさま家へ帰った。

 何時もより早い帰宅に母は不思議がっていたが、原因を述べればすぐさま納得し、軽く両親同士で文句を言っていた。

 そんな風景を見送って俺は古本屋へ向かう。

 

 ふふーん驚くな、今回はなんと! ホド島の図書館から余分な本を買い取ったと聞き、さらに古代イスパニア語の歴史的文書が売り出されたとの話なのだ。

 これを逃す訳にはいかないと、急いで俺は古本屋へ向けてダッシュした。

 街道には何人かいるが、避けれる程度の反射神経は持っている。

 そうして走っていくと、広場に出た。

 

「あら、ハイルじゃないの。どこいくんだい?」

「そんなに急ぐなんて珍しいじゃねえかお前」

「何時もは本の虫のハイルがゲスか」

「……明日は雨が降るかもね」

「いや、槍が降るだろうな」

 

 そこの外野!! やかましいぞッ!?

 俺は人外生命体かこらッ!

 少しムカついたので――。

 

「落ちよ、光の鉄槌、≪リミテッド≫!!」

 

 きっちりお仕置きしておきました。もちろん手加減してるぜ?

 さて急ぐとしようか。

 

「あたいらが何したっていうのよおぉぉぉッ!?」

 

 少し焦げた状態で後ろから叫んでるノワールの姿が見えたが、気にしない方向で。

 そこ、酷いというんじゃない。

 

 

 ようやく念願の物が手に入り、俺は家へ持ち帰ってすぐさま書を開いた。

 辞書のようになっているからかなりの単語が入っている。

 そこから探索して約一時間――ようやく見つけたのだが…。

 

「……これは何かの悪戯か、ローレライ?」

 

 その結果に問題があった。

 

 

【栄光を掴む者】

 

 

 辞書から関連した場所を取り出していき――。

 

 古代イスパニア語で表していくと――。

 

 

【Van――名誉、勲章、栄光】

 

【des――~の、を】

 

【Delcu――手に入れる、獲る(~ca)~の人】

 

 

 

【Vandesdelca】

 

 

 ……つまり、あの少年の名前。

 

 俺はこれが解ったと同時に当惑した。

 まだ10歳ぐらいにしかならないような少年がどうやって島を消滅させる事が出来るのだろうか。

 普通に考えて、まずありえない事だ。

 もしかしたら、この一連の出来事はパズルのように外部からの力によって行われる物なのではないか?

 ND2002の預言の中には『季節が一巡りするまでキムラスカとマルクトの間に戦乱が続くであろう』と記されている。

 つまり、戦争が起こる事が記されているが、どちらが有利になるかは決まってはいない。

 

 

 軍隊によるホド島周囲の警戒態勢。

 

 預言にあるホド島の消滅。

 

 

 ここに何か謎があるのかもしれないな?

 まさか、預言の成就にはこの後マルクト軍の関与が必要不可欠とされている……。

 

 おいおい、こいつは大問題だな。

 

「とにかく、全てはお前だけが知っている――そう言いたいのか……ローレライ」

 

 

 

 こうして謎が解けていく。

 全てが分かりきる頃にはもう……。

 

 やがて、舞台は始まりの幕を上げへと近づいていく。


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