ラーゼラーがガトランティス軍を率いて太陽系から撤退した後、地球連邦大統領による戦争終結宣言がなされたが、憔悴し、時には声を詰まらせる大統領の姿に、地球連邦市民は言葉を失った。
『皆様に率直に申し上げる。我らが宇宙戦士たちはよく戦い、邪悪な侵略者を追い出す事に成功しましたが、代償は余りに大きなものでした。出撃していった宇宙戦士の半数以上が‥‥愛する人々の元から永久に去ってしまったのです!』
最後の一節に、ここかしこで悲鳴や絶叫が上がった。
避難所から帰宅し、荷物を整理していた高町雪菜も、表情を曇らせていた。
彼女は、とある非正規ルートで保護者(嶋津冴子)と彼女の乗艦が生きているのを知っていたが、友人の家族や知人が戦没したらしい事実も知ってしまっていた。
「苦戦必至とは思っていたけど、ほんの数日間で壊滅状態とはね‥‥」
『それだけガトランティスの侵攻が、迅速かつ大規模だったわけだな。敵の元首が斃れたのは予想外だったが‥‥』
「どんな顔で皆と会えばいいんだろ‥‥」
『堪え難きを堪え、忍び難きを忍び、だ。‥‥それはそうとだな、レディ』
『何?』
独り言のように見えるが、これは雪菜と、彼女が『魔法少女』たる証である魔法自律制御媒体《ピュア・ハート》による念話であり、雪菜自身はといえば、彼女の後見者である地球防衛軍准将・中島良平の夫人、真理亜の料理を手伝っていた。
ちなみに《ピュア・ハート》は、同じ官舎にある嶋津冴子宅で、熱燗状態のカップ酒にその身を沈めていた。
『次は吟醸酒にしてくれぬか?』
『艦長が戻ったらね』
人間ですらないのに酒にうるさい相棒との念話を強制終了し、雪菜は目の前の課題に専念した。
「真理亜さん、味見お願いします」
「はーい」
雪菜は鍋から牛テールと野菜のスープを小皿に入れて真理亜に手渡す。
真理亜は小皿を口元に運んでスープを口にし、数秒間無言でいたが、雪菜に向けて左手でサムアップした。
雪菜は表情をほころばせると、グルテンミートに向き直った。
真理亜の夫・良平は30台後半の軍官僚(背広組)だが、事務仕事一本で、30歳台で将官になった人物だ。
但し冷たいわけでもなく、必要とあらば上官にさりげない毒舌を吐く事もざらではない。
そんな能吏は、かつて宇宙戦士訓練学校で事務長代理として勤務していた時、訓練生だった古代 守や嶋津冴子らと知己を得ており、その縁が今でも続いている。
対ガミラス戦で肉親を全て失った雪菜を、毒身干物と化していた嶋津の被保護者にして同居させたのも中島だが、保護者が真正マダオであるため、雪菜の女子力向上の師匠も妻に委任しており、真田志郎曰く
『どっちが保護者だかわかりゃしない』
有り様だとか。
まあ、中島が敢えて干物女の元に雪菜を送ったのには、雪菜の一家と嶋津冴子が家族ぐるみの付き合いだった事と、当時の嶋津の荒れっぷりを危惧したからなのだが――。