「『テシオ』の事は順次お前に委任していくからな」
「‥‥わかりました」
土方総司令の呼び出しから戻ってきた艦長・嶋津冴子から開口二番で言われたのが、新たな乗艦『テシオ』の権限委任。
大村耕作は一瞬呼吸を忘れたが、すぐに気を取り直して承諾した。
艦長から一番で聞かされたのは、独立第13戦隊なる新部隊が新たに設けられる事と、艦長自身が司令官代行として部隊を直率する事だった。
新部隊は哨戒巡洋艦2隻と戦闘巡洋艦2隻、計4隻で編成される。
戦力規模からして、本来なら准将以上が指揮権限を持つのだが、ガミラス、ガトランティス両帝国との戦争で数多の人材を失った地球防衛軍の台所事情は形式に拘っていられないのだ。
かくいう自分も、商船学校出にも関わらず26で少佐だ。
護衛艦の艦長になって資源輸送に携わると思っていたら、何と巡洋艦の副長に任命された。
これもガトランティスの影響なのだろうと思っていたら、艦長は、いずれはお前が艦を仕切れとのたまった。
えー!?と思ったが、艦長は部隊長兼任だ。部隊全体を見なければならない。
艦長の目が行き届かないところは副長たる自分が見なければ、この部隊は機能不全になる。
(やるしかないか‥‥)
覚悟を固めた大村を知ってか知らずか、嶋津は言葉を接ぐ。
「‥‥で、TF13の初任務はヤマトに乗り込んでくるヒヨッコ達の訓練だ。
オヤジ(土方)曰く、通常3ヶ月を要する訓練課程をふた月以内に了えろ、だ。すぐ準備にかかるぞ」
話し終えた嶋津は、タブレットを操作して麾下の艦長達にデータを流す。
「『ヤマト』はもう復帰するのですか?」
大村は少なからず驚いた。防御が硬い『ヤマト』が生き延びたのはともかく、こうも早く復帰するとは予想していなかった。
「同型艦があるからな」
「同型艦って‥‥まさか、紀伊半島沖で建造されていたと噂になっていたフネですか?」
「ああ。紀伊半島で潰えた旧大和級3番艦『信濃』の残骸を隠れ蓑にした地球脱出艦さ。
ヤマトに集中しようという方針で建造は中断されていたんだが、コスモクリーナーを動かす前に資材のほとんどを佐世保と舞鶴に移したんだ」
「その資材をヤマトに移植するわけですか」
「ご名答」
大村も合点がいった。ならばヤマトの修復も早かろう。
「各艦の艦長と副長に集合かけた。1時間後にミーティングだ。急ぐぞ!」
「はい!」
肩で風切る嶋津に続き、大村も足を速める。
――大村耕作45年の生涯で、最も多忙な日々が幕を開けた。
年明けから波乱含みの○○2676年が無事に暮れる事を真剣に祈っています。