皆様が来年も幸せでありますように祈りを込めて、らーぶらーぶ
「辺古山さーん、ひだりひだりー!」
「ペコ! 右斜め前だ!」
「ペコちゃーん! そこ! そこっすよぉ!」
「むー! むー!」
12月25日の昼間、私たちは揃って砂浜にいた。
ウサミ先生の提案でスイカ割りをすることになったからだ。
現在スイカ割りに挑戦しているのは辺古山さん。九頭龍クンのネクタイを頭に巻いて目隠しにし、その手には竹刀が握られている。
彼女はどうやら九頭龍クンの指示にのみ従っているようだが、それは罠だ。肝心の彼は傍に埋められたモノクマへ誘導しているからね。
このアイランドモードだと思われる平和で穏やかな島では、モノクマへの暴力で罰せられることがない。ウサミ先生がモノクマに勝った世界なので、そんなルールは追加されてないからだ。
だからこうして、喋れないようにされたモノクマ目掛けてスイカ割りをしても全く問題がない。
それに今のこの状況は、タチの悪い悪戯を仕掛けようとしていたモノクマが悪いので同情の余地は一片もないのだ。
弐大クンが押さえつけ、左右田クンが口を塞ぎ、西園寺さんや澪田さんが渾身の穴を掘って嬉々として埋める姿はとても輝いていた。
「はぁっ!」
「むーーーーーー!」
機械なのでさすがに割れることはなく、どうやって作っているのか知らないが、モノクマは大きなタンコブを作って前のめりに首を倒した。
砂浜からは頭だけが出ている状態となっているので気絶しているかどうかは分からないが、間違いなくダメージは負っているだろう。
「む、すまない。間違えてしまったようだな」
「もー! ペコちゃんったら冬彦ちゃんの指示しか聴いてないんすもん!」
「す、すまない……」
澪田さんが口を尖らせて抗議すると彼女は、九頭龍クンの声しか聞こえてない事実に顔を赤くして謝罪した。
「はぁっ!」
「お見事でちゅ!」
スイカ割りは失敗してしまったが、目隠しをとった辺古山さんがスイカを宙に上げ、一刀両断する。
スイカは砕けることもなく、綺麗に割れてウサミ先生がキャッチした。
それからウサミ先生が杖を振るとその場に全員が入れそうなほどのレジャーシートが現れて、いつの間にかスイカも人数分に分けられていた。相変わらずすごい魔法である。
「ええと、そろそろ夜の準備をすべきかな?」
塩を2つまみスイカにかけて味わったあと、片付けムードになったので声を漏らす。
それに答えたのは、近くにいた小泉さんだった。
「そうね。そろそろパーティの飾り付けもしないと」
今日は12月25日。つまりはクリスマス当日である。
これはなにかしなければ、と企画されたのが平和なパーティである。昼までは遊び、その後皆で準備に入るのだ。皆で、だ。私1人で掃除するわけじゃないのだ!
それに、毎日交代で掃除しているから旧館もさほど汚いというわけではない。すぐにでも使う、となるとなんとも言えないが、2時間もあれば飾り付けも掃除も終わってしまうだろう。
ということで、全員が一旦ホテルに向かうことになった。
「あ、ねえウサミ。なにか大きなプレゼントボックスはないの?」
そう言ったのは小泉さん。
「…… どうせ大きなボックスを用意するなら、誰にどのプレゼントが当たるか試すのも面白そう、だよね?」
「ああ、いいなそれ。プレゼント交換もいいけど、そういう形式にもしてみるか? 十神に相談してみるよ」
七海さんがその話に便乗し、日向クンが淡い笑みを浮かべて十神クンの元へと向かっていく。
2人のリーダーはきっと素敵な企画にしてくれるだろう。そう、信頼してるよ。
「狛枝さん、ちょっといい?」
「どうしたの? 花村クン」
「買い出しを手伝ってほしいんだよ。ぼくは仕込みで忙しいから、足りなくなりそうな食材を買ってきてほしいんだ」
「分かった。あとでメモをくれたら行ってくるよ」
そう言って横並びに歩く。
こうして一緒にいるとすごい身長差だなぁ。
「そうだ、届かない調理器具とかあったら教えてよ」
「あんまり身長の話はしないでくれる?」
「まあまあ……」
身長の話題が地雷なのは花村クンもだったようだ。九頭龍クンといい、別に可愛いからいいじゃないと思うが。
いや、可愛いと言われるのがダメなのか。
「それじゃあミナサン! ホテルのレストランにプレゼントボックスを置いておくので、その中にお好みのプレゼントを入れてってくだちゃい! あとで旧館まで運び、プレゼント交換会になりまちゅ!」
どうやら、プレゼントボックスの件は可決されたようだ。
全員、ウサミ先生の用意した巨大なボックスに自身のプレゼントを詰めて作業に入っていく。
女子は旧館の掃除に飾り付け。弐大クンなど、男子はクリスマスツリーのような大きな道具の設置。花村クンは料理の仕込み。日向クンと十神クンはそれぞれ手伝いながら現場監督だ。
「それじゃあ、ちょっと買い物に行ってくるけど…… 他にもなにか必要なものはあるかな?」
「紙のリング作ったりするから折り紙と、飾り用に風船とかどうかしら」
「小泉おねえにさんせーい!」
「日寄子ちゃんは相変わらずっすねぇ」
花村クンのお使いついでに女子の方で必要になりそうなものも確認する。
ああ本当に、全員でパーティの準備をするっていいなぁ。こんな広い場所を1人で掃除することを考えたらゾッとするよ。
「よし、じゃあ行ってくるね」
「い、いってらっしゃいですぅ!」
脚立の上でハタキ片手に言ってくれる罪木ちゃんに手を振る。
あ、ほら…… そんなに勢いよくこっちを向くと脚立が。
「あ、ふぁぁ!? い、痛いれす…… あ、ひゃあああ! み、見ないでくらさーい!」
脚立が倒れて落ちた罪木ちゃんは、相変わらず不思議なポーズで固まってしまう。立っていたはずの脚立がなぜか足を空に向けて設置され、その中にお尻を挟んでしまった罪木ちゃんも同様に、宙に向けて足を広げてしまっている。後手にハタキを持っていたために脚立に引っかかり、腕を上げることも難しそうだ。
奇しくも転ぶと扇情的なポーズになってしまうのはなぜなのか、苦笑しつつ、彼女を助ける小泉さんたちを横目に買い物へ出かけることにした。
ロケットパンチマーケットまではすぐだ。
さっさと買い物を終わらせて掃除に参加しなければ…… そうしてノボリのそばを歩けば、突風が吹いてそれが倒れてくる。そのうえノボリの棒部分だけが外れて頬を掠めて飛んで行くわ、 「クリスマスセール中」 の文字が踊る垂れ幕が外れて首を絞められるわ、マーケットに入るまでに不運に遭いまくってしまった。
「は、え? なんでこんなに……」
不運続きはマーケット内に入ってからも続いた。
棚が倒れてくるわ、ペンキを被りそうになるわ、倒れてきた調理器具類と、顔のすぐそばにビィィンと音を立てて刺さる包丁に冷や汗が流れるわで散々だ。
幸いお使いした物に影響はないが、あまりにも危険すぎる。
不運にも捲れた床に足を取られ、転んでしまったときも荷物は背中でキャッチしたので無事だ。
「不運すぎる…… この、私が?」
この不運はさすがに不自然すぎる。
なにかこれから起きるというのだろうか? 僅かばかりの不安を覚えながらも、私にはただ進むことしかできないのだが。
「はあ……」
予定よりも大分時間がかかってしまったが、荷物は無事だ。
怪我をして頭は痛いけれど…… まさか空からジャバ魚が降ってきて刺さるとは思わないじゃないか。
「あとで罪木ちゃんに手当てしてもらおう……」
そうして旧館に入るも、とても静かだ。
「あれ?」
先ほどまでは確かに賑やかな声を響かせて掃除していたはずだ。
まさか私がいない間に掃除が終わるだなんてこともありえないし、どこにいったのだろうか?
ひとまず厨房に顔を出してみると、そこには花村クンだけがいて、忙しそうに料理の仕込みを続けていた。
「ねえ花村クン、皆どこに行ったのか知ってる?」
「あ、狛枝さんおかえりなさい。皆はレストランに行ってるよ。なにかあったみたいでさ、ぼくは仕込みがあるから行けないけど、見てきたらどう?」
なにかがあった?
やはり、なにかよくないことでもあったのだろうか。
脳内に過るのは死体発見の場面。しかし、これはアイランドモードのはずだ。皆で掃除していたのだから1人になる人なんていないし、皆信頼を築いている。そんなことが簡単に起こるはずがない。
首を振って悪い方へ行こうとする思考を正し、 「うん、行ってみるよ」 と笑う。
引きつってしまったような気もしたが、まあいい。すぐさま踵を返し、頼まれた食材だけを彼の届く位置に置く。
「早めに戻ってくるよ。だって今日は楽しい楽しい、クリスマスパーティなんだからね」
そうなるはず、なんだから。
無性にする嫌な予感を振り払いながら足早にホテルへ向かう。
段々と早くなっていく歩みがとうとう小走りにまでなり、ホテルロビーは通らずに横の階段から直接2階のレストランへ駆け込んだ。
「………… ああ、そういうこと」
目の前に広がった光景は、その場所には、50㎝四方の大きなプレゼントボックスが〝 6つ 〟ある光景。
そのボックスの全てが白黒に塗られて放置されている。
ボックスを塗った際に溢れたのか、ホテルのレストランには白黒のペンキがぶちまけられてしまって悲惨な状況だ。
ボックスの前には愉快に笑うモノクマの後ろ姿。その奥には、私の登場に驚きつつ、モノクマに憤る皆の姿。
「狛枝!」
「なにが、あったの?」
予想はついている。ついているが、一応状況確認くらいはしなければ。
「そ、それが…… プレゼントボックスをどうしようかって見に来たらもうこうなってて……」
小泉さんが強張った声で言い、モノクマを睨む。
「オマエラのプレゼントはこの中の1つにしか入ってません! あとは全部爆弾なのです! うぷぷぷ、ぶひゃひゃひゃひゃ! リア充なんて爆発しやがれ!」
「と、いうことなのです……」
落ち込んだ様子のソニアさん、明らかにテンションがガタ落ちしている澪田さん、憤りを示している男の子たち……
「爆弾と言われると迂闊に手を出せんからな……」
苦々しげに舌を打つ十神クン……
プレゼントボックスに目をやってみても、決して見分けはつかない。
「……」
ああ、そうか。
だから、なのか。
そっと目を瞑り、ほくそ笑む。
「こ、狛枝さん?」
このために不運が来ていたのか。
だったら、私は私の才能を信じるだけでいい。
一歩一歩進み、横並びになったそのボックスを見比べてみるが、やはり分からない。分からなければ、勘で、この才能を信じて、選べばいい。それだけの話なのだ。
「私はね、幸運なんだ」
覚えのある台詞を謳うように言葉にし、1つ、ボックスに手をかける。
「おい、迂闊なことは……」
「こういうときに限っては、私も役に立てるね」
こういうときにしか役に立てないとも言うけれど。
制止しようとする十神クンの声を遮り、ボックスを潔く開いた。
「…… ほら、当たりだよ」
開いたボックスの中には、それぞれが用意したと思われるプレゼント袋が入っている。色とりどりのそれをかき分け、自身が入れた分を探して取り出す。
そうすることでこれは安全だと皆に伝えるためだ。
「な、なんと! くそう! 持ってけドロボー!」
「いや、元々あんたのじゃないでしょ……」
モノクマの言葉に呆れたように言う小泉さん。
彼女が思わずといった様子で呟くと、それを皮切りにして皆も緊張を解いたようだ。次々と喋り始め、澪田さんなんかは私に向かってルパンダイブしてくる始末だ…… 満更でもないけどね。
「ふん、無茶をする……」
「あんまり心配させないでくれよな」
「ほら、私って幸運しか脳がないから……」
自嘲気味に言った言葉に、日向クンの目が鋭く光ったような気がした。
「それは違うぞ!」
「…… え?」
困惑の声をあげれば、凛々しい顔で台詞を言っていた日向クンが、表情を柔らかくさせ、優しい笑みを浮かべる。
「お前は掃除だって真面目に頑張ってくれるし、皆を励ますのも上手いし、いろいろやってくれてるだろ? 俺たちだって頼りにしてるんだ。そうだよな? 十神」
「…… まあ、信頼はしている」
「………… そっか」
そうだね、あんまりネガティブな発言はするもんじゃないね。
日向クンに例の台詞を言ってもらえたのは嬉しいけれど、ここで言われるのは予想外だったかな。
学級裁判のないアイランドモードであろうことから、聞く機会なんて来ないものだと思っていたよ。
「み、ミナサン! 大丈夫でちたか!?」
「あ、ウサミじゃーん! どこ行ってたのー? わたしたちのピンチに来ないとか無能もいいとこだよねー。ほら、このクマ見張っておいてよー!」
そういえばウサミ先生は来るのが遅かったね。
「あ、あとね…… これ以外のプレゼントボックスは爆弾が入ってるらしいから、処理をお願いしたい…… と、思うよ」
「冥界の奥底に封印するべきだろう。俺様がやってもいいが、これから闇の宴があるのでな……」
「はわわわ! わ、分かりまちた! パーティが始まるまであちしが見張っておきまちゅ! それと、これの処理も任せてくだちゃい!」
そう言ってウサミ先生がモノクマを引きずっていく。
「あー! なにするんだよぉ! リア充爆発させるんだー!」
「アンタはこっちで大人しくしてなちゃい!」
「妹が冷たいー!」
「アンタの妹になった覚えはありまちぇん!」
どことなく哀愁が漂っているようなモノクマと、怒り心頭なウサミ先生を見送った私たちは誰と言うでもなく、そのままパーティの準備に戻って行ったのだった。
◆◇◆
パーティは滞りなく進み、深夜。
どこからともなく聞こえてくる花火のような音に釣られ、私は1人パーティを抜け出して砂浜までやってきていた。
「ウサミ先生…… とモノクマ」
そこには、モノクマと偽プレゼントボックスを括り付けたロケット花火を打ち上げる先生の姿があった。
夜空にはボックスの中の爆弾も含め、大輪の花が咲き誇るように火花が散っている。
処理はどうするのかと思っていたが、大分ダイナミックな方法で処理していたらしい。
「っふ、汚い花火だぜ…… でちゅ」
その台詞が風に乗って聞こえてきて、思わず吹き出してしまう。
その音に気がついたのか、ウサミ先生はキョロキョロと辺りを見回し、私を捉えた。
「あ、み、見られてしまいまちたか」
「うん、なにか大きな音が聞こえるから気になってね」
言いながら隣まで来ると、最後の花火を打ち上げるところだった。
モノクマの叫び声がドップラー効果でどんどん遠くなっていく。
それを見届けた後、彼女はどこからともなく取り出した杖で一振り…… すると、淡いピンク色の光が雲間を貫き、なんと雪が降り始めた。
「え、寒くないのに…… ここ、南国だよね?」
「うふふ、あちしからのクリスマスプレゼントでちゅ」
悪戯が成功したかのように笑う先生に、私も釣られて笑う。
「あはは、おつかれさま。ありがとう、可愛いサンタさん?」
「えへへ、喜んでもらえると先生冥利に尽きまちゅね」
1人と1匹で静かに海を眺め、空からもたらされる奇跡を手に取ってみる。雪はふわふわとしていて、少しだけ冷たい。
「らーぶらーぶ、できまちたか?」
そうして2人でいると、ウサミ先生が確認するようにそう言った。
「うん、おかげさまで。平穏で安全で…… そして退屈だけれどとっても暖かい1日だったよ。ありがとう、先生…… これからも、よろしくね」
「はい、でちゅ」
そう言って笑いあう。
来年もらーぶらーぶでいられますように。
いつまでも私たちの先生でいてね。
大好きだよ、ウサミ先生。
・幸運の才能
例によって漫画 「ココロ常夏ここロンパ」 のパロディ。
あちらでは風邪をひいた日向クンに薬を届けるためにドラッグストアに行く狛枝の話ですが、こちらではパーティの邪魔を企むモノクマを打ち砕くお話です。
ボックスを開けるときは、きっと4章のロシアンルーレット時のように目が死んだ笑みをしていると思います。
・花村
出番少なくてごめんなさい!自由行動のあれで精一杯なのですよ……
・ウサミ
「皆とらーぶらーぶ、できまちたね。よくできまちた」
・モノクマ
なんだかんだいっていじられるのも絶望しながら楽しんでいると思う。
それでは皆様、良いお年を。