深淵の異端者   作:Jastice

4 / 37
第2話 女将さん! セガールおかわり!

 父からのある一言から全てが始まった。

 

「ホドへ行ってみないかい?」

 

 突如として父はホド旅行を持ちかけてきた。

 なんでも、綺麗で素晴らしい場所だから一度見た方が得だということらしい。

 その提案には俺も賛成した。なぜなら――。

 

 

ND2002

 栄光を掴む者、自らの生まれた島を滅ぼす。

 名をホドと称す。

 この後、季節が一巡りするまでキムラスカとマルクトの間に戦乱が続くであろう。

 

 

 今はND2000。

 バチカルの首都キムラスカでは【ルーク】が生まれる年。

 俺も今年で15歳。世間では独り立ちしても可笑しくない年齢だ。

 余談だが、この世界の一年はなんと地球の二倍の月日をかけて経ると知って驚いた。

 だとすると、俺の感覚で言えば10歳で成人になっていた事になる。

 

 でもね、この論理で精神年齢を変換すれば60歳の爺寸前であると考え直して凹みました。

 摩訶不思議な事に身体はちゃんと15歳にふさわしく成長しているのにね。

 年齢偽称待った無し、ほんと歳は取りたくない物だ

 

 話がそれた――つまり来ちゃった訳よ、ホド島に。

 俺はある調査を行う為にホド島に建てられてる図書館に赴く事を目的とした。

 

【栄光を掴む者】

 その意味を冠する名を持つ者を探すためにだ。

 この世界の言語にはかつて古代イスパニア語と言う物が存在していたらしい。

 【ルーク】(聖なる焔の光)も古代イスパニア語から取られて名づけられたそうだ。

 フェレス島にも古代イスパニア語に関しての書物はあるが、全貌までを記すような物は無かった。

 ホド島へ行くメリットはそこが一番大きい。

 

 こうして、家族旅行で来たホド島は本当に素晴らしい場所だと感動に浸った。

 白を基準とした建物の街並みは地球では世界文化遺産に入れても文句なしとも言える美しさだろう。

 

 食事をしたり買い物をしたりと家族で楽しんだ後、俺は両親に一人で図書館に行きたいと頼み込んだ。

 今回の旅行は一泊二日。宿を取るから指定された時間帯までに戻る事を前提にすることで許可を取る事ができた。

 

 しかしながら、ここでちょっと問題が起きた。

 

 迷いましたよ、えぇ、思いっきり!

 ちくしょう、こんな事になるんだったら地図買っときゃよかった。

 とにかく悩んでいる暇はない。虱潰しにしてでも探すしかあるまい。

 

「どどどどいてくださーい!」

 

 ん? こんな時に誰だいった――

 

 そう考える間もなく、俺の腹部に強い衝撃が突如として加わった。

 

「ぐぶぉぁふぁあッ!!」

「へぶっ!」

 

 いきなり目の前の街角から子供が飛び出して来たのだ。

 身長差により、その子供の頭が俺の腹に見事にクリーンヒットしてくれました。

 

「かはっ!  おま、いきなりなにする――!」

「逃げんじゃねえぞこの糞ガキゃあ!」

 

 ――どうやら解決は一筋縄とはいかないようだ。

 

「てめぇコンのガキゃぁっ! せっかくの上玉が逃げちまったじゃねえか!」

「どう責任とってくれんのか教えてくれねぇかよオイ!?」

「うるさいっ! 僕はお前達が無理矢理連れて行こうとしていた女の人を助けただけだ! 罵声を浴びられる覚えはない!」

「何でこんな事に…」

 

 只今、栗色の髪をした子供が俺の後に隠れるようにおり、前には現代で言うチンピラという奴等がいるというサンドイッチ状態です。

 

「あのー何がなんだかよく分らないのですが、この子が何かしたんですか?」

「ん? そういやお前誰だ?」

「なぜかこういう事に巻き込まれた一般人と言わせてもらいます」

「なんじゃそりゃ? まぁいい、兄ちゃん……そいつを渡してくんねえかな?」

「そうだな、キッツーいお灸をすえてやらねえと俺達も気が済まんのよ」

「なんなら兄ちゃんも一緒にやるか、ゲヘヘヘ!」

 

 うっわ、典型的なチンピラだ。

 こういうの本当に面倒なんだよ。

 無駄にプライド高いから余計な因縁付けられたらずるずると引っ付いてくるタイプが多いんだよこういう輩は。

 オールドラントは現代日本みたいな治安の良さを保っていない所が多い。

 ヤの付く職業が表立って商売しても咎められないのが普通な場所もある。

 賭け事はともかく、薬物なら流石に取り締まらざるを得ない了解で通っているけど、取り締まるべき兵隊が偶に癒着して私服を肥やしている話がちらほら耳に入っている。

 これを問題として重く見ないのは身分制度が根強いているのが一番の原因だろうか。

 長い物には巻かれろってのがスタンスでまかり通っている訳だ。

 

 それよりさっきから喧しいなこいつら。

 特に最後の二人、あんたらこの少年を見る目がショタコンのそれなんだが……。

 同性愛者への理解はそれなり持っているが、子供は止めろ。

 完璧アウトだ、セウトなんて言葉を使っても駄目だ。

 

「何馬鹿な事ほざいてんだオッサン。さっきから話聞いてりゃ実質あんた等が悪いに決まってんだろ、この腐れ≪ズドオォォンン!!≫」

 

 例えこの事態を引き起こしたのが後ろにいる子供の分を弁えない自業自得だったとしても、性犯罪者は滅ぶべし。あ、これ鉄則ね?

 メス持ってたら即座に去勢手術に取り掛かりたい勢い。

 仕方がない、今は最悪『もぐ』ぐらいにしておこう。

 

「なっ、て、てめぇっ!」

「鏡でももう一度見とけこの≪ピ―――!!≫が! てめぇらみてえなイケメンならぬ逝け面が女を捕まえるなんざ10年早いんだよこの≪バキュウン!!≫の≪イヨオォォォ!!≫がッ! あれか? それで捕まえれなかったから次はショタに走るの? 変態なの? 馬鹿なの? 死ぬの? わかったらその≪イ゙ェアアアア!!≫をとっとと治めて家でシゴいてろや」

 

「な、ななぁ!」

「我慢ならねぇ! こいつら一緒に袋叩きにしてやるっ!」

「上等だコラァッ!」

 

 我ながら何とも汚い言葉だ。

 男向けだが、女に向かって言ったら絶対泣くなこれ。

 

「そこの君、しゃがんでな」

「えっ!?」

 

 有無を言わせぬまま、少年の頭を無理やり押し付けるようにして下げ、同時に眼前に迫っていたチンピラの拳を掴んだまま懐へ潜るようにして内股。

 半回転の後に相手の肩に密着させ、自分の足の親指に向かって腕を下ろした。

 すると、チンピラは面白いように地面へと勢いよく転がった。

 

「ふぅ、前世で合気道と柔術まがいの武術習ってたりしてよかったな、本当に」

 

 実は前世では守備に長けた護身術を習っていた事がある。

 基本を覚えてからは医大時代の後輩に接骨医院に勤めてた奴がいて、そいつから関節の継ぎの仕方を一時教わり、ある程度様になった柔術を身に付けていた。

 殴り合いとか蹴り合いは苦手な俺にはまさにピッタリな武術だといえるだろう。

 フェレス島でいた時ではノワール達含め、島の子供達相手で実験――ゴホンゴホン! ――試合をしてこの身体に合った技を磨きあげた。

 ただ、これらは相手が攻撃に回ってこない限り使える事が出来ないが、まぁ、目の前にいるチンピラ達は頭に血が上ってる最中だし、この世界には格闘技はあっても合気道のような武術は無いそうなので仕組みを知られる心配もない。

 

 まさにうってつけの実戦訓練だな。

 では、いっちょ揉んでやるとしよう。

 かかってこい、相手をしてやる。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。