拘束された敵の女高官の顔を見た嶋津は、一目で理解した。
(生意気で高慢ちきで鼻持ちならない女‥‥私と同類じゃねーかよ)
今こいつを覚まして話したところで、無駄な時間を過ごすだけだし、最優先は味方の把握と救出だ。
邪魔にならんよう冬眠させとけ、とカルチェンコに指示して通信を切り上げた時、パク通信長が敵からの着信を告げた。
――『テシオ』以下の残存地球艦隊は、しばらくその場に留まっていたが、そこに1隻の敵大型戦艦が接近してきた。
生きている地球艦は即座に生きている砲を向けたが、その時――。
「前方の敵大型戦艦から地球軍司令官宛に通信が入っております」
「用件と身元を質せ」
パク通信長が敵戦艦に用件を質すが、程なく回答が来た。
「――大ガトランティス帝国大臣・ラーゼラーの名で、地球軍に戦闘停止を申し入れたい由です!」
「わかった。防衛軍本部に繋げ」
本部では藤堂がスタンバイしている。
「‥‥長官。お任せしてよろしいですか?」
『大統領からは一任頂いている。繋いでくれたまえ』
「わかりました。お願いします」
土方との短い会話の後、藤堂とラーゼラーの回線が繋がり、同時に全艦にモニターされた。
『‥‥地球防衛軍総幕僚長の藤堂だ』
『私は大ガトランティス帝国支配相、ラーゼラー。会談に応じていただき、感謝する』
敵方のトップは、降伏勧告の使者でもあった人物だった。
支配大臣と聞き、なるほどと思ったが、あくまで画面のラーゼラーを睨み据える。
『用件を伺おう』
『‥‥我が帝国は、貴軍・貴国との戦闘行為を即時停止し、この星系外に退去する事を決定した』
『‥‥‥‥!』
ラーゼラーの言葉に藤堂の眉が吊り上がった。
『ふざけるなっ!!』
『‥‥‥!』
藤堂の怒声にラーゼラーの表情が強張る。
『貴様らの所業はただの侵略だ!勝手に押しかけて破壊と殺戮を欲しいままにし、あげく降伏しろとほざいておいて、元首が死んだらさっさと撤収か!』
『‥‥何が言いたい?』
指差して弾劾する藤堂に、ラーゼラーも不愉快さを露にする。
『撤収するならさっさとするがいい!そして二度と来るなと、貴様らの国の新たな元首に伝えろ!』
『‥‥‥‥』
『‥‥こちらの時間で12時間以内に、我が星系から一隻一兵残らず出ていけ。それ以降も留まるガトランティス帝国籍の艦船や兵士は全て排除又は拘束する。
更に、近隣恒星系にある貴軍の艦隊補給施設も放棄又は破壊しろ。数ヶ月以内に我々が接収する』
『‥‥‥‥』
――藤堂の怒声とともに始まった停戦協議だが、その後は比較的穏やかに交渉は進み、藤堂・ラーゼラーの会談は取り敢えずまとまった。
会談が終了するや、ラーゼラーとその座乗艦は艦首を転じて去っていった。
『――土方君、ご苦労だが、もう少しばかり頑張ってほしい‥‥』
「わかりました。敵艦隊の撤退監視にあたります」
「‥‥‥‥!」
土方とともに冴子ら『テシオ』クルーも敬礼した。
――乗艦に移乗白兵戦を仕掛けられたラーゼラーだったが、艦長の機転で脱出艇に押し込まれ、辛くも僚艦に移乗していたのだ。
そのラーゼラーが率いるガトランティス残存艦隊が太陽系から退去したのは、藤堂の怒号からきっかり10時間後。更に2時間後、地球防衛軍に、太陽系内に留まり続けるガトランティス帝国籍艦船に対する攻撃・拿捕が下令され、“彗星狩り”と呼ばれる苛烈な摘発・掃討が始まる――。