宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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その頃地球では‥‥?


緊迫

第3艦隊が襲撃を受けた報を受けた地球防衛艦隊は、即座に警戒体制についた。

 

  ──地球防衛軍・新横須賀基地──

 

新造戦艦『アンドロメダ』は翌日に竣工披露レセプションを控えていたが、艦長兼任の連合艦隊司令長官·土方 竜は即座に総員警戒配置を下令。レセプション要員やイベントスタッフは、軍人も含めて全員下ろされた。

艦橋で土方は矢継ぎ早に指示を出していく。中には中央司令部の承認を必要とするものもあったが、土方は構わず片付けた。

指揮系統上の懸念を口にする幕僚もいたが、土方は一顧もしない。

 

『今は非常時だ。一連の指示命令は全て私の責任に出しているのだ。他の事は気にせず命令を実行しろ!』

 

土方に反問できる者は誰もいなかった。

一方、土方は表情にこそ表さないが、内心では相当焦っていた。

 

(戦力再建が軌道に乗る前に、もう目をつけられたのか‥‥?)

 

『アンドロメダ』を始めとする新造艦船群は、カタログデータでは、『ヤマト』就役前の同種艦船はもとより、ガミラス軍の同種艦船をも凌ぎ、『アンドロメダ』は『ヤマト』2隻以上の戦闘力を持つとされる

しかし、それらを運用する人的戦力=ソフトパワーの再建は、最短でも7年要すると言われていた。

これは軍に限らず、全ての産業に共通の悩みゆえ、人材確保はどの分野も急務の課題。

華やかな外面とは裏腹に、舞台裏は真冬のシベリアも同然なのだ。

 

幸いなのは、地球防衛軍に入隊を志願する若者は他の産業と比較しても突出して多く、それだけ優秀な人材を確保できるが、それ以前の人的損失が凄まじかっただけに、一朝一夕に解決できる問題ではない。

それでも、『お客さん』が来た以上はぼやいてなどいられない。

それは皆わかっていたからこそ、土方の無茶ぶりな指示・命令に誰も不服を唱えなかった。

 

中央司令部に幕僚が勢揃いした時、土方は主だった艦隊・部隊に命令を出し終えていた。

 

『命令違反ではないか!!』

 

いきり立つ参謀もいたが、土方は平然と切り返す。

 

「敵の正体や意図はわからんが。一気に内惑星圏を衝いてくる可能性がある。緊急を要する対策を講じたまでだ」

 

また、イベント要員を下ろし、艦内にしつらえた披露会調度も一部撤去させた事を問題視する声も上がったが、土方はにべもなく

 

「我々は未だ再建途上だ。戦力が足りない以上、必要とあらば《アンドロメダ》も出撃する。乗組員の練度不足は理由にならない」

 

と一蹴。防衛軍総幕僚長・藤堂平九郎も異論を唱えなかった。

 

──横須賀市街──

 

軍港都市横須賀の住民は、軍人の歩き方や表情で異変を感じ取る。

この日、横須賀は半年ぶりに緊張していた。

昼前は街中ここかしこにいた軍人たちが、昼休みが終わると共にほとんどが消えた。潮が引くかのように。

制服姿の者は勿論、非番や公休・休暇の者もだ。

 

マスコミも異変に気付き、広報部門に押しかけたが、まだ発表は行われなかった。

そんな中──。

 

『第3艦隊が?』

『そうだ。ガミラスではない機動兵器から攻撃され、何隻かが損傷したようだ』

『機動兵器って、艦載機?モバイルスーツ?』

『多分後者はない。‥‥それと''バイ"ではなくて''ビ''だぞ。レディ』

 

プレスリリース前の情報を巡ってそれなりに緊迫感があるやり取りなのだが、問題はやりとりをしている場と当事者にあった。

 

『‥‥あのね?ピュアハート』

『何だ?レディ』

『私、小テスト受けてるんだけど?』

『知っている。だから解答欄が埋まるのを待っていた。グッドニュースは後でも良いが、バッドニュースを厭うた者は色々な意味で滅んだからな』

 

‥‥そこは紛れなき中学校の教室。生徒は皆タブレットの画面と格闘していた。

幾人かは解答し終えたか諦めたか、視線をあらぬ方向に遊ばせている。

その幾人かのうちの一人、高町雪菜もまた、視線と関心をタブレットから離し、その瞳を窓ガラスの向こうの青空に、心はその先、光の速さで数時間を要する宇宙空間にあった。

 

『また''艦長''も戦うのかな‥‥?』


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