宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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兆し

 ――次元航行艦『タイタンⅣ』艦橋――

 

突然、非常警報音が鳴り響く。

コンソールを操作したオペレーターが緊迫した声を上げた。

 

「本局より緊急通報!本艦前方、座標HS-266-Brで次元震感知!震度AAA!! 約2分後、本艦に到達します」

「何!?」

 

AAAはかなり強いレベルの次元震だ。XV級航行艦も損傷し得るレベルだから、商船では乗客が死傷しかねない規模の次元震だ。

ゆえに艦長の判断は早い。

 

「通常空間に一時転移してやり過ごす。座標算出急げ!」

「はい!」

 

――『タイタンⅣ』は次元震の直撃を受ける事なく通常空間に転移できたが、次元震に続いて次元乱流の発生が確認されたため、6時間を経過しても通常空間に留まったままだ。

 

フェイト達執務官チームは居室で待機していたが、艦長のホーミー一佐は転移直後に続いてフェイトを呼び出した。

フェイトは現状を聞くや、長期戦になる可能性を考えて質問する。

 

「本艦の食料等のストックは大丈夫でしょうか?」

「それは問題ない。4ヶ月分のストックがある」

「そうですか‥‥」

 

次元航行艦は最低でも3ヶ月は無補給で行動できるだけの物資を搭載し、水はストック+バイオリサイクルで供給されるので、当面のあてはある。

 

しかし、最大の問題はそれではない。

 

「‥‥艦長、周辺監視は厳重に行って下さい。いつまたエネミーA(ガトランティス)のような勢力と遭遇するかわかりません」

 

フェイトの話を聞いたブリッジクルーは、一様に緊張した表情になる。

 

「‥‥確かに彼らは脅威だが、遭遇する危険はあるのか?」

「少なくとも、ゼロではありません」

 

通常空間において、管理局の艦船を寄せ付けないほど強武装の戦闘艦を有する軍事勢力、あるいは未確認の世界は3つ存在する。

 

自然世界『ワクラ』を消滅させ、管理局の艦船や貨物船を血祭りに挙げた敵対勢力・エネミーA(ガトランティス)と、その1個艦隊を単艦で撃滅してのけた戦闘艦『ヤマト』=アンノウンB(地球)、やはりエネミーAの艦隊を撃破した艦隊=アンノウンC(デザリアム) 。

 

「残念ながら、今の管理局の航行艦では、同数の彼らと武力衝突した場合は到底かないません。アンノウンBとCも、管理局に対しどのような態度を取るのか全くわからない状態です‥‥」

 

心底申し訳なさそうに言うフェイトに、ホーミー艦長は顔を見合わせる。

 

「常に最悪を考えておくというのは正解だな。万一遭遇した場合は、次元空間に待避するしかないか」

「おっしゃるとおりです。こちらの全速力をも上回る速度で接近してくる船影がある場合は、即座に空間転移するのが最善であると私は考えます」

 

船長の質問に、フェイトは頷いた。

その意味では、次元空間に待避できない今は最悪だ。

 

「‥‥わかった。忠告に感謝する、ハラオウン執務官」

「いえ。何かありましたら、またお呼び下さい」

 

艦長達との協議を終えたフェイトは自室に戻り、補佐官のシャリオ・フィニーノとティアナ・ランスターに子細を話すと、2人とも緊張した面持ちになる。

 

「次元乱流が鎮まるのを待つしかない、ですか‥‥」

「あくまで万が一だけど、ね」

 

その“万が一”がレアケースではなくなりつつあるのではないか、という嫌な胸騒ぎを禁じ得ないフェイトだった。

 

 


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