宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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ガトランティスから見れば、地球防衛軍はそう見えますよね。


狂戦士再来

 

――ガトランティス帝国軍残存艦隊旗艦『ベラーザ』――

 

「何をやっているのだ‥‥!」

 

『ベラーザ』艦橋で、ガトランティス帝国支配相・ラーゼラーは苦り切った表情を浮かべていた。

 

先刻、艦隊の後方にワープアウトしてきた大型宇宙船の所属を確認し、退去させるために派遣したムターヂの部隊が、いきなりその船に攻撃を加え始めたのだ。しかもまるでなぶり殺しにするかのように。

 

(我々には、時間も物資も限られているというのがわからんのか!)

 

――新銀河征服計画は、狡猾かつ狂戦士化した地球軍の抵抗と、ズォーダー大帝が、あのテレサの自殺の道連れにされるという最悪な幕切れ、否、負け戦だった。

 

(狂人どもの相手はもう沢山だ!)

 

結果論でしかないが、あの銀河系の半分を支配下に納めているボラー連邦の方が大国同士、戦略・戦術が解りやすかったかも知れない。

これまでの戦訓では、国王等、強力な指導者がいない国は、軍を壊滅させれば呆気なく降伏した。

地球もまた、民主主義という軟弱な体制の国だから、容易く征服できると思っていたのだが、結果はかくも無残なものだった。

 

楽勝ムードの我々に警鐘を鳴らしたのはあのデスラー総統だったが、自分を含め、大帝以外の高官は敗者の弁解と侮り、真剣に取り合わなかった。

しかしどうだ。地球軍はあんな大量破壊兵器(波動砲)で艦隊ごと吹き飛ばす力業をしたかと思えば、地の利を活かして我が軍を罠に嵌める狡猾さを見せた。

そしてあの自殺志願者じみた突撃。

あんな狂気じみた連中だとは思わなかった。

 

彼らをああも凶悪にしたのは、間違いなくガミラスだろう。

デスラーが、あの星を移住先に選びなどしなければ――とも思うが、今さら怨み言を言ったとて大帝が生き還るわけではない。

だからこそさっさと地球を離れ、途中の征服地を経由して帝国領銀河(アンドロメダ銀河)に戻ろうとしているのに、放置しても何ら問題ない艦船を攻撃するなど、時間と兵装を徒に費すだけだ。

ましてやあの船は所属不明だ。あの船が所属する国が強力な軍事国家だったらどうするつもりだ?

 

「‥‥重ねて伝えろ!統率を乱すようなら、我が衝撃波砲の目標にするとな」

 

ラーゼラーは怒気を込めて幕僚に命じたが、幕僚が復唱する前に別の報告が飛び込んでくる。

 

「左後方に接近する機影!これは‥‥なっ!‥‥地球軍の艦載機です!!」

「バカな!よく確認しろ!」

 

地球軍の戦闘攻撃機接近を知らせてきたブリッジクルーに、幕僚は再確認を命じたが、それも無理はない。

かの軍は我が帝国軍との戦闘で戦力の過半を失ったという。こんな外宇宙に出てくる余裕などないはずだ。

しかし、ラーゼラーを始め、何割かは認識が異なっていた。

 

――地球人は常軌を逸しているところがある。我々の常識で推し量ってはいけない相手だ。

 

「艦載機なら、後方に母艦がいるはずだ。そいつを探せ!」

 

ラーゼラーはレーダーによる捜索範囲拡大を指示したが、ほどなく凶報が入ってきた。

 

「編隊に続いて接近する艦影6!中型戦闘艦4、補助艦船1。もう1隻は‥‥『ヤマト』!『ヤマト』ですっ!」

「‥‥!!?」

「バカな!『ヤマト』がこんなとこらに来るはずがない!」

「間違いありません、『ヤマト』です!」

 

メインスクリーンには接近してくる地球艦が映し出され、うち1隻は、紛れなき『ヤマト』だった。

 

「ムターヂに伝えろ。今すぐ艦隊に戻れとな。奴の手に負える連中ではない!」

 

ラーゼラーは部下に対する最後の説得を試みた。

 

凶悪極まる地球軍の中でも、『ヤマト』は最凶最悪の艦だ。親の威光で提督になったムターヂでは到底かなうまい。

 

「閣下、地球軍機がムターヂ隊への攻撃を始めました!」

「何!?」

 

スクリーンには、煙に包まれた大型船に砲撃を加えていた4隻の突撃艦(駆逐艦)が続けざまに被弾する様が映り、ブリッジでは無念や怒りの呻きが上がった。

 

――なぜ、『ヤマト』や地球艦がここにいる!?

首都要塞や『ガトランティス』との戦闘で大破したはずなのに、もう復旧したのか?

そして、どうしてこんな外宇宙にいるのだ?

 

地球軍は我が帝国との戦闘で大きな被害を出し、今は再建中のはずだ。

『ヤマト』が強力な戦闘艦であるのは認めるが、我々に対する追討にしては数が少なすぎる。

 

(――!)

 

そこで、ラーゼラーの脳裏に閃くものがあった。

 

この宙域は地球とガミラス、さらに地球に救いの手を差し伸べたというイスカンダルを結ぶラインにほど近く、過去に『ヤマト』はこのあたりを通っただろう。

‥‥イスカンダルに向かう途中なのか――?

 

しかし、ラーゼラーはそれ以上思いを馳せる事はできなかった。

 

「ああ!」

 

ブリッジクルーの叫びが上がる。

 

被弾炎上した突撃艦のうち1隻が大爆発を起こしたのだ。

 

地球艦の攻撃力は高い。大型艦もさりながら、中小型艦の射程もこちらの中小型艦のそれを凌いでいる。ムターヂの艦だけでは射程外から一方的に殴り斃されるだけなのは目に見えていた。

 

「ムターヂを呼び戻せ!奴らの射程内に捉えられたら逃れられんぞ!」

 

ラーゼラーはムターヂの艦に最後の復帰命令を出した。

 

奴らとやり合おうと思えばやれるだろうが、それではこちらも大損害を被り、最寄りの帝国領にすら辿り着けなくなる。

巨大な指導者であったズォーダー大帝が斃れた以上、後継者争いで帝国が分裂するのは間違いないが、衰亡させるわけにはいかない。このような所で戦力を大きく磨り減らすわけにはいかないのだ。

 

「ムターヂ提督が応じました!」

「‥‥そうか」

 

ブリッジクルーの報告どおり、ムターヂの艦がようやく艦首を回し始めた。

奴にはいい教訓になっただろう。

 

今回は“極めて厳重な”注意で赦してやるかと考えたラーゼラーが画面を見やる中、

 

「『ヤマト』発砲!」

 

ブリッジクルーの声に続き、画面の中のムターヂ艦は側面を撃ち抜かれ、艦体が両断して果てた。

 

「‥‥あの距離から、いきなり直撃させるとは‥‥」

「‥‥‥‥」

 

『ヤマト』は、初弾でムターヂの艦を葬ってみせた。

 

「‥‥艦首を奴らに向けよ。奴らがこれ以上向かってくるなら応戦する」

「はっ!」

 

地球艦が何の目的でここに来たのかはわからない。

あの船を救助するだけなら構わないが、我々を追討するのなら、こちらにも覚悟がある!


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