宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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騎兵隊、突入準備!

     ――大西洋上空 6000キロ付近――

 

土方率いる地球残存艦隊とダガーム率いるガトランティス本国艦隊はがっぷり四つになっていた。

 

遊動艦隊のトップであるゲーニッツが斃されたため、急遽艦隊を率いる羽目になったダガームであるが、その割には健闘しているようだった。

 

とはいえ、ガトランティス帝国軍は質量とも圧倒的に優勢な戦力による力攻めで勝ち進んできただけに、彼我の戦力差が小さい状況での戦闘は本意ではなく、しかも相手は、悲しいかな劣勢下での戦闘に馴れてしまった地球防衛軍なのが災いしそた。

 

更に――

 

「ナグモーは何をしておる!」

 

首都防衛司令部でサーベラーの苛立った声が響く。

テレザートの自爆で首都星に少なからぬ被害を受けたこともあり、万一の後詰めとして呼び寄せたナグモーの増援艦隊がデザリアム帝国艦隊に奇襲され、少なからぬ量の重要物資が失われたとの報せが来たばかりなのだ。

 

「人形どもめ、要らぬちょっかいを‥‥!」

 

これまでもさんざんムカつく思いをさせられてきたが、今度ばかりは許せない。

いずれこのツケは高い利息をつけて取り立ててやる――。

 

そこまで思い至った頃、左眼の辺りが急に痒くなってきた。

顔を上げると、兵士達が驚きの表情で立ち尽くしている。

 

「何をしておる!早く任務に戻らぬか!」

 

兵士達は慌ててそれぞれの持ち場に戻る。

 

揃いも揃って失敬な者ばかり、と吐き捨てたが、左眼の視野が狭くなっていた。痒みも強くなっている。

 

どうにもおかしい。どうなっているのか。

サーベラーは自分のデスクに戻って、引き出しからコンパクトを取り出して開くと自分の顔を映した。

 

「―◇~~☆★ーー▼∇‥‥ヶ~~!!!!」

 

怪鳥の断末魔を思わせる絶叫が響き渡り、直後、ドサリと人が倒れる音がした。

 

「丞相閣下!」

 

驚いて駆け寄る兵士が見たのは、 左瞼を赤く腫れ上がらせて仰向けに倒れたサーベラー閣下その人だ。

左の眼は腫れ上がった瞼にすっかり覆い隠されて、右眼は裏返って白眼を剥いている。

そして口から泡が噴き出ていた。

 

「医師を呼べ!」

 

士官の1人が叫ぶが、別の一角でも悲鳴が上がった。

 

「な、何だ!?」

 

そこにも羽虫が柱のように群れながら飛び回り、何匹かが周囲の者に取りついていた。

司令官が人事不省に陥ったことで、中央コントロールセンターを兼ねる防衛司令部は機能不全に陥っていった。

 

むろん、司令部の惨状はすぐダガームの知る事となった。

 

「小娘が、口ほどにもない!」

 

小躍りしたい内心を隠しつつ、ダガームは舌打ちしながら幕僚を質す。

 

「大帝のお住まいには侵入していないのだろうな!?防疫処理は!?」

 

発生原因を詰問している時間はない。それよりは拡大させないことが最優先だ。何より、その虫どもが大帝の住まいに侵入しては一大事では済まない。

 

『お住まいへの通路は閉鎖してありますし、通風系統は独立しております』

「わかった。丞相殿の容態はどうなのか!?」

『虫から注入された痛痒成分によるアレルギー症状による全身発疹による一時的なショック症状で伏せっておられますが、お命に別状はございません』

「即刻ご復帰いただけ!それが無理なら、大帝にありのままをご奏上しろ!」

『‥‥はっ!』

 

さんざん威張った挙げ句、肝心な時に指揮不能とは‥‥この大事な時に何をやっているのだ、あの女は!

 

この間、地球時間で僅か2~3分。

しかし、ガトランティスの事情を地球艦隊が斟酌するわけがなかった。

 

 

       ――『テシオ』――

 

「7時45分の方角に友軍。護衛艦です」

 

護衛艦のうち、主機関にワープドライブがない護衛艦の初~中期就役艦群が後方に現れた。

これらはワープができないため、最大巡航速力で木星圏から地球圏に向かっていたのだ。

 

「よし、揚陸準備!」

 

土方は後方に待機している強襲揚陸艦に突入準備命令を出した。

 

――強襲揚陸艦『ペリリュー』――

 

「連隊長、土方総司令から突入準備命令が出ました」

「おう!やっと出番か!」

 

土方からの命令を受け、スキンヘッドの巨漢、ミシェロビッチ大佐が勢い良く立ち上がった。

 

「突入隊員は装備の最終チェックだ!済ませた隊から順に揚陸艇に乗り込め!」

「イエッサー!」

 

既に空間戦闘服に着替え、白兵戦装備に身を固めた空間騎兵隊員は、自らの携行火器等、個人装備の最終チェックに取りかかる。

 

『聞け野郎共!俺達はこれから悪魔になる!邪魔する奴らは、神や天使だろうとぶっ殺せ!銃を向けてくる奴は女子供であろうと容赦するな。心で詫びて撃ち殺せ!」

『サー!イエッサー!!』

 

ミシェロビッチの号令の元、各揚陸艦では慌ただしくも整然と突入準備が進められていった。

 

一方、艦隊もまた動こうとしていた。

 

白色彗星本星での虫騒ぎは、首都防衛司令官のサーベラーまで被害を受けて昏倒する事態になったため、首都星要塞と艦隊間の連絡に空白が生じ、艦隊機動に綻びが生じた。

 

そして、その間隙を見逃すほど、土方は無能でも寛容でもなかった。

 

「敵艦隊右翼に砲撃を集中しろ。『ストラスブール』と第5駆逐隊に波動魚雷戦命令!敵の右半身を潰す!!」

「了解。照準を右翼中央の巡洋艦に定めろ」

「はい!」

 

先に一度使われたが、波動魚雷はその名のとおり、空間魚雷の弾頭に波動エネルギーを仕込み、近接・触接信管で起爆させる半実弾兵器だ。

 

威力大だが使い勝手が悪い波動砲に対する回答の一つで、威力は小さいが、それでも1発で複数の戦艦を撃沈できる上、敵航空機の大編隊に対しても有効だ。

発射シークェンスは通常の雷撃戦とほぼ同様なので、戦闘しながら発射できる。

 

先にゲーニッツを斃したのは先行量産形だが、今度は正式量産形第1バッジだ。

 

「全艦、照準固定しました!」

「撃ち方、始め!」

「撃てっ!!」

 

地球艦隊の一点集中砲火と空間魚雷が炸裂し、白色彗星帝国艦隊の右翼は急速に蚕食されていく。

 

「くっ、堪えよ!戦艦は衝撃波砲戦用意!艦首を敵艦隊中央に向けるのだ!!」

 

ダガームは地球艦隊の集中砲火を突撃の前兆と判断。傷口を深める右翼艦隊に中央と左翼の艦艇を動かして密集隊型を整えようとした。

 

が、それは土方の思う壺だった。

 

「『ストラスブール』と第9駆逐隊、波動魚雷装填完了しました!」

「全艦、主砲斉射三連!大型魚雷発射!」

「発射!」

「ファイヤー!!」

「フォイヤー!!」

「ファイエル!」

「撃てーっ!!」

 

今度は16インチショックカノン艦首砲搭載型護衛艦も加わり、先程にも増して熾烈な砲撃が白色彗星艦隊を見舞うが、真の恐怖はすぐ後に発生した。

 

地球艦隊から放たれた大・中型空間魚雷の中には20本の波動魚雷が混じっていた。

 

先に砲撃を浴びせたのは、白色彗星帝国艦特有の回転速射砲を破壊して対空戦闘力を奪い、確実に波動魚雷を敵艦隊内で起爆させるためだった。

 

果たせるかな、白色彗星帝国艦隊の左翼は凄まじい閃光に包まれた――。


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