宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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『魔王』の子孫(オリキャラ)、本格登場


想定外

――ガトランティス帝国・首都星要塞――

 

コントロールセンターに陣取るサーベラー丞相(停職中)兼首都防衛総督は、スクリーンに映る戦況を眉を潜めていた。

テロン艦隊とダガーム艦隊の戦闘は膠着状態といったところ。

 

「蛮人(ダガーム)め、何をグズグズしているのか‥‥」

 

この首都要塞にある回転装甲帯の固定砲や大型対艦ミサイルならば、あの程度の敵など簡単に一掃してやるのだが、テロン人どもはこちらの射界に入ってこない。

 

固定砲で地上を焼き払ってみたものの、ガミラスとの戦争で人口が激減し、無人地帯が圧倒的大部分である上、都市部の住民はガミラス戦時に築かれたという地下都市に避難しており、人的損失は少ないようだ。

 

しかも、テロン軍の大気圏内用戦闘機や迎撃システムはなかなか強靭で、攻撃に向かったデバステーター(攻撃機)は大気圏内での機動性が大幅に落ちてしまうため、戦果の割に未帰還機が多い。

 

そこに、信じられない報告が寄せられてきた。

 

「データベースにない蟲が徘徊し、任務離脱する兵士や士官が出ています!」

「そんな怠慢が許されるか!直ちに復帰させい!」

 

サーベラーが怒るのはある意味当然だ。

この要塞は今まで敵本星の大気圏内に入ったことはないし、出入りする者には一兵卒まで入念なバイオクリーニングが施される上、何らかの病原体に感染した者は何人たりとも立ち入らせないので、首都星で伝染病が流行したことはない。

 

ましてや、目に見える蟲が侵入することなど絶対にあり得ない。

サーベラーに限らず、ズォーダーから一兵卒まで、それが当然の認識だった。

 

が、その固定観念が一部では恐慌を巻き起こしつつあった。

 

「ぐ、あ‥‥‥」

「おい、しっかりしろ!」「い、一体、何が起きているんだ‥‥?」

 

また一人、兵士が全身に発疹が発生させて倒れた。

 

予想外の事態に狼狽える兵士の耳に、微かだが甲高く耳障りな羽音が流れ込んでくる。

 

「な、何だ!?こいつは?」

 

耳元の不快な雑音に思わず頭と手を振る兵士の目に入ったのは、不規則な動きで飛び回る小さい羽虫――蚊――だ。

ぎょっとして見ると、少し離れた場所に、その羽虫の群れ――蚊柱――があった。

 

「うあぁ、何だあれは!?」

 

群れから離れた蟲は執拗に人間に付きまとい、手の甲や顔面等、素肌が露出した部位にしばらく取りついては飛び去るのだが、その直後から、取りつかれた部位に激しい痒みと発疹が生じて急速に拡大し、任務遂行に支障を来したり、失神する者が続出した。

 

『我が軍で極秘開発している生物兵器が流出した!』

『テロンが送り込んできた生物兵器だ!』

 

等と叫ぶ者も出る始末。

 

「デマに惑わされるな!」

 

士官は兵士を鎮めようとするが、これまでデマとは無縁な環境であったのが災いし、兵士達は恐怖した。

 

さらには、

 

「大帝によく似た笑い声と共に奴らが現れた!」

 

と複数の兵士や士官までが証言し、録音データとともに報告する者もいたが、かえってサーベラーを激怒させ、問題解決の糸口を失わせていた。

 

――これらのデマの一部は正鵠を得ていたのだが、ガトランティス帝国側の人間はおろか、後日調査した地球防衛軍も真相に近づく事はなかった。

 

下手人は彼らの予想の外におり、その手法も凡そ理解を超えるやり方で、都市要塞内部に直接害虫を送り込んでいたのだから。

 

――神奈川県東部地区、地下都市――

 

「ふう‥‥」

《流石に疲れただろう?レディ》

 

地下都市の人気のない一角に、年の頃13・4歳位の少女が立ち、ふうと一息ついていた。

 

「‥‥少しね」

《この位にしておこう。あとはカピタン(嶋津)達を信じるしかあるまい》

「そうだね、ピュア・ハート」

 

レディと呼ばれた少女の頭の上には白い身体の手乗り文鳥――ピュア・ハート――が乗っているのだが、その文鳥は実に流暢な言葉で少女と会話を交わすという、常識ならばあり得ない光景があった。

 

《それにしても、この地下都市に棲息する蚊や南京虫等を白色彗星帝国内部に転移させるとはな。レディ、お主、なかなかのワルよのぉ?》

「――軍の回線をハッキングして、敵の位置座標を覗き見る(ピュア・ハート)ほどの悪党じゃないよ(笑)‥‥」

《言ってくれる(笑)‥‥それはそうと、彗星帝国の兵士達が妙な事を口にしていたな》

「妙な事?」

 

少女が文鳥(ピュア・ハート)に問い返す。

 

《うむ。黄〇バット風に高笑いしてみたのだが、士官らしき者が“タイテイ”と言っておった》

「――“タイテイ”って、人の言葉を正確に理解するホワイトライオンの事かな?」

《だとすれば、敵の親玉は私と声質が近いということか。興味深いな‥‥だが》

 

ピュア・ハートは面白げに話したが、すぐに口調を改めた。

 

《ぼつぼつ結界を解こう。何だかんだでレディの魔力を相当消費したからな》

「わかった」

 

やがて、何事もなかったかのように、白文鳥を頭上に留まらせたセーラー服の少女は歩み去った。




「想定外」

為政者や組織のトップがこれを言っちゃいけませんね。

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