戦う代行者と小さな聖杯(21)   作:D'

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会合

「で、昨日のって北城大土って奴でしょ。何、もしかしてあんた、こっぴどく振ったりした訳?」

 

 何の事でしょうや。

 

「あんたまでしらばっくれる気? あんたに声かけた奴に昨日の事誰が聞いても何の話だ、ってすっとぼけるのよ。……人には言えないトラウマ植えつけるような事したんじゃないでしょうね?」

「覚えてない、ですか。――なるほど」

「ニ、ニーロットちゃんがかつてないほどの悪い顔してる!」

「ついに本性表したわね」

「さすがに失礼だよ二人とも……」

「……何が本性ですか人聞きの悪い。しかし、本当に彼は覚えてないのかも知れませんね」

「まさか心当たりが!?」

「いえ、昨日の北城大土という人間は、実は偽者と入れ替わっていたのかも知れません」

「ド、ドッペルゲンガーってやつ?! あんたまたそうやって人脅かそうとする!」

「ああ、そういう訳ではなく。案外怖がりですねアリサ」

「ムキー!」

「まあ何にせよ、そっとして置いてあげてください。誰しも人間ならば孤独になりたい時もあります」

「……本当に何かしたんじゃないでしょうね。そういえば、再来週にすずかの家でお茶会する予定なんだけど、あんたも来ない?」

 

 む、いや本来ならコレ幸いとご一緒して月村と接触するのだが、正直今はそんな暇はない。

 

「最近、少し忙しいのでたぶん無理だと思います。ごめんなさい、アリサ」

 

 付き合いわるーい! なんてむくれる彼女を見ながら、弁当を一口。正直徹夜のせいで弁当も雑である。おかずちょっとくれ御三方。

 

 

 

 学校が終わり、帰路につく。学校なんて行かずに事件への対処へ向かいたいが、それでは父に気づかれる。ああ、秘匿行動はしんどい。いまだに宝石一つ見つけられないカラス共に苛立ちを感じる。物語の詳しいタイムテーブルなんて私は覚えちゃいない。転生者でも探し接触して協力を仰ぐ、なんて思考もよぎったが、辞めておこう。敵を増やすだけな気がする。

 一つ覚えているのは海に落ちた複数のジュエルシード。ひゃっほー回収だーと行かないのは当然である。どのあたりに石があるのかも不明、尚且つどうやって海上へ出るというのか。船を出せと? 空など魔術師は普通飛べぬ。飛べても意味ないからな!

 

 

 なんて町をうろついているうちに、町の一角から魔力のうねりを感じた。……ああ、神社か。また出遅れた。向かうべきか、放置か。……考えていて、ふと思い至る。私は何を目的として動いているのか。聖堂教会、又は魔術協会に関知されない事。理由は関知されればこの場が戦場になりかねないから。……ふむ。ならばなのは達への接触はどうだ。物語に誰も触れなければ勝手に解決するのだから、触れるべきではない。……ふむ。何だか思考が空回りしているような感じがする。まあいい、か。さあ、壊れた石畳などの修繕に向かうとしますか! これが私の職務である。なんて、軽く考えている時期が私にもありました。

 

 数日後、市民プールで怪事件発生。暗示を駆使しながらお払いでもどうですか、とプール職員相手にお茶を濁す発言で逃げ切る。

 そのまた数日後、聖祥小学校のグラウンドに大穴が開く。埋めるのも馬鹿らしいので誰かのいたずらという形にしてしまう。埋めるのは教職員たち。がんばってくれ。

 

 そしてその翌日。

 

「市街の中心でいきなり巨大な樹木が発生、道路やビル、車等を破壊、負傷者多数、死亡者奇跡的になし……こんなのどうやったって誤魔化しきれない!」

 

 いやいや落ち着け。地下のガス管又は水道管が爆発、漏れでたガスで集団幻覚……これでどうだ! 無理だ!

 という事で出来る限り応急的な対処をして一計を案ずる。

 

「アリサ、すずか、なのは、以前言っていたお茶会、私も参加していいですか」

「いきなりどうしたのよ、歓迎するけど、お仕事平気なの?」

「連日連夜の忙しい日々でしたので休みを要求して勝ち取りました」

「……苦労してるのね」

 

 そんなやり取りの末、今は月村邸の一室。三人娘と離れてお姉さま自らがお相手してくれてます。その隣には勇ましい剣士様。刀こそ持っていないが何かあったら袖口から針の一本や二本飛び出すのだろう。

 

「で、教会の人が当家に何のようかしら。私に話を持ってくる辺り、ただのシスターって訳でもなさそうだけど?」

「ええ、まあ。本来でしたら教会が混血を敵視しているので目をつけられないように気をつけて、とでも言うつもりだったんですが、それだけではなくなりました。自己紹介しておきますと、私は聖堂教会、第八秘蹟会所属、代行者見習いのニーロット・クリケットと申します」

 

 それを聞いて、ほんの少し室温が下がった。目の前の当主、月村忍の緊張故か、それを察知した隣の剣士、高町恭也の殺気にも似た闘気故か。少し硬くなった声色で月村忍が名を告げて、高町恭也もそれに続いた。

 

「ご忠告の時点で頭に来るけど、そんな事より代行者ってそれこそ異端狩りの尖兵じゃない。それがなんで忠告なんてする訳?」

「いえ、蚊の親戚レベルの脅威度なら問題ないかと。それほど私は職務に熱心という訳でもないので」

 

 ビキ、と何か忍女史の額から聞こえてはいけない音がした。いけないいけない。何をおちょくっているのだ私は。

 

「失礼、吸血鬼とは名ばかりでしたので。ああ、いや、重ねて失礼を」

「……それで、ありがたいご忠告以外が用件なんでしょう?」

「はい。先日の市街で起きたガス管爆発事故はご存知ですね?」

「……あの集団幻覚見たとかいう頭の悪い事件ね」

 

 おおう、これは良いジャブ。出された紅茶を一口含んで深呼吸。

 

「はい。すでにお気づきかと思いますが、あれの真相は別にあります。幻覚で見たとされる巨大な樹木の発生、それはそのまま真実なのです。それを隠す為に色々と、私が手を回しました」

 

 ああ、あの雑な隠蔽工作ってアンタのしわざか、なんて言われてしまった。反論できぬ。

 

「その雑な隠蔽工作が関の山なので、貴方がたのお力をお借りしたい、という次第です」

「よくは分からないけど、あんた達お得意のオカルト事件って訳でしょ? そっちで対応したらいいじゃない」

「教会本部のほうへ連絡がいってしまえば、恐らく腕利きの代行者の追加派遣がありますが。私は見習いですので」

「……あたしたちの為にやってます、とでも言うつもり?」

「単純にそのほうが都合が良い、というだけの話です。貴方にとっても、私にとっても」

 

「ふーん……。で、まさか詳しい事情説明もなしに協力だけしろ、なんて言わないわよね? 貸し借りはなしにしてあげる」

「……分かりました」

 

「つまり願いを叶える石が原因で、今月に入って海鳴の至るところで起こった器物破損なんかは関連した事件である、と――」

 

 私はベランダを背にして、椅子に座っている。テーブルを挟んでその正面に月村忍女史がいる。女史の目が私の後方へ向く。振り向いて見た。

 

 二階の窓からは月村の広い庭園と山へ繋がる樹海がよく見える。二階で会談を開いたのは一種の不幸だろう。又は幸運か。

 

 な~お。

 樹海で大きな猫が闊歩していた。

 

「――さすが月村。珍獣の一匹や二匹いるものですね」

 

 紅茶を一口。おや、温かい。メイド服に身を包んだショートヘアのほうの女性、ノエルさんがいつの間にやら入れなおしてくれていたらしい。もう一度振り向くと、猫は消えてしまった。

 

「……消えたんだけど何が起こったの? それと当家を魔窟みたいに言うのはやめてください」

「失礼。恐らく認識阻害の結界か何か張られたのでしょう。見えてないだけでまだ存在してるはずです」

「それって! うちの庭で貴方の部下が勝手してるって事かしら?」

「残念ながら見習いの私に部下はいませんし、海鳴に教会勢力は私しかいません」

「それじゃあ……」

「私に宣戦布告してきた方はいらっしゃいましたが、まあそれも別でしょう。大方……」

 

 視線を高町恭也氏のほうへ向ける。

 

「貴方の妹君かと」

「な、何故ここでなのはが出てくるんだ!」

「いえ、今月に入って、彼女は魔法の杖を手に入れたらしく。一気呵成にジュエルシードを集めていますよ。こちらとしても頭の痛い事項の一つです。何せ、今回こそ結界なんて張っているようですが、今の今まで確認していませんので。他の事件は石のせいと云えど、全てなのはが関わっています。結界なんて便利なものがあるのなら早めに使って欲しかったものです。私の睡眠時間に直結してますので」

 

 恭也氏が席を立ち、ベランダに駆け出した。眼下を見下ろし、庭でお茶会の最中であろうなのはを探す。庭にいるのは三人。アリサ、すずか、そして月村のメイドのファリンだけである。

 

「……今の話は本当か、ニーロット……ちゃん」

「神に誓い嘘偽りなく。……それと呼び捨てで構いません。冗談のように聞こえるでしょうが、魔法の杖とお供のマスコットをつれて日夜頑張っていますよ。私も身に秘めた魔力を買われて教会から代行者へ抜擢されましたが、なのはは、私なんかよりもその身に秘めた魔力は多い」

「マスコット……まさかユーノのことか。いや、なるほど。通りで夜の外出が増える筈だ」

「まあなのはについては、ご家族のほうでお願いします。止めるにしろ、続けさせるにしろ。私が正体を現して事件との関与を止めるのも考えましたが、まあ問題になりそうなのでやめておきました。ファンシーな魔法少女の前にシリアルキラーが現れるような、醜い事になりそうでしたので。私の正体については、お話の際に明かして頂いても結構です。

 ……今回の事件に教会の本隊が関われば少なからず、私の友人二名が確実に死んでしまう形になる。故に外部に知られず、私は解決を目指したい」

「どういう事だ!」

「教会と言ったら魔女狩りでしょう。何より事件に関与している障害を排除して、安全に解決する。聖堂教会はそういう組織です」

 苦虫を潰したような顔をした恭也氏が鋭くこちらを睨みつける。

「人でなし共め……!」

 

 正しく。その通りである。先の発言は人質を取っているも同然の言葉だ。

 

「それだけでなく魔石の存在が他の組織に知られればこの町を舞台に争奪戦が行われるような代物です。穏便に済ませる為に、どうかご協力を」

 

 二人は逡巡すること少し。ゆっくりとだが同意してくれた。

 

「ありがとうございます。連絡先をお渡ししておきますので、何かありましたらご連絡ください。ああ、これで少し肩の荷が下りた気がします」

 

 名刺を取り出し、テーブルの上に置く。名刺もってる子どもなんてお飯事のように見るだろうな……。

 

「それで、具体的に協力って何をすればいいのかしら」

「とりあえず警察組織への便宜と報道機関の操作、先の負傷者への記憶操作など、ですかね」

 

 忍女史から視線をそらし遠慮なく口を動かす。

 

「……ほとんど全部じゃない。貴方は何をしてくれるのかしら?」

「教会組織の伝手も資金もない子どもの身ではこれが限界です! むしろ今まで良くやったと言うべきでしょう……拙い暗示と口八丁と状況操作だけで大事にならないように頑張ったのですよ!? ――失礼、取り乱しました」

「そういえば、代行者なんて聞いてぶっ飛んじゃったけど、すずかと同い年なんだっけ……。実年齢なの?」

「はい。本来、海鳴へ来たのも私を指導していた人間に仕事が入ったため、それが終わるまでの休養として実家のここへ帰されていたのです。まさかこんな面倒に巻き込まれるなんて、聖堂教会も私も、想像していませんよ」

「――苦労してるのね」

 

 

 帰り際にお菓子なんて持たされた。舐められてしまったか。しくじったな。ところでフェイト・テスタロッサは現れたのだろうか。確認してないや。

 

 

 

 月村邸の会合が終わった二日後、月曜日。

 

 責任の重圧が軽くなりいつもより少しばかり安らかな心持で訪れた自分の教室。待っていたのは、やけにチラチラと此方を窺い見る高町なのはと月村すずかでした。ジーザス、安らかな気持ちよさようなら。一人いつも通り能天気なアリサが天使に見える。

 

 授業中、板書を書き写しながら、放課後辺り二人に絡まれるなこれは……。なのはに『こいつすぐチクるから一緒に遊ぶのやめようぜー』なんて言われたらどうするか、いやありえないけど、だが魔法少女やってるのを家族にチクったのは私だ。なんて考えていると、思いもしなかった事が起きた。

 

『ニーロットちゃん、聞こえてる、のかな?』

 

 びくん、とあまりの事に体が反応してしまう。膝を机の裏に打ち付けて、体勢を崩して椅子から転倒。クラス中の視線を浴びた。

 

「……クリケットさん、大丈夫ですか? どうしましたか?」

 

 と担任に心配されてしまった。

 

「いえ、いえ、申し訳ありません。寝ぼけていました。本当に、ごめんなさい」

 

 椅子を立て直して着席。周囲からプークスクスと笑い声が聞こえてくる。真っ赤だ。色々な意味で。元々肌は赤っぽいけど。今私は真っ赤だ。今なら絶技雷極・安崩拳も撃てそうな気がする。

 その後も『ご、ごめんなさい!』、だとか『お、怒ってる?』 だとか『返事してよう~』、だとかショートメールのような念話が脳内に飛んでくる。何故分からない。こちらが返答の仕方が分からないという事を! そういえば実際に増えている魔力量の半分しか魔術回路で精製できていない、と時臣氏が言っていたのを思い出した。もう半分はリンカーコアから供給されていたようです。念話が届くという事はあるのだろう。

 秘密を共有できる仲間を見つけてはしゃいでいるのかガンガンに届く念話。そして段々と意気消沈していく念話。……やがて絶える念話。やりづらいにも程がある。

 

 恥を晒した授業が終わり、休憩時間。未だ視線を感じる中、なのはを連れて廊下へ。

「私はあなたのように思念を飛ばす方法を知りません。意図的に無視していた訳ではないので、あしからず」

「よ、よかった~! 怒らせちゃったと思った、というか怒るよね、あれは。本当にごめんなさい」

「いえ、それはいいです。詳しい話があるのなら教会で。一目につく場所では憚られます」

「わかった。今日行って大丈夫なの?」

「はい。待っていますので」

「うん!」

 

 なんて第一ラウンドを終わらせて教室に戻ろうとすると入り口から覗くすずかの姿。こちらも何とかせねば……。

 校則違反となるが仕方ない。携帯電話で月村忍へメール。

 

『変な警戒をすずかから感じるのですが何か言ったのですか』

 

 返答はすぐにやってきた。

 

『ヴァンパイアハンターって言っといた。テヘッ』

 

「おのれ月村忍」

 とうっかり口に出してしまい、聞こえていたのかすずかの肩がびくりと震えた。耳もいいのを忘れていた。

 ため息を一つ、すずかにメールを送る。

『お姉さんから変な事を聞いたようですが、一昨日伺ったのは危害を加えるつもりはない、と伝える為でした』

 と送る。口に出すのを憚られる内容を伝えるのにメールは便利だ。

『ヴァンパイアハンターっていうのは否定しないんだ……?』

『はい。ただし本物の、がつきますが。蚊の親戚は対象外と伝えたら怒られました』

『それは私もさすがに怒るよ……』

『いえ、冗談のつもりでしたが。私を怖がるのは構いませんが、注目を浴びると困るので変に視線を向けるのはやめてください。あと何もしないのでご安心を』

『怖がるとかその前に、ちゃんとお話したいな』

『近いうちにお姉さんとお話する為にまた伺う事があると思うので、その時にでも』

『さっきおのれ月村忍って言ったよね?』

『忘れてください』

 

 パタリと携帯を閉じて嘆息。第二ラウンド終了。

 

「ねえ」

 

 と声をかけられたので振り向く。そこには先ほど天使と賞したアリサの姿。

 

「なのはとすずかとあんたでなーんかこそこそして。私は仲間はずれな訳?」

 

 と寂しがりな子に第三ラウンドの鐘が鳴らされた。勘弁してほしい。

 

 

 学校が終わりいそいそと帰宅。雑事をこなしていると、私服の高町なのはが教会へやってきた。肩から下げた黄色いポーチが可愛らしい。

 いつぞやのごとく教会の告解室、ではなく自室の天井裏に隠した仕事用の部屋へ、なのはを案内する。

 

「こんな所あったんだ~。天井裏の部屋ってなんだか秘密基地みたいだね!」

「まあ、言ってしまえば間違う事なく秘密基地です。置いてある書類には触らないでくださいね。場所が変わると困りますので」

 この部屋ははっきり言って広くない。低い天井に、机と棚を置き、天井すれすれの大きさのクローゼットが置かれている。クローゼットの中身は衣服ではなく、仕事道具である。電気は通っていないので明りにランプを置いている。

「えっと、ニーロットちゃんは魔法、知ってるんだよね?」

 

 家族に魔法がばれ、家族会議で色々と話あったらしい。私の存在も恭也氏から聞いた、と。

 

「……少し違います。貴方の使う魔法は、私は知りません。ただ、私は私の魔術を使います」

「魔術……とりあえず、紹介するね!」

 

 と、ポーチを床にそっと下ろして開けると、中から茶毛のフェレットがでてきた。そんな所にいたのか……。

 

「えっと、紹介します。友達のユーノ君です」

 

 雑い! と思ったのは私だけか、ユーノも感じたのか。無論これが精一杯というのは分かるのだが。

 

「貴方は、森で倒れていた……」

「え? ええ、はい。ユーノ・スクライアと申します。森で倒れたのを知ってたんですか?」

「……ええ。面倒事だと思って始末するか放置するか悩みました。フフフ」

 

 笑みを浮かべるとなのはも釣られて、ご冗談を、みたいな顔で笑っているが、どことなくユーノの反応は悪い。本気だったと察知したのだろう。

 

「所で、この世界には魔法技術はないと思っていたんですが、貴方は何者なんです?」

「ふむ。この世界には二つの、世にでない裏の組織があります。一つは魔術協会。魔術師が集まり魔術師の管理や発展、又は魔術師の不手際を身内で処理するための組織です。もう一つは、私の所属する聖堂教会。教会の裏の顔です。まあ職務は色々ありますが、魔的なものが世にでない為に動いたり、危険な吸血鬼や悪魔を殺す為の組織です。細かくいうとまだまだ組織はありますが、大きくはこの二つ」

「吸血鬼って本当にいるんだー」

「いますよ。日本ではあまりありませんが、海外の小さな、周囲と接触の薄い村なんかは村人全員ゾンビになってる、なんて事も時々あるくらいです」

「ゾ、ゾンビ?!」

「言わば吸血鬼の食い残しですよ。それらを殺すのが私の仕事」

 

 少女一人と獣一匹、顔を青くしてしまった。うーむいけない。少女にいきなり際物のアダルトビデオ見せるようなどす黒い気分だ。

 

「あ、あなたはジュエルシードを集めているんですか?」

「探してはいますがまだ回収できてはいません。正直、あなた方の後始末に振り回されてるので」

「あ……もしかして、町で発動しちゃったジュエルシードの……」

「あの樹木が発生したのは最たるものですが、校庭に大穴あけたり、神社の石畳割ったり、動物病院の壁を壊したり……まあ全部です。校庭の穴なんて近場の学校の不良のせいにして教員に埋めさせましたが。これについては私は何一つ苦労してないので何も言えませんね」

 

 ご、ごめんなさい! と二人して頭を下げた。

 

「次からは結界をお願いします。どうやらそれで被害も出さないで済むようですね」

「はい……あ、ニーロットちゃんも手伝ってくれないかな? 一緒にジュエルシード封印するの!」

「……それは遠慮しておきます。他に、ジュエルシードを狙っていると私に宣戦布告してきた輩がいるので」

「それって! それって、金色の髪の女の子?」

「違います。ベルベット・ベルナシーと名乗っていました。ああ、心当たりはありますか、ユーノ」

「いえ、聞いたことない名前ですね」

「そうですか」

 

 次元犯罪者や管理局員、なんて事もあるかと思ったけども。まあ、管理局が来るまではっきりとした事は分からないか。ユーノが管理局員や犯罪者を把握してる訳もない。

 

「私はそちらの対処にあたるので、ジュエルシード自体はそちらに任せます。くれぐれも秘匿を忘れないように。被害を出してしまったら連絡するように」

「はい! 任せて!」

 ああ。不安だ。子どもに初めてお使いをさせた時のように不安だ。いや、お使いレベルじゃすまないが。

 

「所でニーロットちゃん」

「なんでしょう」

 

「今度の連休、暇だったりする?」

 

「……一連の事件が終わるまで私に暇はありません」


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