錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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〝 我々の苦悩の中でも最も歓迎できないのは、自分の存在を軽蔑することだ 〟

 


ーWho is the murderer?ー
No.24 『欺瞞』ー焦燥ー


「私の主人はこの世にただ1人でございます」

 

―― ジジ

 

「…… ですからあなたの傀儡になることはできません。しかし、今だけはあなたに従います。依頼として、ですが」

 

―― ジ…… ジジ……

 

「依頼料にお金は必要ありません。たった一つの情報。これだけあれば十分ですわ。内容? 分かっているでしょうに…… 勿論、あの方の監禁されている場所の情報のことですわ」

 

―― ザ

 

「ええ、あの方の為ならば私は味方であろうと仲間であろうと、たとえクラスメイトであろうと正々堂々不意打ってご覧に入れましょう。ただし、この目であの方が無事であることを確認するまでは私は好き勝手にやらせていただくので悪しからず」

 

―― ザザ

 

「ですから…… だから…… あの子には、凪には、手を出さないで…… !」

 

……

 

「ねえ、それってメイドとして? お姉ちゃんとして?」

「妹の安否を心配しない姉がいるとでも思うのですか?」

 

 モノクマ劇場(CM)に入ったテレビ画面には、ただ否定の言葉だけが残り、その後のやり取りが放送されることはなかった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 携帯食料でなんとか1日待たせたが、ほとんど寝るだけで1日過ごすというのはなんとも不健康なものだ。

 動いていなかったと言えば嘘になるので、そうは言わない。

 少なくとも、気絶している間に騒音が止んだので軽く調べて回ったりはしていた。

 だが、調べていただけで〝 特になにをする気にもなれず 〟に今度はマスカットハウスの粗末な客室の中で、粗末なせんべい布団の中に入って震えていた。

 そう、体は震えていた。寒くなどないのに、歯はガチガチと音を鳴らし緊張で頭が冴えたまま、なにもできずにただ震えていた。

 気分を変えたくてストロベリーハウスから移動して部屋も変えたのだが、粗末な客室ではかえって逆効果だったようだ。

 辛うじて怪我をした部分を罪木ちゃんにもらった包帯を巻いて誤魔化しているが、彼女に見られたらすぐにバレてしまう。

 あの私が〝 恐怖に怯えて、動機に怯えて 〟縮こまっているだなんて馬鹿らしい話だ。勿論そんな姿を皆に見せるつもりもない。

 弱さを曝け出すなんてことは、私には〝 耐えられない 〟ことだからだ。

 モノクマも、私の〝 様子を見にも来なかった 〟わけだし、どうしようもなかった。

 

 ガチャリ、そんなときに個室の扉が開かれた。

 

「…… 狛枝!?」

 

 彼に話せば、楽になれたのかもしれない。

 でも、布団の中から合わせた日向クンの真っ直ぐな目を見ていたら、こんな私を見て欲しくなくて、暴かれたくなくて、とてもじゃないけれど、そんなことはできなかった。

 

「…… やあ日向クン。こんなところになんの用で来たのかな?」

 

 来てくれて、嬉しかったと。今すぐ怖かったと、彼に泣きつきたかった。

 でもそんなことはしない。いらない。私なんかがそんなことをしても信じてもらえないってことぐらい、分かっているのだ。

 自業自得すぎる自己完結。いくら絆を深めたって、結局のところ人間死ぬときは1人だし、生きていくのも1人なのだから自分の悩みは自分で解決しないと意味がない。

 

「あのなぁ…… 俺たちはお前が監禁されてるって聞いて心配して……」

「どうせ、他にもなにか動機があるんでしょ?」

「は…… ?」

 

 優しげな声で心配してくる彼を冷たい声で突き放す。

 

「モノクマに誘導されて来たんでしょ? どうせ。もしかして全員来てるのかな。私のためだけに全員が来るとは思えないし、きっとこの島から脱出するための道具とか…… そうだな、あとはキミの才能の手がかりとかをエサにされておびき出されたんでしょ? 馬鹿だなぁ、そんなの罠に決まってるのに」

「そ、そんなに言うことないだろ!?」

「図星なんだね…… ほら、やっぱり私なんてどうでもいいんじゃない……」

 

 酷い八つ当たりだ。

 自覚しているが、どうしても激情を逃す場所が見つけられなくて、彼にぶつけてしまう。

 違う、別に怒らせたいわけじゃないのに。

 日向クンを傷つけたいわけじゃないのに、なにやってるんだろう、私。

 

「それは違うぞ! どうでもよくなんてない…… ! お前だって仲間だろ? どうしたんだよ狛枝、なんかお前、おかしいぞ!」

 

 おかしい…… ?

 そっか、そんな風に見えてるのか。なら、〝 直さないと 〟いけないかな。

 だって、いつもの私はもっと楽観的で、愉快犯で、日向クンを困らせたり心配してもらったり、十神クンとライバルみたいな関係で、罪木ちゃんと同士で、もっともっと明るいんだから。

 

「…… あれ、気落ちしてるように見える? まあ、これだけそこら中同じ模様だけの場所にいたらちょっと気が滅入っちゃうくらい許してほしいかな。なかなかに気持ち悪くてさ、寝付けないしご飯もないし喉も渇いたし、気分は最悪もいいところ。あ、でも八つ当たりなんかしてごめん。頭も冷えたし、私はもう大丈夫だよ」

「本当にそうか…… ?」

 

 大丈夫、大丈夫。

 ノイローゼ気味になってただけだし、そのうちまた元に戻るって。

 メイのことは保留にしておくとするか…… そもそも、外に出てから確かめればいいだけの話だもんね。

 

「ほら、それより皆は?来てるんでしょ」

 

 心配する彼に、立ち上がってから歩み寄り肩を叩く。

 日向クンは突然普段通りに戻った私に困惑しているが、ここはゴリ押しだ。病は気からともいうし、明るくなりたいときは明るいフリをしていると自然と明るくなっていくものだ。

 皆と会って暫くすれば悩みなんて吹き飛んでいくだろう。

 …… 餓死の危機には変わりないけれど。

 

「あ、ああ…… 今皆でこの中を探索してるんだ。俺たちはストロベリーハウスの3階で目が覚めたから、多分このマスカットハウスの1階に集まると思うぞ。罪木にも会ってやれよ? すごい心配してたからな」

 

 なんとなく彼女とは顔を合わせづらいというか…… 罪木ちゃん、自分のせいで私が攫われたとか思っていてもおかしくないからなあ。

 それに、彼女相手だと怪我が増えていることにすぐ気づかれちゃうだろうし。

 

「そっか、なら……」

「おい、いつまで個室を覗いて…… 狛枝?」

 

 もう1度扉が開くと、そこには驚いた顔をした十神クンが立っていた。

 

「あれ、十神クン?」

 

 そうか、絶望病も治ったんだね。良かったよ。

 

「……」

「あの…… 十神クン?」

 

 彼は無言でこちらに歩み寄って来たかと思うと、そのまま私の全身を上から下まで見回した。それから、すっとさらに近寄って来た彼が私の顔に手を伸ばす。

 

「え、え? な、なに…… ?」

 

 困惑して思わず後ずさりそうになるが、肩に置かれた手で引き止められた。

 

「お、おいなにしてるんだ十神?」

 

 彼の指が私の目元に寄せられ、すぐに解放される。

 まったく、なんだったんだ。

 

「日向、先に1階に行っていろ。もうこの階ではここが最後だったろう」

「ああ、分かった…… ないとは思うけど、変なことはするなよ? 狛枝はお前のこと心配して、ちゃんと看病してたらしいからな」

 

 そういう言葉が出て来るってことは、十神クンは自分が病気の間にあった出来事を教えてもらったってことなのかな。

 つまり、私の悪趣味なドッキリも知っていると…… あ、これは怒られるな。

 というか、あんなドッキリに付き合わされた日向クンがフォローしてくれるとは…… いや、それが日向クンなのだろうけど、もう少し怒りを買っていると思ってたから意外だったかな。

 それこそ裏切り者なんじゃないか? と疑いをかけられてもおかしくないくらいのことをしているからね。

 

「それじゃあ、先に行って狛枝のことは報告しておくぞ」

「ああ、やっておけ」

 

 扉が閉まる。

 ここは粗末な客室であるため外の音が筒抜けだ。要するに、こちらの音も筒抜けだろう。あまり大きな声では喋れない。

 しかし一体何の用だろうか? やっぱり怒られるのか。怒鳴られるのは好きじゃないから、やめてほしいなあ。彼なら諭すように説教してくるぐらいだろうが……

 

「お前、その怪我はどうした?」

 

 心臓が跳ねる。

 目を見開き、私はその1言で簡単に動揺してしまった。

 

「なんのこと?」

 

 白を切っても今更だ。彼には見抜かれている。

 

「うまく誤魔化しているようだが、額に切った跡があるし、左手の包帯も前は掌までしかしていなかったろう。だが今は指先まで包帯で覆っている上、右手にも包帯を巻いている。隠しているようだが、左足も少し引きずっているだろう。大方階段から落ちたか? それから…… 目元が腫れている」

「……」

 

 ははっ、見事にバレてる…… しかも泣いていたことまではっきりと。

 でも包帯はしばらく取れないし、他に誤魔化しようがないんだよね。血だらけだったから拭うものはハンカチと包帯くらいしかなかったし、水がないから当然目が腫れるのを防ぐこともできない。

 

「…… 皆には内緒でいてほしいんだけど」

「罪木や小泉にはすぐ見抜かれるんじゃないか?」

「…… っ、じゃあ私はここに閉じこもってるよ。部屋割りは好きに決めていいけれど、私は1人にして。こんな姿見られたくないんだよ。理由は……私がなにかしないように閉じ込めておいた、なんてどう?」

「しばらくは人と顔を合わせたくない、でいいだろう。そこまでして皆からの不信を集める必要はないし、俺個人としても無意味としか思えんな」

 

 言ってくれるよね、本当。

 こうも神経を逆撫でされるなんて……

 

「……」

「仕方ないな……」

 

 そう言って十神クンは懐からなにやら取り出した。

 

「…… ?」

「じっとしていろ」

 

 私が疑問に思っていると、彼が目の前でファンデーションらしきものを準備し始める。

 

「え、え!?」

 

 まさかそんなものを持っているとは思わないじゃないか!

 混乱しつつも大人しくされるがままになっていると、彼は丁寧に私の目元にファンデーションを塗っていく。

 

「御曹司が無様な姿を見せるわけにはいかないからな。弱みとも取られかねん。強がりたいのならこういう術を身につけておくべきだ」

 

 彼がコンパクトの鏡をこちらに向けると、すっかり私の隈や腫れが目立たなくなっていた。これが御曹司…… いや、詐欺師の技術か。

 今度お願いして習っておこう。これは便利そうだ。

 

「生存報告を含めて一応顔合わせはしてもらうぞ。持っている情報をちゃんと報告するんだな。その後のことは好きにしろ。部屋のことも少しは考えてやる。しかし、今はまだ脱出できないと決まったわけではないからな。部屋割りの話は後だ。いいな?」

「う、うん分かったよ。会えばいいんでしょ? 会えばさ……」

 

 なんて強引な……

 しかし私だけが持っている情報なんてあったかなあ。

 いや、1つだけあったな。

 

 そうして、私は十神クンと共に階下へと降りていった。

 

「あれ、皆いないのかな…… ?」

「モノクマの地図によればブドウ回廊とやらの先にマスカットタワーというものがあるらしい。このホールにいないのならばそっちだろう」

「ふむふむ、地図ね……」

 

 

 

 

 

ストロベリーハウス 地図

 

 

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マスカットハウス 地図① (現在地)

 

【挿絵表示】

 

 

 

マスカットハウス 地図②

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 そうこうしてブドウ模様だらけの気持ち悪い場所を抜けて行くと、吹き抜けになっていて天井の見えない広場に出た。周りには緑色の波模様のような光が揺らめいていて、床には大きなウサミがブドウを咥えている絵が描かれている。よく見たら壁はライトアップされてるだけだし、絵も裏側から光で投影されているだけだと分かるが、まあ気づく人は少ないだろう。

 反対側にはイチゴ模様の扉がある。普通ならあの先になにかあると思うのだろうが、生憎私はあれが飾り扉だと知っているので脱出口でないことくらい分かっている。

 こちらではないストロベリータワーの方にはブドウ柄の飾り扉がある。一生懸命拭いたから血の跡は残っていないだろうが、ブドウの扉には幾つか私の引っ掻いた跡が残っているかもしれない。

 

「こ、狛枝さぁん!」

 

 話し合いをしていた全員が、罪木ちゃんの声によってこちらを向いた。

 その全てに安堵の表情が浮かんでいることに私は困惑したが、見て見ないフリをして歩み寄る。

 

「おい、感動の再会は後だ。どこまで情報交換をした?」

「どこを探しても食糧が一切ないってことと、船の部品を見つけたってことだな。ただ、その部品ってのが……」

「ふはははっ! どうだ見よ! モーターだぞ! まさに船の部品ではないか!」

「だからッ、それはラジコンじゃねーかッて!」

 

 どう見てもオモチャの部品だよね。

 

「少し古い話をしよう。俺様は悪魔と人間のハーフとして産み落とされ、そのどちらからも忌み嫌われた存在…… 誰かにラジコンを買ってもらったことがないせいか、これが酷く愛おしく思える……」

「…… んな話聞いてねーよ! 」

 

 まあまあ、左右田クンが怒鳴りたくなる気持ちも分かるけどね。

 

「やーい、やーい! 騙されてやんのー! ボクは本物の船だなんて1言も言ってないもんねー! バーカ! バーカ!」

「……! ……! ………… !」

 

 なんて幼稚な煽り方だ。

 ただ、それでも左右田クンにはショックだったようで、口はパクパクと動いているが声にならない叫びをあげている。

 

「でも、狛枝さんがいるっていうのは本当だったんだね。良かった……」

 

 そう言って安堵した息を吐いたのは七海さん。

 彼女は眉を下げて 「ごめんね、私が余計なことを言わなかったら狛枝さんが1人になるなんてことなかったのに……」 と謝ってきてくれた。

 きっと、 「病院にはもう来ないでほしい」という話のことを言っているのだろう。

 

「私の自業自得なんだから七海さんは気にしなくていいんだよ?」

「そうもいかないよ…… でも、無事で良かった………… また会えて、良かったよ」

 

 ……あったかい、気がする。

 そうだよね、絶望したまま死んだりしなくて良かった。そうしたらいくら夢に慣れた私だとしても〝 本当に 〟死んじゃうかもしれないもんね。

 

「狛枝さぁん……」

 

 私のそばに寄り添ってくれる罪木ちゃんもいることだし、さっきから心配そうに私を見て、 「良かった、凪ちゃん」 なんて言ってくれている小泉さんだっている。その後ろでこちらを伺う西園寺さんも。

 澪田さんなんて今にも抱きついて来そうだし、花村クンは 「1日食べてないだろう狛枝さんに料理を振舞ってあげたいのは山々なんだけど……」 なんて嬉しいことを言ってくれている。

 辺古山さんは九頭龍クンの隣で相変わらず佇んでいるし、弐大クンも生身だ。ちゃんと、生きている。皆生きている。生きているんだ。

 

「他に報告はあるか?」

 

 十神クンもずっとリーダーシップを取り続けていて、どんなものにも負けない〝 仲間 〟っていう繋がりを感じ取ることができる。

 ああ、素敵だなあ。皆、それぞれ自分の出来ることをしているんだ。いらない人なんていない。皆必要なメンバーなんだ。

 …… 私にできること、か。

 

「もう知ってるヤツもいるだろーが、言っとくぜ。このマスカットハウスの2階にもストロベリーハウスと同じように客室が並んでて、ラウンジには向こうと同じように電話機もあった」

「だが、こちらにある電話機にはイチゴ模様のボタンが付いているが、ストロベリーハウスの電話機にはブドウ模様のボタンがついていた。もしかしたら、それぞれ連絡を取り合うことができるかもしれない…… というのか坊ちゃんの見解だ」

「なるほど、ボタンの模様はそれぞれの連絡先を表しているのですね」

 

 うん、これも知っている。

 

「唯吹たちからはここの3階のことっすね!」

「モノクマが〝 モノクマ資料室 〟があるって言ってたでしょ? それを調べに行ってみたんだ……」

「えと、えと…… モノクマさんに関する情報がいろいろありましたけどぉ、脱出にはなんの関係もない部屋でしたぁ」

「なんつーか、有名人が思わず建てちゃった郷土記念館みたいな残念な感じだったね! そこはかとなく漂う微妙さがグッドっす!」

 

 あれはモノクマの悪ふざけが詰まっていた感じだからね…… 読むと意外と面白いかもしれないけど、くだらなさすぎて笑えてくるというか。

 なんていうの? 失笑?苦笑? うん、モノクマには悪いけど、無意味な部屋だよね。

 

「あとね、資料室に迷子がいたんだ」

 

 七海さんが言ったあとにその後ろからぴょこっと顔を出しのはモノミだ。

 

「し、心配でついてきたんでちゅけど…… あちしまで眠っちゃって……」

「ヌイグルミなんだから睡眠なんて必要ないじゃん! 馬鹿にしてんの!?」

「でちゅよね! あちしの扱いはそうでちゅよね! もうこんな扱いには慣れっこでちゅから落ち込んだりはしまちぇんよ! へへっ悲しいね! 慣れちゃうなんて悲しいね!」

「うーん、なんか荒んでるね……」

 

 そりゃあまあ、今までわりと蔑ろにされてたからね。

 原作よりはマシとはいえ、信じてもらえないってなったら荒むのも仕方ないよ…… うっ、なんか私にも突き刺さってる気がする……

 

「けどよ、オレは素直に嬉しいぜ! モノミがいてくれてよ!」

「ほえっ?」

 

 あ、モノミが終里さんにちょっと期待してる。

 でもダメだよ。希望なんて持ったら打ちのめされちゃうよ。

 

「なあ…… オメーって完璧にヌイグルミなのか? どっかにウサギの肉の部分とか残ってねーのか?」

「食糧としての期待!?」

 

 モノミはおいといて……

 どうやら話を聞く限り、皆は 「日向・十神」 、 「ソニア・田中」 、 「九頭龍・辺古山」 、 「小泉・西園寺」 、 「左右田・花村」 、 「終里・弐大」 、 「澪田・罪木・七海」 で別れて行動していたようだね。

 

「あと、私からだけれど…… どうやらこのドッキリハウス全体に冷暖房装置が設置されているみたい。どこかに電源盤があるらしいね。多分、皆が調べてないらしいファイナルデッドルームとやらにあるんだろうけど…… モノクマが言うには〝 殺すための凍死用 〟と〝 殺すための脱水用 〟装置で設定できる温度がすごいらしいから、探さない方が賢明だと思うよ」

 

 ファイナルデッドルーム(FDL)は原作でもあったが要するに凶器の宝庫へ行くための部屋だ。

 脱出ゲームを成功させてリアルロシアンルーレットを成功させれば極上の凶器が存在する〝 オクタゴン 〟へと行くことができる。

 しかし、誰もロボットではない現状極上の凶器は使えないし、極上の凶器の内容は原作と違うって思っていた方がいいね。

 

「マジかよ……」

「やはり、あのファイナルデッドルームには近づかない方がいいか……? しかしな」

「ああ、多分電源盤に行くのは無理だと思うよ。それなりの歓迎があってさ…… 私も探索は諦めたくらいだし」

「狛枝さんが諦めるくらいって……」

 

 これで皆あそこには近づかないだろう。

 万が一入ったとしても、脱出ゲームさえクリアすれば退路はできるんだし、無理にロシアンルーレットをする必要はない。そういう仕様になっていた。だからロシアンルーレットで死者が出ることもないだろう。

 

「…… 報告はこれくらいかな? それじゃあさっきの話の続きをしようか……」

 

 そう言って七海さんが話したのは、結論から言うとマスカットタワーとストロベリータワーが同じ場所だという話だった。

 ストロベリーハウスはマスカットハウスへ向かうための連絡エレベーターを背にして左手にタワーがあるが、マスカットハウスだとその逆で、右手側にタワーがあるのだ。

 故に2つの建物は1つのタワーを中心として鏡合わせのような構造になっているということだ。

 まあ、鏡合わせというにはどちらかの建物にしかない部屋があったり、そもそもハウス全体の形が違っていたりして相違点があるが。

 で、タワー内の模様や色は全て光で投影しているだけなので、入る回廊によって内装が変わる仕組みになっていると。

 さらに、七海さんによるとこのマスカットタワーの扉が開かれたちょうどそのとき、ストロベリーハウス側の入り口が自動で閉まってしまったため、扉は片方ずつしか開かない仕組みになっていると推測されるわけだ。

 〝 椒図(しょうず)は閉じるを好む 〟っていったところだろうか? 両方開けたらなにか良くないことでもあるのかな…… なんてね。

 

 そういったわけでなにか物を置いてストロベリーハウスまで行き、2つのタワーが同じ場所である検証をするわけになった。

 人が残るのは心臓の動き1つでも感知するセンサーのせいで無理だとモノミが言っているので、置いていくのは七海さんの電子生徒手帳だ。

 

 私が皆の1番後ろになってついて行くと、それに気がついた罪木ちゃんが歩みを遅くして私の隣についた。

 

「狛枝さん…… あの……」

 

 私の顔を見ながらなにか詰まっている様子の罪木ちゃんに 「ん、どうしたの?」 と問う。

 すると、彼女はうまく言葉にできないのか散々悩んだあとに言った。

 

「どこか、痛いところはありませんか……?」

 

 一瞬面を食らったが、微笑んで心配してくれた彼女の頭を撫でる。

 

「バレちゃったか…… 怪我はもう痛くないから大丈夫だよ。ありがとう…… 皆には内緒にしておいてほしいな」

「あの…… えっと……………… はい、分かりましたぁ」

 

 なにか引っかかりを覚えたような顔で彼女が頷くが、本当に傷は痛まないから大丈夫だ。

 

「さあ、行こうか。置いてかれちゃうよ」

「はい!」

 

 その言葉の真意に気がつくのは…… 全てが手遅れになってからだったのだ。

 

 

 

 ―― そう、 先にできる後悔なんてどこにもないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・メイ子の真相
 イラストを用意しておりましたが挿絵にするとテンポがおかしくなるのでこちらでご紹介。
 衣装が変わったのは希望ヶ峰学園に入るときにそれっぽい服装を用意したからです。モノクマと対峙しているせいかちょっと怖くなっちゃった。


【挿絵表示】


 ※ さび枝の好みをリサーチして自分でチクチク縫いました。



・4月1日
 今日はエイプリルフールですのでいくつか凪に嘘をついてもらっています。地の文で一箇所。会話で一箇所です。
 ということで、内容からして明らかに矛盾している部分があるのは仕様となっております。
 あとモナカちゃんの誕生日ですね! おめでとう!

・詐欺師
 表情の誤魔化しのためにそういう技術持ってそうという考察。

・冷暖房
 暖房効かして脱水症状にするもよし、密室にして冷房で凍死させるのもよし。お好みにどうぞ!

椒図(しょうず)は閉じるを好む
 中国の九生竜子より。ヒントは○つ! もそうだし、ちょくちょく探偵学園Qで出てきたネタを仕込みたくなる病があります。

※ 今後の展開を推理してくれている方には『波乱』のあたりや前書き・後書きなんかにも伏線は散らばっていますよ、とちょっとしたヒントを。


 おまけ

 添い寝イラストの要望が感想で見られたので描いてみました。
 雑な部分とか細かいところは気にしないでね。
 それにしてもこれだけ出血してよく死ななかったねって。


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