錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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〝 うそつきとの付き合いは、ここから始まる 〟


 ※No.入らないタイトル練習。これからもたまにあるかもしれません。あと、本編の投稿はあらすじの予告通りとなります。


虚ろな嘘を重ね重ねて噛み、色合わせ

 

 

「あれれー? さびつきサン、はっけーん!」

 

 小学4年生。

 いつもの駅、いつもの改札を抜けて帰るところで、私は気になる単語を聞くことになった。

 

「え…… ?」

「あっはは! やっぱりアンタがさびつきさん? 生まれる前から知ってたよ?」

 

 私はただただ、疑問を浮かべることしかできなかった。ネット内でしか使っていない。しかも夢関係のスレッドやチャットでしか使ったことのない単語を、まさに個人を示して言われるのは初めてだったからだ。

 振り返った私が見たのは、にししと意味ありげに笑う同い年くらいの女の子だった。ショートボブで元々なのか、少々明るい色をした髪で、有名な私立小学校の制服を着ているようだ。お金持ちの子供だろうか?

 しかし、〝 やっぱり 〟ってどういうことだ? それに、生まれる前から? そんなわけないだろう。まさか、私と同じ転生者なわけもないだろうしね。

 

「えっと、キミとは初対面…… だよね? 知ってたって、どういうこと?」

「はあ? 嘘に決まってるだろ常識的に考えて。まあ、アンタがさびつきだーって分かったのは本当だと思うけど」

 

 うーん、中々きつい物言いだな。

 しかし、この子の雰囲気どこかで見たことがあるような、ないような……

 とりあえず、私はさりげなく人の邪魔にならない場所まで移動して話を切り出した。彼女が大人しくついてきたのが意外だったのだが、

 

「で、本当のところはどうなのかな? キミは誰? なんで私のこと知ってるの?」

「そりゃあ、私秘蔵の裏表ルートで調べたに決まってるだろ?」

「…… えっと」

「ちょっと、そこで反応に困られても困るんだけどさ…… あー、アンタのことはネットで知ったよ。あのチャット、中々興味深くてさー!」

 

 つまり、彼女は普通の人にとってはくだらないと思うような、そんな夢日記談議のチャットに興味を持ったということだ。あんなふざけた話を信じている? しかも、本人を特定するまでに。

 彼女は一体なんなんだろう? 私も俄然興味が湧いてきた。どうせ行きずりの一期一会な関係だし、少し話してみても面白いかもしれない。

 面白いかそうでないかは大事だよね。

 

「もしかして、あのチャットに参加していた誰かだったりするのかな?」

「まあね。さて、アンタには私が分かるかなぁ?」

 

 にやにやと笑いながら口元を隠す彼女は妙に大人びているような気がする。私が深く関わる人物は妙に大人びた人ばかりだ。一期一会とは言ったが、もしかしたら深い関係になるかもしれない。そんな微妙な感覚がする。

 それにしても、この子が誰かか。そんなの簡単だ。だって、今までの会話の中でそのヒントは掴んでいるのだから。

 よく考えたら明るい髪のショートボブってところもぴったりだし、あのうろつきでさえ幼少の頃ははっきりした金髪でなかったのだから、彼女も金髪でないのはおかしなことじゃない。見慣れた服装でなかったから分かりにくかっただけだ。

 暗い青に向日葵模様のスカーフ。それに全体的に配色が青系と黄色系で纏めている辺り、イメージカラーはそのままだし……

 

「そっか、キミは〝 うそつき 〟さんだね?」

「ざーんねんっ、大正解! そうそう、私はアンタ等の言うところの〝 うそつき 〟だよ。驚いたか?」

 

 ここは合わせておくべきかな?

 

「そうだね。まさかこんなところで話しかけられるとは思ってなかったよ」

「そうだろ? でも気をつけてた方がいいよ? アンタの居場所を特定するのって簡単だったからさ!」

 

 まさか。マスコミはともかくとして、いくら新聞で騒がれても、テレビでニュースになっても幸運なことに住所特定まではされたことないんだよ? そもそも、私に近づくと殺されるって言われているからわざわざ特定してまで接触して来る人なんていないからね。

 

「どうやって調べたのは知らないけど、少なくともそれは嘘…… だよね?」

「そりゃあ、もちろん!」

 

 堂々と言ってのけた彼女は続けて自己紹介するように豪語する。

 

「だって、私は生まれついての天邪鬼だからさ。嘘を吐くことはもちろん、裏切りも騙りもお茶の子さいさいだね!」

「あんまり自慢にならないような……」

「まあねー。人から嫌われるのはそのせいだけど、それが私だしな。ほら、生物兵器を作る施設に売られたり…… キメラだって見たことあるんだぞ! あとは嘘を吐きまくって恩人を傷つけたり、それでも励ましてくれた恩人を裏切って殺したり、看護師を騙して病院から逃げ出したり、金持ちの未亡人に取り入って養子になったり…… それに、産まれたときだって両親の期待を裏切ってたくらいだからさ!」

 

 からからと笑いながら伺うようにこちらをみるうそつきちゃん。

 その瞳は笑いに歪められているように見えて、その実こちらを慎重に探っているように見える。

 その本質はただ強がっているだけのような、なんだろう…… よく分からないけれど放っておけないなにかを感じた。

 

「まあ、大半は嘘だけどさ!」

「真実も混ざってるんだ?」

「さあ、どうだろう? 実は私にも分かんないんだよな」

 

 急に真顔になるのはやめて欲しい。ちょっと怖いからさ。

 

「でも、なんで特定なんてしたの? チャットで話せばいいんじゃない?」

「だって、仲間だろ?」

 

 あ、ほらまた真顔。

 

「うん、まあ同じ夢仲間だろうけれど」

「ほら、〝 ウソツキ 〟仲間だろ? みーんな夢のことを話しても嘘だって言って、しまいには売られて病院送り。そこでも色々言ってたらいつの間にか〝 恩人サマ 〟しか私の話を聞かなくなったし、意味分かんねーよなー。心が落ち着かない? 構って欲しいから嘘を吐く? 馬鹿じゃねーのかって」

 

 捲し立てるように語り出した彼女の内容は、結構衝撃的だった。

 そうか、彼女はそばに共有できる人がいなかったのか。恩人とやらはそうでもないようだが、彼女は仲間を求めていたのかもしれない。

 

「だからさ、アンタも仲間でしょ? 嘘つき仲間。羊飼い(嘘つき)羊飼い(嘘つき)同士で群れてればいいんだよ。羊なんてどうでもいいだろ?」

 

 笑顔でこちらに来る彼女が少しだけ恐ろしくて、一歩下がったところで柔らかいなにかにぶつかった。まるでそれは人間のようで…… って。

 

「わあっ!」

「やっと見つけたよ…… ほらほら、うつろちゃん。迷子になっちゃ駄目だよ?」

 

 頭上から聞こえてきた声は聞き覚えのあるものだ。

 お腹の前に腕が回され、抱きしめられる。

 私はそれが誰だか分かって安心し、ゆっくりと目線を上げた。

 

「お久しぶりだね、凪ちゃん。2人とも、もう知り合っちゃったんだね! 私が引きあわせる予定だったんだけどなあ」

 

 のんびりとした口調で言うのはうろつきこと、織月(りづき)姉さんだ。

 彼女がいるってことは、やはりうそつきはチャットで見かけたうそつきで合っていたようだ。

 

「はあ? アンタが迷子になったんだろ? 私はきちんと目的のさびつきサンも見つけたからね。迷子じゃない!」

「世間的には年上から離れたら迷子って言うんだよ。知らなかった?」

「知るかよそんなの! しれっと嘘吐くな!」

「うそつきちゃんにだけは言われたくないなぁ」

 

 そんなやりとりを聴きながら私は考える。

 もしかして、最初から織月に紹介してもらう話だったのではないだろうか。それを私が知っているか、いないかは別として。

 織月のことだからドッキリでも仕掛けたかったんだろう。どっちが迷子になったのかは、どうでもいいことなので別にどちらでも構わないが。

 

「それで、ええと…… 自己紹介する流れかな?」

「はあ? さっきしただろうが!」

「そうだねーうつろちゃーん。ハンドルネームしか教えてないよねー?」

 

 にこにこしながら言う織月がなんとなく怖く感じるのは、私だけなんだろうか。

 

「って、いつから見てたんだよ、アンタ」

「生まれながらの天邪鬼辺りかな?」

「結構前からじゃん! なんでもっと早く話しかけてくれなかっ、いや、なんでもない……」

 

 言いかけたうそつきは顔を赤くして目を背けた。

 すっかり織月のペースに囚われているみたいだね。なんというか、若干チョロい気もする。ツンデレかな?

 

「じゃあ私からかな…… 多分知ってると思うけれど、私は狛枝凪。幸運とか死神とか、色々呼び名はあるけれど…… 髪が白くて変な夢を見る以外は普通の小学生だよ。キミは?」

 

 普通じゃないじゃん、とかは突っ込まない方向で。

 そんなのは私自身が分かっているからね。

 

「私は貫洞(かんとう)うつろ…… アンタ等と話してた〝 うそつき 〟ってのが私だよ。暇潰しのチャットだったわけだけど、まあ…… 多少は役に立ったかもね」

「改めて、私はうろつきこと空井(うつい)織月(りづき)です。今回仲介役になってたんだけど…… まあ、細かいことは別にいいよね」

「でも会って損したわ。なーんか、がっかりだし?」

 

 そんなことを言う彼女の表情はどこか嬉しげで、すぐに嘘だと分かってしまう。しかし、自然に口からそんな言葉が出て来るあたり、筋金入りの天邪鬼のようだ。

 これは人生苦労していそうだな、と苦笑いして受け入れる。夢に悩む、夢に苦しめられる。きっと彼女もそんな人だから。同類だから。

でないと織月が私に会わせようとするわけがない。

 それが分かっているから、私は彼女のどんな嘘も、内容をじっくり考えてみることにした。

 その嘘の裏にはきっと本心が隠されているはずだから。

 嘘の裏に本心があることなんて、そんなの当たり前のことだけれど…… それを見つけるのはとても難しいことだから。まずは、彼女を同類として暖かく迎え入れよう。

 かつてメイが、私を受け入れてくれたように。

 

 ウソツキの少女が浮かべる微笑みは、果たして本心か否か。

 それは本人にも分かりはしない。だって、彼女は自分自身に嘘を吐いているから。

 

 そんな〝 うつろちゃん 〟との付き合いは、これからどんどん長くなっていくだろう。そんな予感を胸に、とりあえず私は近くの喫茶店を指差した。

 

「お茶でもしながら少し話そうか。門限があるから長くは無理だけど」

「門限に帰るとか馬鹿なんじゃないの?」

「いやあ、捻くれてるね……」

「はんっ、門限なんて看護師…… じゃなかった、親を騙くらかせば引っかからないっての」

 

 分かりやすい嘘とは果たして知られたいという本心か、否か。

 それは誰にも、分からない。

 

 

 

 

 

 




・うそつき
 ゆめにっき派生 「夢日誌」 の主人公。殺傷エフェクトは釘バットで移動エフェクトはうさぎ。
 キメラやら旧verの馬 (ケンタウロスになる) やら、ケージ (ケージに閉じ込められる) やらツノやら、トゲ (刺さった状態で生えるため針千本?) やらビン詰めやら、人外に触れるエフェクトが多いのと研究施設 (馬になるエフェクトが手に入る)がマップで出てくるあたり色々闇が深い。

 派生の中ではファンシーな類に入るが、特定キャラを殴り殺すとき段階的に傷つけて殺していくという残酷描写がある。実際、死体が残るタイプでは一番残酷な部類に入ると思われる。兄妹の妹の方を殺そうとするとなぜか兄の方が傷ついて…… とか。
 ちなみに、音声なしなら大丈夫ですが現在は実況が禁止されています。その上エンディング未実装なので考察の幅が広い。

 傷つける嘘と自分へ吐く嘘が得意なイメージ。針千本ステージとかチェス盤ステージとか鏡だらけのステージとか、やはり 「天邪鬼」 や「裏表」といった感じ。それと女の子らしいエフェクトは 「本心or偽の自分」 なのかなって。

・タイトル
 語感重視。重ね合わせと噛み合わせとカミイロアワセをかけてみただけ。v3 4章タイトルの回文センスを少しでも分けて欲しいくらいです。

 余談

 王馬クンとデートしててそういえばうそちゃんの掘り下げやっていないなと気がついた。
 「生誕祭・再」 とか見たら偶然にもにしし笑いが共通していたりして親近感を感じたので、書いていなかった初対面を書いてみました。引っ張っていた理由は特にないので……


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