宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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顔見せです。


実験

 

 

 

  ――天の川銀河内、某宙域――

 

 

無人惑星を望む宇宙空間に、数十隻の艦船が遊弋している。

そのフォルムは全体的に丸みを帯びたずんぐり型だ。

その中でも一際大型の艦のブリッジの中央に男が立ち、少し緊張した面持ちで斜め頭上のスクリーンを見ていた。

 

『バルコム提督、お待たせ致しました。首相閣下との回線を開きます』

 

画面が切り替わり、いかにも尊大げな壮年の肥満した男が映し出された。

最敬礼するバルコムに、男は頷いて応え、口を開いた。

 

『‥‥“あれ”の準備は万全かね?提督』

「はっ、全て完了しております。首相閣下」

『よろしい。早速見せて貰おうかね』

「ははっ!」

 

“首相”に敬礼したバルコムは幕僚に向き直った。

 

「プロトンミサイル、発射用意!」

「はっ、プロトンミサイル、発射用意っ!!」

 

バルコムの命令は直ちに参謀長を通じて伝えられる。

既に準備は整っていたか、すぐに返答が来た。

 

「プロトンミサイル、発射準備完了しました!」

「よしっ‥‥発射!!」

 

バルコムは頷くや、発射命令を下した。

 

艦隊の前衛にいた大型艦の艦腹に装備されていた、これも大型のミサイルが数本、前方の惑星に向けて発射された。

 

ミサイルは全弾が惑星に命中。数瞬の後、惑星は灼熱の光球と化したかと思うと爆散した。

 

『うむ、見事だったぞ、バルコム君』

「いえ、これも首相閣下のご指導の賜物であります!」

 

首相は満足げな表情だ。バルコムは内心で胸を撫で下ろした。

 

『いや、君たちはよくやってくれた。

‥‥帰還に合わせて祝いの品を用意させておこう。兵士達を労ってくれたまえ』

 

首相はかなり上機嫌のまま通信を切った。

 

画面が消えたのを確認して、バルコムは額の汗を拭う。

 

首相は一度不機嫌になると何をするかわからない。

激怒しようものなら、怒りが解けるまでに最低10人は“病気のため休養”を命じられ、そして二度と戻ってこない。

 

バルコムに限らず、軍の高官ならば同僚や上官が粛清されていくのを間近で見ているから、いつ自分がそういう目に遭うか戦々恐々なのだ。

それでも軍が首相についていくのは指導力があるから。

 

彼――ベムラーゼ――が首相に就いてから、我がボラー連邦の版図は従来に増して早いペースで広がっている。

 

この銀河(天の川銀河)の中心を越え、バース星をも保護領にし、さらに、アマール・ベルデル・フリーデといった中小規模の星間国家群の存在も掴んでおり、これらの国家に対する示威・宣憮活動計画も間もなく着手するという。

 

我が国がこの銀河全域を統一するのも現実のものになるだろう。

 

ボラー連邦軍主流派の将校達は、その時はそう信じていた――。






①ちょうど80年前(1936年・昭和11年)の2月は、日本にとって様々な『兆し』がありました。

20日 ミスタープロ野球・長嶋茂雄氏誕生

26日 2・26事件発生

29日 デゴイチことD51形蒸気機関車の初号機(1号機ではなく14号機)が完成。

②物語は、ぼつぼつリリカル世界と交わります。



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