錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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No.21 『入院』ー案内ー

 大分手間取ってしまったが、罪木ちゃんからは無事に許可が貰えた。

 今度なにか埋め合わせでもしようかな。

 そして今、お昼を食べた後の時間なのだが、病院の待合室で3人を待っていた。

 すると、真っ先に十神クンがやってきた。

 

「早いね」

「ふん」

「もしかして心配してくれてた?」

「俺と違って不安になりやすいお前のために来てやってるんだ。少しは感謝しろよ」

「あはは、勿論」

 

 不安になってるのは罪木ちゃんの方だけどね。

 

「待たせてしまっただろうか」

「よぉ、狛枝。怪我は痛まねーか?」

 

 その後すぐに2人が到着する。

 息を切らせている九頭龍クンと、まったくそんな様子のない辺古山さんが対照的だ。

 

「ううん、皆すぐに来たからびっくりしちゃったよ。怪我はもう痛まないし、大丈夫。さ、行こうか」

 

 3人を促して病院から出る。

 意識を取り戻してから、初めての外出だ。第3の島も初めて目にすることとなる。

 

 病院から一歩踏み出し、周りを見渡す。

 なんというか、すごくハリウッドというか、アメリカンな雰囲気の島だ。住居というか、廃墟が沢山あり、サボテンが至る所に生えていて、いかにもカウボーイやガンマンがいそうな場所である。

 荒野のような雰囲気のある地面に、そこらをコロコロと転がる草、タンブルウィードが転がっている。

 あの転がる草ってアニメ特有の演出の一種なのかと思いきや、実は実在する植物なんだよね。種が出来ると枯れて、転がりながら種を撒く植物なんだそうな。

 前に1度アメリカに行ったとき、2人目の父さんに教えてもらった。

 勿論、アメリカに行ってなにもないわけもなく、1回銀行強盗の人質にされて太腿を撃たれたりした。あれは痛かったなぁ、うん。治るのに暫くかかったし、帰ろうにも歩けないから苦労した。強盗?自分で仕掛けた爆弾で自爆してたよ。私は爆風でさらに怪我しただけで済んだけど。本当幸運で嫌になる。

 

「どこから案内してくれるの?」

 

 一通り外を眺めたあとに九頭龍クンに尋ねる。

 今回案内役に頼んだのは2人だから、十神クンには訊かない。彼は付き添いだからね。

 

「ああ、そうだ。テメーにも見て欲しいモンがあんだよ」

 

 そう言って彼が先導して行った場所は、病院の隣に位置する〝映画館〟だ。

 隣、といっても田舎特有の隣家まで何㎞みたいなものなのでそう近いわけではない。

 周りも、荒野と廃墟ばかりで見た目にも楽しくない光景しかないうえ、調べても基本なにもなかったり、モノミの隠れ家になってたりしただけで特に収穫はなかったらしい。

 でもそうか、映画館か。だけれど、あそこって意味ありげでなにもないんじゃなかったっけ?

 

「え、映画館? なんで?」

「またモノクマが変なモンを作ったらしくてな、全員見るように誘われたんだが一旦断ったんだよな」

「ああ、迂闊にモノクマが制作したものを見るのはよくないだろう?」

 

 九頭龍クンと辺古山さんが苦々しげにそう言う。

 これは、こないだのことが教訓として活きているのかもしれないね。

 

「それで俺と日向に相談が来たわけだが…… お前の意見も訊くべきだという結論になった。全員の意見を一致させる必要がある、とな」

 

 なるほどね。私はあの映画が動機でもなんでもないくだらないものだって知っているけれど、他の皆は当然知らないわけだ。

 だから、前みたいに動機なんじゃないかと心配しているんだろう。

悪魔の証明を持ち出して全員で見るよう勧めたのは私だし、これはちゃんと見るべきだろうなとは思う。

 …… 内容がくだらなすぎて、原作の狛枝(わたし)は150万出してもいいから見なきゃ良かったと言っていたが。

 それを知っているからあまり気は進まないが、致し方ない。

 

「まあ、動機かもしれないっていうのなら全員で見るべきだよね」

「やっぱりそう思うか?」

「日向の話によると、見ないなら150万円のステッカーを買うように言われてしまったらしいな。私たちはそんなこと言われなかったように記憶しているが……」

「俺もそんなことは言われなかったな」

「あいつからかわれてんだよ……」

 

 どうも話を聞くに、日向クンはモノクマにからかわれることが多いらしい。きっと反応が面白いからだよね。私が左右田クンをよくからかうのと同じ理由だ。

 

「なら、案内してもらった後にでも皆を誘おうか」

「ああ、そうすることにしよう」

 

 中に入るとモノクマに映画を勧められるということで、私たちは次の場所に向かうことにした。

 荒野は次第に建物の数が増えて行き、商店街のような物が見えてきた。ところどころにチカチカとネオンのようなものが見えて、電気製品が沢山置いてある場所に出る。なんだか、南国の島というには似つかわしくない場所だ。

 

「左右田クンが喜びそうな場所だね」

「ああ、他の場所は調べても良い物がなかったが、この場所には〝 人類史上最大最悪の絶望的事件 〟とやらの概要の入ったパソコンがあった。眉唾ものだが、モノクマのことといい、記憶を失っているらしいことといい、無視はできないだろうな」

 

 へえ、十神クンは嘘情報だって決めつけずにちゃんと考察してるんだ。視野が広いんだね。

 日向クンはともかく、左右田くんなんかは信じてなかったと思うから、殆どの人は信じてないものだと思っていたよ。

 

「そうだね、最初から切り捨てるようなことはしないほうがいいと思う。ほら、もしも運転って大切でしょ?」

「あー、そうだけどその例えはどうなんだよ?」

 

 九頭龍クンが呆れたように言う。

 まだ運転免許を取ってない人もいるだろうし、あんまりピンと来ないものなのかな?

 

「うんと、じゃあ転ばぬ先の杖?」

「微妙に違う気もするが、まあ意味は通じると思うぞ」

 

 1回考えて言ってみると、辺古山さんが思案するように手を顎に添えて頷いた。

 

「内容はどんなものなの?」

 

 知ってはいるが、一応訊いておかなければなるまい。

 

「希望ヶ峰学園で予備学科による暴動が起き、それを切っ掛けにして全国、全世界へと広がっていったテロや事件全てを総称して〝 人類史上最大最悪の絶望的事件 〟と言うらしい。さらに、その規模はもはや事件と呼べるものでなく、災害や天変地異のような〝 現象 〟とさえ言えるほどのものへとなっている…… という内容だな」

「普通に考えたらSFかなにかみたいな話だね……」

 

 普通に考えたら、の話だけどね。

 私はそれが本当に起きたことだと知っている。

 その結果どんな状態になっているのかは、残念ながら知らないわけだけれど…… ああ、せめて番外編の発売まで生きていたら良かったんだけどなぁ。

 

「ふん、記憶しておけば役に立つことがあるかもしれないからな。全て忘れるよりも記憶の片隅にでも置いていたほうが良いだろう」

「なるほどね…… 場所は覚えておくよ」

 

 それから自由に電気街を周っていると、テレビやパソコン、音響機器から玩具の類やゲームのハードまで様々な機械が並んでいた。どれもこれもいわゆるジャンク品とやらが多いようだが、もしかしたら使えるものもあるかもしれない。

 そこらは左右田クンの分野だが、どうだろう。彼、真面目な人だけれど機械の改造や組み立ての方に目がいきそうだから、意外なところにある手がかりを見逃しそうな気もするんだよね。さすがに信用してなさすぎだろうか?

 今度の自由行動のときにでも、色々話を訊いてみようかな。彼ならニコイチして携帯電話を使えるようにできそうだし、連絡手段が使えるようになったらいいな。

 ふむふむ、ゲーム大会のときにテレビを探しに来たのはこの電気街なんだろうな、きっと。古いとはいえゲーム機もあるし、七海さんも喜びそうだ。

 奥まった場所にあるカメラ?のようなものがある店は、恐らく原作であった盗聴や盗撮用の機械がある場所だろう。よくある監視カメラのようなものや、分かりづらそうな小さいカメラもある。四角い機械は盗聴器だろうか?悪用はされないだろうが、これらの使い道も日向クン、十神クン、ソニアさんなどと話す必要があるだろう。

 日向クンはまあ言わずもがな、混乱はしやすいが真摯に脱出方法を探してくれているし、十神クンはリーダー。それと、ソニアさんは女子代表ってところだからね。小泉さんも最初はソニアさんをリーダーに推していたし。

 

「さて、ゲームなんかはまた探しに来るとして…… 次に行こうか」

「ん? もういいのかよ」

「うん、場所は覚えたから今度また見に来るよ」

「分かった。では次に行くか」

 

 そう言った辺古山さんはすぐさま「行きましょう、坊ちゃん」と優しい声で続ける。

 それを聞くが早いか、九頭龍クンも電気街に背を向けた。

 

「ほら十神クンも」

「ああ……」

 

 珍しく重苦しそうに歩き出した彼を押して、私は九頭龍クンたちについて行った。

 途中、人が簡易的に泊まれる〝MOTEL〟があったが、本当に泊まれるだけで特になにもないらしい。食事は自動で出てこないし、個室には小さな鏡しかないし…… まあ、コテージよりは防音がしっかりしているようだが。

 あとは、駐車場があるくらいか。

 なにかあったときはこちらに泊まれば良いということだろうか。

 さて、簡易ホテルの次に着いたのはギラギラと歓楽街のようにネオンが輝く建物だ。荒野にあるには違和感がある、なんとも場違いな建物だった。

 

「ふぅぅぅぅうぅぅ!」

「ふふん、素晴らしい音楽だよねー! わたしこーんないい曲で踊るの初めてだよー!」

「…… これでいいの、かな?」

「はいはい3人とも! 笑顔笑顔!」

「西園寺の好きな曲って和風系じゃないんだな……」

 

 中では澪田さんがギターを演奏し、西園寺さんがいつもの橙色でない薄桃色の可愛らしい着物で日本舞踊を披露している。

 さらにその横では七海さんが微妙な顔でトライアングルを鳴らし、その3人を小泉さんが撮影している。

 横には同じく誘われたらしい日向クンがトイカメラを構えながら微妙そうな顔をしている。

 もしかしたら小泉さんとの自由行動でカメラについて教えてもらっているのかもしれない。

 

「ここって、なんだろう?」

 

 いや、ここが何をする場所かは知っているが、初見じゃあ分かりにくいと思うんだよね。だから一応九頭龍クンに訊くことにした。

 

「あー、澪田が言うにはここは〝 ライブハウス 〟らしいな」

「ライブハウスかぁ……」

 

 ライブ?

 軽音楽部のシャウトに、日本舞踊の舞に、トライアングルで、ライブ?

 

「そこは気にしてはいけないだろう」

「あ、うん」

 

 澪田さんに誘われ、九頭龍クンにも推されて舞台上に剣舞しに行く辺古山さんを見送る。

 少し恥ずかしそうだったが、ギターをかき鳴らしながら迎えにきた澪田さんに連れていかれた。

 

「さすがペコだな!」

「あはは、どうせなら写真だけじゃなくって、動画も撮れれば良かったね」

「あ、なら今度ビデオカメラも探してくるか」

 

 日向クンが 「フレームを……」 などと教わったことを復唱しながらカメラを構えていたのだが、一旦下ろしてそんなことを言ってきた。

 これは、また同じようにライブする可能性が出てきたね。今度は他の皆も参加したりして、またゲーム大会のように楽しいイベントになりそうだ。

 

「あっちの倉庫も見て来るね」

「ああ」

 

 奥にある倉庫へ入って行く。

 どうやら舞台に使う諸道具が置かれているようだ。

 様々な絨毯や壁紙、ペンキ、脚立は同じものが二脚あり、ライブに必要そうな楽器類、また、衣装を確認するための大きな姿見と人数分の尻尾アクセサリーらしきものがぶら下がっている。

 椅子にはライブハウスの宣伝用なのか、同じステッカーが山ほど積まれている。この島には16人と2匹しかいないというのに、誰にどれだけ配るつもりなのだろうか。

 正直資源の無駄だ。裏面の白紙で絵しりとりでもやる以外に使い道もないよね。

 

「はあ、はあ! 熱いdisりにもボクは負けないぜ…… そう! クマだからね!」

「っ!?」

 

 なんとなしに姿見を見ていたら、一瞬だけモノクマが映ってなんか言って消えて行った。

 焦って鏡をペタペタ触ってみるがすり抜けることもなく、そこにはただ私が映っているだけである。なんだこのホラー。

 

「……」

 

 うん、考えるのはよそう。モノクマだし、考えるだけ無駄だ。

 

「十神クン、見終わったよ」

「ああ、ならこの島はもう見て回ったことになるだろうな」

「あれ、そうなの?」

「このあと進んでも病院に戻るだけだな」

「そっか」

 

 未だに続いている剣舞や演舞。澪田さんの演奏は激しい音楽にシフトチェンジしていた。七海さんのトライアングルが小さく鳴っているのがなんとなくシュールだ。

 

「ふっ、はぁ!」

「らららら〜」

ypaaaaaaaaaa(うらぁぁぁぁぁぁ)!」

「……」

 

 なんだこのカオス。

 そういえばこのライブハウス、バーがあるみたいだね。カウンターと席があるから、そこで飲食できそうだけれど…… 私たちは記憶上ギリギリ未成年だからお酒は楽しめないんだよね。

 

「そこは安心でちゅ! ここにはしゅわしゅわした飲み物しかありまちぇん!」

「ねえ、なんでキミたちはそんな急に湧いて出て来るの?」

「ふぇ!? そ、そんな虫みたいに!」

 

 4人の演舞を見ながらラムネやコーラで乾杯することにした。

 

「おう狛枝、兄弟の盃でも交わすぁ?」

「ちょっと、なんで酔っ払ってるみたいになってるの? というか、あれって婚姻以外は女の人とやるものじゃないでしょ! 辺古山さんとやってあげなよ」

「おー、そうだなぁ」

 

 え、待ってよ。これ絶対酔ってるよね? 酔ってるよね?

 九頭龍クンって炭酸でも酔っちゃう人? いや、そんなわけはないよね。たまにジャンクフード食べてるときに、炭酸も飲んでるし…… 確かに牛乳飲んでるほうがよく見るけど、まさかそんな、ね?

 

「おい、貸せ」

「おい、オレのだぞぉ」

 

 十神クンが彼のグラスを奪って空のグラスに少し移し、飲んだ。

 

「…… これは日本酒、だと!?」

「え!?」

「そ、そんな!お酒は置いてないはずでちゅよ!」

 

 バーテンダー姿のモノミが慌てて手足をばたつかせているが、そこは信用のないモノミである。

 冷ややかな目線を無言で浴びせられたモノミは悲しそうにしながらお冷やを用意してきた。

 

「あー? もっとしゅわしゅわ持ってこいよ」

「ほらほら、そんな格好悪い言葉使ってると辺古山さんが悲しんじゃうよー」

「……」

 

 件の辺古山さんが彼の変化に気づいていないのは、幸いだけれどね。

 

「まったく……」

「まあ、しかたないよね」

 

 カウンターに伏せってしまった九頭龍クンを見ながら、未だライブをしている4人と、撮影している2人を眺める。

 結局、案内はしてもらったけれど2人の心は晴れただろうか?

まあ、楽しかったからいいんだけどね。

 

 だがモノクマは許さない。絶対にだ。

 私の病室に鉢植えの彼岸花置いたの絶対にあいつだよね?見てたよ? 夜中に置きに来ているの。

 

 和やかな風景を眺めながら、次会ったら物理的じゃない仕返しをしてやる…… と私は決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・ごったにライブ
 第3章の中頃、トイカメラを持った状態である人と話すと発生するイベントです。

・盃を交わす
 最初は普通に九頭龍、辺古山、狛枝でやろうとしていたのですが、さび枝が言う通り、女性との場合は現実的に考えると婚姻しかないので辞めることにしました。

・鉢植え
 お見舞いに鉢植えは退院できないことを示すので不吉です。
 メイ子さんから貰っていた鉢植えは、病院に住んでいたので既に根を張っている状態、ということでセーフにしてました。

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