宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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ガーシュインに倣いましたが、不発でした。


地球のガトランティスたち

 

 

――剣呑。

 

新見 薫は、嶋津冴子とサーベラーが相見えた場の雰囲気を漢字2文字に要約した。

 

「名を申せ、テロンの女」

「‥‥他人にものを尋ねる時は、まず自分から名乗るのがこの星の流儀でね。あと敗者もな」

「‥‥何じゃと?」

「敗者は勝者に従え。あんたらが踏みにじってきた者にしてきた事だ。この戦いで私らとあんたらは殴り合い、私らはボコボコにされたが、最後のひと刺しであんたらの親玉は倒れ、私らは踏み留まった」

「世迷い言を言うな!」

 

敵国の女軍人から放たれた非礼極まる言葉に、丞相だった女は激昂した。

このいけ好かない女は自分を見下している。宇宙に冠たる大ガトランティスの丞相たる妾(わらわ)に何たる無礼な!

だが、目の前の女は相変わらず傲然としたまま続ける。

 

「あり得ない事が起きるのが人間の世界でね。強い者が勝つんじゃない。勝った者が強いんだ。‥‥あんたも国を統べていた立場なら、理解できないわけなかろう?」

 

嶋津の言葉が終わると共に、壁のモニターに画像が映し出された。

それは、藤堂とラーゼラーのやり取りだった。

 

「ラーゼラー‥‥」

 

サーベラーは画面に映るラーゼラーを睨みつける。

藤堂は冒頭でこそ激昂していたが、その後は怒りを表にすることなく交渉し、ラーゼラーも撤退に同意したが、画面を見るサーベラーの柳眉はつり上がった。

そして――。

 

交渉の最後、藤堂はラーゼラーに問う。

 

『ところで、貴国の高官らしき者をこちらで預かっているのだが、確認するか?』

『‥‥確認しよう』

 

ラーゼラーの意思を確認した藤堂が頷くと画面が切り替わり、拘束されベッドに寝かせられたサーベラーが映し出された。

 

『‥‥ふん』

 

ラーゼラーはサーベラーを一瞥すると侮蔑の色を浮かべた。

 

『確認した。‥‥その者は大帝崩御の元凶なり。貴国で自由に処断するがよかろう』

「ラーゼラーーッ!!!!」

 

皆まで言わないうちにサーベラーが絶叫する。

 

「おのれラーゼラー!おのれテロン人!殺せ!妾を殺せ!!」

 

敵の虜囚になるだけでも屈辱的なのに、格下だった者からも無視された。

サーベラーにとっては耐え難い屈辱だ。

このような屈辱になる位なら、潔く敵の刃に――。

 

「あ、それ無理」

 

嶋津の返事はつれない。

 

「地球連邦に死刑制度は存在しないからな。最高刑は終身刑」

「‥‥どういう意味じゃ?」

「獄で飼い殺しさ。‥‥あんたの処遇がどうなるかはわからないがね、この国で名誉ある死なんて存在しないのさ。シファル・サーベラー」

 

嶋津はにべもなく答え、サーベラーを直視した。

‥‥彼女に向けられるのは地球人からの怨嗟と憎悪だが、処刑される事はない。

嶋津は淡々と続ける。

 

「言っておくが、自殺したら、あんたは永久に笑い者だぜ。地球じゃ、自殺する高官は軽蔑と嘲笑の対象さ。己の責任から逃げた卑怯者とな。

‥‥まあ、妙な素振りをしたら相応の恥ずかしいお仕置きが待っているがね」

 

 

    ―― 1時間後 ――

 

「――貴女にしては穏やかだったわね」

「‥‥あいつはまだ若いからな。“更生”の可能性がないわけじゃない」

 

サーベラーは嶋津や新見とさほど変わらない年齢だ。時間をかければ地球社会に解け込める可能性がゼロではない。

 

「そういや、投降者は?」

 

ズォーダーの死によって、ガトランティス軍内部には統制の乱れが生じ、被征服地出身の兵士を中心に反乱を起こす者も出たらしく、極少数だが、反乱兵が掌握した艦は地球側に投降し、彼らからの事情聴取が始まっていた。

 

「被征服地出身者は協力的ね。中には故郷を壊滅させられた者もいて、ガトランティスには恨み骨髄までというのもいたわ。見た目は地球人という者もいるわよ」

「投降者にガトランティス人らしき者は?」

「重傷で動けず、自決もできないまま捕虜になった者ばかりね。‥‥大半はすぐ死体になったけれど」

「‥‥そうかね」

 

いずれ、元ガトランティス兵たる彼らの処遇も問題になるだろうが、それは少し先の話――。

 

 

 




私事ながら、転職します

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