宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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始末

 

『ヤマト』脱走事件の査問委員会は、地球連邦大統領まで出席してという異例の形で行われた。

連邦大統領は地球防衛軍の最高指揮権者であるが、一戦艦の乗組員が引き起こした事件の裁定に大統領自らが関与するのは異例だ。

 

それだけ『ヤマト』の脱走はデリケートな問題だったからだ。

 

召喚されたのは『ヤマト』から古代 進・森 雪と、戦闘機隊副隊長だった山本 明の3名。

追跡した地球艦隊側からは連合艦隊司令長官の土方 竜と『テシオ』艦長の嶋津冴子らが出席した。

 

午前中に1人ずつ聴聞を実施。その後委員会で審議が行われ、夕方には裁定が出た。

 

①『ヤマト』戦術長兼艦長代理の古代 進(少佐)は、厳重注意と2年間俸給を20%カットする。

②同技術寵の真田 志郎(中佐)は厳重注意と2年間俸給20%カット。

③航海長・島 大介(少佐)、砲術長・南部康夫、副航海長・太田健二郎(大尉)、船務長・森 雪(少佐)、戦闘機隊副隊長・山本 明(中尉)は厳重注意と1年間俸給10%カット。

アナライザーは厳重注意とする。

その他の生存者は厳重注意とする。

戦死者は全員2階級特進とし、特進階級で遺族年金を支給する。

 

空間騎兵隊員で生還した桂雄一郎少尉と中岡剛平軍曹は各1階級昇進。

 

連合艦隊司令長官・土方 竜(大将)は厳重注意及び3年間俸給20%カットとする。

 

『テシオ』艦長・嶋津冴子(大佐)は戒告及び1年間俸給5%カットとする。

 

なお、カットされた俸給は戦没者遺児・戦争孤児育英事業基金に寄付する。

 

また、参謀総長芹沢虎鉄は、自らの浅慮が原因でこのような事態を招いた、と進退伺を提出したが、大統領と藤堂幕僚長が強く慰留したため続投が決まった。

但し、本人の強い希望もあって、厳重注意と委員手当全額+俸給20%を育英基金に寄付することとなった。

 

因みに、山本 明は乗機が被弾した後消火に成功したが、行動不能になり乗機ごと漂流していたところを駆逐艦『ロジャース』に救出されていた。

また、空間騎兵隊の2名はデスラー艦での白兵戦で重傷を負ったため、都市要塞への突入隊員から外され、生還していた。

 

「大人の事情」

 

裁定結果を聞いた嶋津は一言だけ呟いた。

 

現実問題として、『ヤマト』脱走の引き金となった防衛会議メンバーの度が過ぎた楽観ぶりと問題意識の希薄さはマスコミや市民から指弾されており、『ヤマト』乗組員を処断すれば返り血を多く浴びるのと、軍内部から寛大な処分を求める嘆願書が多く提出されていたことが決め手になった。

ぶっちゃけた話、『ヤマト』クルーを処断するよりも、軍の再建に協力させた方がメリット大であるからだろう。

 

 

「これ以上無能無責任ぶりを晒したくないからさ」

 

防衛会議のメンバーを皮肉る声があちこちから上がったが、政府側委員はその後全員が交代を余儀なくされ、軍側委員も一部が交代し、留任メンバーも司令長官以下の全員が委員手当を全て戦没遺児育英基金に寄付するのに加え、俸給一部返上等の処分を自らに課した――。

 

 

 

 

      ――新横須賀基地――

 

旗艦『アンドロメダ』がようやく修復のメドがついたばかりの上、それ以前の旗艦だった『越後』も本格的な修復を要するため、連合艦隊司令部は地上に置かざるを得なかった。

 

土方 竜は、防衛会議を無視した上、数多の戦死・殉職者を出した責任をとって藤堂幕僚長に進退伺を提出。自らに対する査問委員会と軍法会議の開催を要請したが、藤堂がそれを却下した。

 

『君の指揮で敵主力艦隊は撃滅され、その後の反攻戦でも敵の迎撃を破ったのに加え、都市要塞をも破壊した。戦術的には明らかに勝利した。

それに、敵の超巨大戦艦に対し、『テシオ』以外にも波動砲戦を挑もうとした艦が複数いた。

結果はああいうことになったが、テレサが現れなくても敵の超巨大戦艦を撃破できていた可能性がある』

 

藤堂から、『テシオ』以外にも敵超巨大戦艦に波動砲戦を挑む艦があったと知らされた。

『リュッツォー』『マイアミ』といった巡洋艦群が、やはり独自に波動砲口を向けていたというのだ。

 

『君には艦隊の再建と整備を進めてもらいたい。そのための支援は惜しまない。これは実際に戦った者でないと無理なのだ』

 

――ここまで言われては辞めるに辞められない。

艦隊が真に再建されるまで休みはないか――。

 

 

急ごしらえの執務室で土方は取り敢えずの策を練る。

 

まずは生き残った艦の修理と復帰だ。

 

全損判定された艦は別として、大破以下の艦は可能な限り復旧して再就役させる。

これには『ヤマト』『テシオ』も含まれる。

特に『ヤマト』の復活は市民にも安心感を与えるだろう。

 

 

そして建造中の艦だ。

無事竣工した艦や竣工間近い艦はそのまま就役させるとして、建造中に被災した艦は状態によって建造続行・凍結・廃棄のいずれかにしなければならない。

 

 

2番艦を失ったアンドロメダ級は、3番艦『ネメシス』が予定通り2202年前半に竣工・就役するが、4番艦『ジュピター』と6番艦はドックごと被災し大破した。

 

このため、資材を『アンドロメダ』の修復と、5番艦『マルス』建造に充当するが、『マルス』は、アンドロメダ級開発時に挙がっていた設計B案に基づく15万t超級戦艦『仮称・超アンドロメダ級戦艦』として竣工させる。

 

また、建造開始間もない7番艦『オリオン』と8番艦『ペルセウス』は戦闘空母に艦種変更し、未着工で資材も集まらずにいる9番艦『アルテミス』と10番艦『プレアデス』は改アンドロメダ級と位置付け、再設計がまとまるまで着工を見送る――。

 

そして、これから着工する艦は今回の戦訓を取り入れなければならない。

 

「この際無人艦もやむなしか‥‥」

 

そしてもう一つの腹案。

連邦各州に現行艦群の設計を公開して次期主力艦のコンペを実施する。

 

ガミラス戦役時、日本のみならず、アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、中国もそれぞれ地球脱出艦を建造していたが、ガミラス軍の妨害攻撃や資材・人員の枯渇等で、日本の『ヤマト』以外は失敗に終わった。

 

それらの船体や設計を発展させた艦を、ある程度の自由度を与えて建造させるのだ。

 

――この構想は遠洋形戦艦『アリゾナ』『ビスマルク』『プリンス・オブ・ウェールズ』等として、2202年後半以降に実体化する。

 

さらに、鹵獲したガトランティス軍艦艇も、状態が良く改造可能なものは地球式の艤装を施して再就役させる。

敵国の艦艇だから嫌などと言っている場合ではない。

技術サイド曰く、白色彗星帝国の艦は長距離侵攻作戦に使用されるので、居住性は多くの地球艦より良好だと言う。

敵の技術でも良いものは盗み取るべしだ。

 

無論、『ヤマト』との白兵戦で大破放棄された新デスラー艦も詳しく調査する。

瞬間物質移送装置は破壊されていたが、デスラー砲はほぼ無傷で回収できた。

 

デスラー砲の高い集束率=貫通力の高さは地球のそれを上回る。

拡散波動砲一本では通用しないことが解った以上、『ヤマト』同様の集束波動砲を搭載した戦艦の増備は必須だ。

 

ただ、これらの計画には多額の予算が必要になる。地球は未だガミラス戦からの復興途上だ。軍だけに予算が集中する事は許されない。

それに人材の確保と育成もやり直しだ。

人材不足に悩むのは民間も同じ事。一層の無人化省力化は避けられまい。

 

土方はここで傍らの湯呑みを口にしたが、そこで気がつく。

過日『テシオ』が発見した、時空管理局なる組織に所属する次元航行艦『エスティア』。

 

解析にあたった技術者からは、戦闘力や巡航能力はガミラス戦時の地球艦にも及ばないが、次元転移能力はもとより、居住性の高さは瞠目に値するとの意見が上がっている。

 

無論、これらの技術もいただくことになろうが、生存していた乗組員からも話を聞く必要があるだろう。

 

「――連合艦隊の土方です。幕僚長に繋いでほしい」


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