※タイトルを議論からダンガンロンパの曲名へと変更しました。
長い長い駆動音がようやく止まり、目の前の扉が自動で開いていく。
目に入ったのは、やって来た初めての裁判場。
思っていたよりもずっと広いその場所に足を踏み入れ、私はしっかりと前を見た。
迷いは、ない。
欲を言えば彼に演技指導してほしかったくらいだけれど…… 今はもう、それはできない。
円状に並べられている席には特に名前が書いてあるだとか、似顔絵が書いてあるだとかはなかった。
いつもゲームでは自分の席につけとかなんとか言っていたが、今回は自由席なのだろうか?
悪趣味にも両端が尖ったような線の描かれ方で十神クンの遺影に罰点印が押されている。そこはモノクマが席につく、裁判長席のすぐ近くだった。
戸惑いつつも日向クンがモノクマを真正面から捉えられる位置に行く。要するに時計で6時の位置だね。
ならば……と私はモノクマの丁度前に。つまり日向クンの真正面である12時の位置に立つ。
16人分の席があるので時計とは微妙に位置がズレるが、概ねそのくらいの位置と言っていいだろう。
そして私の左隣…… 1時の位置には十神クンの遺影があるため、罪木ちゃんは右隣の11時の位置に。
日向クンの隣にあたる5時と7時の位置にはそれぞれ左右田クンと七海さんが立った。
つまり、12時の私を支点として時計周りに十神クン、花村クン、終里さん、弐大クン、小泉さん、西園寺さん、左右田クン、6時に日向クン、七海さん、澪田さん、ソニアさん、田中クン、辺古山さん、九頭龍クン、そして…… 罪木ちゃんが席に着いたのだ。
「おい、その悪趣味なモンはなんだ?」
九頭龍クンが遺影を指して言う。
ああそうか、皆はこれを見るの初めてだから…… って私も初めてだけれど、それでもゲームでは普通に見てきたから違和感なんてなかった。ちゃっかり隣の席を確保しちゃったしね。
「見て分からない? 遺影だよ遺影。ほら、1人だけ仲間外れだと可哀想でしょ?」
「悪趣味すぎるぞ……」
悪意のこもったモノクマの気遣いに対し、反感を持つのは皆一緒だ。
うぷぷといつものように笑うモノクマを睨みつけたり、歯を食いしばって眉を顰めたり…… それぞれ反応は違うがそれは否定の意思に他ならない。
日向クンの言った通り、「悪趣味」 としか言いようがない思いやりだ。
「そのバツはどういう意味だよ?」
「皆の分の立て札もあるよ? ほらほら、これをその席に立てられないようにしようね? うぷぷぷぷぷ!」
明確な答えが返ってきたわけではない。
しかしモノクマが見せたいくつもの立て札と、その写真には真顔の皆が貼り付けられている。
いったいいつそんな写真を手に入れたのかとか色々と気になるところはあるが、十神クン以外の立て札に罰点印がなかったことで皆は無理矢理悟らされてしまった。
その罰点印は、その人物が〝 この世界で死んだ 〟ことを表しているのだ、と。
「本当、悪趣味……」
呟く。
モノクマの持った立て札には勿論私の分もある。
ああ、この裁判の後、あれにピンク色の罰点印がつけられるのか。人によって印のつけ方は違うので、私にはどんな風に印が付けられるだろう? と少しだけ疑問に思う。
確認することなど、できはしないけれど……
「さて、十神クン以外は席についたかな? それじゃあ学級裁判…… 開廷します!」
最後まで彼をそんな風に扱うのか。
そうか、そうか…… 許さないよ、絶対に。
「おっと! そんな怖い顔しないでよ。うぷぷぷぷ……」
ギリリと唇を噛んで耐える。
恐らくモノクマを睨んでしまっていただろう。
そんなの私らしくない。ここは飄々としていないと。
こんなことで動揺していたら、彼に笑われてしまう。
「では、最初に学級裁判の簡単な説明をしておきましょう」
うぷぷぷ、とひとしきり笑ったモノクマは早速と言った風に説明を始めた。
その言葉は淡々としていて、私にとっては何度も聞いた。皆にとっては初めての口上を述べていく。
「学級裁判では〝 誰が犯人か? 〟を議論し、その結果は、オマエラの投票により決定されます。正しいクロを指摘できればクロだけがおしおきですが、もし間違った人物をクロとした場合は…… クロ以外の全員がおしおきされ、生き残ったクロだけにこの島から出る権利が与えられます!」
前にも思ったけれど、やはり〝 権利 〟としか言わないんだね。
そんな都合のいい言葉に騙されてしまうのが人の心というものだけれど。
「みんな! まだまだアンパンだけじゃお腹空いてるだろうけど頑張って行こうね! 無事生き残った人には豪華な給食が待っているからね! な、な、なんと! ウサギカレーです!」
ウサギって美味しいんだっけ?
そもそもモノミは中綿しかないんじゃないかな。
「あちしはあんたなんかに負けまちぇんからカレーになんてならないんでちゅよ! 残念でちたね! 美味しいニンジンサラダをたっぷり振る舞うからね! 勿論ミナサンにでちゅ! 絶対絶対! そんな理不尽なルールはあちしが許しまちぇんから!」
「って、なんで捕まってるんだよ!?」
モノクマはモノミをカレーにするだなんて一言も言っていないし、さっきから気になっていたけれどモノミは鳥籠のような檻に捕まっているし、もうどこから突っ込んだらいいのか分からないよ。
「そ、そのこれは…… ! ニンジンがでちゅね……」
「釣られてんじゃねーよ! 非常事態なんだぞ!?」
「はいはい、遊んでないで始めるよ。あんたこそ非常事態なんだから落ち着きなさいって」
「左右田おにいが1番うるさいよねー!」
「っ!? ………………」
あ、左右田クンがまた撃沈してる。ショック過ぎて言葉が出てこないみたいだ。
原作でいうぎにゃぁぁぁ! の劇画風とも言えるものすごい顔で固まっている。
ちょっと、こっち見ても助けないからね? ていうかその顔でこっち見ないでよ。笑わせたいのかな?
でも笑ったら傷つくだろうし目を逸らす。ますます傷ついた表情をした気がしたがきっと気のせいだ。
どうせなら隣の日向クンに慰めてもらえばいいのに。
「えっと…… それじゃあまずなにから話そうか…… ?」
「まずは何について話し合うのか…… それを決めるところから始めてみましょうか。それでは皆さん! なにについて話したいか、それぞれ主張なさーい!」
そのやりとりに戸惑った様子の七海さんが言い、ソニアさんがそれを纏めて議題提供をする。
十神クンがいなくなってしまったからか、自分が頑張らねばと自身を奮起させているようだ。いつも通りには見えるが、少々強張っていて動きが固いような気がする。
さて、最初の議題は何を話すか…… だね。
― 議論 開始 ―
「唯吹は〝 みんなのアリバイ 〟を訊いてきたよ! この耳でしっかり記憶したからね!」
「話すのならば不明瞭な部分を話し合うのがいいだろうな。ならば〝 凶器 〟か……」
「ああ、だけどそれなら〝 死亡推定時刻も分かってない 〟んじゃなかったか?」
「現場は〝 タワーの中 〟で間違いない…… んですよねぇ?」
「えっと、そもそもの…… 〝 事件の概要 〟がまだよく分かってないんだけど…… ぼくは駆けつけただけだし、そこが分かっていないと話が噛み合わなくなっちゃうんじゃないかな」
澪田さんはアリバイについて。辺古山さんは凶器で九頭龍クンが死亡推定時刻について。そして罪木ちゃんが現場が間違いないことの確認を求めて、花村クンが事件の流れを知りたい…… っと。
最初に相応しい議題と言えば、花村クンの言っている事件の概要かな?
それが分かっていたほうが議論もしやすくなるだろうしね。
よし、『 私は花村クンの意見に賛成 』だよ!
「先にそれをはっきりさせたほうがいいと思う。日向クンはどう?」
発言して日向クンに同意を求める。
恐らく彼もそういう流れのほうがやりやすいはずだ。
「ああ、それは賛成だが…… 先に訂正だけさせてもらうぞ。九頭龍、死亡推定時刻はおおよそ分かっているぞ。それは皆のアリバイを確認していけばはっきりするはずだ」
「そうか。なら、事件の流れをはっきりさせてからそっちの話に移るのがいいみてーだな」
しっかりきっぱり論破までしちゃってるよ。
はあ、生『 それは違うぞ! 』はなかなか見れないなあ。今からそれが言われるのが楽しみだ。
勿論、十神クンに報いるために計画は完遂するし私は死ぬ。
けれどやはり裁判とおしおきは花形である。どうせ死ぬのなら楽しんで満足して死にたい。願わくば、日向クンにキチンとトドメを刺されたい。
自分から自白するだなんて面白くない。そう面白くないんだよ!
歪んでいるだなんて分かっている。自分が恐怖でおかしくなっているのも理解している。死ぬことを心待ちにしているだなんて頭おかしいと思うよ? でも止められない。止められないんだよ!
恐怖を麻痺させて、恐怖心を凍結させて、楽しみにだけ目を向けて…… 殺されることで繋いでいく。
残される側のことを考えていないわけではないが、その衝動は抑えられないんだ。
死にたくないのは勿論変わらないけれど、今は目的の為にそれが振り切っちゃって一周回ってしまった状態だ。
だから私には覚悟こそあれ、躊躇いなんて微塵もないんだよ。
「じゃあ最初は事件の流れについてだね?」
内心のことは少しも漏らさず、確認のため周囲を見る。
「事件の流れのう。なら第一発見者に訊くのが1番だろう? 第一発見者は誰だったか…」
弐大クンがそう言うと、真っ先に日向クンが反応して続ける。
「俺と七海と罪木だな」
「あ、待って…… 狛枝さんの話は聞かなくていいの?」
「先に発見したときの状況を知ってから…… のほうがいいかな」
花村クンの言葉に一瞬ドキリとしたが、すぐさま七海さんが意見を入れてくれた。
助かったよ、心の準備がまだだからもう少し待ってね。
「わ、分かったよ。じゃあそれも後だね」
さて、何言うか決めておかないと。
「ではお3人方、証言をお願いします!」
ソニアさんか合図して3人は顔を見合わせ、順番に話し始めた。
―証言 開始―
「と、言ってもこれといったことはなかったんだよ。朝の…… 6時半は過ぎてたから40分くらいだと思う。モノクマから7時に集まるように言われてたし、そのくらいに起きて外に出たら…… 罪木さんに会ったんだ」
七海さんが言う。あれ、同室の人は? と思ったがどうせ言及があるので今は見送ることにする。
「は、はい…… 早起きできたので先にお手洗いに行っておこうかと思いまして…… 同室の終里さんは気持ちよく寝ていましたから…… 遅刻してしまいそうなら後で起こしてあげようと思ってたんです……」
「ソニアさんは起きてたんだけどね、身支度が結構かかるみたいで後で合流することになってたんだ」
なるほど、確かにこんな状況でもいつも通りにするってとても大切だからね。
ソニアさんは髪も長いし大変そうだ。
「それで、マスカットタワーの前で会ったんだよな」
日向クンもどうやら早起きしていたみたいだ。
「そうそう。日向くんと会って、一旦タワーに誰かいないか確認しに行ったんだけど……」
七海さんの言葉が詰まる。
「そ、そこで…… 見つけてしまったんですね……」
ソニアさんが目を伏せて手をぎゅっと握る。
まあ、死体を発見したんですねとは言いたくないよね。
「それから罪木が叫んで、七海が皆を呼びに行こうとしたところに放送が鳴ったんだ」
なるほどなるほど。私たちのことは3人で見つけたんだね?
…… うーん、これで2人で見つけたとかならルール上推理難易度は大分下がったのだろうけど、3人で発見したとなるとルール的にもおかしなところはなくなるね。
最初の発見が2人で、3人目が合流したときに放送が鳴ったとかならば、私がシロでないという証拠になっちゃうからね。
死体発見アナウンスは3人のシロが死体を見つけたときに流すものだから、十神クンの死ぬ瞬間を見ただろう私が放送の人数に数えられていないのはおかしいということになるからね。
勿論、私はクロだから発見者の人数には入らない。
「発見時刻は6時50分だったよね? 40分くらいから行動してたならおかしなところはなさそうね……」
「そうだな……」
小泉さんが確認するように呟き、それを日向クンが肯定する。
そして彼の視線は話していた小泉さんからゆっくり私へと移された。
「私は日向クンたちに話した通り…… と言っても時間までは言ってなかったっけ?」
それを〝 証言 〟する合図だと受け取って話し始める。
「夜中の12時にタワーまで行ってたんだよ」
全て事実だから焦る必要はない。
「そこで十神クンと会って、護身用に持ってた鉄パイプも落として、あの場所で彼が刺されて、そして私も刺されちゃったわけだ」
ただ少し、言っていないことがあるだけだ。
「あ、あの…… 狛枝さんに同意しますぅ!」
ん?罪木ちゃんが同意してくるんだ。
かなり食い気味に来られてビックリしちゃったけれど、この肝心な証言を肯定してくれると助かるといえば助かるかな?
最終的には私を徹底的に追い詰めてくれないと困るからさ、最初の方は疑われない位置にいないとね。
ちゃんと順序良く、最初は疑われないようにしつつ、そして悪足掻きしながら最悪のクロとして退場するのが理想だ。
その方が罪悪感とか虚しさとかを少しでも抑えられるからね。
皆には後腐れなく、私を悪者として裁いてもらわないと。
「十神さんには12時にタワーに来るよう呼び出し状が出されていたんですよねぇ?」
「ああ、そうだな。狛枝が十神のポケットから見つけていたぞ」
「なら、狛枝さんもそうなんじゃないですかぁ?」
ほうほう、そこまでキミは私を信用してくれているのか……。
目を伏せ、頷く。
こういうの、きっと十神クン相手だったら見破られるんだろうなあ。
「そう、私も12時に行かなくちゃ行けなかったんだよね…… 勿論躊躇いはあったけどさ……」
どっちとも取れるように言うのは私の得意とするところだよ。
「んで? 結局犯人は誰なんだよ。あんまムズカシーこと言われても覚えらんねーって」
「まあそう言うな。お前さんは分かる部分だけ追っていけばいい。分からん部分がワシが教えてやるからな!」
終里さんがそろそろ退屈そうにしているが、弐大クンが頑張っているのでまだよしとしよう。
恐らく日向クンには彼女の力が必要になるだろうし、ね。
「それでは、先程日向さんがおっしゃられていた死亡推定時刻についてはどうなんでしょうか? 皆さんのアリバイで分かるようになるのですよね?」
ソニアさんが先程話題に出ていたことを再確認するように日向クンへ振る。後回しにしていたので、次の話題はすぐこちらに移ったようだ。
「ああ…… 皆殆どは部屋で寝てただろうしな。澪田、確認お願いできるか?」
「はいはいはーい! ちゃあんと全員に訊いて、この耳で記憶したよ!たっはー! 唯吹ったら高性能すぎて怖いくらいっすねー!」
「わー、耳以外に取り柄がないくせになんか言ってるよー?」
「が、ガビーン!」
口頭で直接ガビーンなんて言う人初めて見たってのもあるけれど、西園寺さんもなんだかんだ澪田さんの耳は優秀だって認めてるんだね。
貶しているようにも思えるけれど、つまりはそういうことだよね?
「まあ創ちゃんの言う通り殆どの人は自室にいたし、同室の人が目撃してるっす。寝てる間なんかはさすがに分かりようがないんだけどね!」
そんなやり取りをしたあとも落ち込む様子なく彼女は続けていく。
「あ、でもペコちゃんは夜時間になってから冬彦ちゃんのところに行ってて、冬彦ちゃんの同室の猫丸ちゃんは赤音ちゃんとストロベリーハウスの3階にある公園に行ってたみたいっす! 要するに唯吹も蜜柑ちゃんも部屋に1人だったってわけっすね!」
ほほう、らーぶらーぶかな?
いやあ、絆を深めるのはいいことなんじゃないかなあ…… なんて口に出したら空気読めてない上におっさんくさいか。
辺古山さんたちに限って不純異性交遊的なことはないだろうし、弐大クンたちは特訓していただけだろうしね。
「それと、第三者が目撃していないから私と坊ちゃんが本当に会っていたのかどうかも確認のしようがないと言っていいだろう」
あれ、そんな不利なこと言っちゃっていいの?
一応これは学級裁判だし、現実の法とはなんら関係ないから〝 親しい間柄による相互アリバイは不成立 〟だなんてことにはならないのにさ。
でも、まあそれを自己申告するなら弐大クンたちにも適用されないとおかしいよね。
「なら、終里さんと弐大クンが実際に会っていたかも証明はできない…… と」
「で、でもそれをアリバイに数えないなら…… 仲のいい人同士だと皆アリバイがないってことにならない?」
まあそういうことになるよね。
でもそれだとほとんどアリバイとして成立しなくなっちゃうから……
「わざわざ部屋を移動してまでってなるとそうなるかな…… ? だから、ずっと部屋にいたらしい小泉さんと西園寺さんペア、七海さんソニアさんペア、左右田クン日向クンペアはお互いにアリバイを証明できるとになるね」
ちょっと苦しいかな?
「逆に俺様や闇の料理人のような1人でいた者や部屋を移動していた者はアリバイがないと言いたいわけか」
この考えでいくとアリバイがないのは辺古山さん・九頭龍クン、罪木ちゃん、澪田さん、終里さん・弐大クン、田中クン、花村クン。そして、私と十神クンということになる。
「十神クンのことは夜時間前に目撃した人もいるよね?」
「ああ、俺が夜時間直前までは一緒にいた」
ふむ、日向クンか。
カケラ集めでもしてたのかな? 島に来た当初から一緒にいることが多かったし、まったく仲がよろしいことで。
「だったらやっぱり、十神クンが殺されたのは夜時間のとき…… さらに言えば私も時計を見て12時前に行ったからそのくらいの時間が死亡推定時刻ってことになるよね」
筋道立てて考えればそうなる。
そもそも私が証人となるので、私の証言を信じられない人向けの説明だ。
「ああ、そういやそうだったっけか…… アリバイ確認しなくても分かったんじゃねーか?」
「唯吹の活躍がっ!?」
「左右田さん、そういうことはあまり言ってはいけません」
「あ、そ、そうですよね。悪りぃ澪田」
「フゥゥゥゥ!許したげるから噛ませて!」
「っだー!やめろォォォォ!」
…… なんて思って見回しても、だーれも私を疑っていないんだよね。臆病な左右田クンでさえこれだ。まったくこのお人好し共め…… 普通の詐欺にも引っかかっちゃうんじゃないの? 私はそこが心配だよ。
「そっか…… 単純に犯人を絞り込むなら、やっぱりアリバイありきで考えた方がいいかもしれないね」
七海さんが結論づける。勿論、それを考慮しないとシロの範囲が狭すぎるからね。
グレーが多いと考えるのも大変だから、まずは誰ができたかを考えるのが1番だ。
「だけどよォ…… 残りの、〝 動機 〟は食糧だとしても、そもそも凶器はなんだよ? まだ分かってないんだよな?」
左右田クンが控えめに疑問を挙げる。
「…… そうだね。それじゃあ次はそれについて話そうか」
丁度いいので議題は最大の謎…… 凶器から行こうか。
― 議論 開始 ―
「凶器? んなのその辺に落ちてた〝鉄パイプ 〟だろ? 狛枝が落としたのを犯人は利用しやがったんだって。これで終わりだ終わり」
「ちげーよ! 狛枝自身がさっき〝 刺された 〟って言ってただろーが!」
「そうそう、〝 十神は刺殺 〟されたって結論は出てるんだよ、赤音ちゃん」
罪木ちゃんの検死結果を元に、私が小泉さんの言葉に同意しようとしたときだった。それが起こったのは。
ますます顔を青ざめさせた彼女が、私の予想外の行動に出たのだ。
日向クンも七海さんもすごく驚いただろう。なにせ、その〝 検死結果 〟を出したのは彼女自身だったから。
それを彼女自身が…… 罪木ちゃん本人が否定するようなことを言うだなんて、まるで予想外だ。
「それは違いますぅ! 十神さんの死因は…… 〝 毒殺 〟なんですよぉ!」
それは偽証。
検死の仕方は、彼女にしか分からない。
それを利用した、苦し紛れの偽証だった。
「どうして…… ?」
小さく呟いて彼女を見る。
彼女は間違いなく、私の方を見て、今にも泣きそうな顔でそう言っていた。
「もしかして……」
彼女は、気づいているのか? 私が、クロだということを。
血液凝固のことは彼女が1番よく知っている。ならば、〝 十神クンに拒絶反応が出て、私に出ない 〟血液型も当然分かっている。
彼女がクロを暴く近道にいることは分かっていた。
けれど、まさかこんな……
「つ、罪木…… ?」
どうして毒殺なんて……?
そんなの、可能性は一つしかない。
「と、十神さんは毒によって自殺した可能性もありますよぉ」
彼女は分かった上で私を庇っている。
馬鹿なことを、なんて言えない。
泣きそうだなんて…… 思ってない。
嬉しいだなんて、思ってないもの。
仲間が、罪木ちゃんが偽証してまで私を庇う?
ならば…… 私はさらに嘘を重ねてそれを論破してあげよう。
証拠なんてない。彼女自身が嘘をついているから検死結果を元に論破することはできないのだ。そう思い直したとでも言われて仕舞えばなにも言えなくなってしまうから……
だから私も嘘をつく。嘘に嘘を重ねても、なんら問題はないよね?
目には目を歯には歯を………… 嘘には嘘を。
『 その嘘、塗り潰させてもらおうか! 』
…… ごめんね。
でも、私はキミの優しさを踏みにじる。
さあ、決別だ。
【テンノコエ】
申し遅れました。今回初登場のシステム、〝 塗り替え偽証 〟をご覧になりましたか?
ご学友様が突然嘘をついてきて驚いたことでしょう。それもなんの証拠も示さず、無理くりに。
この小説ではご学友様の偽証に対し論破できる証拠がない場合や、あってもそれはクロとしての視点漏れとなり得る…… そんなときに〝 塗り替え偽証 〟の出番となります!
お相手が嘘で塗り固めているのならば、その上から更に都合の良い嘘で塗り替えてしまいましょう。そう、ペタペタとまるでイカのローラーを転がすように。
…… と言っても皆様には直接遊んで頂けませんので、あくまで学級裁判の雰囲気を楽しむためのフレーバーでしかありません。
答えを選ぶことによってジャンプするのはさすがに労力が足りませんでした。
読み返すときなども手間でしょうしね。
・ウィークポイント、同意ポイント、偽証ポイント
皆様お馴染み論破する際のウィークポイントなどをより学級裁判らしくするために実装させて頂きました。
如何でしょうか? 分かりづらい、見にくいなどのご意見ありましたら感想と一緒にお願いいたします。
黄色はさすがに見にくいとご意見頂いたのでオレンジにしてみました。いかがでしょうか?
皆様がより楽しく本小説を読み進められるよう、精一杯のの努力をさせていただきます。
・自己矛盾
死にたくないけどおしおきは受けなくちゃ(強迫観念)
痛いのも嫌い。でも夢だから大丈夫。
そんな矛盾がどこぞの塩と同じように自分の中でちゃんと成立している。
この子も大概頭おかしいと思う (こなみ)
今回は裁判の始まりに相応しい記念すべき100話目でした!
これからもよろしくね。 らーぶらーぶ!