宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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ズォーダー大帝のフルネームは独自設定です。


大帝の憂鬱

  ――ガトランティス(白色彗星)帝国首都星(都市帝国)――

 

この帝国のトップ、征帝ズォーダー・デ・ド・ガトランティス5世(当代ズォーダー)は、帝位に就いて以来の版図拡大速度が歴代征帝よりも際立って速く、その絶大なカリスマゆえ、帝国臣民や側近は、いつしか彼を“大帝”と呼ぶようになっていた。

彼は、奴隷化された被征服地の人々からは当然ながら蛇蝎の如く嫌われ恐怖の対象だったが、ガトランティス帝国の一般国民や兵士からの信望は高かったという。

 

ズォーダーは自国民に対しては比較的寛大な内政を敷いていたのに加え、軍や政府の諸制度を改訂して能力・実績主義に転換。身分だけ高い無能な高官を追放・粛清して、平民階級出身者や旧敵国人でも、能力が高く、功績を挙げた者を積極的に登用したからだ。

 

その一方で、貴族や高官にはその地位と権限に見合う成果を要求し、無能・無責任と見做した者に対しては厳しく臨んだ。

失態を重ねた者は容赦なく解任。大幅降格、時には死刑宣告も辞さなかった。

特に汚職を憎み、主犯を生きたまま生身で宇宙空間に投棄する処刑も命じたという。

 

そのズォーダーが、眼光鋭く側近を睨みつけている。

 

「‥‥申し開きがあれば聞こうか?」

 

目の前の側近2人は元より、一歩後ろに控えるラーゼラーや小姓、侍女らも顔面蒼白になって震えていた。

 

呼びつけられた3人――――サーベラー、ゲーニッツ、ラーゼラー――は、既にその原因をズォーダーから突き付けられていた。

 

「‥‥儂は常々言っていたはずだ。

悪い報告は、たとえ儂が入浴や就寝中でも遠慮する事なく、遅滞なく伝えよ、と」

「は、はっ‥‥」

「うぬら、何故このような大問題をすぐ儂に報告しなかった!?」

 

ズォーダーが怒りの口調でサーベラー達に突き付けたのは、首都施設庁長官と次官の遺書。

 

回転装甲帯の歪みが要修理レベルに達していたにも関わらず、遅々として進まない修理に責任を感じ、遺書をしたためて拳銃自決を遂げたのだ。

手にして目を通したサーベラーが全身を震わせ始める。

 

「改めて問う。儂への報告がなかったのは何故か!?」

「‥‥申し訳ございません。テロン攻略作戦の日程に影響がありますゆえ、かの地を征服した後、本格的な修復を行ってはどうかと考えました。‥‥なれど、大帝にお知らせしなかったのは事実でございます」

「‥‥との事だが、サーベラー、お前の言い分は?」

「‥‥んっ‥‥」

 

ゲーニッツの弁明をズォーダーは黙って聞き、サーベラーにも発言を命じる。

 

「‥‥修理作業に必要な費用と期間見積りが出た上で大帝にお知らせし、ご裁断いただくのがよろしいと考えたからでございます。誠に申し訳ございません」

「‥‥愚か者どもが!」

 

サーベラーの弁明を聞き終えたズォーダーは低い声で吐き捨てた。

 

「うぬらの怠慢のために臣が2名、責めを我が身で背負い、命を絶ったのだ!」

 

ズォーダーはここで一拍おき、取り急ぎの裁決を言い渡した。

 

「サーベラー、うぬの丞相職を一時停止する。2人の葬儀を責任を持って執り行え。遺族に対する無礼な言動あらば、丞相には2度と復帰できぬと心得い。葬儀を終えるまでは出仕に及ばぬ」

「‥‥ははっ!!」

「ゲーニッツ、うぬは本国艦隊を指揮し、テロン艦隊残党を掃滅せよ。討ち漏らしは許さんぞ」

「はっ!!」

 

悄然と項垂れる2人には一瞥もくれず、ズォーダーはラーゼラーに向き直る。

 

「ラーゼラーよ、テロン政府に無条件降伏を勧告し、交渉を取り纏めよ。‥‥彼奴らが反攻してきた場合はゲーニッツと共にこれを討て」

「はっ!!」

 

裁決を下したズォーダーは手振りで退出を命じる。

即座に、黒服の親衛隊員がサーベラーとゲーニッツの周囲に取り付き、共に退出していった。

更に侍従達をも退出させたズォーダーは一人考え込む。

 

「しばらくは、テロンに留まらざるを得ぬか‥‥」

 

彼奴らの艦船の性能は予想以上に高かった。技術力も我が帝国と比べ遜色ないだろう。

あの高タキオン砲(波動砲)の威力も大したものだ。その技術力でこの首都星を、単に修復するのではなく、より強化するのだ――。






オリンピックと震災復興。
日本人は二面作戦には向いてないと思う今日このごろ。

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