宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

53 / 166
都市帝国攻防戦③

       ――首都星要塞付近――

 

 

「しつこいテロン人め‥‥!」

 

都市要塞の対空対艦砲の一つを預かる砲手は、ターゲットスコープに1隻の地球戦艦を捉えた。

被弾し、煙を吐きながらも執拗に抵抗するテロン艦隊の中に、他の艦とは全く異なる艦形をした艦がいる。

 

小癪にも我が帝国の威光を何度も傷つけた『ヤマッテ』。

 

「いい加減に沈黙しろ‥‥お前の、お前達のせいで俺達は‥‥!」

 

呪詛の声を上げながら照準装置を調整し、『ヤマッテ』の中央部に狙いを定めた。

 

大ガトランティス帝国に敗北はない。

この砲座についた直後、出入口ハッチは外側から施錠された。

勝利、つまりテロン艦隊を殲滅しない限り、ハッチが開かれる事はないのだ。

 

照準を調整しながら、トリガーを握る。

 

「帰る‥‥帰るんだ‥‥」

 

この首都の一角に構えたささなかな新居で帰りを待つ妻と、もうすぐ生まれてくる子供のためにも、俺はこんな所では死ねないんだ――!

心の中で叫びながら、彼はトリガーを引いた。

 

『ヤマト』右舷装甲を火花をあげながら、エネルギービームが走り抜ける。

 

『ヤマト』はすぐ反応し、艦橋直後のファンネル型ランチャーから対空ミサイルを発射。

ミサイルは件の砲座近くに着弾して岩石を吹き飛ばし、隣接した砲座を砲手もろとも消し飛ばした。

 

そして、『ヤマト』に随伴している巡洋艦『リュッツォー』『コーンウォール』は、素早く主砲を件の砲座に向ける。

 

「くたばれ、『ヤマッテ』!」

 

砲座は斃された僚友の仇とばかりにまたも火を吹き、1発は『ヤマト』2番副砲に命中。爆煙とともにこれを使用不能にしたが、致命傷には至らない。

そして、続けざまの発射は敵方に自分に対する照準を絞らせる事になる。

 

「フォイヤ!!」

「発射っ!」

 

『リュッツォー』艦長のウィルヘルム・ドランシ中佐と『コーンウォール』艦長、ジョン・ガードナーの号令と共に8本の光の矢が砲座に突き刺さり、勇敢な砲手を現世から強制退場させた――。

 

 

 ――ガトランティス帝国首都要塞内部軍港――

 

波動砲で無理矢理開けた大穴から真っ先に飛び込んだのは古代・真田・斉藤機と加藤機。

 

次々と飛び込んでくるコスモタイガーに迎撃戦闘機パラノイアが襲い掛かり、激しい空中戦が発生した。

 

「野郎!」

「古代、あそこが滑走路だ!!」

「はい!」

 

後部銃手席の斉藤がパルスレーザー機銃を放って敵戦闘機を牽制する間に真田が飛行場の位置を看破。

直ちに僚機と、外でタイミングを量っていた揚陸艇群にも伝えられた。

 

「行くぞ野郎ども!お前たちの今やるべき事は何だ!?」

『キル・ガトランティス! キル・ガトランティス!! キル・モア・ガトランティス!!!』

 

余りに物騒な言い回しだが、圧倒的な侵略者の意図を挫くためには、皆殺しにするつもりでかからねばならない。

 

1号艇のミシェロビッチ大佐が部下を鼓舞し、それに各艇が応じつつ、揚陸艇も大穴から内部に突入していった。

 

 

  ――ガトランティス帝国・首都防衛司令部――

 

「敵機及び揚陸艇が強行着陸、敵兵が侵入してきます!」

「艦船乗組員も迎撃に回せ!何をやっておるのじゃ!?」

「既に命じております!」

 

司令部は半ば恐慌に陥っていた。

そもそも敵兵が直接上陸してくる事自体想定していなかった。それだけ白色彗星・首都星要塞の防御力に対する自信が大きかったのだが、それが裏目に出てしまった。

 

「飛行場管制室、応答が途絶えました!」

「敵兵には突撃格闘兵団(ヘルサーバー)クラスの者が多数含まれております!味方の死傷者多数!!」

「‥‥蟲けらどもが!!」

 

サーベラーは顔をどす黒く歪めながら報告を聞く。

辺境の野蛮人にこの首都を踏み荒らされるという、これ以上ない屈辱に、内心で考え得る限りの呪詛を叩きつけていたが、無論、そんな事で事態が改善するわけがない。

 

揚陸艇から降りてきた敵兵は大半が『ヘルサーバー』クラスの屈強な兵士という。

大した訓練を受けていない警備兵では到底防げない。

 

「閣下、主動力炉エリアに親衛兵団の配置を大帝にご奏上下さい。警備兵だけでは支えきれません」

 

首席幕僚が親衛部隊の戦線加入を要請する。

敵方はヘルサーバー並みの部隊を投入してきた。飛行場は既に血の海だという。

あんな連中に対抗し得るのは、もはや親衛兵団――大帝を警護する近衛部隊――しかない。

しかし、返事はヒステリックなものだった。

 

「そんな事ができるか!妾(わらわ)に恥をかかせるつもりか!!?」

「!!??」

 

親衛兵団の指揮系統は独立しており、大帝の命令以外は受け付けない。

しかし、万一主動力炉を破壊されれば首都機能の大半が奪われる。

予備動力炉は大気や重力等、最低限の生命維持機能を一定時間維持するだけだ。“あれ”のエンジンは首都の増速に使う程度で、そもそも予備動力炉の機能はない。

だからこそ、ヘルサーバーにも互角に渡り合える親衛兵団が必要なのだが――。

 

「親衛兵団は玉体(大帝)をお守りするためのもの!野蛮人との戦いに晒すわけにはいかぬ!」

 

親衛兵団温存を主張するサーベラーに首席幕僚は食い下がる。

 

「――お言葉ですが、閣下。テロンは、ガミラスとの戦訓やテレサとの接触で、我が帝国に降ればどのような運命を辿るかを正確に理解したからこそ、ここまで抵抗するのではありませんか!?

それに、主動力炉が破壊されれば、帝都は反撃も叶わぬまま敵前に孤立します!

‥‥閣下、テロン軍はつい先日、彼らの星を死の星に追い込んだ報復に、ガミラスの首都を崩壊させ、本星を荒廃させました。

そういう連中が、我らをこのままにしておくとお思いか!?」

「‥‥!」

 

サーベラーは絶句した。

ガトランティス帝国が地球に求めているのは無条件降伏と軍の即時武装解除だが、もう一つ、まだ明らかにしていないが、全住民の奴隷化だ。

 

あの女(テレサ)は『ヤマッテ』に我が帝国の征服事業を伝えただろう。

だからこそ、テロン人はここまで抵抗する。

彼らはかつて『ヤマッテ』でガミラス本星を荒廃させた前歴がある。

自国民を守るためなら、この首都に住まう者を皆殺しにする事もためらわないだろう。

 

「‥‥ならば、貴官らも自ら銃を取って戦いなさい!大帝には申し上げておきます!」

「‥‥はっ」

 

絶望の色を隠しつつ、首席幕僚が一礼して下がろうとしたその時だ。

 

「飛行場との連絡が途絶しました!敵兵は主動力炉の方向に向かっています」

「すぐに艦船乗組員を回しなさい!‥‥親衛兵団をお借りするよう、大帝に申し上げてきます!!」

 

――幸い、大帝は二つ返事で承認を出した。

遅きに失した感があるが、彗星帝国最精鋭の陸兵が主動力炉周りに配属され始めた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。