――土方との通信を終えた10分後には、各艦とも全乗組員が配置についた。
嶋津は隊内一斉通信で話し始める。
「諸君。急な話だが、我が隊は、急遽大マゼラン銀河方面への遠征任務につくことになった。
‥‥これはガミラスのデスラー総統よりもたらされた情報だが、ガミラス星の地下物質を盗掘した連中とデスラー率いるガミラス艦隊が戦闘している最中、ガミラス本星が爆発・消滅した。
その結果、二連星の片割れであるイスカンダル星は本来の軌道を外れ、既にサンザー星系を離脱して暴走し始めた」
「‥‥皆も知ってのとおり、イスカンダル星・ガミラス星ともに、星としての寿命は尽きかけかけており、星自体がいつ崩壊するか予断を許さない状況だ。
このまま暴走を続ければ、イスカンダル星の崩壊はそれだけ早まると考えて良いだろう。
今さら言うまでもないが、イスカンダルのスターシャ女王は、地球に生きるもの全ての恩人であり、大切な友人だ。
また、スターシャ女王の夫である古代守は同胞であり大切な戦友だ。
‥‥『アンドロメダ』の完成披露式にて、連邦大統領は、
『地球は宇宙の平和を守るリーダーである』
とおっしゃった。
しかし、目の前で命の危険に曝されている恩人と友人を見捨てるようでは、平和を守るリーダーを名乗る資格はない。
故に、我々はイスカンダルを救援し、必要とあらばスターシャ女王と古代 守を地球に連れ帰る」
嶋津はここでひと呼吸置き、改めて口を開く。
「――なお、予め申し渡しておくが、この任務中、ガミラス軍とは同じ目的の元に舳先並べて共闘しても、敵として刃を向けることはない。
ガミラスとデスラー総統に対しては、これまでの宿縁から、赦せないと思う者が多いだろう」
話す冴子の脳裏にも、遊星爆弾で命を落とした年老いた養父母や高町家の人達ら海鳴の人達、先に逝ってしまった上官や戦友たちの顔が次々と浮かんでくる。
「しかし、今回の任務はイスカンダルの救援であることを忘れるな。
ガミラスは、イスカンダルを決して侵略せず、対等の隣人であり続けた。
彼らもまた、イスカンダル救援については、我々と変わるものではないはずだ。
だからこそ敢えて言う。
ガミラスを許せとは言わないが、恨みや憎しみを表に出してはならない。
ガミラス人もまた、祖国を焼野原にし、同胞を沢山殺した『ヤマト』や我々地球人を憎み恨んでいて当然なんだ。
しかし、今回の任務は、そんな負の感情を表に出していては間違いなく失敗する。
辛いかも知れないが、イスカンダルを救うためと割り切ってくれ。
我々の任務はガミラスと戦う事ではない。古代守とスターシャを救う事だ。
それを肝に銘じて任務にあたり、2人を救おう。
‥‥少し長くなってしまったが、以上だ」
――今更ガミラスを憎んだとて、失ったものが還るわけではない。
それよりも、今幼い子供達や、これから生まれて来る子供らには、我々が引きずる、この負の鎖を受け継がせてはならない。それこそが、先に逝った者たちへの手向けだろう――。
通信回線は艦単位に切り替わり、今度は副長の大村がマイクを取る。
「副長の大村だ。これより我が隊と『ヤマト』は火星第2基地で整備と補給を受け、地球から派遣されてくる補給艦『オシマ』と合流次第、イスカンダルに向けて出発する。
この航海は訓練ではなく実戦任務だ。ガトランティス残党軍との交戦もあり得る。
従って、体調が特に悪い者は下艦を命じる。
また、精神的に、遠征に耐える自信がない者も申し出ろ。
己の状態を客観的に把握するのも宇宙戦士の能力だ。
無理をした挙句に潰れ、仲間に迷惑をかけることは絶対に許さないが、事前に申し出て下艦した者を殊更低く評価するようなことはしない。
下艦を希望する者は、後で通知する、火星第2基地出発時刻の60分前までに艦長か俺に申告し、下艦後は火星第2基地司令並びに内惑星艦隊司令部の指示に従え。
これより各部署のリーダーが全員の顔色を見て回るが、診察を命じられた者は直ちに受診しろ。
その結果、下艦を命じられた者も火星第2基地司令か内惑星艦隊司令部の指示を待て。
下艦命令に対する反問は一切受け付けない」
他の艦でも同様の通知放送がなされ、3艦は艦首を転じて火星に針路をとった。