「ついに山に入った大尉、待ち受ける者はなんでしょうね」
山に入ってから数分
「・・・九天の滝か」
そこは妖怪の山の麓にある大きな滝
ここに来るのは幼少時の文の誘拐から、椛に世話を任された時に案内された以来だ
まだ日は天高く登ったばかり、そろそろ昼時か
「少し、休むか・・・」
背負っていた剣と盾をおき、両手で水をすくい上げそれを口にする
冷たい滝の水が乾いた喉を潤す感覚はなんとも心地がいい
「・・・」
滝の水が落ちる更に上、妖怪の山の頂上辺りを見上げる小夜
山から感じる鴉天狗と白狼天狗、そして山に住み着く多くの妖怪達の妖気が荒々しく感じる
本当に何が起きていると言うのだろうか
そんな事を考えていた時だった
バシャン!
「・・・?」
「あ、やっぱり君だったか小夜くん」
「・・・にとり」
突如、湖の水が跳ね上がった瞬間、ウェーブのかかった外ハネが特徴的な青髪を、赤い珠がいくつも付いた数珠のようなアクセサリーでツインテ?にし、緑のキャスケットを被った女性が現れた
彼女の名は河城にとり、この妖怪の山に住まう河童の1人で椛の親友だ
「いやぁ、久々に会ったけど椛の言う通りほんとに大きくなったね〜。ていうかなりすぎ?最初にあった頃なんて私より背低かったのに」
「・・・久しぶり、挨拶に行けなくてすまない」
「なーに言ってんの。博麗なら仕方ないことさ、新聞とかでも知ったけど随分異変解決で大変な目にあってるみたいじゃないか」
「・・・」
確かに紅霧異変ではわざと捕まる為に負けたり、冬の異変では実際死にかけたりと、にとりの言う通り大変な目にあってはいるな
「私としてはホントにたまーにでもいいから顔を出す程度で構わないよ」
「・・・」コクッ
「で、今日はどうしたんだい?椛なら今日は来てないけど、あ、もしかして修理か製造の依頼?それとも改造依頼かい!?」
修理、改造という言葉が出てから凄く目を耀かせるにとり
幻想郷に住まう河童は皆、何故か技術に対する関心が非常に高く、外の世界から流れついた機械類をバラしていじったり、製造・修理・改造を得意としているいわゆる幻想郷のエンジニア妖怪だ
それはにとりも例外ではない
「・・・これ、直せるか?」スッ
そう言ってオーバーコートの両腰に付いているホルダーから銃身が斬られた愛銃、モーゼルM712をにとりに見せる
実はこの九天の滝に立ち寄ったはにとりに会ってこの銃を直せるかどうか聞きに来るためなのだ
「む、この形状、外の世界で言う銃ってやつだね。火縄銃とかちょっとこれと似てる物は幾つかいじった事はあるから大丈夫だけど、どこを直せばいいの?」
「・・・」スッ
更に取り出しのは斬り落とされた銃身の部分だ
「・・・くっつける事は、可能か?」
「うわ、随分長い銃身だね。よくこんなのを使ってたね小夜くんは・・・うーん、ただくっつけるってだけなら簡単だけど問題は銃身の内部なんだよねー」
にとりが指摘した銃身の内部とはライフリングの事だろう
ライフリングとは、銃身、バレル内に施された螺旋状の溝の事。この螺旋状の浅い溝で銃身内で加速される弾丸に旋回運動を与え、ジャイロ効果により弾軸の安定を図り直進性を高める事ができる
「これをなんの出っ張りもなく、くっつけるとなると相当な腕が無いとできない。ていうか、無理だろうしそもそもこのタイプって銃身だけを取り外しとかできないからな〜・・・一番の解決策はまた1から銃を作り上げるか、似た物を無縁塚で運よく弾もセットで見つけるしかないかな」
「そうか・・・すまない」
「それはこっちのセリフだよ。何も力になれなくてごめんね」
「・・・」フルフル
首を左右に振りながら、ホルダーにしまいそろそろ行こうかと盾を背負い、剣を片手に持つ小夜
「お、もう行くのかい?」
「あぁ・・・山にちょっと用がある」
「そうか。でも、気をつけてよ。なんだか知らないけど最近上の方が慌ただしくってさ」
「そうか・・・ッ!」
「え?ひゅい!?」
にとりからの警告を聞いた次の瞬間、四方の木々から光の玉が迫る。弾幕だ
にとりを湖に押し落とし、蹴りで弾幕を相殺する
今の小夜は下級から中級程度の妖怪なら弾幕を蹴りで相殺する事ができる
「・・・囲まれたか」
周りの木々の上や茂みから武装した哨戒白狼天狗達が姿を現した
全員が皆、殺気を放っている
「くくく、ついに来たな博麗小夜〜♪」
「・・・?」
声がする方へ視線を向けるとそこには背に二という文字を背負う白狼天狗が剣を片手に見下ろしていた
(・・・どこかで見た事ある妖気だ。それに多少は他の白狼天狗より強いな)
「お前が来るのをずっと待ってたぜ小夜〜。出来れば今すぐ貴様をこの剣の錆にしてやりたいが上から命令があるからとりあえず警告しに来てやったぜ」
「・・・警告?」
「そうだ。これよりこの妖怪の山にはどんな種族も立ち入りを禁ずるようになった、それはお前たち博麗の者も例外じゃあないんだよ〜。だから今すぐこの山から出ていけば命は取らずに見逃してやる。断ればどうなるか・・・分かるよな?」
周りに立つ配下の白狼天狗達が各々の獲物に手をつけ、臨戦態勢をとっていた
やはり、何かがあるのは確かなようだ
「やはり、博麗の者が来たか夜宵よ」
「ん?ッ!?こ、これはこれは、大天狗様。自らお越しになる程の事ではないかと」
「よい、大天狗であろうと配下だけに全てを押し付けるつもりは私には無いからな」
「・・・椛?」
夜宵という白狼天狗が膝を付き、ひれ伏すように頭を下げる。その視線の先に現れたのは鋭い眼光を放つ椛に似た“白狼天狗”だった
「お初お目にかかる博麗の狼よ。私は大天狗の位を授かりし白狼天狗
犬走 楓(いぬばしり かえで)だ」
「え?え?犬走?・・・どゆこと?」
正体は次回に書く。別に椛の二重人格とかじゃないから