宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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エスティア

新見と分かれ、屋外に出ようと歩いている時、

 

「おーい、嶋津!」

「?」

 

振り向くと、同期生の技術大尉・大山歳郎が手を振っていた。

 

「こんなとこで油売ってていいのか?技術士官がよ」

「量産艦は他の連中がやってくれる。俺の担当は『ヤマト』だ!」

「なおさらダメじゃんよ‥‥」

 

大山歳郎は真田に劣らぬ技量を持つエンジニアだが、アクの強い性格ゆえ、上層部からの覚えはよろしくない。

軍人としては規格外の男ゆえ、やはり規格外の『ヤマト』を手掛ける事になったのだろうか?

 

そんな事を思っていたら、大山が話題を変える。

 

「お前がめっけてきた『エスティア』っつー船、なかなか面白い船だぜ」

「あの難破船か。そういえば、あれからどうなった?」

 

ガトランティス艦隊との戦闘の後に発見した、所属不明の難破船『エスティア』。

 

ガトランティス撃退が最優先だったため、工作隊に任せて艦隊はその場を離れていた。

そういえば、あれからどうなったのか?

 

「クライド・ハラオウンの他には誰もいなかったんだ」

「1人?ワンマン船か?」

「いや、それなりに乗組員を要する船だったな。それに、設備も地球の艦船に近いものだった」

「‥‥そうか」

 

嶋津は目を丸くした。あの艦から収容したクライド・ハラオウンの容姿は地球人そのものだった。

 

「しかし、何と言っても不可解なのは動力部全般だな」

 

大山が目を輝かせ、口から唾を飛ばしながら言う。

 

「‥‥で、動力の推測はついてるのか?」

 

熱中すると周りが見えなくなるところは出会った頃と全く変わっていない。

 

「波動エンジンや核・イオン系でもなければ、化石系すらない」

「‥‥じゃあ、魔法とか魔術とかいう類か?」

「‥‥‥‥」

 

冗談のつもりで問い返したが見たのは、大山の驚いた顔。

 

「‥‥何で解った?」

「ジョークだったんだが‥‥マジか?」

「艦内、特に機関室内のあちこちに“マギリング”という表記があったし、機関自体の構造が不可解すぎる」

 

内容だけ聞くと解析に苦労しそうだが、大山は新たな玩具を見つけた子供の表情だ。

冴子は溜め息をついた。

 

「で、どんな船だったんだ?」

「一口で言えば巡視船に近い。光線砲らしい武装も施されていたが、船体強度は相対的に見てかなり低い。

万一戦ったとしても、プランツ級(護衛艦)はもとより、磯風級にも敵うまいよ。ただ、次元転移能力があるらしい」

「!‥‥本当なら凄い能力じゃないか。‥‥んで、『エスティア』の所属と、クライド・ハラオウンの身元はわかったのか?」

 

個艦性能で問題にならないにせよ、組織の規模によっては敵対すると厄介だ。

今の地球はこれ以上敵を作るわけにいかないのだ。

 

『船籍・所属とも《時空管理局・本局》だ』

 

 

   

 

   ――地球防衛軍・新横須賀基地――

 

「随分蒼く澄んだ空だな‥‥」

 

クライド・ハラオウンは搬送用カプセル越しに地球の空を見上げる。

 

彼が再び目覚めたのは、地球防衛軍木星イオ基地の病室だった。

見慣れない風景や機材に、管理局の施設や艦船ではないとはわかったが、女性メディカルスタッフから、地球防衛軍の施設だと告げられた時は二の句が告げなかった。

 

地球と言えば、上官のギル・グレアム提督の出身地であり、自分も訪れた事がある第97管理外世界以外の何物でもない。

 

しかし、ここはイオ基地。つまり、かの世界が属する恒星系の、確か第5惑星の衛星ではないか?

第97管理外世界は、既に他の惑星系まで進出するだけの科学力を持っていながら、管理局はそれを見抜けずにいたのか!?

 

しかし、看護師にそれとなく尋ねたところがまた面食らった。

 

こちらの暦では西暦2201年12月、地球はガトランティス帝国という外宇宙から来た侵略国家と戦い、苦戦の末撃退したばかりだというのだ。

自分が知る第97管理外世界の暦は、確か西暦1990年代だったはず。

あれから200年以上経ってしまったというのか――?

 

(まさか、これもアルカンシェルと闇の書の為せる業だというのか‥‥?)

 

そこで、初めて乗艦『エスティア』を思い出した。

『エスティア』には闇の書が積んである。

あれがもしまた暴走したら――。

 

等と不安にかられたところに、白衣を来た小柄でがに股の男が来た。

『地球防衛軍技術大尉・大山歳郎』と名乗った男は唐突に言う。

 

“自分は魔法が存在するものとしてあの艦を調査している。

そうしないとあの艦や時空管理局を理解することは不可能だからだ”

 

クライドも、救出の礼を述べた上で、あの艦には『闇の書』という危険極まりない物が積載されていることを告げ、闇の書の特徴と積載場所を教えたが、大山は大破していた『エスティア』を慎重に解体して調査したが、それらしい物も容器も見つからなかったと回答した。

 

クライドもそれを了承したが、艦や管理局の情報も相当が筒抜けになったと推測した。

そして、大山にこちらの地球の事を尋ね、ガミラス帝国という、これも外宇宙の国家と8年に及ぶ戦争で人口の大半が失われた事などを知るや、またも閉口した。

 

それから程なく、クライドは地球防衛軍の艦で地球に移送されたが、わずか数時間で地球に到達し、さらに難なく大気圏に突入してのけた事にも舌を巻いた。

 

管理局がどのくらい進歩しているかわからないが、この世界は科学力も人も侮れない。

ひょっとしたら、管理局も地球の状態を知っているからこそ接触を避けているかも知れないが。

 

この時点で、クライドは家族との再会の望みは絶たれたと思っていたのだが、それが大きく変化する時は間近に迫っていた。


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