宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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始動

  

 

  ――天の川銀河・グリーゼ581星系辺境部――

 

年老いた星を中心とした恒星系の辺境部に、約200隻の艦船群が集結しつつあった。

 

艦体色を緑色にした艦の中にあって、1隻のみが赤いカラーリングをしていた。

その赤い艦船の後方上部にある艦橋に10人ばかりの男女が勢揃いしていた。

彼・彼女達は緊張した面持ちである一点を見ている。

その視線の先には、他の者とは異なる出で立ちの男が1人。

 

彼の傍らに控えていた壮年の男が彼に一礼して歩み出た。

 

「将兵諸君。只今よりデスラー総統よりお言葉をいただく」

 

男――大ガミラス帝国総統・デスラー――は軽く頷くと一歩前に出、口を開く。

 

「我が忠勇なる将兵諸君。我々がガミラス大帝星を離れてより1年余りを経過した」

 

その声には些かの疲れも淀みもない。

 

「しかし、我々は決して徒に宇宙をさすらっていたわけではない。

大ガミラス帝国の再建とガミラス民族の復興。この2つの宿願を果たすためである。

‥‥諸君、この宇宙は広大である。我々の新国家を築くに足る惑星は必ず発見されるであろう!

故に、十分な戦力を増強し、来るべき時に備えなければならない。

揺るぎなき本星を築き、偉大なる我がガミラス帝国を、この大宇宙の盟主とするのだ!!」

 

力強く国家再興を宣言したデスラーは、ここでひと呼吸置いて再び口を開く。

 

「これより我が母なるガミラス星に立ち寄り、別れを告げた後、新天地への大航海を始める。

将兵諸君のこれまでの労苦に感謝するとともに、今一層の忠誠を期待する」

 

各艦の兵士が沸いた。

 

『万歳!』

『デスラー総統万歳!』

 

デスラーが兵士達の歓呼に応えて右手を上げると、歓声はピタリと止む。

 

デスラーは改めて口を開く。

 

「全艦、ガミラス星に進路を取れ!」

 

ガミラス艦隊と、後方に続く巨大な宇宙船群――コールドスリープ状態にしたガミラス国民達を乗せた超長距離移民船や工厰艦、補給艦等の支援艦船群――は、老いたガミラス星がある大マゼラン銀河・サンザー恒星系に舳先を向けた。

 

――彼らはさらに各星系からの艦隊や船団を糾合し、さらに数を増やしていった。

 

 

 

 

   ―― 新横須賀基地・中型艦船ドック ――

 

 

艦を大村に任せた嶋津は一人、英雄の丘に足を運んだ。

 

中央に立つ高い石碑を囲むように並ぶ御影石にはガミラス戦に加え、ガトランティス帝国との戦争で命を落とした者達の氏名が新たに刻み込まれた。

 

その石碑の隣には、祈る女性のブロンズ像が立っているが、これは、イスカンダルから地球へ命懸けで波動エンジン等の超技術を伝えたサーシャ・イスカンダルを顕彰したものだが、像の基部には新たにテレサの名が刻み加えられた。

 

さらに別の一角には、地球防衛軍と戦い斃れていったガミラス帝国軍兵士と、ガミラス本星決戦で命を落とした住民達の慰霊塔も建立されているが、近々ガトランティス帝国の戦没者も合祀される予定だ。

 

「‥‥‥‥」

 

ロクでなしどもが売り付けてきたクソッタレな戦争のせいで、またも膨大な命が失われた。

 

ズォーダーらガトランティス帝国の指導層にも、彼らなりの正義があるのだろうが、自国民に甚大な犠牲を出した挙げ句、自分達まで斃れたのは最早自業自得というしかなく、ロクでなし共という評価しかない。

 

言っては何だが、『ヤマト』への怨恨を昇華させて国家再興へシフトしたガミラスのデスラーの方が、国を統べる者としては数段上だろう。

 

とはいえ、いくら慨嘆したところで彼/彼女たちは還ってこない。

 

宇宙の平和なくして地球の平和も成立しないことは、今回の一件ではからずも証明された。

 

再建にはかなりの期間を要するだろうが、どんなに厳しい前途が待っていようと、必ず地球防衛軍を、地球のみならず宇宙の平和の護り手に足るようにする。

それが戦い倒れた者に対する手向けだろう。

 

 

3つの碑にそれぞれ花を供え、敬礼してから踵を返してその場を離れる。

戦士の墓前に長居は無用。それが嶋津の主義だ。

 

――内惑星防衛艦隊司令部に顔を出してから、地下ドックの『ヤマト』に足を運んだ。

 

今回『ヤマト』は一時的だがTF13に編入される。

嶋津は曲がりなりにもTF13の司令官代理だ。指揮下の艦の状態を把握するのも指揮官の義務である。

 

古代、雪と戦死した徳川以外の第1艦橋メンバーは今日退院で、機関室を守っているのは、新機関長の山崎奨のはずだ。

 

「これは嶋津艦長、わざわざ済みません」

 

嶋津に気付くや、山崎は作業の手を休めて挨拶してくる。

 

「いえ。お忙しい所に来てしまったようで、こちらこそ申し訳ないです」

 

部隊司令官代理に気づいた他の機関員が敬礼しようとするが、嶋津は手ぶりで制し、作業を続けるよう促した。

艦内通信装置の前に立つ。

 

「ここで、徳川さんが‥‥?」

「はい」

 

まさにここで、山崎は徳川を看取ったという。

彼らが最期まで持ち場を守り通した結果、『ヤマト』は息絶えずに地球に戻れたのだ。

 

沖田が指揮していた艦には大抵徳川も乗り組んでいたもので、嶋津や古代守も新任士官だった頃に知己を得ており、沖田や土方とはまた違う親しみを持っていた。

まあ、やんちゃが過ぎてしこたま絞られた事もあるのだが――。

 

「‥‥‥‥」

 

凡そ40年にわたり、機関一筋に生きた宇宙戦士に敬意を表し、しばし瞑目した。

 

山崎や生き残った機関員たちが中心になって復旧にとりかかったかいあって、『ヤマト』は息を吹き返した。

 

「そう言えば、徳川さんの次男坊が今度乗り組みになりますね?」

「ええ。親父から受けた教えをバッチリ叩き込んでやりますよ(笑)」

「お願いします。‥‥あ、これは古代が言う事でしたね」

 

長居して『ヤマト』のクルーに気を遣わせるのも何なので、艦内を歩き回ることはせず退散することにした。

 

地上の『テシオ』や僚艦の周囲には、物資を積み込むトラックやトレーラ、タンクローリが行き来している。

 

嶋津は改めて乗艦を見遣る。

 

ボロボロだった外部装甲板は新品に交換され、近接防御火器たるパルスレーザーが増設された。

 

レーダーシステムや主砲等一部の装備品は、改良形の新品に交換された。

『テシオ』の舷門に近づくと、目の前にミニバンが停まる。

 

「よう!」

 

車から降りてきたのは古代や真田ら、『ヤマト』第1艦橋の連中だった。

 

そういえば、TF13各艦の幹部乗組員による打ち合わせが予定されていたが、午後いちからのはずだ。

 

「早いな、ちゃんと退院できたんだな♪」

「お前同様、死神にも振られたんでな♪」

 

はっはっはと、真田と人の悪い笑顔を向け合った。

古代たちは冷汗まじりの苦笑を浮かべている。

 

当人同士は挨拶以外の何物でもないのだが、眉が極端に薄く三白眼の真田と、海賊面になった冴子では、どう見ても悪人同士の会話にしか見えず、堅気の人が目にしたらドン引きすること請け合いだ。

 

ほどなく他の3艦の艦長も合流。会議は『テシオ』艦内食堂で早めの昼食をとりつつ行うことにした。

 

――会議中、内惑星艦隊司令部から人事通達が入ったが、それは『ヤマト』飛行隊長に山本明が就任したというもので、これには古代ら『ヤマト』クルーも喜びの声を上げた。

 

――山本は都市要塞戦で愛機を失ったものの、軽傷で救出されており、戦死した加藤三郎に代わって『ヤマト』戦闘機隊の指揮を執ることになった。

 

これにより、新編される『ヤマト』戦闘機隊は山本に委せられるから、古代は『ヤマト』全体の指揮に専念できる。

もっとも、相当部分が予想外の事態で変更を余儀なくされた事は、周知の事実なのだが――。


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