錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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〝 明日に死を迎えるとしても今日から幸福になって遅くないのです 〟


このせかいは

 私が最初に思ったのは、いくらなんでも用意周到すぎなんじゃないかという疑問だった。

 

 けれど、凪ちゃんは希望ヶ峰学園が没落して超高校級の絶望が出現するよりも前に予備学科の危険性についても言っていたし、そもそも怖いから学園には通いたくないとさえ言っていた。

 

 実際、希望ヶ峰学園最大最悪の事件と称される事件が起き、それを隠蔽していた学園は絶望の暴徒と化した予備学科生のデモ、そして一斉自殺などが連鎖的に起こって行った。

 まあ、元々パレードと称されるデモはあったようだけど、それらが一気に悪化して日本全土、世界中にまで伝染。

 全土まで広がったのは〝 超高校級の絶望 〟と呼称される14人がただ絶望を振りまくためだけに起こした、同時多発テロが発端だった。

 人災というよりは、まるで伝染病や竜巻、はたまた大津波のような天災ともいうべき事件だとか言われている。

 

 …… この事件と、絶望の名の下に行われる事件などを総称した〝 人類史上最大最悪の絶望的事件 〟という現象は、未だに終息していない。

 

 これを起こした14人の絶望。

 だけれど、彼らを超高校級の絶望へと堕とした真犯人が2人。

 その2人は、あろうことか凪ちゃんの後輩だった。

 1人は苗木君がどうにかしてくれたのだけど、もう1人の…… 真の黒幕は……行方不明、らしいけど。

 

 他にも、うそちゃんに残したセキュリティ万全なマンションも、その事件によってどこかから大量生産されたらしいモノクマや、絶望の残党から身を隠したりするのにも役に立っていた。

 チェーンソーの詳しい設計図まで蔵書の中に紛れ込ませていて、3Dプリンターで2人とも自分の武器を作ることができた経緯もある。そのおかげで塔和シティへ凪ちゃんを探しに行ったときも大活躍だったし、私たちは死ぬこともなくこうして生きているわけだ。

 

 ……先見性があるにしても正直異常すぎるよね、これ。

 

 ここまで来ると本当はなにか知ってるんじゃないかな? と察してはいるのだけど、本人が話さないくらいだから話したくないことなんだろうな、とうそちゃんと2人で傍観している。

 いつか彼女が自分から話してくれるのを待つのみだ。それまではいくらでも付き合うし、秘密を知ったとしても昔からの関係は変わらない。変えさせないつもりだからうそちゃんと2人で外堀を少しずつ埋めていっている。

 この分だったらクラスメイトも利用して外堀を埋めていこうかな…… あ、いや、利用じゃなくて協力か。

 同類相手でないとどうも軽視してしまう。こんなことをしていたら凪ちゃんが怒るな。

 でも仲間うち以外にきちんと友情を築いているのは凪ちゃんと蜜柑ちゃんだけなんだよね。うそちゃんも、かみつきちゃんも、皆仲間以外とは壁ができやすいから。

 

 しかし、この残された暗号を見るに自分が死ぬことは確定していたようだ。だけれど凪ちゃんは人一倍臆病で生きたがりだ。そんな子が死ぬこと前提で動くとは到底思えないので恐らく死なない確信があってやっているのだとも予測できる。

 あとは、元旦のカレンダーについた花丸マークも根拠の1つ。暗号はさすがに解読できないけれど、ずっと先のカレンダーに花丸マークをつけるなんて、まるでその日自分が生きていることを確信しているみたいだ。

 もちろん、暗号に使うことを思いつく前にマークをつけていた可能性も、マーク自体が暗号の解読に関わっている可能性もあるけどね。

 

「これは……」

 

 そんなことをつらつらと考えていると、やみつきちゃんを質問責めにしていた連中が新たな目的を見つけて議論を始めた。

 やみつきちゃんはやみつきちゃんで 「あ、あとでちゃんとお話ししますからぁ」 と萎縮してしまっている。

 ああ、もうそんなに怯えなくてもいいのに。そもそも集団で質問責めにするなんて、てことも思うが凪ちゃんの大切な仲間だし、私が口出しすることではないはずだ。

 仲間のことになるとどうも怒りっぽくなってしまう。ダメだな。

 早く凪ちゃんの生存確認をしに行きたいけどこれじゃあ暫く無理かなぁ。

 

「もしかちて、狛枝さんはこれを見つけてほしかったんでちょうか……」

「わざわざ遺言に残してるくらいだもんね…… そうかもしれない、と思う」

 

 モノクマ曰く裏切り者のお2人さんがカレンダーが張り付けられた窓を見て呟いた。

 それに続いてアンテナくんが 「皆、この部屋を捜査しよう」 と言い出した。うん、それが自然な流れだよね。このままじゃあラチがあかないし、やるしかないよ。

 

「つまり、これの意味を調べるってことだよね?」

「ああ」

 

 変態料理人君が窓を指差す。

 

「そもそもー、これ本当に暗号なんすか? 唯吹にはチンプンカンプンなんすけど……」

「それを知るために捜査する…… だよね」

「あいつが部屋の整理を頼んで来たのは意図的だったんだと思うぞ。ならこれになにかあるって思うものだろ」

「本来頼まれたのはモノミだけどな……」

 

 それに付け加えてなんなら皆でやってもいいとか言っていたのは凪ちゃんだしね。

 

「ちょっと待て、その前に役割分担しとくべきなんじゃねーか? 十神も狛枝も、毎回そういうのやってただろーが」

「そ、そうですねぇ」

 

 思い出してしまったのかちょっと泣きそうな蜜柑ちゃん。

 確かに、その方が効率はいいと思うけどね。

 

「なら、日向…… アンタが決めていいよ」

「は? …… え?」

「ホントはソニアちゃんにやってもらおうとも思ったんだけど、凪ちゃんも十神も、両方と仲良かったのはアンタだし、まとめ役にはピッタリでしょ? 蜜柑ちゃんにはこの部屋でやりたいこともあるだろうし……」

 

 おっと、写真家ちゃんがアンテナくんにデレている。いつの間にかそんなに信頼されるようになったのやら。出会った頃は頼りない認定されてたっていうのにね。

 私は基本的に凪ちゃんと蜜柑ちゃんの周りをうろうろしているだけだから他の人の進歩状況はよく知らないんだよね。そっちはモニターで苗木君たちが見てるからいいでしょって感じで。

 

「そうか…… なら終里と弐大には入り口を開けて待機しててくれるか? モノクマがここを荒らしに来たら困るしな。それからモノミも」

「へ、あちしもでちゅか!? 頼まれたのはあちしなのに!」

「お前、モノクマが来る前兆とか分からないのか? それが分かるなら事前に警告してほしいんだよ」

「あ、あちしが頼られてる…… !? ぐす、ぐす、先生嬉しいでちゅ…… あ、もう先生じゃないんでちた…… 悲しい!」

「やれるってことでいいんだよな?」

「はい!」

 

 ああ、そこまで察知できるようになったんだ。

 表でちーくんも頑張っていることだし、大分奪われた機能が回復してるんだね。

 

「俺も一応調べてみるけど、本と資料を速読できるやつっているか?」

「それならわたくしが」

「オレも一応できんぞ」

 

 と、王女様とツッコミ君が立候補。

 王女様はさっきの花言葉パフォーマンスがあったおかげで信頼されてるけど、ツッコミ君の方は舞踊家ちゃんに 「はあ? あんたが?」 と言われている。

 

「お、オレ高校に行く前はガリ勉だったんだよ……」

「なるほどー、高校デビュー失敗しちゃったんだー? クスクス、やっぱりモブはモブだよねー!」

「うっせ! 今は関係ねーだろ!」

「つまり、勉強はできるから参考書読むのも慣れてるってことでいいか?」

「それでいいんだよ……」

 

 ツッコミ君が大暴露しながら自分の足に傷をつけるように自爆した。

 とにかく、王女様と作業できるのは嬉しいらしいからよかったんじゃないかな…… その後飼育委員君も動物の研究論文なんかを読むことが分かり、作業に加わって行ったけれど。

 哀れツッコミ少年。

 

 本棚担当が決まったところで次は他の場所だ。

 お風呂場なんかはないだろうと思いつつ念のための確認で蜜柑ちゃんが向かい、タンスは女子担当。服とか下着とかあるから男子は全面的に必要なくなった本と資料の片付けだ。

 

 そして暫く経った頃、ポツリとツッコミ君が呟いた。

 

「なんか…… 付箋だらけだな」

 

 確かに、本の1冊1冊にかなりの量の付箋がついているみたいだ。

 けれど付箋の場所を開けて見て見ても、書かれたメモとはなんら関係がなさそうだし、ただの雑学だったり空白のページだったりと意味がなさそう。法則性もぱっと見はなさそうに見える。

 

「ひとまず、付箋のある場所を全て記録しておきましょうか。小泉さん、お願いできますか?」

「分かったわ」

 

 バッテリーが無事か少し心配だが、他にもアンテナ君にもらったカメラが沢山あるらしいので大丈夫だろう。

 記録するから作業の進みが遅くなったけど、皆真剣だ。

 

 ふーん、凪ちゃんのためにここまで真剣になってくれるんだなぁ。なんて見直しつつ、進歩を見守る。

 

「ダメですね。全ての本に付箋が貼ってありましたけど…… よく分かりません」

「ランダムに貼ってあるとしか思えねーな」

「ふむ、ところでなぜ元旦の部分にだけ印がついているんだろうな」

「そういえばそっすね…… 他のとこにはなーんにも書いてないし!」

 

 分からない部分も捜査しながら、また新たな疑問を見つけた剣道家ちゃん。それにはお風呂場から帰ってきたやみちゃん…… 蜜柑ちゃんが 「あの、その、憶測でしかないんですけどぉ」 と言いながら電子生徒手帳を操作する。

 

「元旦って…… 日向さんの誕生日ではないでしょうかぁ……」

「は? た、確かにそうだけどな…… まさかそんなわけないだろ……」

「で、でもぉ、他の日付は皆さんの誕生日ではありませんし、そもそも同じ日付が続いていたり…… これだけに印がついているとしたら思い当たるのは日向さんの誕生日だけ、ですぅ」

「そっか、なら…… 同じ日付が3回もあるし、元々はカレンダーが1つしかなかったんじゃないかな。きっと皆の誕生日に印をつけてたんだと思う…… そのときまでは、自分が死ぬとは思ってなかったんじゃないかな……」

「ちょ、そんな悲しいこと言わないでくださいっす!」

 

 七海ちゃんがそう言ってキョロキョロと辺りを見回す。

 

「モノミ、大量に出たゴミってどうなるの?」

「あちしが定期的に収集してまちゅけど…… カレンダーの、それも大量のゴミなんて収集してまちぇんよ?」

「! …… モノミさぁん、部屋の中ならポイ捨て禁止には当たりませんよねぇ?」

「そ、そうでちゅねぇ…… 自然を汚さないためのポイ捨て禁止なので部屋の中なら適用されまちぇん。ゴミ箱にゴミを捨てようとして落として警報なんて笑えまちぇんからね……」

「なら、まだこの部屋にカレンダーの残りがあるってことですよねぇ…… ?」

「へ? え、えっとそこまでは……」

 

 モノミが困惑しているものの、そのままの勢いで蜜柑ちゃんは入り口に呼びかける。

 

「終里さぁん、少しいいですかぁ?」

「あ? なんだよ、オレがいてもなんもできねーぞ」

「終里さんじゃないとできないことですよぉ」

 

 この時点で私はなるほど、と察した。

 

「この暗号にはペンキが使われてますぅ…… 終里さん、〝 路地裏のラクガキみたいな匂い 〟はこの部屋の中でありますかぁ?」

「んー、ちょっと待て……」

 

 それから、換気の効いた入り口から離れ、褐色ちゃんが部屋の中で探し回り始める。

 やっぱり1番匂いがするのは暗号なのか、首を傾げながら床に這い蹲り、鼻を近づけている。活発な犬みたいだなぁと思いながら見ていると、彼女の頭がベッドの淵にゴツン。

 

「やっぱダメだな。この辺しかしないし、窓にあるやつだけじゃねーか?」

 

 でもそれが蜜柑ちゃんへのヒントとなったみたいだった。

 

「それだけ分かれば十分ですよぉ」

 

 言って同じように這い蹲り、ベッドの下へ手を伸ばす。

 出て来たのはロケットパンチマーケットの大きな袋と、ペンキの缶。確かに部屋の中にあったみたいだ。

 

「ほ、ほらぁ…… こっちのカレンダーにも誕生日に花丸がついてますぅ…… カレンダー1個分ですから、やっぱり元々死ぬ気はなかったのかもしれませんねぇ」

「本当に誕生日だったのか……」

 

 まあ、それでも暗号に花丸つきのカレンダーを使用した意味は分からないけどさ。

 

「そういえばさっき罪木さんが飛ばした本ってあるかな…… ?」

 

 王女様たちが読み終わった本を整理していた七海ちゃんが言う。

 

「あ、す、すみませぇん! 忘れていました…… これですぅ」

「あれ…… ?」

 

 疑問符をあげる2人をおいて、私はふと気になっていた棚の裏を覗いてみた。私なりに捜査しようと思ってね。

 

「これ、3冊のうちこの2冊は付箋がないよね…… ?」

「本当か!」

 

 そっか、付箋があればそこに重要な部分があると思い込んじゃうよね。それを利用して凪ちゃんは木を隠すなら森の中ってことにしたんだ。

 そっと見つけた黒い手帳を確認して懐に隠す。いくら透明でも道具を持つことはできるから、そのまま誰にも見つけられないように持っておくことにした。

 

「ソニア、左右田、読んで見てもらえるか?」

「…… ! それは意味が分かると怖い話じゃないですか! わたくしが読みます! わたくしが読みたいです!」

「ならオレは化学の教科書のほうですね……」

 

 となったみたいだけど、読み始めてすぐに王女様が顔をあげた。

 

「左右田さん、ちょっと見せてもらっていいですか?」

 

 パラパラとページを捲ってとあるページになったところで止まり、窓と交互に見比べている。

 

「やっぱりそうです! さすが狛枝さん、わたくしと趣味がマッチングしていますね!」

「あれ、もしかして解けたのか…… ?」

 

 得意気に瞳をキラキラさせて王女様が近くのメモ帳を引っ掴む。

 そして 「整いました!」 とドヤ顔を披露した。使う場面が違うんじゃないかな? という疑問はきっと無粋なんだろうね。

 

「まずはこれを見てください!」

 

 王女様が最初に出したのは化学の教科書。そのページに書かれていたのは簡略化された元素記号の表だった。赤いペンで縦の欄に8と9が追加されている。更にアクチノイド、ランタノイドの部分が最初の文字である 「ア」 と 「ラ」 に赤い丸印。

 なにかあると言っているようなものだよね。

 

「それからこちらもです!」

 

 と言って意味がわかると怖い話の目次を確認、ページを捲ってこちらに見せて来た。

 

 それは認知症だった亡き母親の書斎に入ったとき感じた違和感について、そしてプレゼントしたはずのカレンダーがハサミでバラバラにされた切れ端が順序良く並んでいる光景があったという話。

 そしてその切れ端の内、6/17だけが逆さまになっていたということ。これから5年ぶりに会う父の手料理を食べる…… という話らしい。

 話の中に出て来た暗号は 「4/4 4/4 4/10 6/11 3/1 6/12 5/6 7/2 6/7 6/17(逆さ) 4/10 4/14 5/16」 だ。

 

「カレンダー…… 凪ちゃんの暗号と一緒だね」

 

 ポツリと写真家ちゃんが言う。

 

「これは意味がわかると怖い話というより、どちらかというと謎解きに近いお話ですね。たまにヒントのように〝 母は理系の頭がいい人だった 〟のような文章が付け足されていることもあります。答えは日付と同じように元素記号を〝 周期/族 〟として置き換えることでできるのです。6/17は逆さまですから、AtからtAとなり、このお話の答えは……」

 

―― Ti Ti Ni Au Na Hg Mo Ra Re At Ni Ge Te

 

「〝 父に会うな、水銀盛られた逃げて 〟となります。このお話の中で認知症で死んだとされる母は本当はボケてなかったのではないでしょうか? また、これから父の手料理を食べるという主人公はどうなるのでしょうか? そんな怖いお話なんです。前に…… 確か狛枝さんも図書館で読んでいたと思いますよ」

 

 ごくり、と誰かが喉を鳴らした。

 

「つまり、狛枝の遺したのは……」

 

 素早かったのは蜜柑ちゃんだ。

 深刻な顔で話していた王女様からラクガキ入りの教科書を奪い取り、彼女の部屋にあったメモ帳に解読した文字を入れていく。

 できた言葉は、皆にとってはよく分からないだろう言葉。

 そして、蜜柑ちゃんや私にとってはとても身近で実感できる言葉だった。

 

 ―― K O No Se K A I H A Y U W E No Na K A

 

「Wが逆さなら、Mですよねぇ…… なら答えは、〝 このせかいはゆめのなか 〟…… ですぅ」

 

 

《コトダマ 狛枝の遺言》

 

 

「こ、これって…… ?」

「ゆ、夢…… ? どういうことなの…… ?」

 

〝 この世界は夢の中 〟

 

 その言葉が皆に浸透したとき、それは来た。

 

「は、はわわわ! モノケモノ襲来でちゅ! ミナサン! 逃げてくだちゃぁぁぁい!」

 

 ピカッと、フラッシュのようなものが焚かれたような錯覚を覚える。

 入り口を見ると、そこにはモノケモノ…… ウマケモノとヒトケモノが立ち塞がっていた。

 

「はあ!?」

「な、なんでだよ! おい、モノクマァ!?」

 

 逃げ惑う皆から、なんとなく目を離さずにいると、モノミが魔法を発動させるときのように一瞬だけブレているような気がした。

 だけれど、それもすぐに直ったし、本人も周りも気づいていない。

 気づいているのは恐らく、私だけ。

 

 この様子じゃ皆バラバラにされてしまうし、ついて行ってもメリットはない。

 仕方ないけど、一旦起きるしかないみたい。

 頬をつねって起床準備。

 

 お仲間におはようございますを。

 

 

 

 

 

 ―― アバターのコピーが完了しました。

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 ―― アバターのコピーが完了しました。

 ―― 廃棄したアバターデータを修復します。

 ―― 廃棄したアバターデータを修復します。

 

 ―― 意識データをコピーしたアバターに分散させます YES or NO

 

 ―― ジャバウォック島のデータをコピー。コピーデータをゴミ箱へ移動します…… パスワードを設定してください。

 

 ―― 廃棄された意識データとアバターデータをゴミ箱へ移動します。

 

「絶望してくれない狛枝先輩が悪いんですよ〜? さっさと留年してよね、うぷ、うぷぷぷ、うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ!」

 

 

 

 

 

……

…………

………………

 

 

 

 

 

 起きた私にまず知らされたのは、ゼロとイチになって消えたはずの彼女のデータがどこにも見当たらないこと。

 それを修復して待機状態にすれば意識を取り戻す可能性がグンと上がったはずなのだとか。

 だというのに、どこにも見つからない。

 

「ご、ごめんねぇ。今アルターエゴと一緒に隅々まで捜索してるから……」

「あなたは焦らないで、自分のやれることをしてちょうだい」

「おい、この島にいることはまだ嗅ぎつけられていないな?」

「うん、まだ多方面で陽動してる皆がいるから大丈夫だと思うよ」

 

 メイドさんは1時期ものすごい取り乱し様でうそちゃんが鎮静剤まで使って取り押さえていたみたい。今は頭を冷やすとかで外に行っているらしい。

 

 ちーくんこと、〝 超高校級のプログラマー 〟不二咲(ふじさき)千尋君は目の前のモニターとキーボードを何台も使って元凶のウイルスが力を持つことを防いでいる。

 さらにその作業をしながら凪ちゃんの居場所を探しているからか押され気味みたい。けれど、この攻防は彼にしかできないことなので私たちは見守ることしかできないんだよね。

 

 偉そうに 「見つかっていないか」 なんて臆病なこと言ってるのは痩せてる方の十神白夜。モニターの中で死んでしまった十神君は詐欺師だから彼の姿を借りていたわけだけれど、今までのことを見るに偽物の方がよほど〝 超高校級の御曹司 〟らしい行動をしていた。

 そんなんだからクラスメイトにかませ眼鏡なんて言われるんだよ。

 

 他のクラスメイトと連絡を取りながら十神君に言ったのが〝 超高校級の幸運 〟苗木誠君。

 幸運といっても凪ちゃんみたいな本物の特殊能力じみた才能じゃなくて、彼は本当に抽選で選ばれただけ。でもその諦めの悪さと気味の悪い程の前向きさで今では全世界から〝 超高校級の希望 〟だなんて持て囃されている。

 まあ、モノクマの中の人…… 〝 超高校級の絶望 〟江ノ島盾子を破ったのが未だ彼1人だからということもあるけれど。

 そんな彼らは皆凪ちゃんの1学年下の後輩たちだ。

 要するに、超高校級の絶望と同級生だった人たちだね。

 

「まだ探していない場所、もしくは怪しい場所はないのかしら?」

「あ、あるよぉ…… でも、普通はすぐ開くのに、鍵が意図的にかけられてるみたいで、パスワードがないとダメになってるんだぁ」

「え? ちーくんなら簡単にパスワード特定くらい……」

「そ、それが…… 向こうも全力を挙げてるのか…… 桁も多いし、5秒ごとにパスワードが変更されていくんだよぉ……」

「えっ!?」

 

 これが、絶望。

 いつもと違う絶望だけれど、こんなのもあるんだ。でも、こういう絶望は嫌だなぁ。

 ちょっと前まで江ノ島ちゃんの絶望に共感できるかな?と思ってたけど、やっぱり私には無理かもしれないね。

 

「普通のジャバウォック島には干渉できるけど、狛枝さんの方は…… 江ノ島さんのアルターエゴをどうにかしない限り、難しいと思う…… 初めから中にいるか、中から壊さない限りどうにもならないよぉ」

 

 泣きそうな彼を落ち着かせ、私ももう1度ダイブを試みることにする。

 寝すぎで寝れそうにもないが、睡眠薬を飲めば……

 

「なんで止めるのかな、霧切ちゃん?」

「目の前で自殺されるのは嫌よ」

「自殺するつもりはないよ。まったく、〝 超高校級の探偵 〟さんは心配症なの?」

「それでも、それ以上睡眠薬を飲んだらいけないわ。心配なのは分かるけれど、それで焦って行動してもなにも……」

 

 その言葉で、黒い感情が心の奥底から湧き上がってくるのを感じた。

 まるで、深海の底に沈めたものが無理矢理登ってくるような不快感。それを吐き出すように、目の前の子に吐き捨てる。

 

「…… そんなの、君らが誰も死んでないから言えることなんだよ…………」

「…… ごめんなさい。でも、無理はしないでほしいの」

「…… 私も頭冷やしてくるよ」

 

 ギスギスした雰囲気の中、いつものようにヘラヘラできるわけもなく、席を立つ。

 ああ、私も人並みに怒るなんてこと、あったんだなぁなんて他人事のように思いながら…… 荒廃したジャバウォック島を肴に一杯おっ始めることにした。

 

「おっと、先客かな?」

「…………なにしに来たんですか?」

 

 海でも見ながらと思って来たけれど、同じことを考える人もいたもんだ。

 メイド服が汚れることも構わずに座り込み、海を眺めながらメイドちゃんは遠くを見ている。どうやら泣くまいとしているみたいで、目を見開いたまま瞬きもせず、充血で赤くなった目をもっと真っ赤にしていた。

 泣かせてやろうか、なんて思って酒瓶を片手で上げ、なんとなく持ってきた2つのお猪口を取り出した。

 

「ヤケ酒でも付き合うよ? 明海ちゃん」

「…………」

 

 黙ってお猪口を取る姿には、普段の礼儀正しさのカケラも見当たらない。気配りもできないくらいに憔悴しきっている。

 お酒の付き合いを断らなかったのが精一杯の気配りだろう。

 

「……」

「……」

 

 しばらく黙って海を見ながら飲み、チラリと横を見ると彼女が顔を真っ赤にしながら、それでも泣くまいと堪えているのが分かった。

 

「明海ちゃんも酔うんだね。私初めて見たかも」

「…… め、メイドたる者、自分の酔いくらいコントロールできなくてどうするのよ。主人が酔ってないのに私が酔っていたのでは意味がないじゃない」

「メイドってそういうものなんだ?」

「…… 違うわ。私がそうしたいだけ」

「そっか」

 

 今酔っているということは、それだけ気を緩めてくれている。弱みを見せる気があるってことだよね。なんとなく役得かも。

 

「明海ちゃん、泣きたいなら泣いたほうがいいんじゃない?」

「嫌よ」

 

 即答だった。

 

「なんで? そのほうがすっきりすると思うけど」

「あ、あの子は、捜索のためとはいえ、私がしたことですごく傷ついたのよ? だから、私が、絶望して涙するわけには、いかないのよ…… ! 私が絶望して泣くってことは、あの子が助からないって思うのと同じことだわ。だから私は、絶望に屈することはできないの。もう2度と、あの子を、裏切りたくないのよ!」

 

 悲しみの涙は否定する、か。

 

「なら、凪ちゃんが帰ってきたときにいっぱい泣いてあげよっか。希望の涙をね」

「…… 拒絶、されないかしら」

「大丈夫だよ、凪ちゃんは」

「そう……」

 

 凪ちゃんも明海ちゃんも血が繋がってないとはいえ、やっぱり姉妹だね。

 

「…… っ」

「……」

 

 だってほら、こんなにも強がりさんなんだからさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 お詫び
 ヒントの8の下に9を追加してくださいというのはちょっと間違っていました申し訳ありません!正確には7の下に8と9でした!

・うろつきが辛辣
 歪んだ価値観の持ち主なので自分の仲間以外はわりとどうでもいいと思っています。仲間=人間、それ以外=動いて喋るロボットくらいの認識しかありません。あ、キーボとは言ってないからね? (念押し)

・捜査提案の日向
 その後パンツがいつの間にかポケットに!

・黒い手帳
 黒い方の内容はなんだっけ?

・最後
 無印のネタバレ満載だせー! ヘルイェー!


【暗号について】
 読者の皆様、この度は暗号解読のご参加ありがとうございました!
 1週間で解かれてしまうものなのですね…… と衝撃。私はこういうの解くの下手くそなので……

 というわけで正解者発表です!

 繰り園さん、まどろみさん、泡沫´さん、モリー油さん、おとおさん、181Aの電流さん、nestさん、yuki14さん、月兎さん、ふぁんとむさん、ふるらさん、raselさん、雛鳥さん、死神の逆位置さん、雪葉さん

 正解した皆々様、おめでとうございます! 根拠、答え共にお見事でした!
 これからもどうか、本小説のご愛読をお願いいたします!

 ちなみに伏線の位置は図書館へ初めて訪れたときや、辺古山さんと自由行動する前にありました。

 それでは、次回回想を挟んだ後に5章 「屑入れの中の天獄」 を開始いたします。乞うご期待!



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