宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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久しぶりにリリカルサイドです。


次元航行部隊発進!

――時空管理局本局次元港――

 

バースからは次々と次元航行艦が出発していく。

 

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

 

その様をモニターで見守るのは、本局総務統括官のリンディ・ハラオウンと人事統括官のレティ・ロウランだ。

 

第144・145管理外世界で起きた変事に対処すべく、情報収集のために艦船16隻を派遣する事が決まり、この日出立したのだが、リンディ達の表情は冴えているとは言えなかった。

リンディら一部の提督や艦長は、第145管理外世界で『クラウディア』が遭遇した強力な戦闘艦を引き合いに出し、次元航行艦複数での行動を主張したのだが、それは退けられてしまった。

 

万一の場合は直ちに空間転移して退避すればいいのだろうが、あの2勢力の戦闘艦の戦力がどの位のものなのか、全てが明らかになっているわけではないため、艦長や提督の中には、

 

『相手が単艦ならば負けない。逆に拿捕してやりますよ』

 

勇ましい発言をする者も少なからずいた。

 

「第97管理外世界にね、鳥なき里のコウモリという諺があるのよ」

「その意味は?‥‥ま、だいたい想像はつくけど」

 

管理外世界に伝わる言い伝えに口にしたリンディにレティが尋ねる。

 

「優れた者がいないところでは、つまらない者が幅をきかせる、という意味らしいわ」

「他では言ってないでしょうね?

‥‥確かに、これまでは管理局の艦船を凌ぐ戦闘艦船と遭遇したことすらなかったわけだし、増長する者が出てきても仕方ないけど」

「自分の組織や役割に誇りを持つのは大事だけど、それが他者を見下すのに繋がってしまうと、困ったことになるわね‥‥」

 

しかも、ここにきて、カリム・グラシアのプロフェーティン・シュリフテンが発動。管理局にとっては不吉な予言が出ている。

まるまる信じこむのは危険だが、管理局は最強にして無謬だと思い込むのはもっと危険だ。

ここ数ヶ月の間に本局に流れる空気に、危機感すら感じている2人の才女である。

 

――後年、ミッドチルダのある女性歴史学者はこう記している。

 

『この時期、時空管理局、特に海と称される次元航行部隊には、我々にたてつける者はいないという驕慢の空気が漂っていた。これは同時期、後に第1特別世界と称される地球連邦政府と地球防衛軍の一部に蔓延っていた、己の力に対する過信と同じで、ほどなく余りに手痛い人的・物的損失を被った点も同じだった。

しかし、かの世界は、既に一度絶滅戦争をくぐり抜けていたこともあり、混乱は最小限で収まっていたのに対し、次元世界と時空管理局は‥‥』

 

 

――本局第3喫茶室――

 

次元航行本部にほど近い場所にあるこの喫茶コーナーには、佐官から士卒まで多数の局員が集っている。

 

久方ぶりの大規模出動に、多くの局員の表情には高揚感が浮かんでいたが、喫茶室の一角を占める数人の女性局員の表情は、むしろ真逆に近いものだった。

 

「‥‥『クラウディア』の出立は決まったん?」

「修理と補給があと27時間で終わるから、早ければミッド標準時間で明日の夕方だね」

 

彼女達の中では最上級である八神はやて二等陸佐と、次席者の1人にあたるフェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官が口を開いた。

 

「でも、大丈夫なんでしょうか?‥‥各艦単艦行動で」

 

フェイトの補佐官であるティアナ・ランスター陸曹相当官が懸念を口にする。

 

「個人的見解としては、やはり複数で行動させるべきだったと思います」

 

一連の事件の《容疑者》たある所属不明のミサイル艦隊と、彼らを一撃で撃滅させた『ヤマト』というらしい、これも所属不明の戦闘艦からは、いずれも魔力反応が検出されておらず、魔法とは無縁の世界の住人によって運用されていると断定された。

 

「リンディさんやクロノ君が主張した、4隻一組、せめて2隻組での行動は却下されたんだよね」

「‥‥うん」

 

もう1人の次席者、航空戦技教導官である高町なのは一等空尉が尋ねると、フェイトは応えながら俯いた。

 

「『バトンルージュ』達がやられたのは油断、あるいは相手が圧倒的多数だからであって、同数なら負ける筈はないというのが海(次元航行本部)の公式見解なんだ」

「油断してなくても、管理局の艦船では、あの豪雨みたいなミサイル攻撃を凌ぐのは無理でしょう。相手は戦闘に特化した艦船、こちらは基本的に汎用艦船ですし、主機関のエネルギー反応や艦自体の機動性も段違いだったんですから」

 

フェイトの先任補佐官であるシャリオ・フィニーノ陸曹相当官が先日遭遇した事を思い出して話す。

 

ミサイル艦隊も『ヤマト』も、巡航速力からしてXV級の全速力を凌いでおり、仮に管理局の艦船と同数同士で会敵した場合、機動力で上回る彼らに主導権を握られ、叩きのめされるだろうというのがシャリオの見解で、他の顔触れも同感だと頷いた。

クロノやリンディも同じ見解だからこそ、せめて複数艦での行動を主張したのだが、空しく却下された。

敗北主義だという嘲笑と共に。

 

シャリオとティアナの表情も、心なしか厳しくなっていた。

 

カリム・グラシアの予言が今度も現実のものになろうとしていた。それも真綿で絞められるように。


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