――新横須賀基地内、士官カフェ――
新見 薫と嶋津冴子。
2人が一緒に入ってきた時、談笑していた士官たちは一瞬静まり返った。
この2人、同年輩だが気性も対照的だ。
さらに、士官養成課程における寮生活で、新見と嶋津はある意味闘争関係にあった。
嶋津を中心として古代 守や真田志郎も巻き込んだ『有害図書読書会』と、新見が副委員長だった風紀委員会とのイタチごっこは語り草になったほどで、古代と真田を引きずり込んだ嶋津は新見の恨みを買ったと噂された。
新見は『ヤマト』初航海時のクルーであり、とうに少佐に昇進していたはずなのだが、航海中の不祥事に連座した責任を問われ、他のクルーが軒並み昇進した中で大尉に留め置かれていた。
(実際は軍法会議ものなのだが、真摯に反省して任務を完遂した実績と『ヤマト』乗組員の嘆願で処分猶予中=無期限昇進停止)
そのため監視下に置かれ、今回の『ヤマト』脱走には参加していなかった。
閑話休題。
「また小ジワが増えたな、新見」
「‥‥悪くも良くも変わらないわね、貴女は」
バリバリの前線指揮官である嶋津と、若き才女である新見のやりとりだが、片隅で2人を眺めていた巡洋艦『チョウカイ』艦長代行の塩江龍一は、
(同じ籠のモズとインコ転じて、同じケージの隼とオウム)
と評した。
それはさておき、新見が口火を切る。
「貴女の艦が捕らえてきたガトランティスの女なんだけど」
「いけ好かない女だろ、私に似て」
一部スルーして新見が続ける。
女の名はサーベラー、地球人換算で20歳代前半。
嶋津は初めて、新見があの女高官の尋問に関わっていると知った。
「‥‥一部は否定しないわ。彼女、どうやらガトランティス内部の序列は一桁、大臣級なのもわかったわ」
「そうかい。‥‥あの御仁も運が悪かったな」
同じ高官でも、ラーゼラーは生き延び、本国への長い長い帰途についたのに対し、あの女は敵の虜囚の身に落ちた。
しかもこちらで待つのは、ひょっとしたら史上初となる星間軍事法廷の被告人。
ガミラス相手の時は捕虜がいなかったため、法廷が開かれる事はなかったが、今度は敵国の政権高官を拘束したのだ。スケープゴートにはもって来いだろう。
「彼女、自分に手を上げた奴を出せと言って聞かないの」
「じゃ私だな。ナーシャ(カルチェンコ)は命令に従っただけだ。‥‥てか、私にあの女狐に会えってか?」
「‥‥‥‥」
新見の表情に、嶋津は肩を竦めた。
「防衛軍ゆるいなおい!」
「今は非常時ですから」
「元風紀委員会が言う事か?」
「今は昔。反乱の前科持ちですから」
「それ言っちゃおしめぇだろうがよ‥‥」
キャラ変貌した元堅物の姿に、嶋津は長嘆息するのだった。
「‥‥で、対決じゃなくて面会はいつよ?」
「明日の1100時で如何?上に話は通してあるわ」
「‥‥オーケイ」
そこに、注文してあったケーキセット(新見)と羊羮セット(嶋津)が届けられる。
「ホント、貴女は敵の大幹部といい、魔法使いといい、ユニークな拾い物をするわね」
「目のつけどころが違うからな。‥‥クライド・ハラオウンの話も積み上がってんのか?」
「生物学的には99.9%私たちと同じ。言語体系も似通っているからコミュニケーションもスムーズ。問題は‥‥」
「時空管理局とやらの座標か‥‥」
新見としては、彼の故郷という『ミッドチルダ』という惑星と、所属組織『時空管理局』の位置座標の解明が難問だろう。
皆目見当がつかないのだ。
乗艦『エスティア』の調査はガトランティスのおかげで手付かず。
時空管理局の概要すらわからない。
「‥‥ま、倒れん程度に頑張ってくれい」
嶋津としては、そう言うしかなかった。