「どこか拠点になる場所を作ったほうがいいかもしれないな」
始まりは日向クンのその一言だった。
「なにそれチョー格好いいっす! 悪の組織とか地球防衛軍みたいっす!」
「悪の組織は拠点を複数持ってるのがベターですね!」
「悪の組織でいいんですかソニアさん!? 確かに追われる身ではありますけど!」
ノリのいいクラスメイトを持つ私も当然賛成側だった。
賛成派多数。加えて、私は私で〝 例の場所 〟を掃除しに戻りたいと思っていたところだったのだ。
ちょうどいいのでわいわいと騒ぐ皆の中で手をあげる。
「どうした? 狛枝」
「思いつく拠点候補があるんだけど、どうかな?」
私とメイの過去はそろそろ清算する必要がある。いつまでもあの場所を廃墟にしておいたままでいるんけにはいかないのだ。
「私達が昔住んでいた場所…… 〝 医療機関最大最悪の事件 〟が起きた病院が廃墟になってるから、そこを綺麗にして使うのはどうかな?」
「廃墟か…… お前はいいのか? 明海さんも」
「私から言い出してるんだからいいんだよ」
「構いませんわ。むしろ懐かしさで胸が一杯になってしまいそうです」
当然メイも賛成派だ。
困惑している人はいるけれど、反対派も特にいないし、本人がいいならいいんじゃない? といった雰囲気だ。候補地も特にないし。
…… というわけで私達はかつて生まれ育った場所に戻ってきたわけだ。
「館内地図の他に隠された場所もあるから、メイ」
「はい、お嬢様」
メイの記憶の限りが記された地図を人数分配る。
それから、簡単な注意事項も。
「そこら中刃物も含めていろいろ落ちてるから靴は左右田クン製のやつに変えておいてね。隠された場所は私とメイでなんとかするから、なにかあったらそっちにまで来てほしい。あとは……」
「えへへへ、えへへへへぇ……」
「罪木ちゃんは控えめにね……」
かつての大病院ということで罪木ちゃんが大興奮して我を失っている。包帯とか消毒液とか、わりと貴重な薬品とか持っていってもいいけれど、怪我だけはしないようにねと注意しておく。
…… コンビとして誰かつけたほうがいいかもしれない。1人で暴走して、どこかで絡まったままになってしまったら困る。
こういうとき小泉さんをつけられればなあ…… そうすると西園寺さんもセットになっちゃうから、あまりよくない。
悪い子ではないとはいえ、せっかくいい気分になってるのに落ち込ませるようなことはさせたくないからね。
いや、私達と一緒に来てもらえばいいのな? メイ合わせて17人いるから2人1組にはならないし。
はーい2人組作ってー…… うっ、頭が。
「罪木ちゃんは私達と一緒に行こうか、うん」
「はあい、いろいろ教えてくださいねぇ」
本当にご機嫌だね。
まあ罪木ちゃんなら私とお仲間だし、もし〝 アレ 〟を見ても大丈夫だろう。
あとはうさぎクンの心境だけど……
「気にするな、過去のことだ」
うん、大丈夫かな?
怪物関係のことや、違法な実験がリークされなかったことから見るに証拠は全て燃やされているだろうし、トラウマが刺激させることも多分少ないだろう。
私達が隠された部屋や通路に行くのも、万が一証拠が残っていた場合のためだし。
いくらなんでも皆に私そっくりの子供がたくさん浮かんでる場所なんて見せられないからね。ま、あれから十何年間も経ってるし、あったとしてもミイラだろう。見つけたら見つけたで火葬するだけだ。ミイラならよく燃えるかな。
「じゃあ解散!」
「ああ、ある程度終わったらこのホールに集合だ。まずは病室を徹底的に掃除して泊まる場所を確保するぞ」
表の掃除は任せて、私達は奥へ。
「罪木ちゃん、帰り道に薬品を拾っていいから今はちゃんとついてきてね」
「はあい」
「足元にはお気をつけて」
ペアは日向クン&七海さん、十神クン&花村クン、小泉さん&西園寺さん、ソニアさん&澪田さん、田中クン&左右田クン、九頭龍クン&辺古山さん、終里さん&弐大クンだ。左右田クンと田中クンはドンマイ。ソニアさんと田中クンならちゃんと仕事しそうだけど左右田クンのストレスが増えそうだし、あとで揉めたら嫌だからね。ソニアサンドももう少し仲良くすればいいのに……
…… 結論から言えば、問題なく廃墟の掃除や整理整頓は進んだ。
途中からネズミや黒い悪魔、潜んでいたらしい絶望の残党などの駆除作業も平行してやっていたけれど、それにしたって私達の手にかかればすぐだ。
…… 日向クンもいるからね。
それから、表から見たときは廃墟。中に入ると廃墟の姿を模したホテル。そんな様相に様変わりした。ひと月でこれだけできるとは、さすがの超高校級達だ。
船は港じゃなくてもっと隠れやすい場所に潜水させて待機しているから、見つかる可能性も抑えている。
こうして足取りが途絶えたことで未来機関も混乱してくれるだろうか?案外あそことの追いかけっこも楽しんでいる私としては見つけられても構わないのだけれど。
一応防犯対策で通路やら部屋やらにおもしろおかしい仕掛けを作ったり、悪ふざけで左右田クンにいろいろ作ってもらったりしてるから布陣はバッチリだ。
「おいおいまた海鮮だけか? 肉を! オレに肉を分けてくれー!」
「落ち着け終里! お前さんの気持ちも分かるが今は我慢のときじゃあ」
「おい、俺も我慢しているんだ。隣でぶつくさ言うんじゃない」
ちらりと食堂となっている部屋の一角を見る。
そこのテーブルには海鮮料理がこれでもかと山盛りになっていた。話している終里さんと、その隣に座っているうさぎクンは積み上がった皿のせいでまるで見えない。
「おいおい、花村の料理だぞ? オメー、それで満足できないとか逆にすげーよ」
「ぼくも努力はしてるんだけどね…… そろそろ栄養バランス的にもお肉がほしいのは確かだね。終里さんの美味しそうな顔をまた見たいからね」
花村クンはいちいち一言余計だなあ。
「食糧調達はそろそろ出たほうが良いでしょうね。人の目もありますが、17人分を補うにはあまりにも少ない」
メイも料理するからか、食糧の少なさにちょっと危機感を抱いているみたいだ。船内で育てていた部分もあるが、今は潜水中なので全て収穫してしまった。人工栽培のほうは左右田クンがいろいろやってるから維持できてるはずだけど…… 肉はね。
「私が山にでも行ってこようか?」
「ペコの剣術は動物を狩ってくるためのもんじゃねえよ!」
「しかし……」
「クマ仕留めても誰かさんが食い尽くしちゃいそうだもんねー、クスクス」
「あ? そんなことする奴はどいつだ! 十神、オメーか!?」
「うわー! 自分が言われてるって分かってないよー! もっと魚食べたほうがいいんじゃないのー?」
遠回しに頭悪いって言われてる…… ? 西園寺さんも相変わらず口悪いな。
私としてはクマを仕留めるのは賛成だけど。白黒のやつじゃなくてもいいからさ、若干溜飲が下がるというか…… 本物のクマには悪いけど、あいつのせいでクマは苦手だ。
「物資搬入の問題か…… どうするかな」
「別に日向クンだけで決めなくていいんじゃないの? ねえ、七海さん」
「うん、いくら才能があるからって酷使するのはよくない…… と思うよ。まだ慣れてないでしょ?」
「…… まあ、切り替えは面倒だな」
日向クンはカムクライズルだ。
ただの予備学科であり、どんな才能も網羅した超高校級の希望でもある。そんな2つの情報が彼の中にだけ詰まっている。
カムクライズルでない、日向クンの人格は希望更生プロジェクトによって復活したわけだけど、凡才な〝 日向クン 〟と天才な〝 カムクライズル 〟という両極端な人格が同居できるわけがない。
現在は瞳を見て分かるように半々だけど、意図的に情報処理速度を落として〝 日向クン 〟寄りのスペックにすることもできる。
たとえば多重人格の腐川さんみたいなもので、本来なら存在を知っていても意識の共有はできない。それが彼は共有できてしまうので切り替えが大変なんだと思う。脳の酷使にもほどがある。
そのうち自然にできるようになると思うが、彼があのままでいたいと願うならきっとそのままなんだろうね。カムクラの才能があるのにいつまで経っても慣れないのはつまりそういうことだ。
「あ、電話だ。ごめんね」
皆で物資の搬入方法について話し合っているうちに、七海さんが席を立つ。なんだか凛としていて、やはり端末の中にいるアキちゃんとは少しだけ違う。
七海さんは委員長をやってたからわりと積極的に人を引っ張る努力をするが、アキちゃんは必要なときだけちょっとした後押しをする…… といった方法で人を励ます。2人を双子の姉妹として形容するならば、七海さんが姉属性、アキちゃんが妹属性という感じだろうなあ。
「えっ、苗木くん? うん、うん……」
未来機関の希望様から電話か。
彼女も支部長だから仕事の話かな。いや、今は朝日奈さんが支部長代理になっているはずだから、仕事の指示を仰ぐ電話だとしたら朝日奈さんから電話がかかってくるはずか。なら別の理由だね。
「そろそろグミも無くなりそうたなんだけどー」
「え、もう? 日寄子ちゃん、1日1袋までって言ったよね? それとも誰かにあげたりした?」
「うっ、ち、違うもん! わたしじゃないもん! ちゃんとわたしは約束守ってるよ! どっかの誰かが勝手に取っていってるんじゃないの!?」
「あ、スマン。そりゃオレだわ…… 共有キッチンに置いてあったからもらっちまった」
「このクズ! 童貞! いつもいつもオイル臭いんだよー!」
「うっせうっせ! そこまで言わなくてもいいじゃねーか! あと的確に傷つく言葉使うな! 謝ってんだろ!」
「一言だけとかかっるい謝罪してんじゃねーよ! 事実だし!おねえぇー!」
「はいはい、アタシが追加で買ってあげるから泣かないでね」
「びぇぇぇぇぇん! ぐす…… 左右田おにいのバーカ!」
「っぐ、わ、悪かったよ…… 小泉も、あとでオレが買うからいいって」
「まったく、キッチンにあったからって勝手に持っていくのはダメだよ。ちゃんと人に聞きなさいよね」
「お、おう……」
後ろで展開される会話はすごく気になるが、電話をしている七海さんがわりと深刻そうな顔をしている。
私は踊っている会議の中、テーブルに頬杖をつきながら聞き耳を立てた。席を立っているとはいえ、彼女はわりと近い位置で電話しているからだ。
「えっ、生徒会長が…… ?」
生徒会長? どの生徒会長だ? 村雨早春? いや、あの人は…… ということは未来機関にいる元超高校級の生徒会長様か。これはこれは、とうとう七海さんがこちらにいることがバレでもしたかな。
「うん、うん…… 分かった。訊いてみるよ」
電話を切ってから、七海さんが席に戻る。そして、脱線しまくりそれぞれが好き勝手に喋っている皆に向かって柏手を2回打った。
「皆、聞いてほしいんだけど……」
徐々に徐々に会話が収まり、皆が七海さんを見てどうしたの? という顔をする。小慣れてるね、やっぱり。
「苗木くんからのリークなんだけど、未来機関の人達がここに来るんだって。この病院は狛枝さんと明海さんの生家だよね。だから、絶望の残党が〝 超高校級の絶望 〟の痕跡を求めて溜まり場にしてるかもしれないから、調査に入ることになったんだって」
あー…… そうなっちゃったか。
私達にとって超高校級の絶望というのは江ノ島盾子ただ1人のことだけど、残党共にとっては絶望堕ちしていた私達16人もそれに含まれる。
私がここにいたことはわりと有名だからね…… 拠点にするのは失敗だったかな。
「ごめん、日向クン」
「いや、お前のせいじゃないだろ。あー、どうする? いったん離れるか?」
「あれ、私が決めていいの?」
「まあ、元とはいえお前の家だしな」
私の意見を尊重してくれる日向クンに感謝の念を送りながら、私は笑みを深める。
「季節は夏…… 廃墟の中は昼間でも暗くて湿っぽい…… あはっ」
まるで口裂け女のような笑みを浮かべてだいぶ悪い顔をしているだろう。それを見て日向クンは 「おい」 と言ったが、止められてしまう前に宣言する。
「お化け屋敷作って未来機関を全力でおちょく、追い返そう!」
「っておい! 今おちょくるって言いそうになったよな? 絶対なったよな!?」
いいツッコミだ。左右田クンはこうでないと。
「お化け屋敷…… ですか?」
「相手は摩天楼より来たる傑物だぞ。魔犬に手を噛まれるのとはわけが違う」
えーっと、田中クンのは……
『未来機関のすごいやつ相手に子供騙しは通用しないんじゃないか…… ってことだと思うよ』
「ありがとう、アキちゃん」
さすが、翻訳が早い。まあそうなんだけど…… あっちも私達がもう絶望していないことくらい分かっている。宗方さんたちはあくまで絶望の残党を狩りに来るだけだ。ここに残党がいないことを示せば素直に帰らずとも、御用改めしても無駄だという判断くらいはしてくれるだろう。
「お前に振った俺がバカだったよ」
「人選ミスだな。日向、疲れてるのか?」
「おう、あとで酒盛りでもしようや」
「…… ああ」
辺古山さんにさらっと人選ミス扱いされてショックなう。
「そんなに言う?」
「お前は少し普段の行いを見直せ」
「ええ、素敵なことしかしてないよ? うさぎクンは私のなにを知ってるっていうのさ」
「本気で言っているなら罪木に脳味噌を洗ってもらえ」
「死ぬんだけど。遠回しに死んでも直らないって言ってない?」
「どうだろうな」
「お手伝いしましょうかぁ?」
「介錯してくれるって? 遠慮しとくよ」
罪木ちゃんの提案は冗談に聞こえないから困る。
「ともかく、いろいろ準備するから皆協力してよね」
盛大にため息を吐かれて解せない気持ちになりながら決定事項を確認する。
「私に任せたのは日向クンだよ?」
「……」
「どうした日向? 腹減ったのか?」
「違うじゃろうなあ」
日向クンを困らせるのがちょっと楽しいだなんて、口が裂けても言えないね。バレバレだろうけれど。
私は埃塗れになりながら掃除を頑張っているというのに、日向クンはいつも七海さんと書類仕事だ。堅苦しいことばっかりして精悍な顔立ちをするなんて彼らしくない。
だから精々胃を痛めていればいいんだ。いい気味だよ。
……
「さて、と…… 1日でよくこれだけ準備したよ」
「お前らってさ、なんでおふざけにだけ全力なんだよ?」
「楽しいからに決まってるじゃないっすかー! その点凪っちゃんはよく分かってるよね!」
「ねー、澪田さんも協力ありがとう」
「クスクス、お化け屋敷にも癒しが必要だから澪田おねえの歌は有効だよー!わたしもやることなくて退屈だからせめておねえの歌で癒されたいよねー」
あー、あー、なんというか、癒しというより嫌死?
澪田さんの曲が廃墟の一部で流れることになっているので、その周辺だけは近づきたくないと心に誓う。あれを本気で気に入ってるのは西園寺さんだけだ。
あの曲聴くとブルーラムを飲むよりも効果的に絶望的な気分に浸ることができる。それくらいやばいので未来機関の連中にも効くだろう。
澪田さんのテンションは好きなんだけど…… あの人からどうしてこんな暗い曲ができるのか、音楽家って不思議だ。芸術家はどこかトチ狂っているとかいうけど、この場合まさにって感じだ。
ちなみに西園寺さんはあまりやることがない。着物だから動きづらいだろうし、未来機関にはやり手が多いので見つかったら終わりだ。
だから精々天井裏で音を鳴らしたりするくらい…… ああいや、一応出番はあったな。昔推理漫画で見たやつを再現してもらうことになったのだ。
田中クンの四天王達に協力してもらっておばけ役を楽しんでもらう予定になっている。
この廃墟は既に左右田クンの手が入り、隠し通路も多い。まさに拠点。私達の秘密基地。正直やり過ぎた。
…… と、そろそろ開演だ。
「…… こちら狛枝。アキちゃん、監視カメラとマイクは機能してる?」
『こちらアキです。えっと、うん、ちゃんと聞こえてるよ。端末とインカムに送信開始するね。チャンネルを合わせてみて』
言われた通りにトランシーバーをいじる。
端末には監視カメラの映像が、トランシーバーに繋がっているインカムからは現場の音声が聞こえてくる。端末でカメラ位置を変えれば音声も自動で切り替わる仕様だ。ちょっとピザ屋でバイトするホラーゲームみたいな印象を受ける。お化け役はこっちだけど。
「宗方、本当にこんな場所に連中がいるのか? 別にお前を疑ってるわけじゃないけどよ……」
「情報は正確なはずだ。油断はするなよ」
「ねえ京介、皆で来る必要はなかったんじゃないかしら」
「俺は呼んでないとだけ言っておく」
はいはい、まずは生徒会長様サンドですね。
元生徒会長様はこの前の騒動で手に入れたヒートブレードを装備。あといつもの真っ白なスーツだ。盛大に転んで埃塗れになればいいのに。そして洗濯で汚れが落ちなくて苦労すればいいのに。
逆蔵先輩は自己主張の激しいコートは脱ぎ捨ててTシャツだけだね。廃墟の中とはいえ夏だからあんな暑苦しいコート着てくるわけないか。
腕と手に包帯巻いてるし、普通にボクサーとして殴ってきそう。壁が破られないように補強はしてるけど…… 大丈夫だよね? あの馬鹿力壁ぶち抜いたりしないよね?
雪染先生は…… 未だに絶望中か。そりゃそうだ。だって、雪染先生が七海さんをおしおきに突き落としたのは実際にあった事実。今彼女が生きてるとはいえ、先生が江ノ島と戦場さんにいじくりまわされた事実は消えていない。彼女は絶望の夢に囚われたままなのだ。
「接続、日向クン…… 雪染先生を確認、絶望堕ちしたままだよ」
「そうか、なら手筈通りにしてくれ」
「はいはい」
私達の目的は2つ。未来機関を追い返すこと。そして、矛盾するようだけれど未来機関をできるだけ長く留めて雪染先生の確保、洗脳の解除を行うこと…… だ。
「さーて、次は……」
3人の後にやってくるのはこちらも3人。安藤先輩、十六夜先輩、忌村先輩だ。どうやら天願のじじいや他のメンツは来ていないらしい。時間が合わなかったというより、元々生徒会長様サンドだけで来る予定たったのに後の3人がくっついてきてしまったという具合か。面倒な。
「ここにあいつがいるんでしょ?」
「あるあ、狛枝凪に所縁のある場所だ。可能性は高い」
「そ、そっか…… 私達が、た、退学する切っ掛けになったあの子が……」
げ、いつの間にかバレてる。なんでだ? 雪染先生に聞いたのかな。
これは恨まれてるなあ。私はできれはま雪染先生確保に動きたかったけど…… この分だと囮役をしたほうがいいかも。
「あのあとドチャクソ苦労したんだから…… どうしてやろうかな」
「見つけてから考えればいい」
「それもそうだね。はい、よいちゃんあーん」
「あーん」
「今日もよろしくね」
「ん、頑張る」
「……」
「なによ、あんたになんかあげないから」
「だ、だから食べたくても食べられないんだってば…… わ、分かってるよね?」
「ふーんだ」
あの3人も相変わらず。
薬との食い合わせで死ぬかもしれないっていうのにお菓子を食べないだけで嫌うって、なんだかアレルギーは食べれば治るって信じてる人みたいだよね。
こう見ると、安藤先輩も自分の才能に囚われた生徒の1人だ。もったいない。アレルギーを意識した美味しいお菓子の開発でもすればかなり売れるだろうに。それには絶対に手を出さないんだもんなあ。
「生徒会長様達は奥に、先輩達は監視用の廊下に向かったよ」
「3人共か?」
監視用の廊下でいたずらのため、待機しているうさぎクンから連絡が入る。うーん、3人だと鏡の仕掛けを使うのは厳しいかな。
「ちょっとついてこないでよ!」
「な、なんで…… 目的は一緒なのに……」
「あいつは流流歌が見つけるの! それで復讐してやるんだから、あんたは邪魔!」
「私だって怒ってるんだよ? なんでそんなこと言うの……」
「元はといえば静子ちゃんがバッグを間違えなきゃよかった話じゃん! あんたのせいなんだからあんたも原因の1人だっつーの!」
ああ、うん。多分別行動することになるんだろうな。
「恐らく安藤先輩と十六夜先輩だけそっちに行くよ」
「なら俺と日向でなんとかなるな。了解」
鏡の廊下にある仕掛けはシンプル。長い長い廊下は全てマジックミラーになっており、隠し通路から表側が丸見えだ。そして1番奥、扉の前にある一角だけ鏡に見せかけたガラス板が貼り付けてある。
長いマジックミラーで相手を判断し、ガラス板のところでうさぎクンが詐欺師らしく変装して姿を見せる。
極めつけは…… まあ見てのお楽しみか。
「な、なんでそう頑固なの!?」
「頑固なのは静子ちゃんだろ!? 流流歌のお菓子を食べれば全部解決するのに意固地になって!」
「意固地になってるのはど、どっちだと…… ! 薬の副作用があるから死ぬって、何度も言ってるじゃない!」
「薬変えればいい話じゃん!」
「で、できてたらとっくに、とっくにしてる! そっちこそ材料変えるとかできることあるでしょ!? ダメな成分は、分かってるんだから!」
「流流歌の作り方にケチつけるわけ!? 1番美味しいのを食べてほしいだけなのに、なんでそんな我儘言うの!?」
「我儘なんかじゃ、ないよ!」
ああもう、罪木ちゃんと西園寺さんより酷いんじゃないのこれ。
肝心の十六夜先輩は止めにも入らないし、完全に安藤先輩側で忌村先輩はアウェーだ。
小泉さんが西園寺さんを叱らないで甘やかしたままにしてたらああなるのかもね。
「もういい! ついてくんな!」
「今日ついて来いって言ったのは、ど、どっちだと……」
「ふんだ、行こう? よいちゃん」
「ああ…… すまない」
「は? よいちゃんも流流歌が悪いって言うの?」
「いや、そんなことはない。行こう流流歌、もっとおいちいお菓子をくれ」
「そうこなくっちゃ、はいあーん」
「ん」
長い喧嘩だなあ。何年続いてるんだか。
カメラを鏡の廊下へ切り替えて観戦モードに入る。
ちょっとだけ確認したけど、宗方さん達は西園寺さんと花村クンがお化け役をする場所に向かっているようだ。面白いものが観れるだろう。
「ターゲット確認。日向には十六夜の方を頼む」
うわ残酷なことするなあ。
うさぎクンから入ったアナウンスを聴きながらそう思う。
ガラス板を液晶画面に変えてアキちゃんがそこに映った人のフリをすることもできるが、今回は確実性をとって日向クンに協力してもらうようだ。
うさぎクンも案外あの喧嘩で思うところがあったのかもしれない。
あんなに一方的に理不尽な言いがかりを見ていると、安藤先輩をいじめたくなってくるよね。分かる分かる。
「なにここ……」
「鏡張りだな」
長い長い廊下を過ぎ、扉の前で2人が立ち止まる。扉は最後の鏡を見なければ開かない仕掛けになってる…… というか見たのを確認してから手動で開けることになっているのだ。フリーホラーゲームのように自動的にとはなかなかいかない。そもそも条件が達成されたと機械が認識するかどうかが分からない。そのプログラミングをするだけでどれだけかかることか…… とても1日だけでは無理だったとだけ言っておこう。現実は非情である。
「は?」
「……」
ガシャン、とガラス板に蜘蛛の巣状のヒビが入る。
十六夜先輩が持っていた短刀の柄で叩き割ったのだ。
だけれど、安藤先輩にはさっきの一瞬だけで十分だった。
そう、ガラス板の向こう側で安藤先輩の変装をしていたのはうさぎクンだ。そして、その隣で十六夜先輩の変装を日向クンがしていた。
ガラス板の上には某魔法学校の鏡のように〝 あなたの未来 〟と書かれたプレートがかかっているのだ。巨漢になった自分を見てしまった安藤先輩のショックと絶望は計り知れない。
青ざめて、目を泳がせて、完全にフリーズしている。そして、ぶつぶつと 「違う」 と呟き始める。
そんな彼女を十六夜先輩がお姫様だっこで抱え、ロックが解除された扉をくぐり抜けていく。
趣味が悪いって? 私達は元超高校級の絶望だ。これくらい軽い軽い。未来機関への嫌がらせには余念がないよ…… 私はね。
メンタルブレイクされて放心状態になった安藤先輩はしばらく使い物にならないだろう。
十六夜先輩はガラス板の向こう側が気になっていたみたいだけれど、あんな状態になった彼女を差し置いて調査なんてできないだろうね。なんせ、そういう関係なのだから。
今の安藤先輩は十六夜先輩が調査に行くなんて言ったら見捨てられるのだと思い込むだろう。そういう面倒臭い人だよ、あの人は。
さてさて、次だ。
西園寺さんと花村クンは上手くやれるだろうか。短い距離だから逃げ切れると思いたいけど、あの生徒会長様戦闘系だからな。
隠し通路を静かに移動しながらカメラを切り替える。
天井裏からすごい音が聞こえてくるけれど、一応予定通りなので別にいい。終里さんには自由に上で暴れていいって言ってあるからな。
誰もいない上階から足音が聞こえるってホラーで定番だろう。それも澪田さんの音楽も流れてるらしいし。
「おいおい、どうなってやがんだ?」
「…… どうやら揶揄われているようだな」
「お前を相手に? ここの奴らはよっぽど死にたいんだな。なあ?」
おっと壁を叩くのはやめてほしいね。この馬鹿力め……
「ねえ、2人共。なにか聞こえない?」
さて、どこからか風鈴の音が響いてくる。手筈通りだ。あとは捕まらないようにうまく逃げてくれよ。
「ああ? …… なんの音だこれ」
「…… 風鈴、か?」
「これは、由々しき事態ね……」
3人が風鈴の音に気づき、場所に気づく頃には〝 それ 〟が廊下の曲がり角に滑るように消えていった。
「よく、見えねえな……」
「首なしで着物姿のなにかが2体…… 廊下の奥へ行ったな。行くぞ逆蔵」
「は? 首なし?」
「ええ、首なしよ」
逆蔵先輩はどうやら見逃したようだ。
廊下の曲がり角に消えていったのは文字通り、首のない着物のお化けだ。手には明かりの灯った提灯と風鈴を持ち、滑るように歩いていった。
その後を3人が追っていく。
さて、私も用意しておかないとね。
3人を壁越しに追いかけながら薬を染み込ませたハンカチを手に持つ。
チリン、チリンと断続的に続く音を頼りに3人は廊下を走っていく。
けれど、着物を着たなにかの姿すら見えず追いつけない。足音すら立てず、廊下に響くのは風鈴のような涼やかな音だけ。
そして音は廊下の突き当たりの部屋に入るが…… 残念ながらそこにはお化け役はもういない。
私は壁の中から部屋の反対側へ向かいながらスイッチを握りしめ、あちらの様子を見る。
「いねぇぞ…… ?」
「一杯食わされたか。やられたな、早く出るぞ」
「ええ」
そろそろかな?
そう思った瞬間、上階から盛大に壁が吹っ飛ぶ音がした。
ビンゴ。タイミングバッチリだけど嬉しくないね。
「なんだ今の音は」
「安藤達がなんかしたか?」
「え?」
走り出す男性2人に、ついていこうとする先生。
「ネズミ捕り成功ー」
2人が扉から見えなくなった瞬間、スイッチを押して雪染先生だけが床下に落下する。確保成功だ。
幸い生徒会長様には轟音で気づかれなかった模様。知ってる? 大切な人から決して目を離しちゃいけないんだよ?
それを…… 私達は知っている。
…… 七海さんのときのことで、嫌でも知ってるのだ。
まあ、今回は先生を助けてあげようとしてるんだけどね。
薬を嗅いで意識を失った先生を横たえていると、インカムに大音量でうさぎクンの声が響いた。
「おい! 今の音はどうした、なにがあった!?」
「そう慌てなくても大丈夫だよ、うさぎクン。弐大クンがトイレ使いたいって言ってたから3階の目立たないところをお勧めしてあげただけだから」
「原因はお前か、壁が大破しているぞ? どうしてくれるんだ」
「えっ、そんなに?」
さすが、学園でしょっちゅう壁を壊してた人は違うなあ。
あれのせいで優秀なマネージャーなのにすっかり 「クソじゃあ!」 の人扱いだもんな。本科だけじゃなくて予備学科にまでね。不本意なことに、それのせいで親しみやすい人扱いもされていた。
「おい、いくら補強しているとはいえ、上階から崩れ落ちるとは思わなかったのか? いつもは外を使っているだろう。お前は死にたいのか? さてはお前、馬鹿だな?」
「ぐっ……」
ぐうの音も出ないほどにド正論である。
「頭の良い馬鹿というのはこういうことを言うんだぞ、覚えておけよ狛枝」
「…… うさぎクンの意地悪」
「事実だろうが」
「はーい」
本日も反省会の開催が決定された。辛い。自業自得だけれども。
「ちょっと、どうしたの? 凪ちゃん」
「小泉さん…… ううん、いつもみたいに怒られてただけ」
「あ、ああ、そうなの。ほどほどにね」
「うん」
「先生は寝てる?」
「うん」
雪染先生は悲鳴をあげられたら困るので薬で意識を落としている。
恐らく目覚める頃にはいじくりまわされたあれこれをすっかり治されているはずだ。その辺、日向クンは上手くやってくれる。脳をいじるわけだからそう短い時間では終わらないだろうが。
先生を回収しに来た小泉さんと七海さんに引き渡してトランシーバーを田中クンに繋ぐ。
「ハムスタークンたち上手くやってくれたよ」
「当然だ。これより俺様は破壊神暗黒四天王と肉の宴を開演する。見れば貴様の命はないと思え」
「はいはい、邪魔はしないよ」
先ほどの着物お化け達のネタバラシはこうだ。
西園寺さん、花村クンの身長の低い2人の肩に大量のタオルでカサ増しして大人の着物を着せる。それだけで首なし着物お化けの完成だ。
そして2人は姿を現して未来機関に気づかれ次第曲がり角のすぐそばにある隠し通路に入り、代わりに通路から出てきた破壊神暗黒四天王達が行く先々でリレーするように走り部屋へ誘導する。それから壁際にあるねずみ穴から隠し通路へ戻ると。
ハムスター達にはこのために鈴をつけさせてもらった。かなりのストレスになったはずなので、今は田中クンがたくさんご褒美を与えて休憩させているはずだ。この作戦もかなり渋られたので私はしばらく彼のハムスター達にもふもふさせてもらえないだろう。ちょっと悲しい。
西園寺さん達はこのクソ暑いのに協力してもらったので、恐らく雪染先生を運び終えた小泉さん達とお風呂に入ってくるだろうな。
花村クンの監視は九頭龍クンにお願いしておいて、まあゆっくりしてもらおう。
カメラを切り替える。
十六夜先輩が鏡を見るたびにことごとく割って移動している。
そしてたまに鏡の中に無表情でパラパラを踊っているうさぎクンが映り込んでいる。もちろん、安藤先輩の変装をしたままだ。
十六夜先輩の精神もガリガリ削っていっているようでなにより。
あと、ときおり院内放送を用いて澪田さんのシャウトが入ったりする。
そして、ほらまた院内放送。
「宗方京介さん、雪染ちささんがお待ちでした」
今度は辺古山さんの声だ。彼女の固い声でこの放送はいっそおぞましささえ感じるね。澪田さんの曲も流れてることだし。
既に先生がいないことに気づいていた生徒会長様が焦ってヒートブレードを起動したまま走っている。
逆蔵先輩も雪染先生のことは心配なのか、しきりに宗方さんを落ち着かせようとしている。…… イライラして自分自身でも拳を叩きつけたりしてるけれど。
この脳筋共め。
「それに比べて、キミはすごいね」
先輩? と笑顔で振り返る。
「ほ、本当にいるとは思ってなかったけど…… やっと見つけた」
「忌村先輩、どうやってここまで来たの?」
「や、薬品で、作られたパズルなら…… すぐに解けたよ」
「あれ、罪木ちゃんの自信作だったのになあ……」
隠し通路の中で向かい合う。
そして、私は笑顔のまま彼女に近づいて……
「すみませんでした」
「え、え、へ?」
頭を下げた。
「あのとき、貴女の薬を利用するつもりはなかったんですよ。本当に体調悪くて、薬を使おうと思ってたんですけれど…… 私の運に巻き込んですみませんでした。もう遅いことも、貴女達がどれだけ傷ついたのかも…… 私のせいで貴女達の仲に決定的な亀裂が入ってしまったことも、今の関係を見れば分かります。取り返しのつかないことをしました。許してほしいとは言いません。ただ私が謝罪して、満足したかっただけです。謝るかどうかは、決めてなかったんですけど…… 喧嘩をしつつも、それでも、こうして先輩はここまで来た。だから謝ることにしました」
一気に捲し立ててしまうと、忌村先輩は目を白黒させながら私を見つめた。取り出そうとしていた薬瓶は、結局出されることなく懐に仕舞われる。私がなにもしなければきっと彼女は薬を口に放り込み、噛み砕いて私を害そうとしただろう。それくらいは読める。
だからこれも卑怯な牽制。痛い思いをしたくないから先手を打っただけに過ぎない。それくらい、彼女も分かっているだろうに。
絶望として動いていた私を知っているのなら、それくらい読めるだろうに。
彼女は手を止めた。
なんてお人好し。
そんなんだからいつまで経っても安藤先輩に利用されるんだ。
「す、すっごく傲慢」
「ええ、存じてます」
「でも、私もそう言われちゃうと、な、なにもできなくなっちゃうというか……」
「お人好しですねぇ、忌村先輩」
「わ、分かってるんだよ? でもね、なかなか…… 思うようにはいかないから…… それに、流流歌ちゃんはきっと分かってくれる」
「本当にそう思ってるんですか?」
「うん」
そこはどもらないのかよ。
友情っていう甘い甘い関係に、薬関係なしに溺れてそのうち取り返しのつかないことになりそうだね。まったく。
「危害を加えるつもりはないので、お帰りください」
「…… う、うん、そうだね。謝ってもらっちゃったし、そ、それに…… 貴女達は捕まえるわけにはいかないし」
「ヘイト先はまだ必要でしょう?」
「うん、その通りだよ」
目線を逸らされる。
私達が勝手にやってることなんだから別に怒りやしないのに。
「それじゃあ、お帰りはあちらです」
隠し通路の一角を指差す。
忌村先輩は素直にそれに従って…… 安藤先輩達のいる通路へ向かっていった。
「扉はロック…… と」
私のいる道への通路は一方通行だよ、なんてね。
トランシーバーに全員宛にアナウンスが流れる。
雪染先生の洗脳解除はどうやら成功したようだ。
「左右田クン出番だよー」
「おう!」
「ソニアさん準備よろしくねー」
「はい! 合点承知のすけです!」
バッチリ滑るクン3号の出番だ。
あ、いや左右田クンが滑るわけではなく、そういう名前の機械の出番という意味でね。
まずはお化け屋敷にありがちなコンニャクトラップで脳筋を怒らせます。
「ああっ!? おちょくってんじゃねぇぞ!」
「逆蔵、待て!」
そしてすかさずバッチリ滑るクン3号が踏み出した足の先に滑り込みます。
「うおっ!?」
レモンの強烈な香り漂う石鹸がそのまま足をしっかりキャッチし、廊下の奥まで滑らせます。
「くそっ」
生徒会長様が引っかからないのは想定内だけど、いくら自分が優秀でも側近が脳筋じゃあねえ……
宗方さん追いかける!
逆蔵先輩両足についた石鹸型ロボで廊下をスケート!
ソニアさんがカーリングのようによく磨いた廊下を滑りに滑り、グルグル回る螺旋状になった隠し通路へゴー!
そして目を回させながら出口に向かってゴォォォォル! 超エキサイティンッ!
これで目を回してないとかすごいなあの人。
生徒会長様は逆蔵先輩を追いかける途中で受け付けの中で眠る先生を発見。回収して出口をくぐる。
「やられっぱなしも癪だが……」
「ん、京介…… ?」
「大丈夫か」
「なんだか、長くて悪い夢を見てた気がするわ」
「そうか」
「おい宗方! ちょっとこれ外すの手伝ってくれないか!?」
病院の玄関にはあの人達が中にいる間に設置した横断幕で〝 おとといきやがれ 〟って書いてあったりする。うん、馬鹿にしてるね。
宗方さんもよくキレないな。雪染先生が無事に帰ってきたからか、それも絶望状態を解除されているのを理解しているからなのか、どちらもかな。
「流流歌、ちょっとだけあんたのためにつくりかた考えてやってもいいよ」
「え!? ど、どうしたの流流歌ちゃん! なにかあったの? 変なこと言われたの?」
「ああもううるさい! 流流歌の気が変わらないうちに早く帰るの! カロリー控えめのお菓子作るんだから!」
「流流歌がいいなら、俺もそれでいい」
「こ、この短時間でなにがあったの……」
あちらも一応解決、かな。
あまり派手に暴れることはできなかったけれど、これはこれでいいだろう。平和が1番だ。
『こちらアキです。打ち上げするみたいだから引き上げてきてね』
「りょーかい」
食糧問題がまだあるのによくやるよ、まったく。
これだから皆のクラスメイトはやめられないんだ。
「狛枝、打ち上げの前に話があるからな」
「げっ」
「俺からもあるからな、逃げるなよ」
「うえっ」
…… どうやらうさぎクンと日向クンからの説教は逃れようがないみたいだ。これもいつも通りか、本当に平和だなあ。
そんな現実逃避をしながら、私は病院内の後片付けをしに踵を返した。
・鏡
ゲスい
・首なし着物お化け
探偵学園Qネタです。
・「◯◯さん、◯◯さんがお待ちでした」
SCP−544−JP 孤独な放送室ネタ。SCPというのは海外発祥の創作怪談みたいなもの。Xファイル的なやつ。ネタとして使ってるだけなので雰囲気作り以外に効果はありません。