『その嘘、塗りつぶさせてもらおうか!』
心の中で宣言し、表向きには罪木ちゃんを指差して 「残念ながらそれは違うよ、罪木ちゃん?」 と宣言する。
不敵な笑みを浮かべ、真っ直ぐとその瞳を見れば彼女はひどくショックを受けた顔をしていた。
なぜ? どうして? そんな混乱に巻き込まれていく彼女はシドロモドロになり、呂律が少々回っていない。青ざめて、泣きそうに顔を歪めて…… ああ、可哀想に。裏切られた気分や絶望というものを今、彼女は突きつけられているのだろう。
けれど、その絶望をキミは乗り越えなければならない。
そこで潰れることは私が許さない。さあ、〝 許して 〟ほしければ私たちを踏み超えていけよ。
「毒殺とは限らないよ? だって、タワー内の毒薬は〝 減っていなかった 〟んだからさ!」
「……」
私が宣言をして数拍置き、日向クンが目を瞑る。
そして彼が悩んでいるうちに七海さんが動いた。
「わたしは狛枝さんに同意する…… と思うよ?」
私にとって予想外の援護に、目を開いてなにかを決めたらしい日向クンの言葉が更に後押しする。
「おいおい、そういうときはちゃんとはっきり言うんだぞ七海」
「そっか、そうだよね」
「ああ、だから俺も…… 狛枝の言葉に賛成だ!」
ほっと息を吐く。
彼らも私と一緒に捜査していたのだから、彼女が検死結果を覆してきたのは分かっているはずだ。
だから〝 彼女の独壇場 〟にならぬよう、そのフィールドに上がることなく否定しなければならない。それには嘘をつくしかないのだ。
少なくとも、今検死ができるのは彼女だけなのだから。
「実はファイナルデッドルームに3人で向かったときにね、タワーにあった毒薬とまったく同じ物を見たんだよ。タワーの薬もそうだけれど、内容量は30粒と多いんだか少ないんだか微妙な数字でさ、ビンいっぱいに入ってたでしょ?」
言いたいことに気づいたらしい日向クンが引き継いでいく。
「いくらなんでも人が死ぬくらいの…… 10粒以上減っていたら見た目の変化で分かるだろ?ファイナルデッドルームにあった薬もそうだけど、どちらも同じくらいの量が入っているようにしか見えなかった」
実際には、あそこにあった毒薬は〝 凍結させて使う毒薬 〟と〝 クロロホルム 〟以外は完全に凍りついてしまって中身が判断できる状態にはなかったんだけどね。
でも凶器を毒薬だと断定してしまうにはまだ早い。
だから嘘をついて別の可能性も皆に探ってもらわないといけないのだ。
「…… だから、毒薬が死因だっていうのはまだ分からないんじゃないかなって思うんだ」
七海さんの言葉に続いて言う。
「死因の1つくらいにはなるかもしれないけど、断定してしまうのは早いんじゃないかな?もっと皆で話し合っていけばきっといろいろ見えてくるはずだからさ」
「う、ううぅぅ…… な、なんでですかぁ………… どうして否定ばっかりするんですかぁ………………」
恐らく、その否定という言葉は〝 庇われた私がそれを拒否 〟したことを言っているんだろう。
それもそのはず、せっかく庇った相手自身がそれを台無しにしてきたのだ。困惑もするし混乱するのも当たり前だ。
「おいおい、こりゃあどういうことだ?」
「説明を求めてもいいか?」
おっと主従コンビが困惑しきった全員の言葉を代弁してくれたようだ。
「罪木ちゃんは勘違いしちゃったんだよ。裁判前はその大きな傷跡から〝 刺殺 〟だって言ってたんだけど…… ほら彼女自信があまりないでしょ? だから不安になっちゃったんだよ。よくあることさ、彼女みたいに気弱な子に絶対的な判断と責任を求めるのは少し酷だよね。だから気負うことはないんだよ…… ね、罪木ちゃん?」
クラスメイトの前では口に出すときずっと〝 罪木さん 〟と呼んでいたが、それを解禁する。
その言葉は一見フォローのように思えるかもしれないが、わりと彼女のプライドを傷つけるような言い方を意識している。
彼女の〝 超高校級の保健委員 〟としてのプライドを刺激し、侮辱することで反抗心を煽る。ムッとするように仕向ける。
なのに、傷つくような表情だけを見せてカケラも私を睨んだりする様子がない彼女に私自身がショックを受けた。
…… やめてよ、少しは怒ってみせてよ。
これでは、一方的にいじめているようなものじゃないか。
「む、ということは刺殺でも毒殺でもあり得るということか?」
「…… そういうことになるね! どちらの可能性も検討していったほうがきっと早く犯人も見つかるよ」
彼女が信じられないような物を見る目で唖然とする。
クロがクロを見つけ出す手助けをしているのだから驚くのも無理はない。
「保健委員のくせに視野が狭いとか終わってるねー? ノイズ撒くくらいなら黙ってろゲロブタ!」
「ええと、その、罪木さんはあまりお気になさらないでくださいね?」
西園寺さんの罵倒と同時にソニアさんのフォローが飛ぶが彼女は黙って俯いてしまう。
傷ついた…… のもそうだろうが、あれは考え事だろうか?
「というわけで、凶器の問題はどちらも視野に入れて考えるとして…… まだ断定はできないし、他に分からないことを挙げていって1つ1つ答えを出していこうよ。そうやって順番に紐解いていけばどんなに絡まった事件だってきっと解決するはずだよ」
「分かることから解いていくのは学校のテストだってそうだしね…… 簡単なことから問題解決してこうか!」
小泉さんが同意してくれたことで頷く。
さて、これからが誘導力の見せ所だね。一旦キミたちには事件とは関係のないところを話してもらうことになるよ。
少しくらいは会話の誘導をしてシロアピールをしとかないと。
「じゃあ、もう1度分かってないことについて話そうか。皆はなにについて話したいか疑問を挙げていこうよ!」
ソニアさんから1時的にまとめ役を奪い取って議論を再開する。
― 議論 開始 ―
「破壊神暗黒四天王が見出した〝 血塗れの紙片 〟…… 異次元から到達したのか、それともこれが因果律の定めだったというのか?」
「私としてはなんで〝 暖房の電源 〟が入ってたのかが気になるかな。まだ目的ははっきりしてないよね?」
「オレの見立てじゃあんまりアテにならねーかもしれねーが、なんか〝 血が多かった 〟気がするぜ」
「十神の〝 襟についていたシミ 〟も気になるが……」
田中クンはニュアンス的にヤスリの出自についてかな?
七海さんは暖房をつけていた目的で、九頭龍クンはさすが場数も踏んでいるのか死体の不自然さについてで、辺古山さんも死体を調べたときの疑問を挙げている。
今回の裁判、皆は積極的に疑問を挙げていて非常に同意できる箇所が多いね。あまりロンパされていない気がするが…… 結構的確なことばかり皆が挙げているから仕方ないか。
好き勝手に喋っているわけでもなく、話し合うことをまとめ役が指示しているからかもしれないけど。
「私はファイナルデッドルームで見つけた〝 粘土っぽい塊の正体 〟が気になるかな。あれがなんなのかによっていろいろ分かってくるんじゃないかと思うんだよね」
「狛枝の意見に賛成だ!」
よしよし、皆まともな意見を言っているから引っかかってくれるかは賭けだったけれど、うまく食いついてくれて助かったよ日向クン。
「ところでところでところでー、そのファイナルデッドルームってもしかして皆が行かなかったあの場所っすか?」
「あ、あのピエロみたいなのが扉に描かれてた場所かよ…… よくあんな不気味そうなトコに行ったな……」
そっか、私たち3人以外は行ってないんだもんね。まずは説明からか。
「あの部屋は脱出ゲームになっててさ、それをクリアしたらある〝 試練 〟をして奥にある部屋に行けるようになってたんだ」
「あ? 試練? なんだそりゃ」
「あー、それを聞いちゃう?」
終里さんの純粋さが恨めしい。
「聞かないほうがいいと思う……」
「説明しましょう!」
私が言い終わる前にモノクマに邪魔される。
くそっ、余計なことを。
「脱出ゲームをクリアすればあの部屋から後退して帰還することができますが、先に進むためにはロシアンルーレットをクリアしなければならなかったのです! それを見事に3人分クリアした狛枝さんは日向クンと七海さんの2人を連れて奥の部屋に到達することに成功したのでした! チャンチャン!」
「え、えげつねェ!? つーか3人分とか正気かよ!?」
「ひゃあ! あちしのいないとこでそんなことを!? お願いでちゅからあんまり無理しないでくだちゃい! 人を心配させないことも大切なことだからね? 少しはあちしを頼ってくだちゃい……」
ごめんね、モノミ。これからもっと心配させることになっちゃうや。
だから少しだけ眉を下げて 「ごめん」 とだけ言う。
反省はしてるけど後悔なんてカケラもないからね。ケロッとした顔で続ける。
「その奥の部屋で変なものを見つけたんだよ。1つだけ正体が分からないから皆と話し合って考えようと思って…… 七海さん、持ってきてたよね?」
「うん、ちょっと待って……」
私が話を振ると七海さんはリュックを下ろして例の〝 粘土質の塊 〟をしまっていた袋を取り出す。
「これだよ」
そう言って彼女が取り出したのはお椀状の物体。
乳白色で粘土っぽく、そしてほのかに甘い香りが漂うものだ。
それを反時計回りに私の元へ渡して行ってもらおうとしたのだけれど…… 日向クンから左右田クンへと〝 それ 〟が渡ったとき、左右田クンは顔色を変えた。
「これって…… これどうしたんだよ!?」
私はそれを見て内心笑いながら 「どうしたの?」 と口を開いた。
「こ、これ、この匂いもあるだろ?TNTじゃねーかァ!?」
その言葉に、意味が分かるらしい数人が硬直した。
「TNT…… って、なんすか?」
「あれ、なんか聞いたことがあるようなないような…… ううん、ぼくって料理以外のことは分からないからなあ」
「おいおいおい、テメーら知らねーのか?」
「爆弾の材料……だな」
九頭龍クンたちは当然知っていたようだ。
ニュースなんかを見ていれば分かるかもしれない情報なので小泉さんは知っていたみたいだし、ソニアさんはお国柄かな?治安がいいとは聞かないしね。
終里さんと弐大クンは分からないのか。弐大クンは兵器とかそっち系のことは分からないのかな?
田中クンは恐らく厨二病知識から知っている。
私が意外だったのはTNTという単語で正体が分かったらしい七海さんの反応だ。ひな祭りも知らないのに、一体どこからつけた知識なのやら…… ゲームだとしたら、もしかしてマイクラフトか? マイクラフトなのか?
「ばっ、ちょっと左右田おにぃこっち来んな!」
「いやいや、大丈夫だって! これ単体じゃ爆発なんてしねーよ!」
「そうだとしても爆発物なんでしょ!?」
「日寄子ちゃん、TNTは信管になる金属と導線がないと爆発しないから大丈夫だよ」
「こ、小泉おねぇがそう言うなら……」
「オレの信用度…… !」
ショックを受けてるところ悪いが、説明してもいいかな?
「TNTってプラスチック爆弾で有名なあのTNT?」
「ああそれだそれだよ! これがあればもしかしたらドッキリハウスから出られたんじゃねーかァ!?」
おう、ヤケクソだ。紛うことなきヤケクソだ。
「うんと、それは無理だったと思うよ? それと同じものをファイナルデッドルームで見たけど、そんなに量があるようには見えなかったし…… それにこれ単体じゃあ爆弾になるかも怪しいし、ドッキリハウスの壁は突破できなかったんじゃないかなあ」
「それに、モノクマがそんな形でも突破口を用意しているとは思えないぞ」
「そうだね。脱出の可能性は万が一にも残されてなかったと思うよ」
「うんうん、ボクへの信頼が厚いね! 嬉しいなあ」
「褒めてねーよ! 顔赤くしてんじゃねーよ! つーかそれどーやってんだよヌイグルミなのに!」
左右田クンは今日もキレッキレだね。良いことだ。
彼はツッコミのしすぎで顔を真っ赤にしてるけどね。
「このTNTがなにに使われたのか…… それも考えなくちゃいけないのかな」
そうだね。事件自体には関係ないとはいえ、凶器には関係しているのだから、順序立てて事件を紐解くのには必要だ。
遠回りだけれど、キミらがそうやって話し合っていることは無駄じゃないんだよ。
― 議論 開始 ―
「なんでこんな風に歪んでるんだろうね? 粘土で工作したみたいに見えるけど……」
「〝 爆弾にしようと 〟して失敗したとかー?」
「案外、最初はこの建物から〝 脱出しようとしてた 〟んじゃない?」
「本当に〝 意味がある 〟んでしょうかぁ……」
「〝 爆殺の可能性 〟はあるのか?」
爆弾にしようとしてたかはどんな証拠でも証明できない。論破も同意もできないから保留だよね。
だからこれは……
「ティンときたっす!」
先に澪田さんがなにかに気づいたように声をあげた。
それは…… 論破のつもりなのかなぁ?
「でもでもー、さっきの話合いからするに白夜ちゃんの死因って刺殺か毒殺なんすよね? 爆殺の可能性はないんじゃないっすか?」
「ああ、腹の傷もそうだがこれはマスカットタワーから離れたファイナルデッドルームで見つかっている。爆殺の可能性は限りなく低いだろうな……」
「それに仮にも爆殺だったなら、ここに私はいないんじゃないかな?」
困った笑みを浮かべて言うと、それもそうだと全員が顔を見合わせた。
そもそも爆殺ならば火傷の1つもしていないとおかしいし、既存の傷口に爆発物をねじ込んだのだとしても傷口はもっと広がっているものだろう。
「じゃあなにに使ったんだろうね……」
「ふむ、隙間を埋めたとかどうだろう?」
「これだけじゃあさすがに分からないよね」
悩んでる悩んでる。
もっともっと悩めばいいよ。
「それじゃあ…… 一旦それのことは保留にして、別のことも考えてみよう?」
「で、ですがあれもこれもと手を出していると結論は出ないのでは?」
七海さんが方向転換を指示する。
それにソニアさんが異を唱えるが、突き詰めていっても分からないものは〝 それだけでは何の意味もない 〟ということだ。
「うーん、これをどうやって使ったか…… それとも意味なんてないのか…… それがこれ1つだけで解けないなら、もっとたくさん考えればいいんだと思う。いろんな証拠を組み合わせて…… そうしたら案外一気に繋がるかもしれないよ」
結論のない議論に辟易としていた皆はその言葉に賛成の声をあげる。
「と言っても…… 疑問にあることはほとんど話し合ってしまいましたが……」
ソニアさんが困り顔で考え込む。
確かに、皆が疑問に思いそうなことは大体話している。
まあ話していないこともまだあるが、それに気づいた人がどれだけいるかが問題だな。当然、日向クンならあとで話題に出すだろうけれど。
「なら、話してないことを話そうか。たとえば…… ファイナルデッドルームのこととか…… そうだよね、日向クン」
「ああ、そういえばいくつか話していないことがあるな」
彼の同意を得て続きを話す。
「ファイナルデッドルームの奥にはかなりの証拠品があったんだ。それと暖房をつけるための電源盤もそこにあった。電源盤はあのドッキリハウス全館の電気設備が纏まっているみたいだったよ。私が見たときはもう暖房が止まっていたけれど、夜時間から発見までの間…… 7時間程は稼働してたみたい。ちなみに、温度は35℃に設定されてたよ」
電源盤についてさっと話し、息をつく。
すると今度は日向クンが後を持つように話し始めた。
「ファイナルデッドルームの奥……」
「オクタゴンね!」
「…… オクタゴンにはいろんな凶器と、冷蔵庫が二台設置されていた」
ファイナルデッドルームの奥っていちいち言ってると面倒だもんね。
日向クンが言い淀んだときに素早くモノクマが正式名称を口にした。
「れ、冷蔵庫?」
「つーことはあれか! オメーらだけ先にメシ食ってたのかよ!?」
反応するのは花村クンに終里さん。
まあ分からないでもないけど、残念ながら冷蔵しているものが違うんだよね。
「いや、食料は相変わらずなかったぞ。あったのは…… いろんな種類の毒薬だ」
「なるほどな、毒薬の出どころはそこか」
「そこから持ち出したものがタワーにあったもの…… と仮定できるだろうな」
考察をしながら話の続きを促す主従に日向クンが続ける。
「冷蔵庫には毒薬のビンか所狭しとあったけど、上部の収納空間は無理やりビンを突め込んだような状態だった。逆に下部にはなにもなくて、僅かな血痕と……」
「…… このお椀状になったTNTがあったんだよね」
「補足すると、この、TNTは冷蔵庫の中に1つ。外に1つ落ちてたから合計2つ使われたってことだね。それと、血痕の残っていた冷蔵庫の温度はマイナス20℃に設定されていて…… むしろ冷凍庫と呼べる状態だったよ」
「け、血液も凍結してしまうほどの温度ですねぇ……」
そうそう、罪木ちゃんの言った通りだ。
「…… それと、近くのゴミ箱に空の輸血パックが大量に捨ててあった。血液型は全て揃っていたと思うぞ。オクタゴンの扉に血液がぶちまけられていたから、恐らくそれに使ったんじゃないか?」
「そう…… ですかぁ………………」
「それから、もう一台の冷蔵庫に減ってるクロロホルムと凍らせても使える毒薬が置いてあったよ」
毒薬の説明をメモを読み上げて伝える。
すると大体の人物はドン引きして聞いていたが、罪木ちゃんだけはなにやら考え込んでいるようだった。
考え始めて俯く罪木ちゃんには目もくれず、七海さんが最後にドッキリハウスの秘密を告げる。
「最後に分かったのは、オクタゴンの下にマスカットハウスの3階があったってことだね」
「は、はあ!? どういうことだよそれ! ファイナルデットルームはストロベリーハウスの1階だろーが! なんでそれがマスカットハウスの3階に繋がるんだよ!」
「ど、どういうことじゃあ? エレベーターにでもなってたんかぁ?」
今まで信じてきたものの前提がいきなり崩れてしまうと冷静に考えられなくなってしまうものだ。
だけれど頭の中を一旦スッキリさせ、落ち着かせてからまた考えると案外簡単に答えは見えてくる。
「単純に考えてみなよ。ストロベリーハウスの1階の下にマスカットハウスの3階がある…… つまり、ドッキリハウスは横繋がりの建物じゃなくて、本当は6階建ての縦繋がりの建物だったってことだよ。だからタワーは同一のもので…… きっと床だけがエレベーターになってたんだね。片方ずつしか開かないのはエレベーターが移動しているからだと思う。私も、七海さんも日向クンもオクタゴンから外の景色を見たから確実だよ」
「1階にあるはずのオクタゴンから見た景色は、すごく高いところから見下ろす感じの景色だったんだよ…… わたしが推理を間違えちゃったみたい。ごめんね」
七海さんが謝る必要はないと思うけどなあ。
そう思ったのは私だけではなくて、混乱していた皆は落ち着きを取り戻し次々に 「謝らないで!」 と声をあげた。
本当に仲いいよねぇ。
「と、取り乱してしまい申し訳ありません。七海さんはお気になさらずにいてください。わたくしはその推理さえできませんでしたから……」
「幻想のものはその目で見なければ正体を掴むことができないだろう。推論とはそういうものだ。この俺様ならば世に満たされたマナにより感知することが可能だったろうがな…… ふはははは!」
「そうそ、千秋ちゃんが気負う必要なんてないって!」
ひとしきり声をかけたのか、皆の顔がほんわかとしたものになる。
だけれど、こんな空気をモノクマが許すはずがない。よくよく見ればモノクマは出刃包丁を手にしてモノミのいる檻の目の前でタマネギを切り刻み続けている。
それを見てモノミが泣いているがあれはタマネギによるものか、それとも自分がカレーにされるとでも思っているのか……
ともかく、ヤツが飽きてきているのは頂けないことだ。とっとと進めるより他はないだろう。
「じゃあ、オクタゴンの情報も出揃ったことだし…… 次に話す話題を決めようか」
そう提案するとまたもや皆はあーだこーだと議論をしだす。
殆どが話し合った内容。次になにを話せばいいのかが分からない。
そんな焦りを見せる面々は未だに〝 凶器 〟の話から抜け出せずにいた。
「ど、どうしましょう…… このままでは……」
「タイムアップとかもあり得るんだよね……」
「どーせモノクマ野郎の気まぐれだ。少しは制限時間の可能性も気にしたほうがいいだろーが焦りすぎてもいいことはなにもないだろ!」
まったくもって九頭龍クンの言う通りなんだよね。
「十神さんなら…… こういうとき、どうされたのでしょう……」
シュンとするソニアさんにそっと私は呟く。
「大丈夫だよ。皆で協力して考えていけば、きっと犯人にも辿り着けるはずだから。だから頑張ろう。そしたら皆で生き残ることができるよね。それを…… 十神クンなら望むんじゃないかなあ」
途中から独り言のようになった言葉を、聞き逃さずにこちらを見ていた人物がいた。
その1人の日向クンは思案顔。
もう1人…… 罪木ちゃんは青ざめたまま、目を見開いた。
そうして、唇をひき結んで俯いて、また顔を上げる。
…… その目には、もう迷いは見られなかった。
「わ、私の話を聞いてくださぁい!!」
― 議題長 出現 ―
決意したような彼女に、私はゆっくりとほくそ笑む。
「は、はあ? いきなり大声出してんじゃねーよゲロブタ! 耳が腐るだろうが!」
「ひうぅぅぅ! ごめんなさぁい!」
間髪入れずに飛んできた罵声に少々怯むが、目の力までは失っていない。決意はどうやら固いようだ。
「臆するな。されば道は開かれん……」
「あんまり脅してやるなよな。で、罪木。話ってなんだ?」
援護も入ったので話しやすくなったのか、罪木ちゃんは1度深呼吸してから息を整え、発言する。
「凶器が、分かったかもしれませぇん!」
覚悟を決めた彼女は協力を求める。
そうしてここから、本当の学級裁判が幕を開けた。
【 テンノコエ 】
議題長出現の文字は見えましたか?ハッキリクッキリと見えましたね?
ではここで〝 塗り替え偽証 〟とはまた違った新要素をご紹介いたします!
その名も、な、なんと〝 ロジカル検証 〟!
これは議題長がお一人以上立候補いたしますと始まるモードでございます。
この場合は罪木さんですね。
簡単に説明いたしますと、〝 ロジカル検証 〟とは議題長が共通の議題を掲げ、それを証明するために学級裁判に挑んでいるご学友様方の協力を得て筋道を立てて行くというものです。
ですが最初は議題長も混乱したり焦っていたりとしどろもどろ。なんと話の順序がしっちゃかめっちゃかです。
この順番を正し、さらにその証明に必要な情報を雑音セリフから見つけ出し、その台詞を発した人物を見事当ててご指名しなければなりません。
指名したあとはなにについて話してほしいかを選択し、その3つの選択がすべて合っていてクリアです。
流れとしては……
・ 議題に合うよう議題長の順序を正す
・ 議題長の台詞中出現する雑音台詞から証明に足る証言ができそうな人物を当て、指名
・ 議題長の話を証明できそうな証拠、証言の選択
の3つです。
と、言ってもこれは小説ですのでミニゲームはできません。
残念ですが、皆様はどうか頑張る凪様のお姿を見守って差し上げてくださいませ。
それではまた次回、お会いしましょう。
・タイトル
学級裁判 太陽編は楽曲名から。
・TNT
左右田クンなら知ってるかな? という偏見と信頼。
むしろ自身の知識不足があったので少しだけ修正。本当はC4なのですが、完結語ゆっくりと修正する所存です。