※ ヤンデレ&シスコン注意
荒廃した世界で面白おかしく暮らしていたら、突然カムクライズルから連絡が入った。
相変わらず棒読みだし淡々としているし、あれがリアクション芸に富んだ日向クンと同一人物とはとても思えないよね。
学園生活をしていたときは彼の麦茶をめんつゆに差し替えてみたりとか、たけのこ派の彼と戦争したりしていた。
思えば日向クンは私とことごとく趣味がすれ違っていたな。
きのこたけのこ戦争もそうだし、遅れる私に代わってチキンナゲットを購入してくれたはいいが、私がマスタード派なのに対して全てケチャップを選んでいたり…… もちろん代金は後から払っているけれど、喧嘩はした。
大体は七海さんが仲裁してくれるんだけど、3人でゲーセン巡りをしていると誰かが買い物を受け持つこともあるわけで…… それが私か日向クンだと趣味嗜好がすれ違って喧嘩になる。
というか、私が原作狛枝のように振舞っているだけなんだけどね。元はただのポーズだったけれど、だんだん習慣化していった性質だ。やはり私が狛枝だからか、そういう〝らしい〟ことは身に付きやすいみたい。
だから、その…… こんな絶望的な世界ではっちゃけていたら〝さびつき〟寄りになるのも仕方ないと思うんだ。
「ええと、カムクラクンの話によると…… 要救助民に紛れて未来機関に行くんだったっけ?」
結構やんちゃしちゃってるけど、大丈夫? バレない? 殺されない?
学園時代とは片方目の色が違うからむしろ気付いてくれるかが問題だろうか?
うーん…… なるべく苗木クンとか、知っている人に連れて行ってもらえば安心かな。原作でも彼が私たちのクラスを更生させようと努力してくれていたのだし。
確か、他の未来機関は絶望である私たちの処分を検討していたんだっけ?
知らない人についていっちゃいけません!
ことは上手く運び、私は塔和シティに来ていた腐川さんや轟沈エクスカリバー十神クンに保護された。
モナカちゃん? 私の暮らしていた場所と物資を調達していた残党共の連絡先を残しておいたし、命令違反すると首がボンッてなる装置をつけた人間を配備したから、まあどうにかなるでしょ。
モナカちゃんを
とりあえず話しかけまくったりいろいろしたけれど…… まあある程度教育はしたし、これ以上べったりするつもりはない。
私は放任主義なのだ。
それからは暫く未来機関でお世話になった。面接したり、無口なカウンセラーさんとお茶したり、人口照明の農園を手伝ってみたり、怒鳴られたり…… いろいろあった。
そのうち絶望であることがバレて処分がどうのとひそひそされるようになり、本人にバレないように噂しろよとイラついたり、ストレスで職員を殺しそうになったり、煙草か酒を取り上げられた心境ってこんな感じなのかと実感したりもしたなぁ。
殺しができないことでストレスを感じるとかもうダメだな、私。
これではただの殺人鬼だ。
深夜、苗木クンたちに連れられジャバウォック島へ行く際はやはりというか、原作通りにカムクライズルと同じ場所で休むことになった。特に会話はなかったけれど、絶望時代よく連絡していただけあり気まずくなることがなかったので、わりと心健やかに船旅を楽しむことができた。
…… こうやって回想してもどうにもならないな。
結論から言うと、ジャバウォック島のコロシアイはまったく原作と同じ展開になった。
私が死なず、代わりにソニアさんを罠に嵌めて七海さんに殺させたってところ以外はね。
七海さんが死んでくれないと我らが江ノ島盾子は最終決戦に持ち込んでくれそうになかったし。苦労したんだよ? いかに私が密室から脱出するかってところでさ。
もちろん悩みに悩んだし、自己嫌悪で死にそうにもなったけれど…… そうしなければあの修学旅行は永遠に終わらなかっただろう。
生き残るために手段は選んでいられなかった。
それから日向クンの覚醒も見届け、皆で目を覚まし、そして……私の心が絶望のまま染まっていることに気づいたメイと一緒に逃げた。
メイは、無理に私を更生させようとは思っていないようだった。
約束は覚えていたようだけれど、「止めないの?」 と訊いたら、泣きそうな表情で私の目元に触れた。
メイと同じ色になった片目が、無性に憎かった。
「もう、いいのです。もう…… いいのですよ」
泣いているメイと手を繋いで、私たちはゆっくりと…… かつての家へ、廃病院となったその場所へ向かって行った。
ああ、とても懐かしい。
楽しかった。
荒廃した病院で思い出を見て回り、焼け焦げたところを少しずつ補修し、住みやすくしていった。
メイと2人で暮らしやすい場所を作るのは楽しかったし、2人だけで喫茶店を借り切ってケーキを作るのも、紅茶を飲むのもお店を出したみたいで良かった。やっと夢が叶ったみたいで。
水道とか電気とかはどこかから引いてきているようで、廃墟だとしても住むのに不自由はなかったな。
転んだらすぐに怪我をするくらいいろいろ落ちているのが玉に
あまり片付けすぎたり、夜に電灯をつけていたらすぐに未来機関にバレてしまう。
だからちょこっとホラーな病院で何ヶ月も過ごしていたら、元から少なかった体力がもっと落ちてしまった。
実際、夢の中のようにエレベーターに血文字が出たり錆がいきなり広がったりとかなりのホラースポットと化している。
こまるちゃん辺りなら死んだ皆の姿が見えるのかもしれないが、あいにくと私は霊感がさっぱりなようでポルターガイストやらには遭遇するが、皆の姿は見えない。
メイも見えないようだけれど、音に怯える私を撫でたり慰めたり、 「あなたを恨む人なんてここにはいませんよ」 と言ってくれている。
壊れかけている私を、真摯に心配してくれているようだ。
メイはたまに外に出て物資を供給しているからなんの問題もないが、私は暗闇で生活しているから精神的にもやられているらしい。
そんな生活も、数ヶ月経つと終わりが見えてきた。
メイの持ってきた情報によると、未来機関で内部分裂というか…… とにかく事件があったらしい。その結果、テレビで苗木クンたちがまた希望として取り沙汰されたり…… 私以外のクラスメイトが絶望を背負って旅だったニュースが流れた。
メイが言うには、クラスメイトの皆も私のことを探しているらしい。
最近は殺しができていないから足取りが途絶えたままとなっているみたい。
けれど、完璧な天才になった日向クンに見つかるのも時間の問題だろう。
幸せな生活の終わりは、そのあとすぐに来た。
「来たみたいだね」
「ええ」
廃病院の一室から玄関付近を覗くと、そこには病院前でたむろするスーツの人間たちが見えている。
こんな時代にスーツを着ているなんて、未来機関の連中くらいだろうね。一昔前は敵でなかった彼ら。保護さえしてくれた彼ら。
ふふふふ、隠れ鬼みたいで少し楽しいかもね。まあ、それもすぐに終わるんだけれど。
先頭にいるのはあの優しい後輩だろうか?
それともお坊ちゃんな方の十神クンかな?
高いところから見ているからあんまりよく見えないけれど、1つ確かなのは彼らが私たちにとっての死神だということだろうか。
死神なんて言われている私が死神に狙われるなんて、なんだかおかしいね。
「準備はいい?」
「…… 1つ、申し上げたいことが」
メイとベッドの上で向き合い、笑い合う。
「いいよ」
義手にコツリとあたる物体を玩びながら、メイを見つめる。
「お慕い申し上げます、凪様」
なんだ、そんなことか。
そんなの、とっくに知っているのに。
「私も大好きだよ、メイ」
姉妹だけれど、血は繋がっていない。
キミは母と父の愛情を受けた全ての子供たちを恨んでいたよね。
たとえ実験体としてでも、両親に執着されている私たちのことを憎んでいたよね。だから、最初はあんなに冷たかったんだ。
私のことも、きっと大嫌いだったよね。
それが変わったのは、あの屋上で日の出を見たときのことだ。
キミは私をやっと見てくれたし、私もキミを見た。
お互いに執着して、拠り所にしていた。
この病院で暮らしている間に、古い日記を見つけたんだ。
そこには、好きな人の精神病…… 〝 rust 〟を治すために超高校級への道を捨てた男の想いが書かれていたよ。
狛枝
母の名前は思っていた通り
母には才能がない。
でも父にはあった。
母は希望ヶ峰学園に入学できない。
学園を卒業してからでは、遅かったんだ。
だから父は仕事の合間に研究を続け…… けれど発症例が少なかったせいで研究はなかなか進まなくて、いつの間にか〝目的と手段〟が逆転してしまっていた。
母を助けるために研究をしていたのに、研究するために母を利用するようになった。
そして私たちが産まれ、子供のいない2人が引き取り可愛がっていたキミにその世話を全て押し付けるようになる。
その壊れていくさまを見続けていたキミもまた、母のように諦観していた。
そんなときに寄りかかれる場所を見つけたんだよね。
お互いに寄りかかって支え合って、姉妹としては変な関係だろうとそのまま続けて…… 最後には私たち以外皆死んじゃった。
ああ、そういえばもう1人生き残った看護師さんがいたね。
病院の資料に火をつけて証拠隠滅したのはきっと彼女だろうね。あの人、父のことが好きだったみたいだから。
もしかしたらの話でしかないけれど、私たち以外の生き残りがいたとしたら、彼女が連れ出していただろう。あの看護師さんはそういう人だ。母から父を奪うこともなく、想いを告げることもなく、ただ信頼された部下のままその関係が終了した。
私たちには少し当たりが強かったけれど、とても健気で誠実な人だったんだろう。
ああそうだ、1つ訊いてもいいかな?
そう、ありがとう。
あのさ、キミが初めて殺人をしたときのこと…… 教えてくれる? 知っておきたいんだ。ほら、私も秘密を教えたんだからいいでしょう? じゃないとフェアじゃないと思う。
…… なるほど、言子ちゃんパターンか。あ、いや、こっちの話。
それにしても灰皿で殴り殺したんじゃあ返り血も浴びたんじゃないの? よく捕まらなかったね。
…… ええ。
さすがの私もそれはびっくりだよ。
そもそも返り血がかからないように服を脱いで誘導したと。無茶をするなあ、まったく。キミが今も無事で本当に良かったよ。
いつも我が儘を言ってごめんね。キミに無茶させてばっかりだ。
えっ、別に私は無茶してなんかいないよ?
ああごめん。ごめんってば、怒らないでよメイ。分かってるよ。いつも無茶して迷惑かけてる。
それも違う? えっと、心配ばっかりかけてるから…… かな?
そうだよね。私がメイを心配しているように、メイも私を心配してくれてるんだよね。いつもありがとう。
ふふ、全部懐かしいよね。
ここ数ヶ月、長年会えなかったキミといて嬉しかったよ。
空白の部分を互いに埋め合うように触れ合えた。キミを遠ざけようとしたことも謝れたし、私の真実まで告げた。
キミは真剣に聴いてくれたね。そして、拒絶をしないでいてくれた。私が異常に死を恐れる理由も理解してくれたし、絶対にもう怖い目には遭わせないと誓ってくれた。
…… 私は与えられてばかりのずるい子だ。
なにも返せないのが口惜しい。
…… だから、言葉に表してキミに返そうと思う。私なりの、精一杯の〝 感謝 〟と〝 愛 〟を込めて。
ふふふ、絶望の私が〝 感謝 〟と〝 愛 〟なんて希望に溢れた言葉を言うのは、なんだか笑えるね。
薄っぺらいものじゃないのは確かなんだけどね。それはキミが1番よく知っているはずだよ、メイ。
キミと過ごせて本当に良かった。
大好きだよ、メイ。
大好きだよ、姉さん。
キミも同じ気持ちだろう?
「ええ、もちろんですわ」
それは、良かった。
ありがとう。ありがとう。大好き。
そして……
「いち、に……さん」
そして、さようなら。
上がる銃声。立ち昇る硝煙。
互いの頭に押し当てた銃口が離れる。
倒れたのは、メイの方だった。
「…… ばか」
だらりと垂れた彼女の手から銃を持ち上げて見れば、その中は2箇所空白ができている。
つまり、事前に弾が1つ抜き取られていたということ。
「仕方のないお姉ちゃんだなあ」
彼女の持っていた拳銃から弾を抜き取り、私が撃った拳銃へ装填する。これで外れることは、ありえない。
赤い花を咲かせた彼女の体を横たえ、頭を膝に乗せる。髪を撫でればさらさらとしていたが、ときおりぬめっとしたものが手に当たる。
この温かさも時期に消え去ってしまうだろう。
ああ、その前に終わらせないと。早くしないと。
まったく最後の最期まで甘い彼女に愛おしくなって撫で続ける。涙は出そうにない。
ああ、大切な彼女。大好きな彼女。私の唯一の理解者だったお姉ちゃん。
もう、目を開くことはないし、もう私に微笑みかけることもない。
―― なんて、甘美な絶望
「これが、絶望……」
あの人が求めた、記憶を失ってまで求めた絶望。大切な人を失う絶望。
真っ赤な片目を揺らして、私は愛おしげに彼女を抱きしめた。
青い方からも涙は出てくれないようだ。
…… なんて薄情なやつ。
これは絶望に犯された結末。
けれど、私は絶望でなんて終わらせてやらない。たとえ、他の人たちには同じ絶望だとしても、これは私にとっての希望となるのだ。
江ノ島盾子の望んだ絶望ではなく、あくまで私の希望のためにこれは行われるべきなのだ。
「メイ、日の出だよ」
頭を撫でながら、窓の外を見る。
まさに希望に溢れた日の出。朝日はキラキラと輝き、まるで大輪の花を咲かせる希望のカケラのよう。
荒廃した世界にはひとしく光が降り注ぎ、荒れたコンクリートの下からはそのうち美しい花が咲き乱れるようになるだろう。
汚染された空気は未来機関によって浄化され、動物たちもいずれ戻ってくるだろう。
こんな清々しい朝は小鳥の鳴き声で目覚め、そして窓から青空を見上げて始まる。
ひと昔前にあった風景、音、香り。
その全てが再び〝 始まる 〟ためには〝 終わり 〟が必要不可欠。
物語の〝 終わり 〟には〝 悪いやつ 〟がいてはならない。
…… ふう、やっぱり緊張するな。
物語の悪役もこんな感じのことを思うのだろうか。
ただただ、虚しい。
なにもないし、なにも得られない。全て手放して、捨てたのは私。
後は最後に残った不要物《私の命》を処分してめでたしめでたし。
これから平和を取り戻していくだろうこの世界に永遠のお別れを告げなくては。
絶望なんかが、平和な世界の夜明けに居てはいけないのだ。
ダークヒーローは痛い目に遭うまでがセットだけれど、ただの外道は地獄に叩き落されるのがお約束ってものだろう?
病院に突入してくる部隊が見える。
そのうち、この部屋にもお客様がやってくるだろう。
適当にシリンダーを回し、準備をする。
そして片手が届く位置にナイフと睡眠薬を置いて待機。万が一のときのために対処する物は多い方が良い。
薬を水で一気に流し込んで、震える手で銃を持つ。
メイの温もりは、私の熱で保たれている分のみだ。その額に
軽く触れる〝 挨拶 〟をして構える。
ドタドタと聞こえる足音。
特定するのが早い。さすがのお仕事だね。
「ここか!?」
飛び込んできたスーツの男に私は苗木クンじゃなかったことにがっかりしたが、そんな様子は一切見せずにスマイルスマイル!
スマイルゼロ円。ただし初回限定版おひとり様のみ。再配布の予定はございませんってね。
ふっ、と息を吐いて1言。
「おはよう、今日はとっても良い日になりそうだね」
戸惑う彼にとびっきりの笑顔を見せて銃口を喉元に突きつける。
慌ててこちらに向かって来ようとするけれど、その前にことは終わらせなくちゃね。
どうか、地獄で待っていて。
今、行くから。
罰を受けに行くから。
待っていて。
さようなら、さようなら。
この素晴らしき絶望的な世界にお別れを。
「こんな
永遠におやすみなさい。
・条件
イゼ錆 (赤青オッドアイ) 状態で原作沿い。死亡者は放棄し、目覚めてすぐメイ子と姿をくらませる。
赤錆と違う点は開き直って生きようとはせず、ネガティブ思考に走っているところです。手段の1つに殺人が混じる頻度が通常のさび枝よりも少し高い。なまじ良心が残っているので思い悩みやすい。
・狛枝家
皆海繋がりのネーミングです。港と青と凪。それから〝明海〟
・廃病院
ホラースポットだと思っているのは、本人だけ。
・相談窓口が来い!
本当にそんなことをするのですか? 彼女だけを助けたところで、狂うことすらできない生き地獄になるというのに?
随分と悪趣味なことをおっしゃるようで。
まあ、人のことは言えないのですが。