――天の川銀河まで約36万光年の宙域――
何かと目障りなデザリアム帝国軍が後続の輸送船団を襲っていると知ったガトランティス帝国軍第5遊動機動艦隊のナグモー司令官は、急ぎ救援のため艦載機と一部艦艇を差し向けたのだが――。
「何だ!? あれは‥‥!」
艦載機から送られてきた敵の姿に、ナグモー達は絶句した。
デザリアム帝国軍特有の漆黒の円盤形艦艇の中に、異様な形状の巨大な物体が佇むように遊弋していた。
艦艇群の中央にいる大型艦は、この大型空母に勝るとも劣らぬ艦体規模だが、その後ろにいるあれは、大型艦やこの空母など比較にならない規模の艦、あるいは機動要塞だ。
その時、傍らの幕僚が口を開いた。
「閣下、あれはデザリアムの新型機動要塞ではないでしょうか?」
「――!」
ナグモーの脳裏にも閃くものがあった。
デザリアムが超大型の戦闘艦、あるいは小型の機動要塞を実用化したとの情報は知れ渡っていた。
「デバステーター全機、目標はあの要塞だ!他の艦には構うな!戦艦群も前進!艦橋砲戦準備!」
ナグモーはこの新型要塞を最優先排除目標に定め、集中攻撃を命じる。
直ちにデバステーターは機体を翻して、敵艦隊後方の戦略惑星に向かった。
無論、デザリアム軍も艦載機を発進させるとともに対空射撃で迎撃する。
そこにガトランティス軍の艦上戦闘機イーターⅡも突入し、ドッグファイトが始まった。
半数近くのデバステーターが撃墜されたり、機体が傷ついて撤退していったが、残りは何とか迎撃網を抜けて、新型要塞に向かった。
――と、新型要塞の上部が迫り出したかと思った次の瞬間、要塞から無数のビームの束がデバステーターに降り注がれた。
一掃射でデバステーターは文字通り揉み潰されてしまった。
それでも数機は被弾炎上しながら対艦ミサイルを命中させたのだが、漆黒の装甲には目立った傷はなく、離脱を図ったデバステーターも追い撃ちで全て僚機の後を追わされた。
「くっ‥‥第2波攻撃、急げ!」
ナグモーは戦艦群を前進させるとともに、第1波に倍するデバステーターで再攻撃を指示したのだが、直後、あれがまた動いた。
異様な巨体の括れた中央部が動いたかと思うと、巨大な砲門が開かれ――。
極太の光の柱が輸送船団を突き抜けたと思うと、柱の至近距離にいた艦船や艦載機も次々と爆発していった。
「せ、船団の4割が消滅!先程の奇襲を含めると、船団の6割以上が失われました!」
「何!?‥‥」
光の柱が通り抜けていった宙域はぽっかり穴が空いたようになり、つい先程までそこにいた艦船や艦載機はきれいさっぱり消し去られ、その至近距離で破壊された艦等の残骸が漂うだけだ。
「な‥‥何だ?今のは!?」
「超高タキオンエネルギーと思われますが、同時に超重力反応も検知されています」
呻くように問うナグモーに、微かに震える声で幕僚が応える。
「テロンのハドウホウとやらと同系の兵器だというのか!?」
(‥‥ガミラスにも同原理の兵器があると聞いたが、何故技術提供がなかったのか?‥‥あるいは興味を示さなかったのか?)
ナグモーは内心で舌打ちしつつ、目下の任務遂行に専念した。
「残存艦の半分は要塞に攻撃を集中!2射目を撃たせるな!‥‥残る半数は船団とともにこの宙域を離脱せよ!残る物資だけでも送り届けるのだ!!」
ナグモーは艦隊をすり潰してでも、残る物資を首都星に送り届けると決意した。
戦艦が前進して衝撃波砲戦を試みるが、射程に達する前に敵大型戦艦が砲撃を始め、次々と撃破されていく。
さらに敵戦闘攻撃機が接近して対艦ミサイルを放ち、爆発炎上する艦が続出する。
敵艦隊は中・大型艦をこちらの艦隊に当て、ガードが薄くなった輸送船団には中・小型艦をぶつけるつもりのようだ。
「あの決戦兵器がまた発射される前に‥‥!」
――焦慮を深めるナグモーが光の柱に飲み込まれたのは、それから間もなくしてだった。
――デザリアム軍、自動戦略惑星『ゴルバ』――
「敵艦隊中央集団、消滅!」
「メルダース司令、無限α砲の砲身内部温度が30オーバーです」
「冷却を急げ」
指揮官席に陣取るスキンヘッドの男――メルダース――が、『ゴルバ』の主砲たる無限α砲の戦果を確認しつつ、配下の艦隊司令に残敵掃討を命じた。
「デーダー、残る敵輸送船を殲滅せよ。護衛艦艇への対応は必要最低限で良い」
『はっ!』
2射目の後、ガトランティス艦隊は明らかに浮き足立った。さっき片付けた中に旗艦が含まれていたのだろう。
デーダーが座乗する旗艦『プレアデス』を先頭に、艦船群が敵輸送船団に突撃していく様が見える。
厄介な航空戦力は、先程母艦群ごと片付けた。
ガトランティスの戦闘艦は基本的に防御が弱く、大火力の艦橋砲は固定式だから、正面戦闘を避けて側面から砲撃すれば、こちらの中型艦でも撃破できる。
「司令官閣下、ガトランティス艦隊の後方に、未登録の艦船反応がありましたが、無限α砲発射後に消滅しました」
「跳躍反応はあったか?」
「いえ、感知されておりません」
「――大方、我らのデータ収集でもしていたのだろうよ。回避できなかったのはそいつらの怠慢だ。捨て置け」
メルダースは手を振ってその話題を打ち切った。
ともあれ、『ゴルバ』の運用試験はこれでほぼ終了だ。一旦本国に戻って改修・補給の後、“あれ”の採掘支援が次の任務になろう。