今日の事態を予想していたのか――?
――微かな衝撃波と閃光が止んだ時、その一帯には何も残っていなかった。
あの化け物もテレサも。
「よく調べろ。ワープ反応はあるか!?」
「ありません!」
「映像を微速再生してみろ」
「はい!」
黄金色の光を纏ったテレサと敵要塞戦艦が正面からぶつかった映像を微速再生してみた。
「‥‥非の打ち所がない、完璧な撃沈だな」
「はい‥‥」
映像を見た土方はそう評し、嶋津も息をのみながら同意する。
あの壮大な悪意が、まるで王水に浸された金箔のように熔解していったのだ。
驚いた事に、あの規模の艦に相応した大爆発も強い衝撃波もなかった。
(それにしても、あの声は何だったんだ‥‥?)
それは、あの要塞戦艦とテレサが激突すると同時に、脳裏に響いた女性の声。
《シマ、サン‥‥》
鼓膜ではなく、言語中枢に直接響いてきたのだ。
(シマって、まさか、な‥‥)
テレサと『ヤマト』には接点があるが、直接接触したのは古代・真田と斉藤ら、敵の地上部隊と交戦した連中で、航海長である島と直接接触する機会はないはずだ。
――まさか、短期間とはいえ、島とテレサが心を通い合わせていたとは、この時の嶋津は予想していなかった。
「‥‥司令、奴はズォーダーもろとも沈んだと判定してよろしいと思いますが」
「ん。残存敵艦への警戒を厳にしつつ、戦闘可能艦を集結させろ」
「わかりました!‥‥波動砲戦解除!通常戦闘体制に戻して警戒を続ける。信号弾撃て!」
敵要塞戦艦が失われた事で、太陽系内にいる敵の残党が復仇戦を仕掛けてくる可能性があるからだ。
『テシオ』を中心に集結したのは戦艦『アーカンソー』と『クイーン・エリザベス』。戦闘巡洋艦は『チョウカイ』『デンバー』『トンブリ』『ヘネラル・ペロン』『リヴァプール』。
偵察/嚮導巡洋艦が『フェアバンクス』『サマーヴィル』『パース』『タヒチ』『ナガラ』。
駆逐艦は『Z12』以下12隻、護衛艦が『ヒルガオ』『ナデシコ』ら11隻。
雷撃艇母艦と強襲揚陸艦、戦闘空母に喪失艦はなかったものの、搭載機/艇は8割以上が未帰還になっていた。
一方、『ヤマト』には真田らが戻ったが、大破した上、ほとんどの乗組員が戦死又は任務遂行困難なまでに負傷していたため、乗組員は護衛艦に移乗して地球に帰還。『ヤマト』には工作艦『カムイ』が横付けして地球帰還に耐えられるまでの応急修理が行われると並行して、査察部門による捜索が行われた。
信賞必罰のための。
――『テシオ』――
「艦長、副長から至急通信です」
「??‥‥わかった」
応急作業と救助収容作業の指揮をとるため、第2指揮所に詰めている副長のナーシャ・カルチェンコから、自分宛の至急通信と聞いた嶋津は一瞬不審顔になった。
カルチェンコは嶋津の一期下で、やはりガミラス戦役のほぼ全期間を第一線で闘い抜いた歴戦の士官だ。
その彼女をして対処しかねる変事が起きたというのか?
「私だ。どうした?」
『大破した敵のカブトガニ形攻撃機に生命反応がありましたので曳航し、移乗させたところ、高官らしき身なりの女性が生存していたので収容したのですが‥‥』
「‥‥何があった?」
敵国の高官だと??
正直厄介だな‥‥。
『懐剣らしき刃物を振り回して暴れましたので、私が絞め落としました』
(‥‥あ~~~~)
カルチェンコはサンボの使い手だ。
嶋津は真剣にバファ○ンを飲みたくなった。
(〆る前にボコってなきゃいいが‥‥)