宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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リターンマッチ④

──画面に映る光景に、一同は憤激した。

 

速度を落としながら地球圏に接近した白色彗星は、月軌道で突然ガス帯を解除したのだが、姿を現したのは直径約40キロ、高さ約20キロの規模を持ち、小惑星の下半球にピラミッドの如く高層建造物を積み上げた、いわば都市要塞。

赤道にあたる部分には、見るからに頑丈な装甲帯が取り巻いており、砲口と思しき開口部が一定の間隔をおいて並んでいる。

そして当然の如く、装甲帯の上下には対空速射砲が据え付けられていた。

 

その首都要塞が、いきなり月面第2基地を『撃った』。

 

たった一発で基地はキノコ雲を残して消滅。

ガトランティス首都要塞はさらに月に向けて2射目を撃ったのだが、それが地殻を撃ち抜いため、着弾地点付近では火山活動が始まってしまった。

 

続いて敵の矛先は地球に向く。

地球の戦闘衛星はあっという間に全滅させられ、さらに北米州デトロイト、ラスベガス、デンバー、ロサンゼルスも軌道上からの砲撃で壊滅的打撃を受けた。

 

「地球を人質にとったという事か‥‥!」

 

『ヤマト』艦橋で島が怒りの呻きを洩らした。

 

反攻するなら地上を焼け野原にしてやるぞということだろう。

 

当然、この攻撃に防衛軍は憤激。特に北米州出身者は文字通り激昂し、徹底抗戦を叫び始めた。

これは艦隊でも同様で、北米州籍の艦を中心に、土方に対し、たとえ連邦政府が降伏しても徹底抗戦すべき等々のかなり強硬な意見具申が寄せられたが、土方は、軽挙妄動は許さないと厳命したのみである。

 

その直後、来るべきものが全周波帯通信で太陽系全域に流された。

 

『全能なる大ガトランティス帝国大帝ズォーダーの名に於いて、汝ら地球人類に告げる。服従か死か、選択すべき時が来た‥‥』

 

大ガトランティス帝国支配相・ラーゼラーと名乗る男が全周波帯通信で地球連邦政府に通告した。

主な通告内容は

 

①現行政府による統治の即時廃止

②地球軍の即時武装解除と全戦力の接収

③全地球人、法人の全資産没収

 

──要は無条件降伏要求である。

当然ながら各艦の乗組員は強く反発し、艦長に徹底抗戦を訴える。

 

『ヤマト』を通じて得られた白色彗星帝国のやり口から見て、地球人は基本的に奴隷・家畜化され、軍人は侵略戦争の尖兵にされる事すらあり得る。

 

「侵略者の尖兵になる位ならば、潔く死ぬ!」

 

と叫ぶ者も1人や2人ではなかったが、艦長達は同調せず、自艦の補給・整備を完了させるよう厳命した。

通信数が落ち着き始めた頃、

 

「暫く中座する。今のうちに食事と休憩をとらせておけ」

「はっ!」

 

嶋津に後事を告げた土方は士官居住エリアに降りて行く。

彼が乗艦した時点で『テシオ』の艦長執務室は召し上げられ、軍本部と直接通信するための機器も備えられている。

恐らくは本部と直接協議するのだろう。

 

「通信長、土方司令名で全艦に連絡。『警戒体制ノママ食事・休憩セヨ』とな」

「わかりました!」

 

嶋津は、パクに艦隊内通信で連絡するよう指示を出した。

 

――『テシオ』厨房――

 

「よーし、運べっ!」

「はいっ!!」

 

ランチボックスを積んだカートを押した船務科員が次々と走り出ていく。

ランチボックスの中身は握り飯、巻き寿司、サンドイッチで、飲み物は日本茶や麦茶が主だ。

 

コーヒーではなく日本茶や麦茶を用意したのは利尿作用を警戒してだ。

艦船乗組員が着用している下着には高吸収尿漏れシートがついているのだが、それでも戦闘中の排泄は少ない方がいいに決まっている。

 

とはいえ、古くから定着した飲み物をやめるつもりは毛頭なかったので、コーヒーやお茶のカフェインフリー化を進めたが、アメリカ艦、イギリス艦、中国艦では、更に独自の趣向をこらしたカフェインフリーのコーヒーや紅茶、烏龍茶等があるというし、日本艦なら狭山茶・川根茶・宇治茶のカフェインゼロバージョンが存在する。

 

――無論、平時や来客用として、普通のタイプのコーヒーや茶類も用意されている。

 

閑話休題。

 

艦橋にも食事が配られ、クルーは各自の席でそれを口にしている。

 

嶋津や篠田はさりげなくその様子を見ている。

それは各科のチーフやベテランクルーもそうだ。

この先に待ち受けるのは間違いなく激しい戦闘。地獄すら生温い光景が待ち受けているであろうことは容易に想像できる。

 

ゆえに、食事に併せてそれぞれの顔色を見る。

明らかにおかしい者はメディックに診てもらい、最悪の場合は低温睡眠カプセルに入れる事になるが、様子が変な者はいない。

 

『全員、大丈夫です』

 

――。

 

約1時間後、土方が戻った。

 

「司令、食事は‥‥」

「心配無用。済ませた」

 

嶋津の問いに短く応えた土方は、クルーの敬礼の中、艦長席につくや、しばらく瞑目し身じろぎ一つしなかった。

 

「‥‥‥‥」

 

瞑目していた土方だったが、おもむろに目を開くと、スクと立ち上がる。

 

「通信長、全艦隊通信回線を開け」

「わかりました!」

 

土方の様子を見た嶋津がパク通信長に指示を出す。

 

「回線オープン。全艦に接続確認しました」

「ん」

 

頷いた土方は立ち上がり、マイクを手にした。

 

「――土方だ。我が艦隊は2時間後に出撃し、敵白色彗星帝国・首都星要塞に対する攻撃を行う。

目的はただ一つ、白色彗星帝国の太陽系侵略を断念・放棄させ、この天の川銀河から完全撤退させる事だ。

敵、白色彗星帝国は征服した星の住民の全ての権利を踏みにじり、奪い去り、財産・資源をかすめ取って憚らぬ、国家を名乗る事すらおこがましい強盗集団だ。

彼らには彼らの大義があろうが、我々がそれに付き合う義理はない。盗人猛々しいの一語に尽きる。

とはいえ、戦力は未だ敵軍が優勢、我々の戦力は万全とは言い難い。

だが、我々が戦わなければ、同胞達が辿る運命は破滅しかない」

 

土方は一拍置いて続ける。

 

「しかし、敵国首都が近くに来ているのは、考えようによっては好機だ。‥‥地球人のしたたかさを、侵略者どもに見せつけてやろう!」

『オオーッ!!!!』

 

各艦のクルーが拳を突き上げて雄叫びを上げる。

 

ガトランティス帝国首都攻防戦が、静かに幕を開く。


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